The Exorcist 製作国 アメリカ 製作年 1973年 上映時間 122分 監督 ウィリアム・フリードキン 脚本 ウィリアム・ピーター・ブラッティ 原作 ウィリアム・ピーター・ブラッディ 製作 ロバート・ロッセン |
評価:★★★★ 4.0点
この映画はそのホラー描写が、革新的で、扇情的な表現によって、賛否両論を巻き起こしながらも、大ヒットを記録した。
しかし、この映画は、単にオカルト的なビジュアルのインパクトのみではなく、大げさに言えば「パラダイム・シフト=世界観の変革」を語った映画だと感じる。
そんなこの映画の持つ、多面的な側面を語ってみたい。
<目次> |
映画『エクソシスト』簡単あらすじ |
イラクの古代遺跡、カトリックの神学者で考古学者でもあるメリン神父(マックス・フォン・シドー)が悪霊バスズの像を発見する所から始まる。アメリカ合衆国ワシントン、女優クリス(エレン・バースタイン)は屋根裏で響くラップ現象に悩まされていた。、その家の怪異は、クリスの12歳の娘リーガン(リンダ・ブレア)にも現れ、クリスが開催したパーティの夜、リーガンは夢遊病に浮かされたように、客の1人に暴言を吐き、そのまま失禁した。その数日後には、リーガンの叫び声と共に彼女の寝たベッドが上下に跳ね動いていた。リーガンを医師に託したが、検査を重ねてもリーガンの異常は見つからず、脳外科から精神科医に変わっても、リーガンに邪悪な罵声を浴びせられる始末だった。そんな時、映画監督のバーク・デニングス(ジャック・マッゴーラン)がクリス邸近く、首が背中を向く状態で死んだ。キンダーマン警部(リー・J・コッブ)がクリスとリーガンに疑いを持つ。その頃にはリーガンの容貌も様変わりし、邪悪な笑いを浮かべ、神を冒涜し、卑猥な言葉を吐き出すようになっていた。クリスは最後の希望を、カトリック教会のカラス神父(ジェイソン・ミラー)に求めた。カラス神父はメリン神父を呼び寄せ“悪魔払いの儀式”に臨む―
映画『エクソシスト』予告 |
映画『エクソシスト』出演者 |
リーガン・マクニール(リンダ・ブレア)/クリス・マクニール(エレン・バースティン)/デミアン・カラス神父(ジェイソン・ミラー)/ランカスター・メリン神父(マックス・フォン・シドー)/キンダーマン警部(リー・J・コッブ)/ジョセフ・“ジョー”・ダイアー神父(ウィリアム・オマリー)/シャロン・スペンサー(キティ・ウィン)/バーク・デニングズ(ジャック・マッゴーラン)/サミュエル・クライン医師(バートン・ヘイマン)/カール(ルドルフ・シュンドラー)/ウィリー(ジーナ・ペトルーシュカ)/タニー医師(ロバート・シモンズ)/チャック(ロン・フェーバー)/メアリー・カラス(バシリキ・マリアロス)/悪魔の声(マーセデス・マッケンブリッジ)
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映画『エクソシスト』感想 |
質問の意味が分からず、何度か問答を繰り返したところ、どうやらキリスト教徒にとって「幽霊=ゴースト」は恐くないモノなのだと、ようやく理解できた。
幽霊が怖くないのであれば、それでは恐ろしいものは何だと訊ねたところ、「デビル=悪魔」が一番の恐怖なのだという。
そういえば、外国で「幽霊屋敷」が観光スポットになって、野次馬が遊びに来るとTVで見た気がする。
逆に日本のイメージでいえば、悪魔はどこかお茶目で憎めないキャラクターで描かれたりすると言うと、その眼に憤りが見えた。
この外人が、飛びぬけて敬虔なクリスチャンなのかどうかは分からないが、やはり文化的な刷り込みとして、西洋キリスト文明で育った者は「悪魔」を心底恐れるらしい・・・・・・・・
そして無神論者の多い日本と違い、キリスト教文明圏では、宗教はまだまだ根強く人々の心を占めている。
実際アメリカでは、ダーウィンの進化論を神の教えと違うとして、多くの州で教えていないという。
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また現代でも、その宗教心を謳った物語は、たとえば映画を見ても、数々の作品となって登場してくる。
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そんなことで、「ゴーストバスターズ」がギャグ映画になって、この悪魔映画が心底恐ろしい恐怖映画となるのは、文化的な背景も有るという事だった。
そう考えれば、日本人にこの映画の恐さは、真に伝わらないのだとも思う。
たぶん、この映画を見て感じた日本人の恐怖を10倍ぐらいして、更に自分が自分ではない何者かになる恐怖と、世界が地獄に飲み込まれるというノストラダムス的な世界崩壊を想像すれば、少しは近いかもしれない・・・・・・・・
凄まじい衝撃なのだろうと、無神論者としては想像するのみである。
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映画『エクソシスト』解説キワモノ映画の市民権 |
少女に悪魔が取付くという、オカルト現象を、リアルに生々しく、映画史上で初めて映像として表現することに成功したと言えるだろう。
そのリアリティーに満ちた恐怖は、老人が死んだとか、ショックで失神者が出たなどの噂によってますます、人々の興味を掻き立てて大ヒットに結び付いた。
この作品の本質は人間の「恐いもの見たさ」の欲望を刺激し満たす事であり、それは吸血鬼やフランケンシュタインの時代から変わらない、映画のドル箱「ホラー」ジャンルの新機軸だった。
