原題 ROMA, CITTA, APERTA 英語題 OPEN CITY ROMA 製作国 イタリア 製作年 1945年 上映時間 103分 監督 ロベルト・ロッセリーニ 脚本 フェデリコ・フェリーニ 原案 セルジオ・アミディ |
評価:★★★☆ 3.5
この映画はロベルト・ロッセリーニ監督の、イタリア・ネオ・リアリズムを代表する1本だ。
映画のストーリーには実在のモデルがおり、その戦いを描くことでドイツ軍占領期の犯罪的行為を糾弾するものだった。
しかし、実際映画を見ていると、リアリティーを重視するネオ・リアリズム映画でありながら、サービス過剰なほど劇的な脚本となっている点に違和感を覚えた・・・・・・
<目次> |
映画『無防備都市』あらすじ |
1944年第二次世界大戦末期、ドイツ占領下のローマの夜。ドイツ軍SS部隊は、レジスタンスのリーダーであるマンフレーディ(マルチェロ・パリエーロ)のアパートを急襲したが逃がした。ドイツ占領司令部ではゲシュタポの高官・ベルグマン少佐(ハリー・ファウスト)は、徹底的な調査を命じる。マンフレーディは同志フランチェスコ(フランチェスコ・グランジャッケ)を訪ね、そこで彼はフランチェスコの婚約者ピナ(アンナ・マニャーニ)と出会う。マンフレーディは、レジスタンスの援助者カトリック司祭ドン・ピエトロ・ペレグリニ神父(ルド・ファブリーツィ)に連絡を取った。ゲシュタポ・ベルグマンのもとにマンフレーディの恋人マリナを薬漬けにしたイングリッド(ジョヴァンナ・ガレッティ)が現れ、マリナ(マリア・ミーキ)を通じてマンフレーディを追うと言った。そして、翌日ピナの婚礼の朝、ドイツ軍がピナのアパートを包囲し、一軒残らず捜索が開始されフランチェスコも捕まる。彼を乗せたトラックを必死に追いかけたピナに、ドイツ軍兵士の短機関銃が火を噴いた―
映画『無防備都市』予告 |
映画『無防備都市』出演者 |
ドン・ピエトロ・ペレグリニ神父(ルド・ファブリーツィ)/ピナ(アンナ・マニャーニ)/ジョルジオ・マンフレーディ(マルチェロ・パリエーロ)/フランチェスコ(フランチェスコ・グランジャッケ)/マリーナ・マリー(マリア・ミーキ)/ベルグマン少佐(ハリー・ファウスト)/イングリッド(ジョヴァンナ・ガレッティ)/マルチェロ(ヴィト・アニチアリコ)/ローラ(カーラ・ロベール)
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映画『無防備都市』感想 |
ネオ・リアリズモは第二次世界大戦後の、イタリア社会の混乱を受け、その影響を最も受けざるを得なかった、庶民大衆の困窮を何とか救おうとする、社会主義的な訴えを持った作品群である。
その当時のイタリアの戦後の破壊と悲惨を映すためには、最も直截にそこで繰り広げられる光景をただ記録するドキュメンタリーこそ相応しいだろう。
それゆえ、ネオ・リアリズモは、チネチッタ映画スタジオの破壊という理由があったにしても、町に出てロケーション撮影を旨とし、俳優も極力素人を起用したのである。
そんな、「リアリズモ=リアリズム表現」に最も意を払った作品が、ルキノ・ビスコンティー監督の『揺れる大地』であり『自転車泥棒』だったろう。
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しかし、この『無防備都市』である。
正直な感想を言えば、この映画をネオ・リアリズモの代表作と言うには抵抗がある。
なぜなら、ネオ・リアリズモが目指したのがドキュメンタリ―的な現実の記録「ノン・フィクション的表現」だとすれば、これは明らかに、虚構「フィクション表現」のドラマとして高い完成度を持っている。
たとえば、少年レジスタンスの爆弾を隠すために神父が奮闘するシーンは、笑いを伴うスリリングな描写であり、結婚式当日に婚約者を奪われた花嫁が撃ち殺されるシーン、愛する男を敵に売る切ない恋心など、ドラマの要素が非常に強く豊富であり、それを表現する役者もプロの俳優なのだ。
本作は、ロッセリーニ監督の他作品『ドイツ零年』や『戦火の彼方』に較べても、明らかに華麗でドラマチックな作品である。
そして、その「高いドラマ性=フィクション性」を、この作品に注入したのは脚本に名を連ねた、後に巨匠となるフェデリコ・フェリーニの力が大きかったのではないかと想像している。
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彼はこの映画に参加を促された時、いまさらドイツ占領期を映画にしてもと渋ったと言う。
映像の魔術師と称されたフェリーニ(写真)にとってみれば、暗く遊べる余地の少ないネオ・リアリズモ映画の方向性、表現様式は、肌に合わないものだったに違いない。
それゆえ、この作品をフェリーニ的なドラマ性で彩ったのではなかったか?
そういう意味で、この映画は本来のネオ・リアリズモとは違う文法で表現され、またそれゆえにここまでの世界的にヒットに結び付いたと思える。
それはこの映画が、ドラマチックな物語で、俳優の迫力ある演技の力が際立っているからであり、それはリアリズムの力と言うよりは、フェリーニの注入した「フィクショナル=虚構性の力」のもたらした効果だったろう。
しかし、理由は何にせよ、この映画のヒットによりネオ・リアリズモは戦後映画界の大きなトレンドとなったし、同時に世界中の戦火に打ちひしがれた人々の代弁者と成り得る様式を生んだのである。
そう言えば、この映画で明確にリアリズムと呼べる要素に言及するのを忘れていた。
それは、暴力シーンである。
この映画の、ヒロインの射殺されるシーン。
さらに、ドイツ軍の拷問の生々しい描写は、当時としては過激で、衝撃的な映像だったのだ。
それは、ナチスドイツの残虐さ非道さを描くための、最も効果的で直截な方法だったろう。
しかし、この映画はいくつかの国でその過激な暴力シーンの残虐さゆえに上映禁止となったのだった。
むしろ映画史的に言えば、この作品はイタリア・ネオ・リアリズモとしてよりも「暴力描写の映画的リアリズム表現の元祖」として、記憶されるべきかも知れない。
そうして、その生々しい「暴力リアリズム」は、次に日本の黒澤監督によって娯楽的手法として登場するだろう・・・・
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そして、またロッセリーニ監督の蒔いた種子は、ロッセリーニ監督の『イタリア旅行』を見てジャン=リュック・ゴダールが『勝手にしやがれ』(1960年)を撮ったと証言しているように、フランス映画界のヌーヴェル・ヴァーグで再度花開く。
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映画『無防備都市』解説イタリア・ネオ・リアリズモ概説 |
その主要な担い手は、ロベルト・ロッセリーニ、ヴィットリオ・デ・シカ、チェーザレ・ザヴァッティーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、フェデリコ・フェリーニ、ブルーノ・カルーゾなどが挙げられる。
ネオレアリズモの始まりは諸説あるが、最初のネオレアリズモ映画は一般にルキノ・ヴィスコンティ(1943)による『郵便配達は二度ベルを鳴らす』だと考えられている。
そのヴィスコンティはフランスの映画監督ジャン・ルノワールの下で映画を学び影響を受けており、ネオリアリズムの先駆的な作品として、ジャン・ルノワールの『トニ』(1935)とアレッサンドロ・ブラセッティの『1860』(1934年)が挙げられる。
1945年の春、ムッソリーニは処刑され、イタリアはドイツの占領から解放された。
「イタリアの春」として知られるこの時期は、しかし破壊された市街と戦災に苦闘する人々に満ち、それはイタリア映画人と、イタリア映画の聖地チネチッタ映画スタジオにとっても同様だった。
そんな状況下、イタリア映画界は、戦前の映画製作スタイルを捨て、破壊されたチネチッタ・スタジオの代わりに屋外ロケを、俳優の代わりに素人を起用し、映画を作る際によりリアリズムを重視する表現を取り始めた。
その結果、1945年『無防備都市』が世界的な知名度を獲得し、戦後イタリア映画初となるカンヌ映画祭の大賞を受賞し、ネオ・リアリズモ作品が世界の映画界に衝撃を与えた。
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しかしイタリアのネオ・リアリズモは1950年代初頭に急速に衰退する。
ネオ・レアリズモ映画によって提示された貧困と絶望のメッセージは、経済的な復興と共に富裕で享楽的な世相に変化して行く中で、ネオ・リアリズモのテーマはその訴求力を失わざるを得なかった。
事実、多くのイタリア人は当時流入した多くのアメリカ映画で描かれた、楽観主義を支持したという。
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ネオ・リアリズもの訴えた社会的環境の下で苦しむ人間存在の悲劇的現実は、社会問題が解消されるにつれ個人的な関心や欲望を刺激する享楽的ドラマへと移行し、それを代表したのがフェデリコ・フェリーニの映画だった。
彼の初期の作品『道』(1954)と『青春群像』(1955)は、ネオ・リアリズモの過渡的作品として、社会的問題よりも個人的問題にフォーカスを当てたドラマへと視点が変化する。
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フェリーニの影響は、実は脚本家として参加した、このネオリアリズモの代表作『無防備都市』にも、そのドラマ性において存在感を留めていると感じる・・・・・
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