原題 Mrs. Miniver 製作国 アメリカ 製作年 1941年 上映時間 134分 監督 ウィリアム・ワイラー 脚色 アーサー・ウィンペリス 、ゲオルク・フレーシェル、ジェームズ・ヒルトン |
評価:★★★★ 4.0
この映画は、第二次世界大戦真っ最中の、1943年に撮られたハリウッド映画です。
その年のアカデミー賞では、監督のウィリアム・ワイラーや、主演女優のグリア・ガーソン、作品賞、脚色賞、撮影賞、助演女優賞(テレサ・ライト)でなどが賞に輝いています。
この作品は明瞭なプロパガンダですが、その説得力の高さに驚きます。
映画表現として、訴えたい内容を、どう語れば、効率よく上手に観客に伝えられるかの見本のような見事な一本だと思います。
<目次> |
映画『ミニヴァ― 夫人』あらすじ |
1939年夏。ミニヴァー夫人(グリア・ガースン) はロンドンで買い物を楽しみ、帰路の市電に乗ったが突然引き返す。
どうしても気に入った帽子が欲しくなり、高級店で高額な帽子を買ってしまった。
汽車に乗ると、住んでいるロンドン郊外の村に向かった。そこで牧師(ヘンリー・ウィルコクソン)と、町の名家の当主ベルドン老夫人(デイム・メイ・ウィッティ)と同じ車室になり、会話を交わしつつ駅に着いた。
駅に降りた彼女を、駅長バラード(ヘンリー・トラヴァース)が呼び止め、見せたいものがあると言う。
そこには彼の栽培した薔薇の花があり、彼はその花に「ミニヴァー夫人」という名前を付ける許しを求めた。
その薔薇を毎年村で開催される花の品評会「ベルドン・カップ」に出品したいと、駅長は考えていた。
ミニヴァ―夫人は帽子の言い訳を考えつつ、夫の建築家クレム(ウォルター・ピジョン)と、まだ幼いジュディ(クレア・サンディス)とトビー(クリストファー・セヴェリン)の待つ家へと帰った。
しかしその時、夫のクレムも新たに車を購入しており、お互い自分の買い物を正当化しつつ許し合った。
翌日にはその新車で、オックスフォード大学から帰って来る長男ヴィン(リチャード・ネイ)を、駅に迎えに行った。
帰宅したヴィンは封建的な現状を批判する、社会的な観念を育んで帰って来た。
その日のお茶の時間、ベルドン老夫人の孫娘キャロル(テレサ・ライト)が訪ねて来た。
花の品評会に駅長が出すバラの花の辞退を頼みに来たのだ。
村の領主だったベルドン家の当主はバラで優勝する事が生き甲斐で、これまで村の誰も忖度してコンテストに出品してこなかったのだ。
孫娘は高齢の祖母の生き甲斐を奪わないでほしいと願い、出品取下げを働きかけるようミニヴァー夫人に申し入れてきた。
それを聞いた息子ヴィンは、それがベルドン家による村の封建的な支配を表していると反発し、キャロルと口論になる。
ケンカした2人だったが、その夜村のダンスパーティーの場で、お互いに謝罪しダンスを踊り好意を確かめ合う。
しかし欧州は第二次世界大戦に突入し、英国はドイツに宣戦布告した。
平和なミニヴァー家も家政婦グラディス()の恋人が出征したり、ヴィンが空軍へ入隊したりと戦時色が日に日に強くなっていく。
ミニヴァ―家もドイツ軍の空襲に備え地下室に避難する夜が増えて来る。
ヴィンは近くの飛行隊へ配属されることになり、キャロルと愛を確かめ合い結婚を約束するが、ベルドン老夫人の説得はまだだった。
村にドイツ軍の飛行機が墜落し、パイロットが逃亡し村に緊張が走る。
そんな時、夫クレムは夜中、自家用ボートで集合するように呼び掛けられ、フランスから敗走する数十万のイギリス兵救助のためダンケルクへと出発した。
夫の留守を守るミニヴァ―婦人は、ある朝茂みの中で倒れているドイツ軍パイロット(ヘルムート・ダンティン)を発見する。
そのドイツ兵が眼を明けると、銃を夫人に向け家へと押し入り、食料とミルクを口にした。