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しかし、従来のホラー映画とは「ゴシック・ホラー」の文法に則り、恐怖の対象を隠蔽することによって恐怖を生んでいた。
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しかし、この『エクソシスト』は恐怖の対象や、超常現象を、明示した点で、新たなホラーのデザインとして記憶されるべきだろう。
この映画の前のヒットは、これも革命的「ホラー」の新デザインとして、1968年世界初のゾンビ映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』も生まれている。
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しかし『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が、チープでカルト的な「キワモノ映画」だったのに比べ、『エクソシスト』はその「キワモノ感」はそのままに、より資金をかけて、本格的に描いた点で、カルトファンを超えて一般社会に広くインパクトを与えたのだと思える。
そんなキワモノ的作品を、ハリウッド映画界は「エクスプロイテーション(キワモノ)映画」と呼んで来た。
エクスプロイテーション映画は、その時のトレンド、ニッチなジャンル、または変なコンテンツを悪用することによって経済的に成功しようとする映画。エクスプロイテーション映画は一般的に低品質の「B級映画」である。それらは時々批判的な注目とカルト信者を引き付けた。ナイトオブザリビングデッド(1968)など、これらの映画のいくつかはトレンドを設定し、歴史的に重要になった。(英語版wikipediaより)
実のところ、この『エクソシスト』のような、キワモノ感を核とした、ハリウッドメジャー映画戦略が1970年代の「ブロックバスター映画」の本質だったと言われている。
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アメリカ映画の歴史を整理すれば、第二次世界大戦後のアメリカ映画界はTVの登場で凋落し、その間隙を埋めたのは独立系小プロダクションの「キワモノ映画」だった。
ハリウッドの復活は、その『キワモノ映画』のコンセプトを、より資金を投じ、大規模な広告戦略をとる事で、莫大なり利益を生み成し遂げられたと言える。
その代表が、ギャングの暴力を重厚に描いた『ゴッド・ファーザー』であり、動物パニックを最新テクノロジーを駆使して描いた『ジョーズ』だった。
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その文脈に、この『エクソシスト』も見事に合致している。
初期の「ゾンビ映画」と同等以上のセンセーショナルなシーンが、嘘とは思えないリアリティーを持って、説得力のある俳優によって表現されていた。
結局のところ、ヴィジュアルが安っぽければ、「キワモノ好き」には喜ばれるものの、一般客は冷めた眼を送られてしまう。
それは現代でも、「オタク」が2次元世界に入れ込むのを、冷ややかに見る世間の人々という構図と同じだ。
つまり、1975年以前の特殊撮影技術によるホラーやSFは、一部の愛好家が喜んでいた「チープなキワモノ世界」だった。
それが市民権を獲得できたのは、とにもかくにも特殊効果(VFX、SFX、CG)によって、「リアルなヴィジュアル」が作り出せるようになったからなのだと思える。
それは1956年『禁断の惑星』と『スターウォーズ』、1933年の『キングコング』と『ジョーズ』を比べても明らかだ。
<『キングコング』予告>
つまり、それまで「キワモノ」扱いされ、一部の愛好家のマニアックな趣味は、現実と見分けがつかないレベルの映像を獲得した時、それは現実に起こり得るという実感を見る者に与え、広く遠く伝播されたのではないか。
それゆえ、一般の観客も、自らに生じ得る現実として、この「オカルト現象」を受け入れたに違いない。
<『エクソシスト』特殊効果>
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映画『エクソシスト』解説科学への懐疑 |
カラス神父は精神科医であり、メリン神父は考古学者だった。
特にカラス神父は、神父でありながら、悪魔が宿ったというリーガンの話に懐疑的だ。
リーガンの母より、「悪魔祓い」をどう思うかと問われ、タイムマシンに乗せて16世紀に送り戻すと答え、精神科医として対処しようと言う。
その言葉が意味するのは、神の世界に連なる霊的な世界の実在より、科学的な実証的(現実)世界がより確実な可能性として存在しているという判断である。
歴史的事実を紐解けば、科学と宗教とは競合関係にあり、どちらかが強まれば、どちらかが弱まる。
結局のところ、ガリレオ・ガリレイが地動説を唱えた昔から、神の真実、神の絶対は科学の挑戦を受け続け、その力を減じ続けて来て、近代にいたって決定的に科学に追い詰められていく。
例えば『英国王のスピーチ』で描かれた、イギリスの王権の揺らぎが、宗教心の脆弱さゆえに生じた典型的な例ではないかと考えたりする。
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この『エクソシスト』のカラス神父が示すのは、現代社会の共通観念が科学的知見にあることを示している。
それは、1973年当時の世界では神父であっても、宗教への信頼性、信仰の絶対より、問題解決の優先順位を科学に置くほど、「神の絶対」が弱体化していることを語っている。
しかし、その神父カラスは、リーガンとその中に存在する、紛れもない魔を認めた時点で、再び神を見い出すこととなった。
この映画は、現実世界に現れる「不条理」や「非理論的帰結」という、非科学的な現象・論理が間違いなく存在する事を、リーガンに憑依した悪霊により表しているだろう。
そして、それらの科学を超えた「超自然現象」に対処するには「宗教=絶対的信仰」に頼らざるを得ないと告げてもいるだろう。
そういう意味では、この映画は「科学万能主義」に対するアンチテーゼとして、存在するのである。
もう少し具体的に「科学万能主義」を述べれば、科学が世界を幸福にし、人類を救済し得るのではないかと、科学万能主義を信じた時代があったのだ。
それはアポロが月に行き、SFが最盛期を迎えた、1950〜1969年頃の世界の共通の希望だった。
科学の力によって、死は減少し、貧困は解消され、人類の居住圏は宇宙にまで拡大すると夢を見た。
その化学の翼に乗り、映画作品も『2001年宇宙の旅』や『未知との遭遇』、そして『E.T.』『スターウォーズ』など、科学技術による明るい未来が感じられる作品が多かった。
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しかし同時に、科学とその技術が人類にもたらしたのは、核兵器による人類絶滅の危機であり、大量生産・大量廃棄による自然環境の破壊だった。
科学は決して人類救済の万能ツールではないことを、人々は思い知らされた。
それは人類が、その幸福を宗教に求めず、検証可能な科学的な論理に委ねた結果生じた、人類のみならず地球規模の生命の消失の危機を生む「悪魔の業」でもあった。
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つまるところ問われるのは、人類自身のモラルと倫理観「人の心の中の悪魔」なのだという教訓を、科学万能主義の時代を突き進んだ結果得たのではなかったか。
そういう意味で、この『エクソシスト』とは、科学技術が世界を破滅させようかという時期にあって、人類の理想とモラルを再び宗教の中に見出そうとした作品だと言える。
この映画は神の復権を掲げた映画なのだと総括したい。
実際カトリック教会、バチカンにはエクソシスト部隊がいて、間違いなく「悪魔祓いの儀式」で今も人々を救っうため、日々悪魔と戦っているのである。
<ドキュメンタリー映画『悪魔祓い、聖なる儀式』予告編>
結局のところ、人智を超えたところに世界はあるのであり「人間の経験則を超えた現実=科学で解明出来ない事象」という非論理的な現実を突き付けられた時、人は神を頼り、ただ救済を祈る以外の道を取りようがないのであろう・・・・・・
この「科学に対する懐疑」が1970年代の真実であり、それゆえオカルトブームや超常現象という「科学に対するアンチテーゼ」が、世界中の人々の心を掴んだのであろう。
日本でも1974年7月に公開された「エクソシスト」は、全米のヒットとその噂から予想通り大ヒットとなり、年間興行成績の首位を獲得した。
そして、時を同じくして巻き起こっていたオカルトブームを加速させた。
オカルトブームとは、かつて日本で発生した、心霊・UFO・宇宙人・UMA・終末論・超能力・超常現象・都市伝説等のオカルト中心に起こった流行・社会現象・ブームである。
1973年に『ノストラダムスの大予言』がヒットしてから1970年代に第一次ブームが起こり、テレビ番組の『あなたの知らない世界』矢追純一の『木曜スペシャル』『水曜スペシャル』内の『川口浩探検隊』やホラー映画『エクソシスト』、ネッシー、ツチノコ、ヒバゴン、ユリ・ゲラー(スプーン曲げ)、心霊写真、超古代文明、コックリさん、口裂け女、オリバーくん、甲府事件・介良事件等が話題になった。(wikipediaより)
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映画『エクソシスト』考察映画が描くパラダイムシフト(世界観転換) |
たとえば、キリスト教的モラルに反旗を翻した、若者達のヒッピー文化は『イージーライダー』に描かれた。
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男権主義から女性達が求めたのは「性解放」であり、それは『エマニュエル夫人』となって、人類初の市民権を得たポルノ作品となった。
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こう見てくれば『イージーライダー』『エマニュエル夫人』『エクソシスト』に共通点があることが分かる。
どの映画も、当時のモラルに従う保守的な層からは非難を受けながら、若い層を中心とした多くの人々の興味を引き付け、結果として大ヒットにつながっている。
それは、若い世代にとっては自らの主張の代弁者であり、一般社会にとっては「パラダイム・シフト=世界観の変革」の現実を目の当たりにする、端緒としてあったのではないかと想像する。
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