2022年08月07日

ハリウッド映画はプロパガンダだった!?映画『風と共に去りぬ』の秘密/解説・考察・プロパガンダとアメリカ政府

映画『風と共に去りぬ』(感想・解説・考察 編)

原題 Gone with the Wind
製作国 アメリカ
製作年 1939
上映時間 233分
監督 ヴィクター・フレミング
脚色 シドニー・ハワード
原作 マーガレット・ミッチェル


評価:★★★★☆  4.5




1939年制作の映画史に残る古典的超大作。

公開以来数多くの称賛を受けて来たが、今ではこの作品が持つ旧弊な価値観ゆえに、多くの批判を浴びている映画でもある。

しかし、あまり語られない事実だが、この映画は1930年代に推進された、アメリカ政府の戦意高揚のプロパガンダ映画の性格をも有していた・・・・・
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<目次>
映画『風と共に去りぬ』ネタバレなし簡単ストーリー
映画『風と共に去りぬ』予告・出演者
映画『風と共に去りぬ』考察・アメリカ政府とプロパガンダ
映画『風と共に去りぬ』解説・プロパガンダとしての『風と共に去りぬ』

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映画『風と共に去りぬ』簡単あらすじ


1861年、アメリカ南北戦争の前夜、タラ農園の令嬢スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)は農園主の父ジェラルド・オハラ(トーマス・ミッチェル)と母エレン・オハラ(バーバラ・オニール)と2人の姉妹と、黒人の乳母マミー(ハティ・マクダニエル)や綿花農園に働く多くの奴隷とともに住んでいた。パーティ―で男たちを虜にし、楽しんでいるスカーレットだったが思いを寄せるアシュリー・ウィルクス(レスリー・ハワード)がいとこのメラニー・ハミルトン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)の結婚にショックを受けた。そのパーティーでは悪名高いレット・バトラー(クラーク・ゲイブル)と初めて会う。スカーレットはアシュリーとメラニーの結婚にショックを受け、衝動的にチャールズ(チャールズ・ハミルトン)と結婚をする。
しかし南北戦争がはじまると、夫チャールズは南北戦争で戦死し、戦争で南軍の敗色が濃くなると、戦火は南部の諸州を飲み込み、タラ農園は焼け野原と化し、母は死に、父は廃人となった。一方のレットは南軍の英雄となり、スカーレットの危機を、何度も救っていた。戦争が終わり、スカーレットには荒廃したタラ農園と、家族、そして思いを寄せるアシュリーを含めて、養っていく義務が課された。スカーレットは雄々しく運命に立ち向かい、重税を払うため再び資産家の夫と結婚したが、その夫にも先立たれてしまう。そんなスカーレットにレットが求婚し、優雅な新婚生活を送り愛娘も生まれた。しかし、スカーレットの心にはアシュリーがおり、それがレットの嫉妬を搔き立てるのだった。そして悲劇が起きる・・・・・・・
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映画『風と共に去りぬ』予告


映画『風と共に去りぬ』出演者

ヴィヴィアン・リー(スカーレット・オハラ)/クラーク・ゲイブル(レット・バトラー)/レスリー・ハワード(アシュリイ・ウィルクス)/オリヴィア・デ・ハヴィランド(メラニー・ハミルトン)/トーマス・ミッチェル(ジェラルド・オハラ)/バーバラ・オニール(エレン・オハラ)/ハティ・マクダニエル(マミー)/ボニー・バトラー(カミー・キング)/ジェーン・ダーウェル(ドーリー)/ウォード・ボンド(トム)/ランド・ブルックス(チャールズ・ハミルトン)
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映画『風と共に去りぬ』考察

アメリカ政府とプロパガンダ映画

『風と共に去りぬ』は時代を反映し、今から見れば「前時代的価値観」である、「アメリカ南部賛美」を語っており、現代では強い批判を浴びている。
関連レビュー:映画史に残る古典はなぜ批判されるか?
『風と共に去りぬ』
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しかし、あまり語られないことだが、この映画は「戦意高揚(プロパガンダ)映画」の一面も持っていたのである。

そこで、まずはプロパガンダと映画の関係を語ってみたい。
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プロパガンダの発見と推進
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プロパガンダ映画と言って真っ先に思い浮かぶのは、ナチス・ドイツ政権の積極的な活用だろう。
ヒットラーの権力を誇示し、その政策に対する国民の共感を呼ぶよう、ナチス国民啓蒙・宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスが積極的に推進し 、ドイツ国民を扇動する効果を上げたと言われる。

その最も有名な作品がレニ・リーフェンシュタール監督の『意思の勝利』(1935年)である。

しかし、アメリカ合衆国においても、プロパガンダに無頓着だったわけではない。

その研究は、第一次世界大戦のプロパガンダの分析から始まり、1927年政治学者ハロルド・ラスウェル(Harold Lasswell)が、その著書『宣傳技術と毆洲大戰(Propaganda Technique in the World War)』で発表し、その定義を明確なものとした。

ハロルド・ラスウェル(ハロルド・ドワイト・ラスウェルHarold Dwight Lasswell、1902年2月13日 - 1978年12月18日)は、アメリカ合衆国の政治学者。20世紀の中葉におけるシカゴ学派の重鎮で、行動論主義の創始者。政治コミュニケーションの研究で知られる。主にイェール大学で教鞭を執った。ハロルド・ラズウェルとも表記される。(Wikipediaより)

彼は第一次世界大戦におけるプロパガンダを研究対象とし、理論化し、その目的を以下のように要約した。
1. 敵に対する憎しみを煽る
2. 同盟国との友情を保つ
3. 友情を維持し、可能であれば、中立者の協力を得る
4. 敵の士気をくじく

そして、それらプロパガンダの目的を達成するために、宣伝戦略を以下の3つのカテゴリーに分類した。

1. 戦略的な宣伝:ラジオとチラシを用い敵国家の国内家庭を対象。
2.戦術的な宣伝: 戦場で主に敵の軍隊を対象に大量のチラシを撒く。
3. 占領政策または教育宣伝:敵が支配していた地域を対象に「敵の毒にさらされていた」市民に新たな世論をつくることを、全てのメディアを駆使して目指す。


アメリカ合衆国政府は1941年の日本軍の真珠湾攻撃まで、国民に対して戦争には関わらないと約束をしていた。

しかし、その言葉の陰で、ハリウッド映画界に対してプロパガンダを求めていたのである。
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米国はローズヴェルト大統領(写真)が、欧州戦争には参戦しないとする公約を掲げ当選していたが「真珠湾攻撃」により、世論の参戦論が高まり第二次世界大戦に突入することになる。

その実、ローズヴェルト政権は欧州のナチス・ドイツの勢力拡大に危機感を感じ、参戦の口実を求め続けていたというのが実態だった。

つまり公約の手前、米政府のプロパガンダは、ナチス・ドイツのように明示的ではなく、秘匿性を持ってハリウッド映画作品に埋め込まれていたのである。

その主張は密かで精緻に作品に埋め込まれており、一見するとそうとは知れないほど洗練されているだけに、観客の無意識に作用する恐怖を感じる。

ラスウェルのプロパガンダ研究はアメリカ合衆国政府に引き継がれ、戦争心理を研究するための宣伝分析研究所が、1937年に設立された。
そして研究所は、その戦意高揚の宣伝テクニックに関して、以下の7項目に要約した。
1. 名前付け(Namecalling):確かな証拠を見せず、観衆にそれを非難させ、間違ったレッテルを与えるよう誘導する事。攻撃対象をネガティブなイメージと結びつける(恐怖に訴える論証)。
2. 華麗な言葉による普遍化 (Glittering Generalit):観衆に何らかの証拠を見せることなく、普遍性や道徳的と考えられている言葉と結びつける「巧言」を用いて、許容させること。
3. 転移(Transfer):何かの威信や非難を別のものに転移し象徴する。たとえば愛国心を表す感情的な転移対象として国旗を掲げる。
4. 推薦文(Testimonial):「信憑性がある」とされる人に語らせることで、自らの主張に説得性を高めようとする(権威に訴える論証)。
5. 平凡な民衆(Plain Folk):ある話者と、彼の考えが「一般民衆」のものであると観衆に信じさせること。その考えのメリットを、民衆のメリットと結びつける。
6. イカサマカード(Card Stacking): 自らの主張に都合のいい事柄を強調し、都合の悪い事柄を隠蔽、または捏造だと強調する。
7. パレード牽引車(Bandwagon): その事柄が世の中の趨勢であるように宣伝する。人間は本能的に集団から疎外されることを恐れる性質があり、自らの主張が世の中の趨勢であると錯覚させることで引きつけることが出来る。(衆人に訴える論証)

米政府は宣伝分析研究所の分析を受け、プロパガンダ映画の重要性を知り積極的に活用する方針を取った。
具体的には1939年当時よりハリウッドと映画産業に対し、戦意高揚の効果を上げ得る作品内容を求める事に決めた。

具体的には、参戦前の1941年までは、ドイツに対する敵対心を煽り、孤立主義を脱するべきという世論を誘導するものであり、参戦後に撮られた映画は、邪悪な枢軸国と戦う米軍を称賛するメッセージが表現される事を期待された。

その参戦前後の期間を通じて、「善いアメリカ人と悪いドイツ人」または「戦争継続に対する努力を称揚する」という2つのメッセージを表現することを、映画製作者に求めたのだった。

ハリウッドと軍の関係は良好で、大手スタジオは軍の情報将校に撮影技術を訓練し、またスタジオ契約下のスターを戦地慰問に赴かせた。

更に米政府は開戦後の1942年には「戦争情報局 ( the Office of War Information=OWT)」を設立し、映画製作の指針を策定し、映画産業を管理した。

OWIは映画スタジオに対し戦意高揚のテーマを、彼らの映画の基礎におくよう推奨した。

そのテーマを以下の6項目にまとめた。
1. 戦争の件:なぜ我々は戦わなければならないのか、そして、アメリカ流の生き方とは何か
2. 敵の性格:敵のイデオロギー、目的と方法
3. 同盟国:信頼と友情
4. 産業戦線:勝利のための物資供給
5. 前線の人間の仕事を含む 戦闘部隊
6. 国内戦線:犠牲と一般人の責任

上の主張を最低でも一つ、出来れば複数使うことをOWIは推奨し、求めている。

更にはOWIはあらゆる映画が、戦争に潜在的に関連しているとして、すべての映画製作者に以下の7つの問題を考慮に入れるよう依頼した。
1. その映画が戦争の勝利の助けとなるか?
2. 何かの戦時情報問題を明らかにしているか?
3. もしそれが”抜け道”映画であれば、アメリカ、その同盟国、又は我々の世界の像に間違った虚偽を生み、戦争努力を損なっていないか?
4. それは主に戦争を有益な映画の基礎として使用しているか?
5. それは世界の紛争に関し我々の理解に何か新しい貢献をするか?
6. 映画がスクリーン上で最大限上映回数を増やしても、観客から興味を喪われないか?
7. その映画は、今日の若者に、彼らがプロパガンダによって欺かれたと言う理由ではなく、真実または決意を告げているか?
その上で、映画が優れたプロパガンダのメッセージをなぜ発信できるのかを知ることが重要として、映画各要素、脚本、演出、カメラワーク、演技に関して分析を行った。
結論として、映画はプロパガンダの効果を最も高めるメディアと成り得るので、その映画構成要素をプロパガンダ表現に向けて効率的に構築するよう、映画界に求めたのである。

そして、ハリウッド映画界は、ナチスドイツの宣伝大臣ゲッベルスが 羨むほどのプロパガンダ映画を生み出した。
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そして、そのプロパガンダ映画が持つ表現技術は、ハリウッド映画界の表現技術のレガシーとして、現代ハリウッド映画の映画文法として引き継がれた。
その反面ハリウッド映画界は、戦後に至っても政府の規制から逃れられず、それは個々の作品にも見られる。
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それらの、政府の規制に積極的に協力する姿勢が、その後の「赤狩り」やハリウッド映画界の失墜を呼んだというのは、飛躍しすぎだろうか・・・・
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映画『風と共に去りぬ』考察

アメリカ政府とプロパガンダ映画

アメリカのプロパガンダ政策を上にまとめたが、個人的には驚きを覚えた。

1939年当時はアメリカ政府は戦争不介入を宣言しており、それらプロパガンダが現れるのは1941年制作の『ミニヴァー夫人』からだと個人的には考えていたからだ。

実際ハリウッド映画界は、1939年制作のチャップリンの『独裁者』に対して、あまりにドイツに対して敵対的だとして、ハリウッド映画界ではドイツマーケットを意識して、公開を止めようとすらしていた。(公開できたのは、チャップリンが自費で映画を製作したからだった)
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しかし、この『風と共に去りぬ』を見てみると、戦争と家を守る女性というメッセージが、どうにもプロパガンダの匂いを感じ、改めて米国のプロパガンダ政策を調べて、制作時にその存在があったと知ったのだった。

この『風と共に去りぬ』は、米政府の戦争突入を見越したプロパガンダテーマを映画界に求め、ハリウッド・スタジオもそれに応じていた証拠として挙げるべきだろう。

また同時に『独裁者』で分かるように、ハリウッド映画界は商業的な利益を重視し、ドイツマーケットを喪わないよう、あからさまな反ドイツのメッセージを発することを躊躇していたのである。

そんな曖昧なハリウッドの方針は『風と共に去りぬ』の、プロパガンダ表現をどこか曖昧な表現にとどめているだろう。

その違いは、例えば『カサブランカ』の反ナチスの直截さと比べれば明らかだ。
関連レビュー:明快なプロパガンダ
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この脚本は何でこんなにメチャクチャなのか?

しかし逆に、アメリカ政府のプロパガンダ政策の徹底の下、密かに埋め込まれたプロパガンダこそ、人々を知らず知らずのうちに誘導してしまう恐ろしさを感じるのである。

例えば、「アメリカ同時多発テロ」当時の映画や、毎年作られ続けるユダヤ人のホロコースト映画に、どこか隠された意図を感じるのは私だけだろうか?
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posted by ヒラヒ at 15:00| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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