原題 Gone with the Wind 製作国 アメリカ 製作年 1939 上映時間 233分 監督 ヴィクター・フレミング 脚色 シドニー・ハワード 原作 マーガレット・ミッチェル |
評価:★★★★☆ 4.5
1939年の古典的超大作。
映画史に残る、ハリウッド映画を代表する作品であり、その表現力の高さは、100年を経過しようかという現在でも色あせていないと感じる。
しかし、旧弊な価値観を内包しているため、多くの批判にさらされている作品でもある。
それらの批判を下で解説し、更に映画にとっての「語られるもの(テーマ)」と「語る技(表現技術)」との関係を考察してみたい。
<目次> |
映画『風と共に去りぬ』簡単ストーリー |
1861年、アメリカ南北戦争の前夜、タラ農園の令嬢スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)は農園主の父ジェラルド・オハラ(トーマス・ミッチェル)と母エレン・オハラ(バーバラ・オニール)と2人の姉妹と、黒人の乳母マミー(ハティ・マクダニエル)や綿花農園に働く多くの奴隷とともに住んでいた。パーティ―で男たちを虜にし、楽しんでいるスカーレットだったが思いを寄せるアシュリー・ウィルクス(レスリー・ハワード)がいとこのメラニー・ハミルトン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)の結婚にショックを受けた。そのパーティーでは悪名高いレット・バトラー(クラーク・ゲイブル)と初めて会う。スカーレットはアシュリーとメラニーの結婚にショックを受け、衝動的にチャールズ(チャールズ・ハミルトン)と結婚をする。
しかし南北戦争がはじまると、夫チャールズは南北戦争で戦死し、戦争で南軍の敗色が濃くなると、戦火は南部の諸州を飲み込み、タラ農園は焼け野原と化し、母は死に、父は廃人となった。一方のレットは南軍の英雄となり、スカーレットの危機を、何度も救っていた。戦争が終わり、スカーレットには荒廃したタラ農園と、家族、そして思いを寄せるアシュリーを含めて、養っていく義務が課された。スカーレットは雄々しく運命に立ち向かい、重税を払うため再び資産家の夫と結婚したが、その夫にも先立たれてしまう。そんなスカーレットにレットが求婚し、優雅な新婚生活を送り愛娘も生まれた。しかし、スカーレットの心にはアシュリーがおり、それがレットの嫉妬を搔き立てるのだった。そして悲劇が起きる・・・・・・・
映画『風と共に去りぬ』予告 |
映画『風と共に去りぬ』出演者 |
ヴィヴィアン・リー(スカーレット・オハラ)/クラーク・ゲイブル(レット・バトラー)/レスリー・ハワード(アシュリイ・ウィルクス)/オリヴィア・デ・ハヴィランド(メラニー・ハミルトン)/トーマス・ミッチェル(ジェラルド・オハラ)/バーバラ・オニール(エレン・オハラ)/ハティ・マクダニエル(マミー)/ボニー・バトラー(カミー・キング)/ジェーン・ダーウェル(ドーリー)/ウォード・ボンド(トム)/ランド・ブルックス(チャールズ・ハミルトン)
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映画『風と共に去りぬ』感想 |
1929年の世界恐慌の経済的危機から始まり、日本を含めた世界は、異常気象による作物の大凶作で飢饉にも見舞われ、最悪な経済状況下で大勢の餓死者が出るという悲惨な状況だった。
例えばこの時期、日本の東北農家では娘を売ったり嬰児を間びく事態となり、ウクライナではソ連のスターリン書記長の強引な収奪によってホロドモール(大量飢餓)が引き起こされ、数十万人が餓死したとされる、そんな時代だった。
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そんな1939年に、この映画が作られたことを考えれば、これは偉業だと言う他に言葉が見つからない。
4時間(233分)にも及ぶ超大作だが、その4時間で抜けたところがないのも凄い。
導入部のパーティーから、前半の戦争シーンにおけるスペクタクル溢れる映像が、CGのない時代でありながら、現代映画に見劣りしない迫力で撮られているのである。
CGに較べれば、実際に街が燃え落ちるシーンも一発勝負で撮影されて、その生々しい緊迫感は実写ならではの迫力で見るものを圧倒する。
この町が燃え落ちる場面は、この映画を代表するシーンとして、よく取り上げられる。
しかし、それ以上に圧倒されたのが、南軍傷病兵が延々地平線まで横たわるような野戦病院のシーンである。
<アトランタ駅の傷病兵>
いったい何人のエキストラを使ったのだろう?
後年の『クレオパトラ』の人海戦術もすごいが、このシーンだって決して負けていない。
<『クレオパトラ』予告>
後半に入ると、前半のスペクタクルから、女性の自立というような内面的テーマに移っていくのだが、事件の発生や、人物の出し入れなど、脚本が見事で、ストーリー展開として起伏に富み、最後まで観客を引き込む。
ここで語られる、崩壊し消え去っていく「南部=ノスタルジー」が、その映像の細部まで濃密に描写されていると思える。
この映画のアメリカ南部は、華麗で重厚で、美しく描かれている。
それは、イタリア貴族出身の映画監督ルキノ・ビスコンティの『ルードウィッヒ・神々の黄昏』の全て本物の美術品を使ったと言われる豪奢な映像に比べても、ハリウッドのセットで撮ったにもかかわらず見劣りしない。
この映画の南部の美しさとは、「郷愁=ノスタルジー」という香水がふんだんに振りかけられているせいかとも感じる。
考えてみれば『ルードウィッヒ・神々の黄昏』も、失われた欧州貴族の残照を描いたものだった。
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この映画が今は喪われた「南部」を描いた映画なのだとしたら、その「思い出=ノスタルジー」が美しければ美しいほど、その喪失が深ければ深いほど、その映画を甘美な郷愁で満たすのかも知れない。
そう考えれば、そのノスタルジーは、かつて娯楽の王様だった映画が斜陽を迎え、力を失って行った時、映画の黄金期をを懐かしんだ『ニュー・シネマ・パラダイス』と同じ物語構造を有しているように思う。
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しかし、そのノスタルジーが美しく輝くのは、その栄光が強く刻み込まれ、しかし決して取り戻せない事を知っているからに違いない。
光り輝く過去の記憶と、漆黒の現在に絶望し、人は過去を夢見るのだろう。
この映画はそういう意味で、かつて繁栄を謳歌した者たちが、その地位を脅かされる恐怖の分だけ、よりノスタルジックな南部賛歌となったのかと思う。
しかし、南部の大農園で繰り広げられたのが、人種差別と非人道的な搾取だとする認識がスタンダードとなった今、その「ノスタルジー=南部の歴史の肯定」は決して美しく描かれてはいけないテーマなのである・・・・・・・
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映画『風と共に去りぬ』解説アメリカ南部というタブー |
例えば、アメリカ西部開拓は悪いインディアンを倒し、正義を広げた偉大な時代だったという内容ならどうだろう?
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つまり、現代から見て「悪」とみなされた観念が、ある時代においては「正義」だとされていた例は、歴史上多くの事実が語るところである。
この映画『風と共に去りぬ』の最大の汚点は、現代からみて到底許し得ない、黒人奴隷制度を基礎として成し遂げられた「南部の大農園」を、美しく良い時代として描いてしまったことにある。
しかし、1939年という時代は、とくに南部において、人種差別を当然と見なすか、もしくは問題視しないのがアメリカ社会の反応だった。
人種により優劣があり優れた人種は劣った人種の支配者となるのが当然という価値観は、「WASP=白人、アングロサクソン、プロテスタント」に代表されるアメリカのマジョリティーにとっては常識だったのである。
そんな「優生学的な人種差別観」は、欧州世界のアフリカ・アジアの植民地政策の根源にあるものでもある。
優生学(ゆうせいがく、英: eugenics)とその優生思想は、進化論と遺伝学を人間に当てはめ、集団の遺伝的な質を向上させることを目的とした一連の信念と実践である。歴史的には劣等と判断された人々や集団を排除したり、優秀と判断された人々を保護することによって行われてきた。(Wikipediaより)
そんな南部の持つ古い価値観を賛美するのは、戦後の映画にも見られるもので『地上より永遠に』も、その主人公は南部の価値観を持つ硬骨漢として、好意的に描かれていた。
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実際、1960年代の公民権運動の高まりまで、アメリカ合衆国内では黒人達マイノリティーの人権は不当に奪われており、それに反対する進歩的機白人の声は、決して大きなものではなかった。
その黒人の人権擁護を訴えた映画には『招かれざる客』や、『アラバマ物語』などがあり、60年代に入ってようやく公民権運動が広く語られるようになって来たたことが分かる。
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しかし、その時代ですら、南部諸州では軍隊が出動するほど激しい抵抗が、WASP層から出ていたのである。
