2023年08月20日

『サウルの息子』ユダヤ人の苦悩・ホロコーストの尊厳とは?/映画感想・解説・ホロコースト・ゾンダー・コマンド実話

サウルの息子(感想・解説 編)



原題 SAUL FIA
英語題 SON OF SAUL
製作国 ハンガリー
製作年 2015
上映時間 107分
監督・脚本 ネメシュ・ラースロー


評価:★★★★  4.0点



ホロコースト映画で語られて来なかった、ゾンダー・コマンドを描いた傑作だと思います。
同胞のユダヤ人達の死の一端を担った、ユダヤ囚人達で構成された「特殊部隊=ゾンダー・コマンド」の男を主人公として描かれます。
そんなこの映画は、ノンフィクション的な史実が、ストーリーの中に表現された1本だと思います。

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<目次>
映画『サウルの息子』簡単あらすじ
映画『サウルの息子』感想
映画『サウルの息子』解説/ゾンダーコマンドの実話

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映画『サウルの息子』ネタバレなしあらすじ


アウシュヴィッツ=ビルケナウ、ユダヤ人強制収容所。1944年の10月、ハンガリー系ユダヤ人、サウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ガス室に送られた、同胞の死体を処理する仕事を課された、ゾンダーコマンドとして働いていた。そんなある日、サウルはガス室の死体の中で、でまだ命のある少年を発見した。そのユダヤ少年は無慈悲に命を絶たれたが、サウルはその少年をユダヤ教の葬儀で送りたいと決心する。仲間たちは、アウシュヴィッツの事実を後世に残すために証拠写真を撮影したり、武装蜂起のために密かに武器の準備を進めていた。そんなユダヤ人の仲間から見れば、サウルが少年の葬儀に執着することが理解できず、彼を非難する。しかし、そんな声を無視して、サウルはラビ(=ユダヤ教の聖職者)を捜し出し、ユダヤの儀式を行おうと奔走する。そんな中、ついにユダヤ人たちが、反乱の火の手を上げたのだ・・・・・・・
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『サウルの息子』予告

映画『サウルの息子』出演者

サウル(ルーリグ・ゲーザ)/エブラハム(モルナール・レヴェンテ)/髭のオーバーカポ(ユルス・レチン)/髭の収容者(トッド・シャルモン)/医師(ジョーテール・シャーンドル)
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『サウルの息子』感想


この映画は最初に見た時には、ホロコーストの渦中にいる、この「ユダヤ人特殊部隊=ゾンダー・コマンド」の主人公に違和感を感じた。
それは、同胞に対して死を供給してるにも関わらず、その痛みや苦しみが感じられなかったからだ。
soul-pos4.jpgそんな違和感を抱えつつ2回目の視聴をした時に、ゾンダーコマンドの中にも、隊員アブラハムのように、生き延びるためにナチスと戦おうとする者や、カポ長(グループの隊長)のビーデルマンのように、ホロコーストの惨状を証拠として残そうとする者がいたと知った。
それらの、ゾンダー・コマンドの必死に生き伸びようとする姿や、せめてこの悪逆を後世に伝えようという意思は、この地獄にあって取り得る選択肢として納得できた。

しかし、この主人公は、それらの生きる為の戦いにも無関心で、後世への伝承にも興味がない。
ただひたすら、一人の少年の正式な葬儀のために、右往左往し仲間の危険すら顧みない。
その少年が、主人公「サウルの息子」だと語られる時、更に彼の利己主義が際立つように思われた。
同胞を死に追いやり、仲間のゾンダーコマンド達の対ナチスの戦いの傍観者で、ただ己の息子の死に拘泥する利己的な男・・・・・・そう感じられた。
しかし、それでも3回目を見ようと思ったのは、この映画のカメラワーク、浅いピントで全てが幻のようなそのビジュアルが気になったからだ。
そして、3回目にして、私にもようやくこの作品の主人公の精神の状態が、理解できたように思う。
冒頭のぼやけた視界から姿を現すサウルの姿こそ、彼の心理を物語っていただろう。

このユダヤ人の男はゾンダーコマンドとして働くために、その心を固く冷たく封じ込めてしまったのだ。
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普通の人間が、人を殺して、しかも同胞を何千何万と殺し続けて、平静でいるためには自らの感受性を殺し、いわば「人工的なサイコパス」とならなければ不可能だったろう。

