2020年10月02日

ロックの名盤『ジギー・スターダスト』グラム・ロックの華!デビッド・ボウイ/感想・解説・曲紹介

トリックスターとしての吟遊詩人



評価:★★★★★  5.0点

かって吟遊詩人という歌い手達は、放浪しつつ町々で、歴史的事実やある人物に関する叙事詩を歌い上げた。
デヴィッド・ボウイは、吟遊詩人である。
このアルバムではジギ―という異星人ロックスターについて、その栄光と没落の歴史を語りかける。

また歴史上トリックスターと呼ばれる、秩序を撹拌し同時に新たな秩序を創造する役割を担うものがいる。
デヴィッド・ボウイはトリックスターである。
彼は、架空の人物の歴史を唄うだけではなく、自らが架空の人物になって演じてみせる。
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<目次>
『ジギー・スターダスト』感想
『ジギー・スターダスト』収録曲紹介
『ジギー・スターダスト』解説/デビッド・ボウイ作品

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映画『ジギー・スターダスト』感想


デビッド・ボウイは現実の存在と虚構のキャラクターの境界を超えて、演技者=パフォーマーとし観衆の前に姿を現す。ziggy_pos.jpg
その結果「デビッド・ボウイ」という歌手自体が、虚構世界の幻想が実体を持って、現実世界に現れたように見える。

そしてしばしば、幻想の中に在るイメージは、人々の意識の底に在る原初的な情動に形を与えた物だと言う。

この人々の無意識に眠る、まだ具体的に名づける事のできない欲求に、形を与える者こそトリック・スターであろう。
しかし、この虚構と現実のカオスの中で、最終的に見る者の欲望の化身として典型を示す者は、現代にあっては「アイドル」と呼ぶべきである。

このアルバムでデヴィッド・ボウイは、架空の己をアイドルとして作り上げることに成功した。
そのキャラクターの選択も、その選択に対応したボウイのビジュアルとコスチュームも、そして虚実をないまぜにした言動もアイドルの成立に寄与した。

この1970年代とは、科学と冷戦のせめぎ合いの中で不安と希望が渦巻き、いつか核戦争によって世界が破滅するのではないかとの予兆の中で、無意識のうちに救世主が求められたという社会状況と呼応する物であったかもしれない。
もちろん、人類史の中でも最も懐疑的な時代=現代にあって「私が救世主だ」と言えば冷笑に迎えられるに違いない。

それであればこそ、デヴィッド・ボウイのトリック・スターとしての資質が功を奏したのである。

しかしこの「トリック・スター」が持つ真価は、その虚実入り混じった外見や、そのコンセプトのユニークさもさることながら、その歌声のどこか人工物めいた高音域がもつ、人の無意識を掻き回す訴求力に在ると感じる。

彼のその声が美しく鳴り響く時、一見チープなキャラクターとその世界設定に圧倒的な説得力を与え、その虚構世界のリアルな救世主たりえたのだ。
<ライブでのジギー・スターダスト>

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『ジギー・スターダスト』解説

CD情報


○ジギー・スターダスト(原題:The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)
デヴィッド・ボウイの5作目のアルバム。
1972年6月16日に、RCAレコードよりリリース。
『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』に於いて、35位。
収録曲
1.「5年間」(Five Years)4:42
2.「魂の愛」(Soul Love)3:33
3.「月世界の白昼夢」(Moonage Daydream)4:37
4.「スターマン」(Starman)4:16
5.「イット・エイント・イージー」(It Ain't Easy)2:57
6.「レディ・スターダスト」(Lady Stardust) 3:21
7.「スター」(Star)2:47
8.「君の意志のままに」(Hang Onto Yourself)2:40
9.「屈折する星くず」(Ziggy Stardust)3:13
10.「サフラジェット・シティ」(Suffragette City) 3:25
11.「ロックン・ロールの自殺者」(Rock'N'Roll Suicide)2:57


参加ミュージシャン
デヴィッド・ボウイ - ボーカル、ギター、サクソフォーン
ミック・ロンソン - ギター、ピアノ、ボーカル
トレバー・ボルダー - ベース
ミック・(ウッディ)・ウッドマンジー - ドラムス
ダナ・ギレスピー - バッキング・ボーカル(「イット・エイント・イージー」)