ドイツ兵士は家を出ようとしたところで、負傷と疲労で精根尽き果て失神し、ミニヴァ―夫人は警察に連絡し事なきを得た。
そして、夫もダンケルクから戻り、お互いの事件を語り合っている所にベルドン老婦人の来訪があった。
老婦人は、孫娘キャロルとヴィンの結婚について、2人が若すぎるし、戦争未亡人になる恐れもあるとして反対していた。
しかし、ミニヴァ―夫人から、ベルドン自身が16歳で結婚し、戦争により2週間しか夫と暮らしていない事実を指摘される。
老婦人は、ベルドン家の娘だから、キャロルに反対しても無駄ねと、結婚を認めた。
こうして、若い二人は村人の祝福の中、晴れて結婚式を挙げると新婚旅行へと旅立った。
一方の村では、日に日にドイツ軍の空襲が激化し、家も一部破壊され、庭のバラック建ての防空壕で夜を過ごす時間が多くなった。
そんな戦いの最中でも、年一度の村の祭「ベルドン・カップ」は開催され、ミニヴァ―家とベルドン老婦人は連れ立って参加した。
ベルドン老婦人が壇上に登り、菊など各花の賞が発表され、最後に残るのはバラのみとなった。
審査員たちはベルドン老婦人に気を使い、優勝はベルドンとの審査結果が届けられた。
しかし、ベルドン夫人は、その紙を握りつぶすと、その口からバラード駅長のバラ「ミニヴァー夫人」を優勝と宣言し、自分を準優勝とした。
来場者たちは駅長とベルドン夫人に、大きな拍手を贈り、ヴィンとキャロルも老婦人の計らいに笑顔を見せた。
笑顔が広がる会場に、敵機来襲の急報が入り、来場者たちは避難し、ミニヴァー夫人とキャロルはヴィンを空軍基地へと車で送った。
そして、家に帰る途上、空に爆音が響き空中戦が始まった。
二人の乗った車にもドイツ軍機の機銃掃射が浴びせかけられた。
ミニヴァ―夫人が、キャロルに眼をやると、彼女は銃弾を受け重傷だった・・・・・
映画『ミニヴァ― 夫人』予告 |
映画『ミニヴァ― 夫人』出演者 |
ミニヴァー夫人(グリア・ガースン) /クレム・ミニヴァー(ウォルター・ピジョン)/キャロル・ベルドン(テレサ・ライト)/ベルドン夫人(デイム・メイ・ウィッティ)/フォーリー:市民防衛長(レジナルド・オーウェン)/ジェームズ・バラード:駅長(ヘンリー・トラヴァース)/ヴィン:長男(リチャード・ネイ)/ヴィカー:牧師(ヘンリー・ウィルコクソン)/トビー:次男(クリストファー・セヴェリン)/グラディス:家政婦(ブレンダ・フォーブス)/ジュディ:長女(クレア・サンディス)/エイダ(料理人):マリー・ド・ブッカー:ドイツ軍パイロット(ヘルムート・ダンティン)/フレッド(ジョン・アボット)/シンプソン(コニー・レオン)/ホレス:グラディスの恋人(リース・ウィリアムズ)
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映画『ミニヴァ― 夫人』解説受賞歴・アカデミー授賞式での事件 |
<受賞歴>
第14回アカデミー賞
最優秀作品賞/最優秀監督賞(ウィリアムワイラー)/最優秀女優賞(グリア・ガーソン)/最優秀助演女優賞テレサ・ライト/最優秀脚本賞/最優秀撮影賞
第14回ナショナルボードオブレビューアワード
映画トップテン選出/最高の演技賞(グリア・ガーソン「映画『ランダムハーベスト』の演技も含め」/テレサ・ライト)
第14回ニューヨーク映画批評家協会賞
最優秀女優賞(グリア・ガーソン)
この『ミニヴァー夫人』は、戦意高揚と同時に、その年の最も商業的に成功した作品ということもあり、アカデミー賞では11部門にノミネートし、上のように6冠に輝いています。
しかしそのアカデミー賞・授賞式、主演女優賞に輝いたグリア・ガーソンは史上に残る長すぎるスピーチをしたことで有名です。
第15回アカデミー賞・主演女優賞スピーチ |
プレゼンターはジョーン・フォンテイン
ノミネート者は
グリア・ガースン(ミニヴァー夫人)/ベティ・デイヴィス(情熱の航路)/キャサリン・ヘプバーン(女性No.1)/ロザリンド・ラッセル(My Sister Eileen)/テレサ・ライト(打撃王)
受賞者はグリア・ガーソン(ミニヴァ―夫人)。
【受賞スピーチ・意訳】
アナウンサー:ジョーン・フォンテインが1942年のオスカー最優秀女優賞を『ミニヴァー夫人』の愛らしいグリア・ガーソンに贈呈した。/グリア・ガーソン:ご列席の皆様、私は5年前に異邦人としてこの国に来ました。私はこのコミュニティとこの業界のメンバーであることにとても満足で、とても誇りに思っています。そして本当に、出会った、または一緒に働いた、全ての人から、それが真実とは信じられないほど長期に渡り、私はとても懇意な親切を受け、でも今夜皆さまは、皆さまが本当に皆さまの友情の扉を大きく開いたと私に感じさせてくれました。その歓迎が式のマットの上(オスカー像)にあります、そしてそれが私がとても幸せである理由です。
上の映像は、一部を切り取ったもので、実際のスピーチは下のように長いものだったようです。
しかし、下の文章にしても、ところどころカットされていますから・・・・少なくとも5分以上、一説には30分に渡る長いスピーチだったとも言われており、それもまんざら嘘ではないかも知れません。
グリア・ガーソンスピーチ
ご列席の皆様、軍の著名な列席者、ウォーレン知事、名誉あるゲスト、会長、感謝しています。言うべきことはこれだけです。でも、これはやっぱり一生に一度のチャンスなので、少しだけその言葉を重ねても許されると願っています。これは、これは記憶すべき素晴らしい夜になるでしょう。とてもエキサイティングなメッセージと、とてもなエキサイティングなスピーチがありました。この偉大で魅力的な業界に所属することは、私たち全員を非常に誇りに思うはずです。私たちが行った仕事に対する私たちの政府と軍、そして海外からの私たちの同盟国からの賞賛は、私達が(仕事を)続ける決心をさせるはずです。今夜、私たちはどういうわけか非常に広い視野をこの部屋にもたらしました。私が今言わなければならないことは、実際準備ができていません... (カット)
ノミネートに関しては、ノミネートされるということは、今年の最高の役割の1つを任せられた幸運に恵まれたことを意味し、それ自体が喜びの原因であると常に感じていました。そして、この業界には、そのような機会が与えられたとして、その期待に応えられる優れた職人ばかりです。なぜ私たちは皆、賞を勝ち取るのを切望しているのでしょうか?私たちはさまざまな優劣を比較しますが、それらは性質が異なり、公正に比較することができないため、優位性は問題となりません。今夜、この部屋にはライバル関係はありません。競争はありません。ドードーが不思議の国のアリスに言ったように、「誰もが勝ち、誰もが賞をもらえるだろう」。ノミネートは本当に賞品です。賞…私、今夜は本当に私にとって、信じられない!仕事の成果だけでなく、それを示すことを選んだこの業界の男性と女性からの身振りであり、私にはいつも非常に個人的な何かのように思えました... (カット)
ご列席の皆様、私は5年前に異邦人としてこの国に来ました。私はこのコミュニティとこの業界のメンバーであることがとても満足で、とても誇りに思っています。そして本当に、出会った、または一緒に働いた、全ての人から、それが真実とは信じられないほど長期に渡り、私はとても懇意な親切を受け、でも今夜皆さまは、皆さまが本当に皆さまの友情の扉を大きく開いたと私に感じさせてくれました。そして、その歓迎は式のマットの上にあります、そしてそれが私がとても幸せである理由です。(カット)
...非常に謙虚に、非常に感激して、感謝をのべ、私は皆様との境を越えます。そこに... (カット)
アカデミー協会は、「ガーソンの受諾演説の一部のみをニュース映画で報道し、冒頭の段落が彼女のスピーチの始まりであることは明らかですが、残りの部分がどのように組み合わされているか、または欠落している映像の範囲は不明です。」とコメントしています。
恐るべしグリアガーソン。
いろいろなことが起こるアカデミー賞です。
ご興味がある方は、コチラをご覧下さい。
関連レビュー:オスカー受賞一覧 『アカデミー賞・歴代受賞年表』 栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞 授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。 |
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以下の文章には 映画『ミニヴァ― 夫人』ネタバレがあります。 |
(あらすじから)
家に運び込まれたキャロルの命は、助からなかった。
戦闘から戻ったヴィンは、すでにその事実を知っていて、静かにそれを受け止めた。
数日後、廃墟と化した教会では葬儀が執り行われていた。
あの日の空襲によって、バラの優勝者バラード駅長を始め、多くの村人が犠牲となっていた。
憔悴し切ったベルドン老婦人の傍らにはヴィンが寄り添っていた。
神父の説教が始まる。
イギリスのこの静かな一角の我々、この教会界隈の私達にとって、非常に大切な友人を失いました。教会聖歌隊員のジョージ・ウェスト、駅長兼バラ栽培家(ベルリンがー)のジェームズ・バラード、そして彼が亡くなるわずか1時間前には、彼の美しいバラ「ミニバー夫人」でベルドンカップの誇り高き勝者でした。
そして、たった2週間前にこの祭壇で結婚した少女の残酷な喪失を分かち合う、両家の家族に心からお見舞いを申し上げます。私たちの多くの家は破壊され、老いも若きも命を奪われました。心を痛めていない世帯はほとんどありません。なぜ?と、間違いなく、あなた方は自らに問いかけたに違いありません。なぜ、完全に良識的な人々が、こう苦しむ必然性があるでしょうか?子供、お年寄り、彼女の愛らしさの頂点にいた若い娘に?なぜその人々に?彼らは私たちの兵士でしょうか?彼らは我々の戦士でしょうか?なぜ彼らは犠牲になったのでしょうか?
その理由をお話ししましょう。これは軍服を着た兵士のみの戦争ではないからです。それは皆の、全ての人々の戦争なのです。そしてそれは戦場だけでなく、都市や村、工場や農場、家庭において、自由を愛する、全ての男性、女性、そして子供達の魂に対する闘いなのです。さて、我々は死者を葬りました。しかし我々は彼らを忘れません。それどころか、彼らは我々を打ち倒すかも知れない専制政治と恐怖から、我々自身と我々に続く人々を解放するという、断固とした我々の決意を鼓舞します。これが国民戦争です。これは我等の戦争です。我等は兵器です。だから戦うのです!我等の中にある全てのもので戦うのです!そして、神が権利を守ってくださるよう祈るのです。
参列者が立ち上がって「見よや十字架の兵士」を歌い出した。
映画『ミニヴァ― 夫人』結末 |
その歌声の流れる教会の、穴の開いた屋根から、イギリス空軍の戦闘機が編隊を組み飛び過ぎて行った。
それはV=ヴィクトリーフォーメーションと呼ばれる隊列だった・・・・・・・
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