これが、強い人間ならば、その死の作業の苦悩をナチスに対する反抗を計画する事や、後世にこの事実を知らしめようと努めることで、その精神的なバランスを維持できるかもしれない。
しかし、この主人公は違った。

そして、大方の人間もまた、自らの命を長らえる事が精一杯の状況下では、主人公同様、他者の命を奪う自分に慣れるしかないだろう。
そんな他者の死に慣れ無感動になるとは、つまるところ、人間ではなくなるという事を意味するはずだ。
Film.jpgそのサウルの封じ込めた「魂=人間性」が、一人の少年の死によって呼び起された。
そして、その「魂」は少年を正しく埋葬し、弔らいたいという意思として、サウルに宿った。
それは、生きる為にナチスを敵にしても戦おうという、アブラハムのように強い人間にとっては、サウルの望む「埋葬の儀式」は後ろ向きの女々しい執着に映ったはずだ。
それゆえ、アブラハムは死者より生きている者の方が大事だと、サウルを責めるのだ。
それに対し、サウルは少年を「息子」だと言う。
しかしサウルをよく知るアブラハムは「お前に息子はいない」と告げる。
実際に映画内では、その少年がサウルの息子であるか否かが明示されることはない。


しかし「真の息子か否か」に関わらず、この主人公が失った「人間性」が、1人の少年の死を見た時に回復されたという事実こそが重要だと思う。
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それは、数多くの同胞の死を見送り、その大量死に魂を枯らしていった「サウル=平均的人間の代表者」が、生命力にあふれた1少年の殺人を眼にして「死とは生を奪う行為」であると、改めて認知した瞬間だったろう。

そして、その1個の死は、罪なく、まだ生きられる命を刈られた全ての人々の死につながっていたはずだ。
それは、その命の強奪に関わった自分の罪を認識した時だったろう。
その己の罪を懺悔する方法とは、せめて命を喪った者たちの魂に対して、敬虔な祈りを捧げる事以外にはないだろう。

そしてサウルは、ホロコーストの幾万もの死者達、生を奪われた者の象徴として、その少年を弔いたかったのだろうと思う。
このサウルの祈りとは、単にホロコーストだけではなく、組織的な殺人者として戦争に参戦した兵士達が、たとえ正義という大義名分で偽装したとしても、必ず感じた人間性の喪失であったはずである。
それは兵士たちがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむことで明らかであるはずだ。

その兵士たちの苦しみとは、国家にせよ組織にせよ、人間集団としての組織の理論が、個人を追い詰め人間であることを喪わせて行く事にその原因があると思われてならない。
異論はあるかもしれないが、その全体主義体制に対する個の喪失とは、ナチスドイツの兵にとっても、サウルと同様等しく生じていた力だと思える。

当ブログ関連レビュー:ナチス将校に助けられたユダヤ人
『戦場のピアニスト』
ユダヤ人ゲットーを生き延びたピアニストの物語。
ホロコースト体験者の語る実話

そして、その全体制による個人の抹殺とは、基本的には帰属集団の利益のため個人を捧げよと、号令されることで生まれる。
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そう考えれば、ホロコーストにおいてナチスと戦ったユダヤ人達も、基本的にはユダヤ人を守るために戦うという、全体制への奉仕が基調にあるのであり、論理的に言えばそれらの抵抗とは基本的にはナチスドイツ同様、最終的に個人の抹殺へと通じるだろう。

その点を突き詰めてみれば、現代のユダヤ国イスラエルが、パレスチナに対して行使する軍事行動の意味が分かりはしまいか。
つまりは、このサウルの苦しみとは、人は人として生存すべきなのに、何かの部品として使役されたが故の苦しみであったように思われるのだ。

そのサウルが一人の少年の死を前に、一人の人間に戻る姿こそ、人が尊厳をもつ為には個人として自由に生きられなければならないと語られているだろう。
そして、そのためにはサウルのごとく「戦い=新たな全体制の創出」に関与してはならない。
それゆえサウルは、1個の人間として、失われた個を、自らの心の内に静かに悼むのだ。