その60年代から20年も前の時代に、製作されたこの映画は、原作者ミッチェルの南部愛が横溢している小説を忠実に再現しており、そのテーマに違和感を覚える者は当時としてはまれだったのである。
そこには南北戦争前の「南部大農園」の生活が、善良で従順な黒人奴隷によって、そのご主人様と共に調和し幸福に暮らしていたと描写されている。
この美しき懐古は、その地に君臨した「ご主人様=wasp」にとっては、間違いなく真実だったろう。
しかし、奴隷として使役された黒人側の観点が、その搾取と虐待の歴史が、見事に抜け落ちているのである。
それゆえ、この映画は、インディアンにとっての「西部劇」同様、黒人にとっての屈辱を刻み込んだ作品だと指摘されるようになった。
それは実はハリウッド映画界が培ってきた、白人層に訴えるための、伝統的な手法だったと言うべきかもしれない。
DWグリフィスの『國民の創生』(1915年)、ディズニーの『南部の唄』(1946年)などの映画は、南北戦争以前の美しい南部を描いたが、そこには、黒人に対する奴隷制、人種差別、暴力の正当化があった。
<『南部の唄』予告>
1960年代以前のアメリカ社会にあっては、南部の讃美、人種差別に対して、一部の良識派を除き、無関心だったのである。
この、豪華絢爛な『風と共に去りぬ』という一大ページェントは、そんな歴史認識の苦みを、克明に刻んだ作品になってしまった。
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映画『風と共に去りぬ』解説映画表現技術と反社会的テーマ |
そのため、現代の公序良俗のモラル規範に合わせ、断罪されることとなった。
しかし、本作の「映画表現技術=語る技」は、脚本、演出、演技、編集、撮影、美術、などの各要素は非常に高いレベルにあり、当時のハリウッド映画界の完成度の高さを感じる。
つまりは、映画表現としては高い次元にありながら、その表現技術で反社会的テーマを語ってしまった点が問題なのである。
しかし、例えば第二次世界大戦中に各国で撮られた戦意高揚映画を考えれば、自国の戦争の勝利を国民に訴えるということの是非は(戦争自体を全否定する立場に立たない限り)議論の分かれる所だろう。
結局、ある表現物は、時代の常識から無縁ではいられない。
その時代に正義とされた価値観に基づいて、誠実に製作しても、歴史がそれを否定する危険性は常に存在する。
それゆえ、映画を評価するときに、その「表現技術=語る技術」と「表現テーマ=語られる物」を切り離して考えるべきなのだと考えたりする。
例えば、レニ・リヒテンシュタール監督の『意思の勝利』は、ナチス・ドイツのプロパガンダ映画だが、そのドキュメンタリー表現の革新性を評価しないわけにはいかない。
<『意思の勝利』予告>
『意志の勝利』(いしのしょうり、ドイツ語: Triumph des Willens)は、1934年にレニ・リーフェンシュタール監督によって製作された記録映画。同年に行われた国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP, ナチ党)の第6回全国党大会の様子が記録されている。リーフェンシュタール監督は撮影・編集にあたっていくつもの独創的な技法を考案した。たとえばヒトラーの演説のシーンでは半円形に敷いたレールの上に置いたカメラでヒトラーを追い、様々なアングルから同じ被写体を捉えながらも見る者を飽きさせずに高揚させることに成功している。(Wikipediaより)
芸術家という鋭敏な感性を持った存在が、時代感を敏感に捕らえ、その作品に反映してしまうことは、むしろその作家の卓越した能力の表れだとも感じる。
そういう事を考慮すれば、その時代において是とされる表現内容を持っていると認められるのであれば、その作品のテーマを非難すべきではないだろう。
もちろん、制作年代においても否定されるべきテーマを、美しく書いてしまう例もあり、それに関しては製作者に悪意があるのか、もしくは製作者の表現方法のエラーと見なすべきであって、いずれにしてもその作品は糾弾されても致し方ない。
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しかし、そのテーマがどれほどグロテスクであろうとも、そこに作者側の悪意やミスが介在していないのであれば、飽くまで、その映画表現技術としての評価を客観視する事こそ、時代を隔てた鑑賞者としての正しい態度であろう。
それならば、この映画をなぜ満点にしなかったかと言えば、この映画のヒロイン、スカーレットがあまりにワガママで愚かで、共感しがたかったからである・・・・・・
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