2017年12月28日

衝撃映画『ザ・トライブ』聾唖者達の住む世界/感想・解説・意味・健常者の無関心

映画『ザ・トライブ』(感想・解説 編)

原題 ПЛЕМЯ(英語題 THE TRIBE)
製作国 ウクライナ
製作年 2014
上映時間 132分
レイティング R-18
監督 ミロスラヴ・スラボシュピツキー
脚本 ミロスラヴ・スラボシュピツキー


評価:★★★★  4.0点




この映画を見て、全編セリフなし、字幕なしでドラマを語ろうとする、その試みに興奮を覚えました。
それは聾唖者が主人公であるため、必然的に生まれた表現だったでしょうが、正直にいえば、この映画を見初めて30分位で感じたのは、ストレスでした。
その手話で交わされる言葉の意味を知りたいと、もどかしく感じたのです。
しかし、2回目を見た時、この映画の真意を知ったように思い、傑作だと考えるようになりました・・・・・・

映画『ザ・トライブ』予告


映画『ザ・トライブ』出演者

グレゴリー・フェセンコ(セルゲイ) /ヤナ・ノヴィコァヴァ(アナ)/ロザ・バビィ/オレクサンダー・ドジャデヴィチ/ヤロスラヴ・ビレツキー/イワン・ ティシコ/オレクサンダー・オサドッチイ/オレクサンダー・ シデリニコフ/サシャ・ルサコフ/デニス・グルバ/ダニア・ブコビイ/レニア・ピサネンコ/オレクサンダー・パニヴァン/キリル・コシク/マリナ・パニヴァン/タティアナ・ラドチェンコ/リュドミラ・ルデンコ
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映画『ザ・トライブ』感想



冒頭でも書いたように、この映画は全編手話で表現され、健常者にはその物語の細部を知ることはできない。
大まかなストーリーの流れはうかがい知れるものの、目の前でしばしば手話が繰り広げられているのを見れば、正直その手話で何が語られているのか知りたいと思う。
<転校シーン>このシーンでも手話が盛んに交わされる。

しかし手話とは、言語同様国ごとに違うらしく、たぶんウクライナの聾唖者にしかこの映画の言語的な翻訳は不可能だろう。

この映画の不親切な表現は、言葉を用いないという実験的な映画の製作だけを目的とした、監督個人の趣味的嗜好の結果として誕生したのかとも疑った。
それであれば、アカデミー賞を取った『アーティスト』同様、サイレント映画を現代で表現するというような、作り手側の個人的趣味・嗜好のために選ばれたのかとも疑った。
関連レビュー:現代のサイレント映画!
『アーティスト』
アカデミー賞受賞作品
サイレント映画を今撮る意味とは?

しかし、2度目の視聴をして行く中で、どうもサイレント映画の再現などという、ペダンチックな、甘っちょろい、技巧的お遊びではないと確信した。

むしろ、この映画はこれでなければならなかった。
この映画が語る内容を表現するためには、この手話の意味をあえて翻訳せず、放置する事が必要だった。

そう理解した時、表現様式と物語のテーマの「完璧な整合性」を、この映画に見出す思いだった。

以下にその個人的な見解について、説明を述べさせて頂きたい。

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映画『ザ・トライブ』解説



何度も言うようだが、この映画を最初に見た時は、正直モドカシク、イライラした。
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なぜなら、思いのほか手話の会話部分も頻繁に多く挿入されており、そこには本来理解することが可能な言語が交わされていると解っているからだ。

それはあたかも、翻訳不能な異国の言葉に取り囲まれた、異邦人のような気分だったからだ。
そう思った時、そんな感覚に既視感を覚えた。

昔見た映画が思い起こされたからだ。
映画『ロストイントランスレーション』だ。
たぶん、日本人以外の人々が日本で感じる孤独感・疎外感とは、この映画を見ている健常者が手話に感じるコミュニケーション断絶の状況に、近いのではないかと感じた。

関連レビュー:日本という孤独
『ロストイントランスレーション』
アカデミー賞脚本賞受賞作品
日本を舞台にした、異邦人達のアイディンティ・クライシス

そこに言葉があるはずなのに、理解できないという絶望感だ。

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そんな健常者で手話を解さない人間にとって見れば、正直なところ、この聾唖学校の生徒たちの暴力や反社会的な行動の理由が解らない。

