原題 7th Heaven 製作国 アメリカ 製作年 1927年 上映時間 110分 監督 フランク・ボーゼージ 脚色 ベンジャミン・グレイザー 原作 オースティン・ストロング |
評価:★★★☆ 3.5
この作品は、 フランク・ボーゼージ が監督し、ジャネット・ゲイナーとチャールズ・ファレルが主演した、1927年のハリウッドのサイレント映画です。
この恋愛ドラマは、当時の観客の心をしっかり掴み、この主演二人のカップルは観客に愛され、その後11本の映画が撮られたそうです。
ヒロインのジャネット・ゲイナーは、第1回アカデミー賞で初代アカデミー主演女優賞を受賞し、また本作はアカデミー脚色賞も獲得しています。
<目次> |
映画『第七天国』詳しいあらすじ |
1910年代のパリのスラム街、モンマルトルの下水道掃除を生業とするチコ(チャールズ・ファレル)。
彼は、同僚のラット(ジョージE.ストーン)が排水口から見える女性を見上げ、歓声を上げるのを無視し仕事に励んでいる。
彼は、地上の道路清掃人ゴバン(デビッド・バトラー)を見ると、自分もいつかは地上の掃除婦になる、自分は「特別な人間だから」と自負を語った。
その頃のあるアパルトマンの一室で、姉ナナ(グラディス・ブロックウェル)にムチ打たれているのは妹のディア−ヌ(ジャネット・ゲイナー)だった。
散々に打った後、ナナはディアーヌに盗品でアブサン酒を買ってこいと命じた。
入れ違いに、神父シュヴィヨン(エミール・ショータード)が部屋を訪ね、富裕な叔父夫婦が君達の世話をしたいと、明日面会に来ると告げられた。
酒を抱え家に戻ったディアーヌは、姉からきつく明日は損になる事を言うなときつく命じられた。
翌日、叔母バレンタイン(ジェシー・ハスレット)と叔父ジョージ(ブランドン・ハースト)がブリサック大佐(ベン・バード)に先導され到着した。
ナナが満面の笑みを浮かべ迎える中、叔母はディアーヌを見ると抱きしめ、夫に二人を世話したいと言う。
だが、夫は素行が悪いのであれば迎えられないと、妻に宣言した。
品行方正だったかと問い質されたディアーヌは、ナナが差すような眼を向けているにもかかわらず、売春をしている自分たちは悪い娘だと告白した。
それを聞いた夫は、金を投げ捨てると、妻を引っ張り帰って行った。
激怒したナナはディアーヌを激しくムチ打つと、たまらずディアーヌは外に逃げ出し、街頭に走り出たが追いつかれ、馬乗りになられナナに首を締められた。
そのそばの排水溝口からチコは顔を出すと、ナナを引き剥がし追い払った。
ラットと祖父のタクシー運転手ブール(アルバート・グラン)の食事にチコも加わったが、目を覚まさないディアーヌが気になりだし、彼女に近づくとたまねぎを顔に近づけ覚醒させた。
そのディアーヌの弱った姿を見て、チコは仲間の輪に入れるとパンを差し出したが。彼女は下を向き首を横に振った。
そんなディアーヌを見たチコは、上を見るんだ、そうすれば特別な人間になれると言い切った。
チコはさらに、自分は神を信じないと力説するところに、神父シュヴィヨンが来た。
神父はチコに神は見捨てていないと、道路清掃員の任命書を渡した。
さらにその無神論に対し宗教的お守りのネックレスを渡し、いつか神の助けが必要となるだろうと語った。
チコは今後同僚となる道路清掃員のゴバンを見つけると、お互い丁寧に挨拶を交わした。
その時ディアーヌは、そばに落ちていたチコのナイフで自殺を試みるが、チコがすんでのところで止め、理由を問い質した。
その時、通りの向こうから警官が娼婦の群れを連行して来た。
その中にディアーヌの姉ナナもいて、ディアーヌに気付くと、彼女も同類だ捕まえろと警官に文句を言った。
それを聞いた警官はディアーヌを掴み連行しようとするが、見かねてチコが中に入る。
警官の強硬な態度に、彼女は妻だとウソを言って庇った。
警官は疑わしげにチコを見て、彼の住所を聞くと、近日訪ねた時彼女が居なければ問題だぞと警告し去った。
警官が去った後チコは後悔し、嘘がばれ道路清掃員の職を失ってしまうと悲嘆にくれた。
するとディアーヌは「警察が来るまで貴方の家に泊まらせて、警察が来たら出ていくから」と提案した。
その言葉に助かったと喜んだチコは、ブールのタクシーに乗せてもらい、自らのアパルトマンへと向った。
チコはディアーヌに警官が来たら出て行けよと念を押しながら、部屋へと続く階段の下に立った。
階段を何度も上がりついたのは7階の屋根裏部屋だった。
彼は部屋を抜けバルコニーにディアーヌを呼ぶと空の星を見せ「下水道で働いてるが、星の近くに住んでいる」と自慢した。
その景色を見たディアーヌは「まるで天国」と感嘆の声を上げた。
バルコニーから別棟のアパートへつながった、細い板に立ったチコはディアーヌを連れ出そうとするが、彼女は下を見て恐怖ですくみ部屋に逃げ戻った。
それを見たチコは、下を見ずに、上を見ろと彼女に言い、決して俺は恐れないし下を見ない。俺は特別な存在で、いつか星に届くと強く語った。
その晩、チコはベッドを彼女に与えると、自分はバルコニーで星を見ながら眠りについた。
翌朝、ディアーヌの沸かすコーヒーの香りと共に完璧な朝食がチコを待ち受けていた。
朝の洗顔、着替えと、かいがいしく世話するディアーヌ、更にその食事に感激したチコだったが、照れ隠しのように「警察が来たら出ていけよ!」と念を押した。
道路清掃の同僚となるゴビンは隣戸に住んでおり、チコを仕事に誘いに来たが、ゴビンは出かける前に妻に挨拶のキスをしないのはダメだと言い、キスをするまで出かけないと言い切った。
チコは仕方なくディアーヌにキスをしたが、「今のは違うからな!出てくんだぞ」と弁解をした。
ドアが閉まると、ディアーヌはキスを喜び、自然と顔に微笑みが浮かぶ。
そして、昨日渡れなかった板に足を乗せると、チコの上を向けという言葉を、思い出し無事渡リ切った。
共に暮らす日々が過ぎていく中、ある日訪ねて来たのは、警察だった。
警察官がドアを閉めると、ディアーヌは悲しげに家を出る準備を始め、部屋から去る準備を始めた。
それを見たチコは「もし居たければいろ。邪魔はするなよ」とディアーヌの背中に声を掛けた。
ディアーヌは目に涙を浮かべ、チコのもとへ戻った。
ときは過ぎ、ある日チコは鉢植えの花と大きな箱を抱え、部屋に帰って来た。
ディアーヌはそのプレゼントを受け取ると、箱を開封し驚く。
それは、華麗なウェディングドレスだった。
顔に満面の笑みを浮かべたディアーヌだったが、その顔に影が差した。
チコが心配になり、俺と結婚したくないのかと訊ねると、彼女は首を振り、でもまだ一度も愛してるとあなたから聴いていないと言った。
それを聞いたチコは、必死に愛を言おうとするが、どうしても言えず、ついにバカバカしい無理だと諦めた。
ディアーヌが、ますます暗い顔をしたのを見て、チコは言った。
「こんな形なら言える。チコ、ディアーヌ、ヘブン(天国)」
その言葉にディアーヌは感動し、「素敵もう一度言って」と何度もせがんだ。
そして、ウェディングドレスを手に、私も橋を渡れるようになったと、着替のためゴバンの妻の部屋に向かった。
そこに、ゴビンがやって来て第一次世界大戦が始まり、一時間後に出発だとチコに告げる。
チコは結婚式も挙げてないディアーヌが不憫だと訴えたが、ゴバンは家族を守るために仕方が無いと慰め、慌ただしく妻の下に帰った。
出征の準備をしている所に、ディアーヌがウェディングドレスで現れると、たまらずチコは愛してると口にする。
そして、その言葉に感動し涙を流すディア−ヌを、チコをきつく抱きしめた。
チコは戦争で離れ離れになると告げると、ディアーヌはショックを受ける。
しかし、気を取り直し「上をむいて、あなたは必ず帰って来る。」と励まし「あなたが私を変えた。私も特別な人間なの」と決意を語った。
時間が迫り、結婚式をあげることもできない二人。
チコは神父から貰ったお守りのネックレス2本を取り出し、互いの首にかけると「今ここで結婚しよう、おれは無神論者だがもう一度神にチャンスを与える」と言った。
そして、チコは「俺はディア−ヌを妻とする」と宣誓すると、ディア−ヌも「私は生涯チコを夫とします」と応えた。
チコはディア−ヌを小さな子を抱きしめるように宙に抱えると、固く抱きしめた。
しかしついに、出発の時が来た。
ドアを開けたチコは、見送ろうとするディアーヌに言った。
「動くな。俺の眼をお前の美しい姿で満たしたい。」その時、11時の時を時計が告げた。
チコは「毎朝11時にお前のもとに戻る」と言い残して旅立った。
魂が抜けたようなディアーヌの前に、姉のナナが姿を見せた。
再び彼女を支配しようと鞭を振るうが、ディア−ヌは逆に奪い取るとナナに反撃し追い出した。
ディアーヌは窓から語りかける「チコ、チコ、私は勇敢よ!」
それからのディア−ヌは昼は軍需工場で働き、工場を管理するブリサック大佐(ベン・バード)が誘惑しても拒絶した。
そして、夜はゴバンの妻と夫の留守宅を守る日々だった。
そして、毎日11時になると「チコ、ディア−ヌ、ヘブン」と呼びかけた。
そして、その呼びかけは、戦場のチコも同時に発しており、互いに相手の存在を確かなものに感じていた。
戦争は激しさを増し、戦場のチコはついに、決戦の時を迎える。
しかし、落ちてきた砲弾の爆風に吹き飛ばされ、弾着後の穴で意識を失った。
そこにラットが現れ、チコを自陣へと運び込んだ。
従軍神父となっていたシュヴィヨン神父が呼びかけると、チコは意識を取り戻し、言葉を絞り出した。
それは「チコは上をむいて死んで行った」という、ディアーヌに対する遺言で、自らのお守りのネックレスを、妻に渡して欲しいと神父に託した。
映画『第七天国』予告 |
映画『第七天国』出演者 |
ディア−ヌ(ジャネット・ゲイナー)/チコ(チャールズ・ファレル)/ブリサック大佐(ベン・バード)/ブール(アルバート・グラン)/ゴバン(デビッド・バトラー)/マダム・ゴバン(マリー・モスキニ)/ナナ(グラディス・ブロックウェル)/シュヴィヨン神父(エミール・ショータード)/叔母バレンタイン(ジェシー・ハスレット)/叔父ジョージ(ブランドン・ハースト)/ラット(ジョージE.ストーン)/リリアン(ウェスタン・アルレット)
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映画『第七天国』評価受賞歴・影響作品 |
批評的にも高いものがあり、第1回アカデミー賞を獲得しています。
第1回アカデミー賞
最優秀女優賞(ジャネット・ゲイナー)/最優秀監督賞(フランク・ボーゼイ)/脚色賞(脚本賞)
第5回キネマ旬報ベスト・テン(1928年)
外国映画第1位
ジャネット・ゲイナーは、ドイツからハリウッドに招聘されたF・W・ムルナウ監督の『サンライズ』と『街の天使』にも出演しており、3本合せて初のアカデミー主演女優賞の獲得になっています。
アメリカ映画:1927年 『サンライズ』 第一回アカデミー賞受賞作品 F・W・ムルナウ監督の至高のサイレント映画! ! |
この第1回アカデミー賞に関しては、過去のレビューで紹介させていただきました。
関連レビュー:第1回アカデミー賞の紹介 『1928年開催アカデミー賞・授賞式』 栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞 授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。 |
この第1回アカデミー賞で主演女優賞を獲得したジャネット・ゲイナー。
彼女は、50回目を迎えたオスカー授賞式で、主演女優賞のプレゼンターとして登場します。
<第50回オスカーのジャネット・ゲイナー>【意訳】ウォルター・マッソー:私はこの賞の手助けを、素晴らしい演技をした主演女優の候補者に頼んだ。それは今夜の候補ではなく、ハリウッド大通りのハリウッド・ルーズベルト・ホテルのあの夜、候補者は『老番人』のルイーズ・ドレッサー、『港の女』のグロリア・スワンソン、『街の天使』のジャネット・ゲイナー、『第七天国』のジャネット・ゲイナー、そして『サンライズ』のジャネット・ゲイナーでした。受賞者は、そうこれには封筒は要りません。受賞者はジャネット・ゲイナーです。/ウォルター・マッソー:ようこそ/ジャネット・ゲイナー:ありがとう、ウォルター、皆さん。私は、アカデミー賞と私の両方が、このゴールデンアニバーサリーに生き残っていて幸せです。皆さんは、私がルイス・ドレッサーとグロリア・スワンソンと競ったあの夜のブロッサムルームと、どれほど違うか想像できないでしょう。キング・ヴィダーがいて、もちろん私の2人のステキな助演者、チャールズ・ファレルとジョージ・オブライエンと、でももう充分ね。私は、私の夜を得ている。今夜は、今年の候補者のもの/ウォルター・マッソー:まさに(以下50回の候補者を紹介)
アメリカのアカデミー賞は、その授賞式の場で、過去の受賞作や受賞者へ敬意を払う姿に心打たれます。
ご興味のある方は、アカデミー賞の歴代の授賞式を紹介しています。
関連レビュー:アメリカ映画界の歴史アカデミー賞紹介 『アカデミー賞・歴代受賞年表』 栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞 授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。 |
この映画は、同時代を生きた日本の巨匠・小津安二郎も愛し、その現存する最古の監督作『学生ロマンス若き日』の中で、『第七天国』の映画ポスターが貼られています。
関連レビュー:小津安二郎の代表作 『東京物語』 世界的にも高く評価される小津監督の名作 日本的な世界観、美意識が映像として定着 |
さらには時は下り、2016年オスカーで数々の賞に輝いた『ラ・ラ・ランド』のラストは、『第七天国』のエンディングに触発されたと、デミアン・チャゼル監督が語っています。
関連レビュー:『第七天国』に影響を受けた作品 『ラ・ラ・ランド』 デイミアン・チャゼル監督のアカデミー賞6冠作品 極上のミュージカル・エンターテインメント! ! |
その具体的な内容はネタバレとなりますので、近々『ネタバレ・ラスト編』で語らせていただきます。
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