サウルの死者への追悼とは、全体制の暴力下で「部品」として命を散らした数百、数千万の、歴史上の死者達に対し、個人としての尊厳を再び付与する試みだった。
そしてこのメッセージが理解されたならば、世界の争いの無益さを、人は思わざるを得ないはずだ。
ホロコーストに命を散らした人々の願いも、個人の自由と尊厳を全うできる社会の成立にあったと信じる。

当ブログ関連レビュー:ホロコーストの地獄の選択
『ソフィーの選択』
メリルストリープの魂の演技。
永遠に消えない喪失の物語

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『サウルの息子』感想/ゾンダーコマンド実話



この映画は第二次次世界大戦中、ナチスドイツが行ったユダヤ人大量虐殺、ホロコーストを題材とした映画である。
当ブログ関連レビュー:ユダヤ差別の歴史
『紳士協定』
ユダヤ差別を描いた映画
第20回アカデミー作品賞受賞

その、ホロコーストの影に、ユダヤ囚人達による特殊部隊ゾンダーコマンドが存在したことが描かれた。
この映画は、実は、史実に則った実録映画の側面もある。
ゾンダーコマンド(独: Sonderkommando in den Konzentrationslager)は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが強制収容所内の囚人によって組織した労務部隊である。
部隊にいた囚人のほとんどはユダヤ人で、多くの場合、囚人達は収容所に連れて来られた時にナチスによりその仕事に就くように強制され、死を恐れて指示に従うことになる。主な仕事はガス室などで殺されたユダヤ人の死体処理である。自殺をする以外にこの仕事を辞める、または拒否する方法はなかった。
saul-birukenau.jpgポーランドのビルケナウ強制収容所では1943年までに400人ものソンダーコマンドが存在しており、1944年にハンガリーのユダヤ人が大量に収容されるようになってからは、その膨大な数の死体処理のために900人にものぼるゾンダーコマンドがいたとされる。
外部への情報漏えいを防ぐため、ゾンダーコマンドの囚人はほとんどが3か月から長くて1年以内にガス室に送られて殺され、新しく連れてこられたユダヤ人が代わりとなっていった。ゾンダーコマンド結成後、収容所解放までに14サイクルもの入れ替えがあったとされる。(wikipediaより)


そして、この映画で描かれたように、実際収容所内で反乱も起きた。
この映画が1944年の10月という設定なのは、下の反乱の実態に即したものと思われる。
1944年にアウシュヴィッツ強制収容所でゾンダーコマンドによる反乱があり、火葬場が一部破壊された。女性囚人たちが数か月に渡りアウシュヴィッツ内の軍需工場から火薬を少しずつ盗み出し、ビルケナウ収容所の衣類格納庫で働かされていたロージャ・ロボタなどのレジスタンスの手に渡った。
映画内火薬受け渡しシーン

収容所のレジスタンスから1944年の10月7日に自分たちが処刑されることを知らされると、ゾンダーコマンドはナチス親衛隊(SS)やカポ(労働監視員)をマシンガンや斧、ナイフで攻撃し、ナチスは怪我人12人、死者3人もの死傷者を出した。数人のゾンダーコマンドは計画通り脱走することにも成功したが、その日のうちにまた捕らえられた。反乱で生き残ったゾンダーコマンドのうち200人もの囚人がその後頭を撃ち抜かれ殺された。その日に殺されたゾンダーコマンドは451名にも上る。(wikipediaより)


また、映画内ではユダヤ人虐殺の証拠を残そうとする、ゾンダーコマンドの姿が描かれていた。
saul-photo2.jpg1943年から1944年の間、ビルケナウ収容所のゾンダーコマンドの数名が筆記用具やカメラなどを手に入れ、収容所内の様子を記録することに成功している。これらの情報は収容所内の火葬場近くなどの地面に埋められ、戦後掘り起こされた。ほとんどの記録や原稿はアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所博物館に保存されている。
(wikipediaより/右:ゾンダーコマンド撮影写真)


saul-laszlo.jpgこんな、アウシュビッツで起きた史実を正しく伝えようという、若いユダヤ人監督の姿勢に頭が下がる思いがする。
さらにこの監督は、事実を正確に伝えようとするだけではなく、決して資料や写真だけでは語りつくせない、ゾンダーコマンドの心理をもサウルを通じて描いて見せた。