○ジギー・スターダスト・ザ・モーション・ピクチャー(原題:IGGY STARDUST THE MOTION PICTURES)
1983年発表のライブ版


同時に映画も公開された。

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『ジギー・スターダスト』解説

表現者デビッド・ボウイ

デビッド・ボウイはロック・ミュージシャン以外にも俳優としても活動している。
デヴィッド・ボウイ(David Bowie [ˈdeɪvɪd ˈbəʊi], 本名: デヴィッド・ロバート・ジョーンズ, 1947年1月8日 - 2016年1月10日[1])は、イングランド出身のミュージシャン、シンガーソングライター、音楽プロデューサー、俳優。
グラムロックの先駆者として台頭し、ポピュラー音楽の分野で世界的名声を得る。役者の世界にも進出し、数々の受賞実績を持つマルチ・アーティストとして知られている。
1996年『ロックの殿堂』入り。『グラミー賞』5回受賞(19回ノミネート)。NME誌選出『史上最も影響力のあるアーティスト』など。
(wikipediaより)

○当ブログ「デビッド・ボウイ作品」レビュー紹介
アメリカ映画:1986年
『ラビリンス 魔王の迷宮 』
デヴィッド・ボウイが歌い踊る!カルト・ファンタジー
マペットの創始者ジム・ヘンソンが贈る名作

ロック音楽:1977年
デビッド・ボウイ『ヒーローズ』
ブリティッシュ・ロックのカリスマの名盤
2017年ボウイの訃報に贈る追悼の辞

西ドイツ映画:1978年
『ジャスト・ア・ジゴロ』
デヴィッド・ボウイが軍服、タキシードなど様々なファッションで登場
マレーネ・ディートリッヒと共演の世紀末ベルリンを描く!

アメリカ映画:1981年
『キャット・ピープル』
デヴィッド・ボウイのエンディング・ソングのための映画
ナスターシャ・キンスキーの猫族の娘

日本映画:1983年
映画『戦場のメリークリスマス』
第二次世界大戦の東西文明の相克
大島渚監督、デヴィッド・ボウイ, 坂本龍一, ビートたけし出演




posted by ヒラヒ at 14:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ロック音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月25日

セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』パンクロック見参!「金玉ヤローなんか、気にすんな!」

悪がき”青年の主張”



評価:★★★★★  5.0点

この原題「金玉ヤローなんか、気にすんな!」というCDを初めて、クラシックピアノをやっている友人に聞かせたときのその言葉が、忘れられない。
「ふざけないで、こんな演奏がプロのわけないし、人前でやってはいけない」


セックス・ピストルズ
セックス・ピストルズ (Sex Pistols) は、イングランド出身のパンク・ロックバンド。
1970年代後半にロンドンで勃興した、パンク/ニューウェーブ・ムーヴメントを代表するバンド。自国の王室・政府・大手企業などを攻撃した歌詞など、反体制派のスタイルが特徴。また、短命でありながらも、後世のミュージック・シーンやファッション界にも多大な影響を与えた。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第60位。(引用:wikipedia)Sex-pistols.jpg

このセックス・ピストルズのデビュー当時の70年代イギリスとは、英国病と呼ばれるほど、経済が停滞しており、その最大の被害者がセックス・ピストルズのメンバーが属する労働者階級だった。仕事もなく明日も知れない彼等は、サッカー場でフーリガンとして暴れたり、楽器を持ち寄ってバンドを結成し不平不満を叫んだ。



そもそも、ロックミュージックのルーツは、アフリカから無理やりつれてこられたアフリカ系アメリカ人達の魂の慟哭だ。その叫びは、時に詠嘆であり、時に苦痛の訴えであり、そして何よりも自由を求める抵抗の歌であった。
それが、喜怒哀楽のどうしようもない感情の爆発として表現されるとき、本来その情報を最も端的に伝え得るのは、泣く、怒る、タメ息、の肉声こそふさわしい。
しかし、肉声によって発せられた個人の感情はそれを聞いた回りの人間には突き刺さるかもしれないが、残念ながら広範な伝播力が無い

