原題The English Patient 製作国 アメリカ 製作年 1996 上映時間 162分 監督 アンソニー・ミンゲラ 脚本 アンソニー・ミンゲラ 原作 マイケル・オンダーチェ |
評価:★★★☆ 3.5点
第二次世界大戦前夜、サハラ砂漠で出会った、国籍も地位も違う2人の男女。
その2人の間に生じた強い愛は、戦争によって無残に断ち切られる・・・・・
この映画は古典的な恋愛ドラマが主筋ではあるが、その背景には戦争によって分断されていく、個人の想いが語られている。

<目次> |

映画『イングリッシュ・ペイシェント』ネタばれなし・あらすじ |
第二次世界大戦中のサハラ砂漠。広大な砂漠の上を飛ぶ複葉機、ドイツ軍の防空網に捕えられ撃墜され、操縦席にいたンガリーの伯爵ラズロ・アルマシー(レイフ・ファインズ)は全身やけどを負い、カナダ軍の野戦病院に収容された。アルマシーは記憶喪失だったため、「英国人患者=イングリッシュ・ペイシェント」と呼ばれ、フランス系カナダ人看護婦ハナ(ジュリエット・ビノシュ) の看護を受けた。看護婦ハナは恋人を戦争で失う過去を持ち、戦火で崩れた修道院で、重態となったアルマシーの看護をすると決め、二人の生活が始まった。そこに、 アルマシーを仇と狙うカナダの工作員デヴィッド・カラヴァッジョ(ウィレム・デフォー) が現れ、アルマシーの記憶を呼び覚まし始める。
アルマシーは、サハラ調査隊・国際サンド・クラブの一員として、彼の親友である英国人ピーター・マドックス(ジュリアン・ワダム) と地図製作に携わっていた。そこでジェフリー・クリフトン(コリン・ファース) と、その妻キャサリン(クリスティン・スコット・トーマス) と出会い、 アルマシーの運命は大きく変わることになる・・・・


映画『イングリッシュ・ペイシェント』予告 |
映画『イングリッシュ・ペイシェント』出演者 |
ラズロ・アルマシー(レイフ・ファインズ) /キャサリン・クリフトン(クリスティン・スコット・トーマス) /ハナ(ジュリエット・ビノシュ) /デヴィッド・カラヴァッジョ(ウィレム・デフォー) /キップ(ナヴィーン・アンドリュース) /ジェフリー・クリフトン(コリン・ファース) /ピーター・マドックス(ジュリアン・ワダム) /ミュラー少佐(ユルゲン・プロホノフ) /ハーディ軍曹(ケヴィン・ウェイトリー) /ダゴスティーノ(ニーノ・カステルヌオーヴォ) /フアド(ヒシャーム・ロストム) /オリバー(ジョーディ・ジョンソン) /メリー(トーリ・ヒギンソン) /ジャン(リーサ7・レポ=マーテル) /ルパート・ダグラス(レイモンド・クルサード) /アイチャ(リム・ターキ) /ハンプトン夫人(アマンダ・ウォーカー)

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映画『イングリッシュ・ペイシェント』感想 |
エキゾチックなアフリカの大地を背景に、大人の恋愛を描き、その恋が第二次世界大戦という悲運に見舞われ、翻弄される悲恋を丹念に描いている。
この物語の背景には、戦争によって人々の「想い」が分断される現実があり、それは反戦テーマとして見るべきだと感じる。
映像もきれいで、長い作品ながら、脚本の巧みさもあり最後まで見せる力は十分にある。
考えてみれば、アフリカという「異国情緒」の中で繰り広げられる恋は、数多くの恋愛映画を生み出して生きた。
たとえば、1930年の大ヒット恋愛劇『モロッコ』は、「恋こそ人生」という自由恋愛の象徴のような映画だった。
関連レビュー:砂漠に賭けた恋 『モロッコ』 マレーネ・デートリッヒとゲーリー・クーパーの大ヒット映画 1930年ハリウッドの恋愛映画の古典 |
更には1942年の古典映画『カサブランカ』は、イングリッド・バーグマンとハンフリー・ボガードのこれぞハリウッド恋愛映画という一本だ。
アメリカ映画:1942年 映画『カサブランカ』 映画史に輝くハリウッドスターの古典的作品! この脚本は何でこんなにメチャクチャなのか? |
またハンフリー・ボガードだと、アフリカオール・ロケの『アフリカの女王』という、恋愛アクション映画もあった。
アメリカ映画:1951年 『アフリカの女王』 1951年のハリウッドの大ヒット映画の再現ストーリー アフリカを舞台にカ ップルの冒険を痛快に描く |
また、『ラスト・エンペラー』のベルナルド・ベルトッチ監督も『シェルタリング・スカイ』という、砂漠を行くカップルの物語を描いた。
イギリス映画:1990年 映画『シェルタリング・スカイ』 西洋と東洋の出会う砂漠の蜃気楼 美しい砂漠と混乱したストーリーの関係とは? |
こう見てくると、「異国情緒=エキゾチズム」と恋愛劇は、昔から強い相乗効果を発揮してきたのかとも思う。
しかしである、個人的な感想を言えば、この『イングリッシュ・ペイシェント』にはそこまで深い感動を覚えなかった。
その理由を掴みかね、さまざまに考えてみたのだが、どうやら二つの点で高い評価を付けられなかったようだ。
一つは「現代の恋愛劇」の困難さであり、もう一つはこの映画に「反戦テーマ」が、真に相応しかったのかという点だった。
その2点に関して以下の文章で語らせて頂きたい。