この映画が真に評価されるべきは、人間心理のリアリティー、史実としての人間存在を、映像として主観的に描こうと努めたことにあると思う。

この映画を考察するにあたって、そのラストシーンが非常に重要だと信じるが、当然ネタバレの内容を含むため、その点を「ネタバレ・ラスト」の中で語るのが適当だと思う。
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posted by ヒラヒ at 13:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ハンガリー映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月02日

映画『サウルの息子』ラストの少年の意味/ネタバレ・ラスト・結末感想

サウルの息子(ネタバレ・結末 編)




原題 SAUL FIA
英語題 SON OF SAUL
製作国 ハンガリー
製作年 2015
公開年月日 2016/1/23
上映時間 107分
監督・脚本 ネメシュ・ラースロー


評価:★★★★  4.0点



ホロコースト映画で、語られてこなかったユダヤ囚人のゾンダーコマンドという特殊部隊を描いた傑作だと思います。
アウシュビッツ=ビルケナウ収容所の、歴史的事実を踏まえたこの映画は、ドキュメンタリーを超えて力があると感じました。
この映画のラスト、主人公サウルの笑顔が切なく胸に沁みます。


『サウルの息子』予告


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以降の文章には

『サウルの息子』ネタバレ

があります。ご注意ください。

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(あらすじから)
少年の遺体を担いだサウルはラビ・ブラウンや他の囚人たちとともに収容所を脱出し、森へ逃げ込む。
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サウルは川岸で少年を埋葬しようとするが、ラビであるはずのブラウンは、カッディーシュ(ユダヤ教の祈りの言葉)を暗唱できなかった。
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サウルは彼がラビではなかったことを知る。
追手の手を逃れるため反乱者達は川に逃げ込み、サウルも川に入った。
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しかし少年の死体は、サウルの手を離れ川にのみ込まれてしまう。

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『サウルの息子』ラスト・シーン



少年の遺体を川で失い虚脱したサウルを、ブラウンが引きずるようにして、森の中の納屋に逃げ込んだ。
反乱グループはソ連軍の状況や、ポーランドのレジスタンスとの合流について、話し合っている。
その時サウルは、一人の少年が納屋にいる彼らを覗き込んでいるのを見つけた。
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サウルは少年に微笑む。
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少年は納屋から離れ、森を進むと突然ナチス兵が現れた。

武装した親衛隊が納屋に向かう中、少年は森へと入っていく。

その背後では機関銃の音が響く。

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森の奥に消える少年を写して、映画は幕を閉じる。

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『サウルの息子』結末感想



この最後のサウルの笑顔が素晴らしい。
この表情は、『戦場のメリークリスマス』のビート・タケシに匹敵する、透明感とイノセントさを持って、見る者の心に迫ってくる。

当ブログ関連レビュー:透き通った笑顔が意味するモノ
『戦場のメリークリスマス』
東西文明の対決を超えた愛の物語。
デビッド・ボウイ、坂本龍一、大島渚

この映画のサウルにしても、ビートタケシ演じるところの日本軍軍曹ハラにしても、その笑顔に共通するのは、全てのシガラミから開放された時に顕わになった「ヒューマニティー=人間性=善性」の輝きであったように感じられてならない。

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このサウルは、封じ込めていた感情=シガラミは、少年の死によって解き放たれた。

そういえば人に人の情を蘇らせるのに一番の方法は、子供を抱かせることだと聞いたことがある。
結局、この映画の題名『サウルの息子』の息子という意味は、人を人たらしめる情を意味するのであろう。

考えてみれば死者の情を引き継ぐことを「悼む」と呼ぶのではなかったか。

sonsaul-pos.jpgそのサウルの死者達に対する「悼む」心は、ついに叶わなかったと思われた・・・・・・

しかし最後に少年が姿を見せた時、サウルにとっては彼の祈りが通じて、死者が復活したと信じたのだろう。
それは間違いなくサウルに対する、神の赦しの顕在化だった。

この、死者を「悼む=情を継承」する事こそ、人を人たらしめるのであり、未来の礎であるに違いない。


ラストで少年が森に消えていくシーンは、後世の子供達がサウルの思いを引継ぎ、世界を再生して行って欲しいという姿であると感じた・・・・・・・・

この映画では、叶えられなかったカディッシュ。
2009年・アウシュビッツで捧げられた



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posted by ヒラヒ at 17:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ハンガリー映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月31日

