評価:★★★★ 4.0点
この少女の物語を読むと、「健やか」という言葉が浮かんできます。
同時に微笑ましい気持ちで、心が暖かくなっていきます。
小さな魔女「キキ」の物語は、そのまま少女の成長譚です。
少女達にとっての魔法とは、マンガやアニメを通じて一つの夢として定着した感がありますが、この物語の魔法は従来と一線を画す性質を持っているように思います。
かつての物語の魔法とは、社会的な女性の役割・規則が因習的に要求された時代においては、そのルールを越えた夢・希望としてあったのではないでしょうか。
しかしこの物語にあっては、魔法とは少女が女性になるための、人が大人になるための必須の能力として描かれているように思います。
「キキ」の魔法とは、ほうきに乗って空を飛ぶ力です。
その力は、ほうきとともに母親から受け継いだ力でした。
それは母から娘に伝えられる文化が、少女のバックボーンになっていることを示しているでしょう。
しかし母からもらったほうきは折れてしまいます。
これは家庭内で受けた魔法=「教育・シツケ」だけでは、対応できない状況が在るということの現れではないでしょうか。
それからキキは、自分の作ったほうきに乗っていろいろな荷物と人に出会って行くうちに、物語の最後には母からもらったほうきと同じくらい上手に飛ぶようになります。
少女達が大人になるという事は、家庭から引き継いだ力を基にして、さらに社会の様々の状況に対することで自らの対処法を作り出すということに、他なりません。
そしてまた、この自分の能力を元に積極的に社会と関わり、成長していくという考え方はとっても現代的だと思うのです。
最近の心理学の知見では、人は誰かのために役に立つことを幸福と思うという結果が出ているそうです。
であれば人は男女関わらず、まず一人で生きる力が無ければいけません。
なぜなら、そうでなければ誰かの役に立つどころか、誰かに迷惑をかけてしまいますから。
自立がもしできたら、さらに社会にその力を還元することで誰かの役に立つことができます。
社会に自分の力を還元するというのが、働くということです。
ここにおいて、人が幸せに生きるという循環が完成することになります。
つまりキキが自分の能力を元に、仕事をして人に喜んでもらうことで自分も幸福になり、更にキキの能力が高くなり、更に皆によろこんでもら得るという好循環です。
この好循環に入ることを成長と呼ぶのではないでしょうか。
そういう意味で、この物語は「健やかな成長物語」だと思いました。
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ラベル:角野 栄子