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映画『イングリッシュ・ペイシェント』解説恋愛劇と映画 |
恋愛映画はハリウッド映画のドル箱ジャンルであり、それは映画の歴史とともに有ったと言っていい。
例えば、1927年のサイレント映画『第七天国』は、貧しい男女が自由恋愛によって相互の価値を生み、ついに奇跡を生む物語だった。
関連レビュー:恋愛映画とハリウッド 『第七天国 』 ボーイミーツガールの恋愛天国!! 『ラ・ラ・ランド』監督もラストを参考にした古典! |
かつてのハリウッドの恋愛劇は、何らかの要因によって、自由恋愛ができない恋人たちが、その状況の中で愛を貫くハッピーエンドか、仲を裂かれる悲恋となる物語だった。
そもそも古典的なラブストーリーの筋立ては、『ロミオとジュリエット』の昔から、愛し合う二人が、個人の力ではいかんともしがたい運命によって、その恋を邪魔されるものと相場が決まっている。
<『ロミオとジュリエット』1968年予告>
それは、ドラマの盛り上がりとして、やすやすと成就する恋愛は、何らかの問題が生じて、それを乗り越えるというダイナミズムを秘めていないと共感を呼び難いのだろう。
なぜなら恋愛とはそもそも、他者を自らに取り込むために、激しい摩擦を経て、初めて「一体化=恋愛成就」するという、運動法則を持っているからであり、その点を強調するためには「恋愛阻害要因」が必要とされるのだと考えたりする。
さらに言えば、ドラマとしての訴求力は、大きな力が拮抗するストレスが解消される時カタルシスを迎えるという図式からして、恋愛劇をいかに効率よく表現するかという事を考えた場合、導き出される必然でもあるだろう。
例えば、恋愛ドラマとして大ヒットした『タイタニック』であれば、二人を引き裂く「恋愛阻害要因」は船の沈没という悲運だった。
アメリカ映画:1997年 『タイタニック』 世界一の興行収入記録を打ち建てた大ヒット作 レオナルド・デカプリオとケイト・ウィンスレットの恋愛劇 |
そして、この映画『イングリッシュ・ペイシェント』で描かれた二人を引き裂く運命の正体は「戦争」である。
それは前に述べた、真に愛し合うものが、「運命=外部」の邪魔によって愛を妨げられるストレスと、それを超えることで(もしくは超えられない事)でカタルシスを生む古典的な恋愛映画の構造に則ったものだ。
その「古典的恋愛劇」が、かくも人々に愛され、その共感を呼んできたのは、現実世界に間違いなく、自由恋愛を阻害する制度なり環境が、過去の世界にあまねく社会に存在していたがゆえに、そのスクリーンでのドラマは恋人たちの夢として輝いたのである。
しかし、この「運命=外敵な 阻害要因」自体が、現代では減少する傾向にあることは間違いなく、例えば先進国であれば「親の許し」は必須要素ではないし、経済的障壁も、階級制度や人種的偏見などの社会的な因習も、すでに過去の遺物に近いとすら感じる。
そんな外的恋愛阻害要因は、戦争や社会的な混乱、天然災害などが、現代に残されたものであり、その点、この映画が戦争によって分断された恋人を描いたのは、例えば第二次世界大戦後も何らかの形で紛争や戦争に関与してきたアメリカ合衆国の映画であれば、それなりにリアリティーを感じ得るのかとも思う。
実際、映画の発表年代を考えれば、1997年ごろとはアメリカがイラクに侵攻した、二回に渡る湾岸戦争の間に撮られている。
しかしそんな外的要因にせよ、現代社会において恋愛の自由を謳歌できる環境にあるという事実が、古典的恋愛ドラマの訴求力を弱めていると思わざるを得ない。
更に言えば、かつて信じられていた「自由恋愛=恋愛結婚=幸福な結婚」という公式はが絶対ではないと、人々は多くの離婚事例で知ってしまった現在であれば、「恋愛ドラマ」がどれほど人々の心を打ち得るかと考えたりする・・・・・
関連レビュー:現代の恋愛事情のリアル! 『そんな彼なら捨てちゃえば』 豪華キャストの男子禁制ガールズ・トーク映画! 男の本音と女の勘違いを描いたロマンティック・コメディ! |
正直に言えば、現代で古典的恋愛劇は、旬の若いスター性のある男女が演じる以外成立しがたいのではないかと思う。
現代であれば、30代ですら恋愛の経験値が高く、恋愛への幻想を抱きがたいのが実情である。
そうなれば、恋愛に夢を持ち、そこに全身全霊で突進するというのは、10代の初恋に近い者達だけが可能な特権であり、彼らであれば「恋愛ドラマ」はリアリティーを持ち、共感し得るだろう。
その点で『タイタニック』はレオナルド・デカプリオとケイト・ウィンスレットの若さの勝利だったと思える。
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しかし、この『イングリッシュ・ペイシェント』に関しては、中年近い男女が「古典的恋愛劇」を演じても、もちろん時代背景や、主人公が恋に奥手であるなど、言い訳をつけてはいるものの、どこか説得力に欠けた。
この不倫の恋の描写は、たとえば『マディソン郡の橋』の表現に較べれば、その深さ強さ、切なさのリアリティーが響かなかった。
アメリカ映画:1995年 映画『マディソン郡の橋』 クリントイーストウッド監督の切ない不倫劇 メリルストリープ主演の永遠の「恋」 |
その点について、さらに言えば、この映画は本来「恋愛ドラマ」として、語られるべきだったのかという疑問も感じる。
その点に関して、下の文章で考察してみたい。

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映画『イングリッシュ・ペイシェント』考察映画のテーマとドラマ様式 |

しかし、細かくその内容を見てみれば、この映画の主人公とヒロインは、国際サンドクラブという多国籍の調査隊で出会い、国境線など引かれていない、どこまでも続く砂漠で愛を育んだ。
しかし、二人の愛は、結婚という社会制度によって、更には国家のエゴの果てに勃発した戦争が、個人を国家に従属させ、その自由を奪おうとしたことで、自由恋愛の道を閉ざされたのだと見える。
その戦争によって分断される人々の関係性は、この映画のそこかしこに埋め込まれている。
例えば看護婦ハナとインド人軍人の恋愛や、インド人軍人とイギリス人下士官との友情、カナダ人工作員カラバッジョとイタリア娘、サンドクラブのヨーロッパ人男性と現地人男性の関係など、人種や、宗教、国籍を超えた、人のつながりが描かれるのだ。
そして、それらの関係が、戦争によって断ち切られ、戦争終結後に、再び結ばれるであろう予兆が描かれている。
こう見てくれば、この映画が語ったテーマとは、その物語構造から「愛を分断する戦争の悲劇」であり、つまるところ、反戦映画として描かれているのだと感じた。
ヒロインの書き残した言葉に、その事実が明確に示されている。
「人は誰でもひとつの国、国が引いた国境も、権力者の意向も関係ない」
実に、しっかりと反戦を謳っている映画なのである。
しかし個人的には、その反戦の基礎設計が、あまりにしっかりしているものだから、逆に恋愛映画としてみたとき、その反戦の主張が、恋愛に感情移入させ難くしていると感じられた。
個人的には、反戦メッセージと、恋愛ドラマの、どちらを軸に見るべきか迷ってしまい、上手く映画に乗り切れなかった。
反戦をメインに語るのであれば、この映画の戦火による人々の分断の悲劇の主張は、この恋愛を介することで弱めてしまったと感じる。
反戦を語るなら、例えばスピルバーグ監督『戦火の馬』のように、人と動物という純粋な繋がりとして描いた方が、明確に戦争が壊す関係性を語りえたと思う。
関連レビュー:スピルバーグ監督の反戦映画 映画『戦火の馬』 第一次世界大戦を駆け抜けた軍馬を描く感動作 「現実世界の物語」と「おとぎ話」の融合とは? |
つまり、この映画は映画の基礎設計が反戦映画でありながら、反戦テーマを強く訴えるわけではなく、恋愛ドラマとして見ても、現代の恋愛映画の弱体化もあり、強くお互いを求める恋ではなく「大人の恋愛」として語られている分、その弱い反戦テーマすら邪魔になって見えたのだろう。
あくまで、個人的な鑑賞感ではあるが、自らの気持ちに正直に評価すれば、その構成力の見事さを評価しつつも、この映画の評価は標準作を多少上回る★3.5となった。

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