『サウルの息子』ホロコーストの尊厳/詳しいストーリー・あらすじ・受賞歴

サウルの息子(ストーリー・あらすじ編)



原題 SAUL FIA
英語題 SON OF SAUL
製作国 ハンガリー
製作年 2015
公開年月日 2016/1/23
上映時間 107分
監督・脚本 ネメシュ・ラースロー


評価:★★★★  4.0点



ホロコースト映画に新たな視点を導入した傑作だと思います。
ナチスドイツによる、ユダヤ人の集団殺戮の影には、同胞のユダヤ人達の死の後始末に駆り出された、ユダヤ囚人達で構成された特殊部隊の存在があったのです。
この映画の主人公「サウル」とは、ごく標準的な人間が到達し得た「人間の尊厳」を表していると思えてなりません。

『サウルの息子』予告



『サウルの息子』あらすじ



1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。
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ハンガリー系のユダヤ人、ウースランデル・サウル (ルーリグ・ゲーザ)は、同胞ユダヤ人の屍体処理に従事する、囚人による特殊部隊・ゾンダーコマンドとして、ナチス軍から働かせられている。

その日も、列車から降り立ったユダヤ人達を誘導し、服を脱がせ、ガス室に送り込み鉄の扉が閉められた。
扉の向こうでは、死に行く者達の苦悶の声と、扉を叩く音が響き渡るのを聞く。
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扉が開き、サウルは死体の山となったガス室の、血と汚物を掃除する。

その中にまだ息のある少年を発見する。
その少年はナチス軍の手で、口と鼻を塞がれすぐさま殺された。
そして、ユダヤ人囚人医師ミクローシュ (ジョーテール・シャーンドル)が解剖の命令を受けた。
サウルはその少年を運んだ医務室で、囚人の医師に頼んで解剖をしないでくれと頼む。
囚人医師への依頼

【意訳】サウル:この少年を解剖するな。このまま残しておいてくれ。/医師:ダメだ。出てけ。彼はお前とどういう関係だ?それでも、もう死体だ。/サウル:それでも解剖は・・・/医師:どこの出身だ。/サウル:ウングヴァール。/医師:私も君と同じ囚人だ。今夜、君に少年との5分の時間を与えよう。しかし最終的には、彼は焼却される。君の名前は。/サウル:アウスランダー・サウル。

そしてサウルは、正式な葬儀の為にラビ(ユダヤ教僧侶)を探し始めた。
そんな中、収容所内ではゾンダーコマンド達が、自分たちの死が近づいていることを察知し、反乱計画が進んでいた。
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隊員アブラハム (モルナール・レヴェンテ)は、カポ長(グループの隊長)のビーデルマン (ウルス・レヒン)に武装反乱への同意を求める。
しかし、カポ長はこの惨状の証拠としてリストの作成と写真を撮影し、その証拠を元に外部に助けを求める従来の計画に重きを置いた。

サウルは傍らで、その話を聞き写真撮影を助けると申し出、写真撮影に立ち会った。
しかしサウルの目的は、外に出てポーランド人グループのラビを探すことだった。
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そしてついに接触するが、そのラビが葬儀を拒んだため、揉めているところをナチス親衛隊曹長ブッシュ (クリスティアン・ハルティンク)に見つかる。

サウルは辛くも解放されたが、ラビは銃殺された。
その晩、自らのチームに戻ったサウルは、医務室から少年の死体を盗み出し自らのベッドに横たえた。
そのとき非常召集がかけられ、サウル達は大量のユダヤ人の移送に対応させられた。
サウルは、ナチス事務室の片付けを命じられ、そこで話されている内容を聞いた。
それは、千名のユダヤ人が残っていて、更に3千人が収容所に今晩来ること、そして明日ゾンダーコマンドも処分されるという話だった。
猶予がないと知ったアブラハムから指示を受け、サウルは女性収容所に向かいエラ (ヤカブ・ユリ) という女性囚人から火薬を受け取った。
エラとの面会

【意訳】女囚長:名前は?/サウル:フリード、エラ。/女囚長:触らないで。

そして、エラはサウルの手を取ろうとしたが、サウルは振り払った。
エラはサウルの名を呼ぶが、サウルは立ち去った。
その女性収容所から戻る途中、収容所に移送されたばかりのハンガリー系ユダヤ人の大群に巻き込まれた。
そこでユダヤ人達は衣服を剥ぎ取られ、森で射殺・焼却されていた。
サウルはその人ごみに入り、ラビかと尋ねて歩いた。
ラビとの出会い

【意訳】サウル:ラビ?ラビ?/老女:ラビよ、ラビ・・・

すると、ラビだと名乗る男ブラウン (トッド・チャーモント) に出会い、自らの収容所内に連れ込む。
サウルはラビに自分の服を脱ぎ与える時、火薬を紛失してしまった。
自分の宿舎に帰ったサウルは、隊員アブラハムと反乱グループの者から火薬紛失を責められた。
アブラハムは、サウルのベッドの死体を見て、何だと尋ねた。
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サウルは「息子」だと答えた。
アブラハムは「お前には息子はいない」と言った。
サウルは「いる。埋葬する」と答えた。
アブラハムは「ラビは必要ない」と言った。
サウルは「正式に弔いたい」と答えた。
アブラハムは「ここは生者の場所だ死体は始末しろ」と言い捨てて出て行った。

翌朝、サウルとラビは地面を掘り、埋葬の準備を進めているとき、ナチス軍の非常呼集が掛けられた。
作業半ばで、二人はガス室前に集められた。
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そこにナチス兵が押し入り、カポ長ビーデルマンを連れ出し、親衛隊によって殺された。
それを契機に、アブラハムら囚人たちの反乱が開始された。
その反乱の銃火の中を、サウルはラビを連れ、少年の死体を担ぎ、埋葬の場所を求め走るのだった・・・・・・・

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『サウルの息子』受賞歴


カンヌ国際映画祭:グランプリ受賞
ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞:外国語映画賞受賞
ニューヨーク映画批評家協会賞:第一回作品賞受賞
ボストン・オンライン映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ロサンゼルス映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ニューヨーク映画批評家オンライン賞:外国語映画賞受賞
ワシントンD.C.映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
サンフランシスコ映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ダラス・フォートワース映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
シカゴ映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ヒューストン映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ベルギー映画批評家協会賞:受賞
ゴールデングローブ賞:外国語映画賞受賞
放送映画批評家協会賞:外国語映画賞受賞
ドリアン賞:外国語映画賞受賞
フランス映画批評家協会賞:外国映画賞受賞
全米撮影監督協会賞:スポットライト賞受賞
サテライト賞:外国語映画賞受賞
88回アカデミー賞:外国語映画賞受賞

【アカデミー賞:外国語映画賞ネメシュ・ラースロー受賞スピーチ】

プレゼンターはイ・ビョンホンとソフィア・ベルガラ。イ・ビョンホンは「今年の候補作は、アフガニスタンの収容所、トルコの村、そして1次世界大戦まで、様々な戦場が描かれた」など語り、ノミーネート作品紹介。他作品は、「ある戦争(デンマーク)」、「大河の抱擁(コロンビア)」、「裸足の季節(フランス)」、「ディーブ(ヨルダン)」
【ネメシュ・ラースロー、スピーチ意訳】
うわー。この素晴らしい名誉を下さったアカデミーに感謝します。私たちをサポートしてくれたSony Pictures Classics、Tom Bernard、Michael Barkerに感謝します。この映画の資金提供をしてくれたハンガリー政府に感謝します。私はこれを、私の主要俳優であるゲザ・レグリグと、信じられないほどのキャストとクルーと共有したいと思います。この計画は誰が欠けても出来なかった。
みなさん、最も暗い人類の時代でさえ、人類の最も暗い時間にあっても、私たちの中に残っている人間性の声があります。それがこの映画の希望です。どうもありがとうございました。感謝します。


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posted by ヒラヒ at 16:49| Comment(4) | TrackBack(0) | ハンガリー映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする