2021年11月03日

古典映画『イヴの総て』(1950年)貞淑な女性の仮面・感想・解説/実話紹介・ネタバレなし簡単あらすじ

映画『イヴの総て』感想・解説 編

原題 All About Eve
製作国 アメリカ
製作年 1950年
上映時間 138分
監督 ジョセフ・L・マンキーウィッツ
脚色 ジョセフ・L・マンキーウィッツ


評価:★★★★  4.0



女優エリザベート・ベルクナーの実話を書いた 、小説家メアリー・オルの短編"The Wisdom of Eve(イヴの知恵)" を原作としている。

ブロードウェイ演劇界の裏側を描き、アカデミー賞で作品賞をはじめとする6部門で受賞し、カンヌ国際映画祭でも審査員特別賞と女優賞を受賞した作品。

映画はモノクロの旧い作品ながら、今見ても、往年の大女優ベティー・ディビスの迫力ある演技と、女性達の秘められた戦いを描き力が有る。

監督と脚本を務めたのジョセフ・L・マンキーウィッツは、前年の『三人の妻への手紙』でも監督と脚本を務め、2年連続で4つのアカデミー賞を獲得するという前人未到の記録を打ちたて、それは未だに破られていない。
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<目次>
映画『イヴの総て』ネタバレなしあらすじ
映画『イヴの総て』予告・出演者
映画『イヴの総て』感想
映画『イヴの総て』解説/女性対決ドラマの紹介
映画『イヴの総て』ラスト

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映画『イヴの総て』簡単あらすじ


ブロードウェイ演劇界の権威あるセイラ・シドンス賞の授賞式で表彰されているのは、女優イヴ・ハリントン(アン・バクスター)。それを見つめる客席には、名女優マーゴ・チャニング(ベティ・デイビス)とその恋人の演出家ビル・サンプソン(ゲイリー・メリル)、マーゴの親友であるカレン・リチャーズ(セレステ・ホルム)と、その夫でマーゴの劇作家のロイド・リチャーズ(ヒュー・マーロウ)が苦々しい顔で見つめていた。そのテーブルの横には、演劇評論家でイヴの夫であるアディソン・デウィット(ジョージ・サンダース)がおり、皮肉な顔を見せていた。
イヴはマーゴの楽屋に熱烈なファンとして、初めて姿を現したの。田舎から出てきた女優志望のイヴは、ブロードウェイの大女優のマーゴの付き人となる。自分の大ファンだというイヴに目をかけるマーゴだったが、イヴは次第に本性をあらわしてゆき、批評家やマーゴの周りにいる人々に取り入ってゆく。ある日、出るはずの舞台に間に合わなかったマーゴの代役として出演するチャンスをつかみ、イヴは批評家たちから絶賛される。これを皮切りに、劇作家や有名批評家に巧く取り入り、マーゴまでも踏み台にしてスター女優へのし上がっていく・・・・・・
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映画『イヴの総て』予告

映画『イヴの総て』出演者

マーゴ・チャニング(ベティ・デイヴィス)/イヴ・ハリントン(アン・バクスター)/アディソン・ドゥイット(ジョージ・サンダース)/ビル・サンプソン(ゲイリー・メリル)/カレン・リチャーズ(セレステ・ホルム)/ロイド・リチャーズ(ヒュー・マーロウ)/マックス・フェビアン(グレゴリー・ラトフ)/バーディ(セルマ・リッター)/カズウェル(マリリン・モンロー)フィービー(バーバラ・ベイツ))


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映画『イヴの総て』感想


この映画は、今となれば地味に映るかもしれない。
なにせ1950年のモノクロ映画で、ハリウッドの倫理規定『ヘイズコード』がしっかり機能していた時代の映画だ。
過激な表現や、公序良俗を逸脱したドラマは簡単に描ける時代ではなかったのである。
アメリカ映画:1951年
『陽のあたる場所』
アメリカの光と影を描いて、第24回アカデミー賞6冠!!
ハリウッド古典映画と倫理規定ヘイズコードとの関係

そういう意味では、この映画は万人に見せても良い「ハリウッド良識映画の様式」に収まっているのは間違いない。
それゆえ、現代の刺激的な映画を見慣れた眼からは、物足りなく思えるかもしれない。

たとえば、この映画の持つ「女性同士の確執」は、本作の主演ベティー・デイビスが後年出演した『何がジェーンに起こったか』の過激さに較べれば、ほんとにお上品な姿に見える。
アメリカ映画:1962年
『何がジェーンに起こったか?』
ベティー・デイビスとジェーン・クロフォードの確執映画
ハリウッドの伝説の二人を描いたドラマ

また、「女性を崇拝する女性=同性愛的要素」が作中に存在すると感じるが、それは「ヘイズコード」下に、微かにその氷山の一角を見せるに過ぎない。
たとえば、それをさらに過激に表現すれば、デヴィッド・リンチの傑作『マルホランド・ドライブ』と似た姿となるだろう。
関連レビュー:2001年のアメリカ映画
『マルホランド・ドライブ』
デヴィッド・リンチ監督の傑作
ハリウッドを巡る迷宮世界

しかし、この映画は「古く」とも明らかに、「女性映画としての物語典型」を初めて表現していると、私は考える。

その考えが正しければ、この映画は明らかに「古典」として評価されるべきなのである。

下の文章で、その点を語るつもりだ。

以下の論旨が正しいとすれば、現代から見て刺激に乏しく、オールドファッションだからといって見過ごすべきで作品ではないと主張したい。

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映画『イヴの総て』解説

女性対決ドラマの古典

上で、この映画は「古典」であると書いた。

そう考える理由は、この映画に明らかに、この作品によって語られた「ユニーク性=独自性」があり、そのユニークな特徴は後世の映画ドラマのある種の「原型=プロトタイプ」となって、敷衍拡大されていると思えるからだ。

この映画のユニーク性は、1940〜50年代の映画にしばしば登場する「運命の女=ファム・ファタル」の、新たなデザインを提示した事に拠っていると考えたい。
関連レビュー:ファム・ファタルとドイツ表現主義
映画『M』
名匠フリッツ・ラングの1931年の傑作
ドイツ表現主義とハリウッド映画の深い関係とは?

つまり、それまで登場した「運命の女=ファム・ファタル」は、その女性的な妖艶さと淫蕩さによって、男達を破滅させる存在だった。

しかし、この映画の「ファムファタル=イブ」は貞淑で良識ある姿で登場し、さらに破滅させる対象が対女性である点が革新的なのである。
それは、実は男性から見た「理想的女性像」が、爪と牙を隠し持ち同性に対して襲いかかる姿を、初めてドラマとして描いたものだと言える。

『イブの全て』のイブは、弱い者が善良なふりをしつつ悪意を持って、強い者を陥れようとする「偽装的な女性像」を描き鮮烈だ。

実を言えば、この映画の前にヒッチコック監督の『レベッカ』という傑作もあり、そこではすでにこの世を去った「ファム・ファタル」が完璧な貴婦人の姿をして、若く未熟な娘を追い詰める物語だったが、それは対女性の対決というよりは、夫と妻と前妻の三角関係を主軸に描いたものだった。
関連レビュー:完璧な貴婦人と戦う娘
映画『レベッカ』
ヒッチコック監督のアメリカ進出第1作!
「ゴシック・ホラー」の文法・不在のもたらす恐怖とは?

しかしその作品に比べ、本作は明らかに焦点は女性にあり、女性同志の闘いの本質を顕在させドラマ化した点は評価されるべきだろう。

更に言えば、貞淑で慎ましやかな女性が、女性的で優れているとする価値感をひっくり返した点で秀逸だと言わねばならない。

つまり、それらの良妻賢母型の女性像を尊ぶ価値観とは、男性から見た「家父長制」のシステムによって培われたものであり、女性側からすれば、それは単なる対男性用の仮面に過ぎないと暴露したのだ。

そんな、女性から見た女性の仮面の下の素顔を暴き、女性対女性の闘いを主軸に描いた点がユニークなのであり、その証拠に、この映画の持つ女性同士の闘争劇は、以後一つのジャンルとして数々の作品を生んで行く。
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女性同士の闘いを描いた映画紹介


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○ゆりかごを揺らす手

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○エスター
アメリカ映画:2009年
『エスター』
その少女の衝撃の秘密とは!?戦慄のサスペンス・ホラー
ジャウム・コレット=セラ監督が贈る衝撃のサイコスリラー!

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○ブラックスワン
アメリカ映画:2010年
『ブラック・スワン』
ナタリー・ポートマンがアカデミ―最優秀主演女優賞獲得!!!
バレエ界でプリマを目指す少女に襲い掛かる運命とは?


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○ブーリン家の姉妹
イギリス・アメリカ合作映画:2011年
『ブーリン家の姉妹』
運命のイギリス王朝の女達を描く!
豪華女優達とイギリスを代表する男優人で贈る宮廷劇

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○ルームメイト

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○女王陛下のお気に入り
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映画『イヴの総て』解説

実話紹介

この映画には、クレジットにはないものの、メアリー・オアが1946年5月号に発表した小説『イヴの知恵』を元としてる。
そして、その小説は、ウィーン出身の女優エリザベート・ベルクナーの実際の体験を聞き書かれたという。
エリザベート・ベルクナー(1897年8月22日– 1986年5月12日)はオーストリア-イギリスの女優(写真)。eve_Elisabeth_Bergner.jpg主に舞台女優であった彼女のキャリアは、映画の仕事でロンドンに移る前から、ベルリンとパリにおいて高かった。彼女の代表的な役は、マーガレット・ケネディが彼女のために書いた劇『逃げちゃいやよ』のジェンマ・ジョーンズ。彼女は当初ロンドンで、次にブロードウェイでデビューし『逃げちゃいやよ』を演じ、その映画化でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。(wikipedia英語版)

ベルクナーはメアリー・オアに自身の経験を語った。
「舞台が終了した時、劇場の外に立っていた可愛そうな”痩せて衰弱”した若い女性を秘書として雇とうと、その若い女優は私の人生を乗っ取ろうとした。」と・・・・・・・

その秘書の名前は不明だが、彼女がイブのモデルであるのは間違いなく、映画と同時に永遠に記憶されるだろう。



posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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