そこで音楽的なギミックが必要であり、その音楽の核がブルーノート(ブルース単音)とブルース・コードだ。
ブルースコードの組み合わせによって作られた、この音楽形式ブルースが便利なのは、コードを2〜3個覚えただけでも演奏に参加できるし、そのコード上の音を使って歌えばそれなりに単純なブルース・ソングとして成立することだ。

この極めて融通の利く可塑性の高い音楽様式だったからこそ、世界中に広まり、世界中の人々の喜怒哀楽を表現する音楽となったのだろう。
(初期ブルースシンガー:ロバート・ジョンソン「Sweet Home Cicago」)

しかし、このプリミティブなブルースは世界中に伝播する中で、どんどん技巧的になって行き、ついにはプログレシヴ・ロックのように、高度な演奏技術が要求されるようになってしまった。

(プログレバンド:エマーソンレイク&パーマー「展覧会の絵」)
しかしだいたい、技巧に走れば走るほど、叫びの持つ本来的な力は弱くなっていくのは、過去の芸術表現が証明している。

クラシックピアノの友人に、私は言わざるを得ない。
「上手けりゃいいってもんじゃない!」
友人は言った。
「上手くなきゃダメ!音楽には技術が必要なのよ」


パンクロックで、このCDの曲で伝えようとしているのは、不況の中で生じた労働者階級の不平憤懣だ。
当時のイギリスでは、労働者層の若者達が金が無いために、住居を不法占拠したり、金持ちを襲って強盗を働いたりという、いつ暴動が発生してもおかしくないぐらいの不穏な社会情勢を背景にした、怒りの爆発だ。
ここでロックは、再び人間の叫びを届けるために、パンク・ロックとして復活したのだ。
その姿は確かに無様で、汚くて、見るに耐えないかもしれない。
実際、歌詞の内容は「ば〜か、ば〜か!お前のか〜ちゃんデベソ!」レベルのモンだったりする。このCDの題名も「金玉ヤローなんか、気にすんな!」だし

でも、聞くがいい!
この不恰好な姿が、どれほど多くのメッセージを伝えるかを!
死にかけたマラソン選手が、今にも倒れそうになりつつ歩む姿に感動しない人間がいたら、それはもう人間ではない!
パンクロックの無様さとは、なりふり構わず、死に物狂いで、それでも伝えずに死ねるかと言う「叫び」だ!
だから聞く者に、問答無用で、有無を言わさず、首根っこを押さえつけられて、逃げようもなく脳髄に直接突き刺さるのだ!
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クラシックピアノの友人とのファイトは続く。
「技術なんていらない!」
「技術がなきゃダメ!」
ついに言った
「じゃ〜技術が上手くなったら、叫ばなくても世界を変えられるのか!戦争をやめさせられるのか!」
友人はいう
「音楽は芸術は、そんなことのために有るんじゃありません」
クラシックピアノの友人に私は言った。
「だとすれば、音楽や芸術が必要なのは生きることに困らない、世界が今のままでいいと考えている傲慢な人達のモノなのか?」
更に私はたたみかける。
「芸術と言うのが上流階級や裕福な人達のための讃歌でしかないなら、そんな物は俺は要らない!」


パンクロックは「抵抗の歌」であり、世界を変えるためのデモのシュプレヒコールだ。
だからこそ、技術はいらない。
音楽的技術を考えながら、そんな余裕の在る態度で、自分達の生きるか死ぬかの要求を伝えられはしない。
それは、ライオンに襲われた人間が上げる、絶叫こそが最も相応しい。

そして、音楽表現において、いや芸術史上も含めて、初めて、技術が低いほうが強く伝わるメッセージが在るという事を、パンクロックが証明したのだ。

フランク・シナトラが歌う「マイ・ウェイ」のオリジナル

セックス・ピストルズの「マイ・ウェイ」


その後、友人に会った時にはもう「パンクは死んだ」と言われて久しい時期だった。
友人は冷笑しつつ言った。
「パンクはどこ?技術がない音楽は残らないでしょう?」
私は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「技術が無いから残らなかったんじゃない。魂がなくなったんだ・・・・」


そう、伝える強い思いが必然的に、技術的形式を形作る。
そして「パンク」という形式が残ったとしても、その心が魂がなくなれば、それは空っぽの形骸でしかない。

CDデーター『勝手にしやがれ!!』(1977年)
1.さらばベルリンの陽 - Holidays in the Sun(3分20秒)
2.ボディーズ - Bodies(3分03秒)
3.分かってたまるか - No Feeling(2分49秒)
4.ライアー - Liar(2分41秒)
5.ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン - God Save the Queen(3分19秒)
6.怒りの日 - Problems(4分10秒)
7.セブンティーン - Seventeen(2分02秒)
8.アナーキー・イン・ザ・U.K. - Anarchy in the U.K.(3分32秒)
9.サブミッション - Submission(4分10秒)
10.プリティ・ヴェイカント - Pretty Vacant(3分17秒)
11.ニューヨーク - New York(3分05秒)
12.拝啓EMI殿 - E.M.I.(2分57秒)

ジョニー・ロットン - ボーカル
スティーヴ・ジョーンズ - ギター、ベース、バッキング・ボーカル
グレン・マトロック - ベース("アナーキー・イン・ザ・U.K."のみ)
ポール・クック - ドラムス、バッキング・ボーカル
シド・ヴィシャス - ベース("ボディーズ"のみ)

オススメこの一曲「アナキー・イン・ザ・UK」



私は信じている、世界が困難に満ちて救済が必要となったとき、ロックの魂が、パンクのパワーが蘇るのだと・・・・・・・

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posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(4) | TrackBack(0) | ロック音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月04日

ザ・ローリング・ストーンズ・CD『ブルー&ロンサム』ストーンズのブルース

ストーンズのオトシマエ



評価:★★★   3.0点


ザ・ローリング・ストーンズ紹介

stones-pic.jpgザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) は、イギリスのロックバンド。1962年4月のロンドンで、ブライアン・ジョーンズ(ギター、ハーモニカ)、イアン・スチュワート(ピアノ)、ミック・ジャガー(リードヴォーカル、ハーモニカ)、キース・リチャーズ(ギター、ボーカル)によって結成、その後間もなくベーシストのビル・ワイマンとドラマーのチャーリー・ワッツが参加した。
結成当初のリーダーはジョーンズであったが、後にジャガーとリチャーズがコンビで作曲を行い、グループをリードするようになった。1969年、ジョーンズは体調不良と法律問題のためバンドへの貢献が減少しツアーへの参加もできなくなり、バンドを脱退、その3週間後にプールで溺死した。ジョーンズの後任としてミック・テイラーが加入、1974年に脱退するまで活動を続けた。その後、ロン・ウッドが加入する。ワイマンは、1993年にバンドを脱退、後任としてダリル・ジョーンズがベースを担当するようになるが、正式メンバーとしては加入していない。スチュワートは、1963年に公式メンバーから外されるが、バンドのロードマネージャーを続け、1985年に死去するまでピアニストとしてツアーやレコーディングに参加した。1982年以降は、チャック・リーヴェルがバンドのキーボードを担当している。(wikipediaより引用)


初期のストーンズナンバー。ブルースのテーストを色濃く持ちながら明らかに、ストーンズのオリジナリティーが感じられる。

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ザ・ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』収録曲
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6曲目と12曲目にエリック・クラプトンがギターで参加
1. ジャスト・ユア・フール(Just Your Fool)
  オリジナル Buddy Johnson
2. コミット・ア・クライム(Commit a Crime)
  オリジナル Howlin' Wolf
3. ブルー・アンド・ロンサム(Blue and Lonesome)
  オリジナル Little Walter
4. オール・オブ・ユア・ラヴ(All of Your Love)
  オリジナル Magic Sam
5. アイ・ガッタ・ゴー(I Gotta Go)
  オリジナル Little Walter
6. エヴリバディ・ノウズ・アバウト・マイ・グッド・シング(Everybody Knows About My Good Thing)
  オリジナル Miles Grayson Lermon Horton
7. ライド・エム・オン・ダウン(Ride 'Em On Down)
  オリジナル Eddie Taylor
8. ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー(Hate to See You Go)
  オリジナル Little Walter
9. フー・ドゥー・ブルース(Hoo Doo Blues)
  オリジナル Otis Hicks Jerry West
10. リトル・レイン(Little Rain)
  オリジナル Ewart G.Abner Jr. Jimmy Reed
11. ジャスト・ライク・アイ・トリート・ユー(Just Like I Treat You)
  オリジナル Willie Dixon
12. アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー(I Can't Quit You Baby)
  オリジナル Willie Dixon

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ザ・ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』
プロモーションビデオ集

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ブルー・アンド・ロンサム プロモーションビデオ


ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴープロモーションビデオ


オリジナル:リトル・ウォルターヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー


ライド・エム・オン・ダウン プロモーションビデオ


オリジナル:エディーテイラー (1955)ライド・エム・オン・ダウン 


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ザ・ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』感想
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このアルバムは、どっぷり、とことん、徹頭徹尾、骨の髄まで、まったり、こってり、全身ブルースだ。
ザ・ローリング・ストーンズがザ・ローリング・ストーンズになる前に―
ザ・ローリング・ストーンズがザ・ローリング・ストーンズになるために―
レコードが擦り切れるほど聞いていた、彼らの背骨のようなブルース、血肉と化したブルース、心臓の鼓動のブルースだ。

そんな昔懐かしいブルースをカバーしたのが、このアルバムだ。
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ここに、エリック・クラプトンも2曲ギターで参加したのは、彼も同じくブルースにどっぷり首まで漬かって生きて来たからだったろう。


そんなこのアルバムで、平均年齢72歳のメンバーがリラックスしてブルースを気持ちよさげに演奏しているのは、心地よくはある。

しかし、あえて言いたい・・・・・・・
このアルバムはザ・ローリング・ストーンズのベストではない・・・
むしろおまけのような趣すら漂う。

結局、彼らのホワイト・ブルースは、上の動画からも分かるように、どう演奏しても黒人のブルースとは濃厚さというか、ネットリ感というべきか、明らかに違うのだ。

彼らがブルースを愛し、ブルースを歌いたいのは分かる。
しかし、彼らの真骨頂とはブルースをベースとして、それまでのブルース・マン達が作りえなかったブルースの進化系を生み出した点にあるだろう。

それは、真剣に黒人に生まれなかったことに苦悩したと言う、エリック・クラプトンにしたところで同じ事で、クラプトンのクロっぽい(黒人的な)ブルースよりも、どこか漂白、洗練、された楽曲の方が世間から受け入れられたのは、やはり資質としてそこに長所があったからだ。

たとえば、ストーンズがブルースに付け加えたのは、個人的には、ブルースが持つ暗く陰鬱な世界観を超えた、陽気でドラマチックな疾走感だったと感じる。
ザ・ローリング・ストーンズ「サーティスファクション」

さらには、ブルースに美しいバラードのメロディを付け加えたのではないか。
ザ・ローリング・ストーンズ「アンジー」


それは、エリック・クラプトンが、ブルースに「クールな諦念」ともいうべき静けさを付与した事にも通じる、ブルースの可能性の拡大であったはずなのだ。
エリック・クラプトン「ワンダフル・ツナイト」

エリック・クラプトン「ティアーズ・イン・ヘブン」


やはり黒人にはなれない彼らは、自らの資質に合ったオリジナルのブルースを生み出したからこそ、ここまで世界に受け入れられたのではないだろうか・・・・・・・・・

このアルバムのオールド・ファッションドなブルースを聞き、正直ストーンズの生み出す「オリジナル・ブルース」を聞きたいと思った。

ストーンズだって分かっていたはずなのだ。
自分達に何が求められ、自分達の黒っぽいブルースがオリジナルに匹敵しない事を。

それでも、このアルバムを出したのは、自分達が歌うことでブルースにもう一度注目を向けたいという志からではなかったろうか。

実を言えば、このアルバムを聞いて来るべものが来たかとも思った・・・・・・・・・
このアルバムを最後に、もうストーンズは新しい曲を発表しないのではないかと感じたのだ。
このブルースアルバムは、キャリアの最後に自分達のルーツに仁義を切った、いわば「ストーンズの落とし前」のように感じられてならない。

これが浅はかな考えであることを祈っている・・・・・・・・

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posted by ヒラヒ at 17:27| Comment(4) | TrackBack(0) | ロック音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする