原題 La migliore offerta 英語題 The Best Offer 製作国イタリア 製作年2013/131分 監督・脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ 音楽 エンニオ・モリコーネ |
評価:★★★★ 4.0点
この映画は、とりあえず、今すぐ、何も知らないうちに、一回ご覧になられることをお勧めします。
予備知識ゼロで、この映画を見ることこそ、この映画が提示できる「ベスト・オファー(最高の価値)」だと思いますし、見る価値は十分あると思います・・・・・・
ということで以下の文章は、この映画を見た方々に向けて書かせていただいております。
========================================================
========================================================
========================================================
========================================================
以降
『鑑定士と顔のない依頼人』ネタバレ・ラスト
を含みますので、ご注意下さい。========================================================
========================================================
========================================================
ヴァージルはロンドンでのオークションを終え、帰宅した。
その家にクレアはおらず、秘密の部屋の天文学的な価値を持つ名画達は、全て消え去っていた。
その空白の部屋には、オートマタが片隅に置かれていた。
そして「どんな贋作にも典拠がある」「あなたがいなくて寂しいよオールドマンさん」と何度も何度も流れ続けていた……
廃人のようになって、介護施設で暮らすヴァージルの元に、手紙をもってかつての部下が訪ねてきた。
ヴァージルは一人車椅子の上で、クレアが去った後の出来事を思い出していた。
クレアの家には誰もおらず、その家の前のカフェでヴァージルは聞き込みをした。
すると、本当のクレアはカフェの常連で、驚くべき記憶を持つ矮人症の女性だったことを知る。
クレアの家もその彼女のもので、撮影などに貸し出すのだという…
そして、その驚異の記憶力で、ヴァージルがクレアだと信じていた外出恐怖症の女性が、どれほど頻繁に外に出ていたかを教えてくれた。
そして、そこに何でも直せる修理屋がいたことも。
ヴァージルが怒りにまかせて叩きつけた、クレアを描いた肖像画のカンバスの裏には“ヴァージルへ愛情と感謝を込めて ビリー”と記されていた。クレアと修理屋ロバートそして贋作家ビリーが共謀して、ヴァージルを騙したのだった・・・・・・
========================================================
『鑑定士と顔のない依頼人』ラストシーン
========================================================ヴァージルは「2人に何が起きても あなたを愛してることわかって欲しい」という偽のクレアの言葉を思い出す。
そして、プラハに家を借り、偽のクレアが語っていた「プラハのレストラン」へ足を運ぶ。
ラストシーン
不動産屋:中へどうぞ。ご注文どおりです。荷物は明日届きます。契約書の控えをお持ちします。何かあればお電話を/クレア:ああヴァージル「2人に何が起きても、あなたを愛していることをわかって欲しい」/(喫茶店ナイト&デイ)ウエィター:お一人ですか?/ヴァージル:いや 人を待っている。
========================================================
スポンサーリンク
========================================================
『鑑定士と顔のない依頼人』結末後の感想・解説
========================================================ということで、この映画のストーリーをもう一度整理してみよう。
偽のクレアから電話がかかってきたところから、サギが始まっていたことは明らかだ。
その詐欺の関係性は以下の図に集約出来るのではないだろうか。
その計画は周到だ。(以下文中のクレアはダマしたクレア)
人間嫌いのヴァージルを恋に引き込むために、まずはオートマタという「モノ=金」で餌をまき、徐々に生身の女性と接触させて行く。
ここには隠された存在を暴きたいという、人間心理も十分考慮されているだろう。
そして、美しいクレアを見せ、ヴァージルが恋に落ちたのを確認する。
そこから、ロバートのクレアに対する好意を仄めかせ、更にダメ押しでロバートの彼女サラの口から、ロバートがクレアに夢中だと告げさせる。
ヴァージルは嫉妬に狂うと同時に、クレアに対する恋を更に燃え上がらせた事だろう。
そしてダマしは詰めに入って、クレア失踪を演出し、ヴァージルが彼女を失うことに耐えられないと思い知らせた。
そして、ヴァージルにクレアを発見させ、彼女の過去で同情を引き、そしてベッドを共に過ごせば、ヴァージルは完全にクレアの虜と化しただろう。
なにせ、これが生まれて初めての恋であり女性体験なのだ。
そして、最後のダメ押しに、ヴァージルを襲わせて、外に出れないクレアが彼の為に走りだし、病院で看護までしてしまえば・・・・・・
ヴァジールがクレアを愛し、全てを捧げても構わないと思ったとしても、何ら不思議はない。
本当に手の込んだ念入りな仕事だと感心する。
そして、部屋から絵画が持ち去られる・・・・・・・
次に場面は移り、ヴァージルが介護施設で、かつての部下から新聞や手紙を受け取るシーンとなる。
それ以降のシークエンスは、ヴァージルが騙された後の回想を、介護施設の車イスの上で思い返していると見るのが素直な解釈だろう。
プラハにアパートを借りて、クレアとの話に出てきた喫茶店「ナイト&デイ」で待っているというのが、このラストシーン。
ラストの喫茶店シーンとは、騙されてもなお「贋作にも真実がある」のではという、未練の光景となる。
そして物語は、どれほどの美術品や金銭にも勝るのが「現実の恋」であるという、ラテン的な恋愛至上主義に焦点を結んで行くだろう。
と、突然、後ろで歯車のきしむ音がした。
オートマタが語り出す・・・・・・・・・・
それでいいのか?
この映画は決して全てを語ってはいない?
そもそも、このロバートとは何者だ?
なぜヴァージルと知り合ったのか。?
クレアとロバートとビリーの関係性は?
秘密扉の鍵の解除方法を、ヴァージルはクレアに教えたのか?
ビリーは「贋作にも真実がある」といい、ロバートは「クレアとオートマタのどっちが大事か」と問い、クレアが「何があっても私があなたを愛していることを忘れないで」と告げるとき、こんな危険な言葉を騙している途中で言う必然性は何か?
ヴァージルが老人ホームで車椅子に乗って、かつての部下から新聞や手紙を受け取って以降のシークエンスは、時系列の情報があるか?
そう問われてみれば、この映画は全てを開示していない「もどかしさ」が常について回る。
正直言って、4回は見たのだが、それでも謎は謎のままだ・・・・・・
試みに、上の車いす以降の一連の流れを入れ替えたとすると、様々な可能性が生じるのだ。
例えば、部下の持参した手紙の中にクレアの便りが入っていて、プラハは介護施設から出たヴァージルが向かったという可能性もある。
これを時系列的に整理すれば、介護施設→喫茶店という流れだ。プラハで一緒に暮らそうと言われ、アパートを借りて待ち合わせの喫茶店「ナイト&デイ」で待っているというのが、このラストシーン。
更に時系列を入れ替えれば、介護施設→喫茶店→クレアとのベッドシーンという可能性もある。ベッドシーンはプラハで会った後の光景だと見ることも可能で、これであれば、ヴァージルにとっては完璧なハッピーエンドだろう。
更に更に可能性を探って時系列を入れ替えれば、喫茶店→クレアとのベッドシーン→介護施設という可能性もある。だとすれば、プラハでクレアと暮らし、そしてもう一度クレアに騙されたということだ。
更に更に更に・・・・・・・
ここではたと気が付いた、結局一番混乱し騙されていたのは私自身だったのだと。
この映画は、ヴァージルをダマす以上に、観客をダマしていた映画だというのが結論だ。
しかし、そのダマしの手法とは、謎を謎のまま放置するものなので、いつまでも後を引き観客を離さない。
そう考えてきて、そんな芸術作品があるのを思い出した。
この映画は、女性肖像画を部屋中に飾りながら、この世界一有名な絵が欠落しているのも不思議だったのだが・・・・・
この映画は彼女の微笑みと同じ、謎の持つ永遠性を保持しているのではないだろうか。
たぶん偽のクレアの本名は
モナリザに違いない。
スポンサーリンク