そして再び、手話が解ればその理由が解明できるのではないかと、もどかしく感じるのだ。

そこで、はたと気がついた。

この映画の目的は、それではないかと。

つまりは、目の前の聾唖者の無軌道な暴力を生んだ理由を、知らせないこと。
この若者達が何を愛し、何を求めているのか、健常者に解るように明瞭に語らないこと。

何も知らない健常者は、理解不能なまま、この映画のラストの衝撃に直面する。

そして、思うはずだ。
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彼らがなぜそうしたのか、その理由を知りたいと。
彼らが、何を求め、何を愛し、そしてなぜかくも自暴自棄なのか。
しかし、この映画はその答えを理解できる形で、敢えて提供しない。

そして健常者は、そのモドカシサの中で思い知る。
健常者が理解できない聾唖者の世界が間違いなく存在し、しかも、その世界は健常者の世界と重複してそこにあるという事実に。

共に社会を共有しながら、健常者と呼ばれる人々は、その世界を何も理解できないという事実。
そして健常者が、聾唖者という存在に対し本当に無関心であることが、この映画の手話を読み取れないという事実によって、健常者一人一人に突きつけられる。

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そして、この映画を見た時に感じるフラストレーションの正体とは、健常者が聾唖者という存在に無関心である事によって、生じているのだと観客は思い知るのだ。

そして、そのフラストレーションの正体「障碍者に対する無関心」という事実が意味するのは、健常者がこの映画を見て感じる「対話の不成立」の何千倍、何万倍ものフラストレーションを、「障碍者=聾唖者」達が感じているという事実だったろう。
そう思う時、この映画のタイトル『ザ・トライブ』=「部族」とは、現代社会に共存しながら、健常者とは決して交わらない、独自の習俗を保持した「種族」として生きざるを得ない、彼等を言い表して見事だと思う。


そんな、社会から無視され、不可知の、不可触の存在として、遠ざけられた、彼らの苦悩が爆発したのがこの映画の最後であったように感じられてならない。

この映画は、そんな「聾唖者」達のフラストレーションやストレスから生じる怒りを、健常者に理解できない「言語=手話」を繰り広げることで、実体験として健常者に教えるための映画だったと信じる。

そんな、健常者が持つ「障碍者に対する無関心」が、障碍者にとっていかに苦痛を生むかを証明するために、この映画の「理解できない言語=手話」が果たした役割は大きいと、改めて強調したい。

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障碍者を描いた映画

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ブラッド・ピット、役所孝司、菊池凜子他
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posted by ヒラヒ at 18:05| Comment(0) | ウクライナ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月26日

映画『ザ・トライブ』聾唖者の世界・完全再現ストーリー/あらすじ・ネタバレ・ラスト

映画『ザ・トライブ』(あらすじ・ラスト 編)

原題 ПЛЕМЯ(英語題 THE TRIBE)
製作国 ウクライナ
製作年 2014
上映時間 132分
レイティング R-18
監督 ミロスラヴ・スラボシュピツキー
脚本 ミロスラヴ・スラボシュピツキー


評価:★★★★  4.0点



この映画は、全編が手話で、しかも字幕なしの実験的な映画です。
しかし同時に、健常者から見れば理解できない言葉と習慣を持つ、独特の「トライブ=部族」が聾唖者なのだと知りました。
この映画の衝撃のラストを見たとき、その手話で交わされている言葉の意味を、本当に知りたいと思い始めた自分がいます・・・・・・


映画『ザ・トライブ』予告



映画『ザ・トライブ』出演者

グレゴリー・フェセンコ(セルゲイ) /ヤナ・ノヴィコァヴァ(アナ)/ロザ・バビィ/オレクサンダー・ドジャデヴィチ/ヤロスラヴ・ビレツキー/イワン・ ティシコ/オレクサンダー・オサドッチイ/オレクサンダー・ シデリニコフ/サシャ・ルサコフ/デニス・グルバ/ダニア・ブコビイ/レニア・ピサネンコ/オレクサンダー・パニヴァン/キリル・コシク/マリナ・パニヴァン/タティアナ・ラドチェンコ/リュドミラ・ルデンコ
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映画『ザ・トライブ』あらすじ



聾唖者セルゲイ(グレゴリー・フェセンコ)は、聾唖の寄宿学校に入学した。
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しかし、その学校は強盗や売春などの犯罪行為を行う生徒達の一群、“族(=トライブ)”により仕切られていた。セルゲイも初日から、手荒い洗礼を受ける。
そしてある日、リーダーとその仲間が見守る中、1対3の決闘を強要された。
決闘シーン

そこでセルゲイは、敗れるものの健闘し、自分に力があることを証明した。

その日から組織の一員として、セルゲイも、恐喝や凶悪な暴力行為に加担していくうち、次第に仲間に認められていく。
族(=トライブ)の収入源には、リーダーの愛人アナ(ヤナ・ノヴィコヴァ)ともう一人の女学生にさせている売春行為もあった。
聾唖学校の教師まで関わって、トラック運転手相手に売春をさせ、利益を得ていた。
夜毎にリーダーの愛人アナ達2人と、駐車場で客との交渉役を勤めていた生徒が、耳が聞こえないせいでトラックに轢かれて死亡する。
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後任を探すリーダーの前で手を挙げたのは、セルゲイだった。
そして毎晩の送迎を繰り返すうち、アナに恋してしまう。
やがてセルゲイは、犯罪で得た金をアナに貢ぎ、肉体関係を持つようになる。
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しかしアナは妊娠し、とあるアパートの一室で堕胎をした。

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そんなアナは、同室の女とウクライナから脱出し、イタリアに行くことを夢見ていた。
それに応え、リーダーは二人にパスポートを取得させた。

しかしアナに執着するセルゲイは、アナを振り向かせるための金を求めて、ついに事件を起こす。

(下にネタバレがあります)

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映画『ザ・トライブ』受賞歴


アート・フィルム・フェスト:トレンチン市長賞/アメリカ映画協会祭:ビジオビジョナリー特別審査委員賞/カンヌ映画祭:ネスプレッソ大賞、フランス4 Visionary Award/コーク映画祭:フェスティバルオブフェスティバルアワード/クレステットビュッテ映画祭:長編映画優秀新人賞/デンバー映画祭:ベスト外国映画賞/ヨーロッパ映画アカデミー:Prix​​ FIPRESCI/ファンタスティックフェスト:次世代優秀監督賞/フランダース国際映画祭ゲント:記者賞/キノソク国際映画祭:最優秀監督/リストパッド映画祭グランプリ、シルバーアワード/ロンドン映画祭:サザーランド賞、若手ジュリー賞/マナキ兄弟映画祭:ゴールデンカメラ300/ミラノ映画祭:ベストフィーチャー映画賞/ミルウォーキー国際映画祭:ヘルツフェルドコンクール賞/モトーヴン映画祭:プロペラ/国家審査委員会賞2015年:外国語映画トップ5/オンライン映画批評家協会:最高の米国外作品/パリッチ映画祭:最優秀賞グランプリ/RECタラゴナ国際映画祭:オペラプリマ賞/サンパウロ国際映画祭 :ベスト脚本/シッチェス映画祭:実験賞/タルコフスキー国際映画祭:グランプリ/トビリシ映画祭:優秀作品のゴールデン・プロメテウス/テサロニキ国際映画祭:ベストディレクター/TOFIFEST国際映画祭:ゴールデンエンジェル/イェレヴァン国際映画祭:ゴールデンアプリコット、FIPRESCI審査員賞/ワルシャワ映画祭:コンテスト1-2賞
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以下の文章には

映画『ザ・トライブ』ネタバレ

があります。


(あらすじから)
売春の元締めである木工教師の部屋を急襲したセルゲイは、教師を激しく殴りつけ、その教師は動かなくなった。
その部屋を隅から隅まであさり、金を奪った。
セルゲイはその金をアナに差し出し、話し合うが彼女が激しく拒絶したためレイプのようにして抱いた。
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そんなある日、リーダーはアナともう一人の女子生徒に、パスポートを手渡した。
2人は、それをお互いに見せあいながら、喜んでいた。
それを見たセルゲイは、アナのパスポートを横から奪うと、破いてしまう。
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それを見たリーダー達4人によって、セルゲイはリンチに遭った。
手洗い場で、顔を何度も水に漬けられ、最後は頭を瓶で殴られ、シンクの水が赤く染まる。
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映画『ザ・トライブ』ラスト・シーン


夜、外は雪が降りしきっていた。
その校庭を踏みしめ、セルゲイは寮の中に入る。
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彼はリーダーの部屋に行き、重いサイドテーブルを持ち上げ、その頭に叩きつけた。
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一度、二度、三度。
リーダーの頭から血が流れ、彼は死を迎える。
セルゲイは同じ動作を他の三人にもした。
そしてドアを閉め去って行った。
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posted by ヒラヒ at 17:12| Comment(0) | ウクライナ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする