原題 From Here to Eternity 製作国 アメリカ 製作年 1953 上映時間118分 監督 フレッド・ジンネマン 脚本 ダニエル・タラダッシュ 原作 ジェームズ・ジョーンズ |
評価:★★★ 3.0
この映画は、一種保守的な男達と、それを許す女達の恋物語だと感じました。
主人公プルイットの名前に込められた意味を探ると、そんな頑固な男たちの姿が浮かび上がります。
そして、1950年代のアメリカ社会は、そんな保守的な男女の価値観が許された、最後の時代だったのです。
<目次> |
映画『地上より永遠に』あらすじ |
1941年ハワイオアフ島の陸軍歩兵舞台に着任したのはロバート・E・リー・プルーイット(モンゴメリー・クリフト)だった。彼はラッパ兵だったがコネでその座を奪われ、自ら降格し歩兵に転属してきた硬骨漢だった。そこで親友のアンジェロ・マジオ(フランク・シナトラ)二等兵に会い、直属の曹長ミルトン・ウォーデン(バート・ランカスター)に会った。曹長は中隊長ダナ・ホームズ大尉(フィリップ・オーバー)にプルーイットを引き合せた。ホームズ大尉は、ボクシングチームの監督を勤め優勝すれば昇進できると見て、プルーイットのボクサーとしての過去の実績を知り、執拗に勧誘したが、プルーイットはボクシングで失明させた過去から誘いを拒否した。そして、その日からボクシングチームのメンバーから壮絶なイジメを受ける事になった。そんなプルイットはバーで出会ったホステス、ロリーン(ドナ・リード)と恋仲になった。また曹長ウォーデンも、ホームズ大尉の妻カレン(デボラ・カー)と不倫の関係を持つようになった。
そんな時プルイットの親友のマジオは、軍規を破り営倉に入れられたが、営倉看守長の軍曹ジャドソン(アーネスト・ボーグナイン)と確執があったため、日々虐待を受け続けた。彼は、ついに営倉から脱走すると、プルイットの腕の中で絶命した。プルイットは敵討ちにジャドソンと決闘を決意し、相手を殺すが自分も傷を負いロリーンの家に転がり込んだ。曹長のウォーデンはプルイットを気遣いつつ、カレンとの関係に苦悩していた。そして、日本軍の真珠湾攻撃が始まった−
映画『地上より永遠に』予告 |
映画『地上より永遠に』出演者 |
ミルトン・ウォーデン曹長(バート・ランカスター)/ロバート・E・リー・プルーイット(モンゴメリー・クリフト)/カレン・ホームズ(デボラ・カー)/ロリーン:アルマ(ドナ・リード)/アンジェロ・マジオ(フランク・シナトラ)/ダナ・ホームズ中隊長(フィリップ・オーバー)/ファツォー・ジャドソン(アーネスト・ボーグナイン)/バックリー伍長(ジャック・ウォーデン)/ガロヴィッチ(ジョン・デニス)/スターク軍曹(ジョージ・リーヴス)
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映画『地上より永遠に』考察リー将軍と南部の意味するモノ |
この点は私の知識不足で、アメリカの南部の持つ意味、南北戦争のリー将軍のイメージが、今一つ理解できてないので作品内の意味合いが不明瞭で、消化不良を感じました。
実を言えば私個人がアメリカ南部をイメージするのは、やはり映画の情報からで、それで見る限りあまり好ましい印象ではありません。
それは、『アラバマ物語』や『ドライビング・ミスディジー』など激しい黒人差別と、『フライドグリーントマト』や『フィラデルフィア』に見るような、LGBTなど性差別が顕著な地域だと感じます。
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同時に、キリスト教的保守主義が強く、人工中絶を認めず、アメリカに移住を始めた当時のピューリタン的原型を色濃く残している地域なのだといいます。
アメリカの歴史家ハワード・ジンは「南部はアメリカとは異質と思われがちだが、実はこの国の本質なのである。異質に見えるのはアメリカ人の悪い所ばかりが凝縮されているからである」(『The Southern Mystique』1964年)と書いています。
どうやら、アメリカ南部とは「悪名高い地域」であるのと同時に「原アメリカ的地域」でもあるようです。
そして、その象徴が南軍の敗将ロバート・E・リー将軍なのです。
ロバート・エドワード・リー(Robert Edward Lee、1807年1月19日 - 1870年10月12日)は、南北戦争の時代のアメリカの軍人、教育者。南部連合の軍司令官を務め、物量や国力において圧倒的に強大だった合衆国側の北軍を大いに苦しめた。最終的には敗北したが、アメリカ史上屈指の名将として評価が高い。(wikipediaより)
南部では、リーは南北戦争後になって戦中よりもさらに尊敬されるようになったようです。
歴史家のエリック・フォナーは、彼の死を受けてこう書いています。
「リーは南部の大義の具現者になった。1世代の後、彼は国民的英雄になった。1890年代と20世紀初頭には、復興後の南部で白人至上主義が定着し、南部の人種的態度は広範に受容された。」
結局、この映画の南部出身の主人公プルイットのキャラクターに対する、ウォーデン曹長と恋人ロリーンのシンパシーとは、「原アメリカ的世界」、古き良きアメリカの価値観を追認する心理だったと思います。
それは、アメリカ的価値を守るために命をかけて戦った、南北戦争の英雄リー将軍の、頑固さ、一徹さを、主人公に仮託して描いたものであり、その自らの信念に殉ずる男の姿だと見えます。
それは、世界共通で「旧弊な価値体系」としてあった、「男権主義」「家父長制」のアメリカ的表れだと思います。
そんなアメリカ的価値観の極端な例が「西部劇」だったと感じます。
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そんな価値観をプルイット、そしてウォーデン曹長は付与されていて、愛する恋人よりも、自らの信念を貫く選択をします。
つまりこの映画の二人の主人公、プルイットとウォーデンは共に、南部的「アメリカの原型」に価値を置き、そのために命をかける保守的な男達なのです。
特に、このプルイットの、上官に圧力を掛けられても己の信念を曲げない姿とは、1950年代のアメリカ社会に吹き荒れた「マッカーシズム=赤狩り」を思い起こすとき、深い意味が込められていたようにも思えるのです。
つまり1950年代にあっては、むしろリー将軍は「男を貫いた男」として評価されていたからこそ、この映画のテーマを際立たせるものとして象徴的に使われたのだと思います。
しかし、1960年代の公民権運動以後、南北戦争後に白人至上主義の象徴のようになっている、リー将軍は歴史的な反動勢力として非難されるようになり、たぶん今なら絶対使わない名前だろうと思いますが・・・・・
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映画『地上より永遠に』考察古典的恋愛ドラマと男権 |
そして、そんな彼らを愛した女達は、そんな男達だと知りながら愛さずにはいられないのでしょう・・・・
そんな、頑固に生きる男達こそが、最も「男らしい」と見なされる時代があったのです。
その時代に生きていた女達は必然的に、そんな男達を愛し、そして傷つく運命を甘んじて受け入れてくれていたのでしょう・・・・・
つまりこの『地上より永遠に』は、男達が男として君臨していた時代の物語であり、そんな時代の恋愛劇なのです。
それは「家父長制」や「男権主義」で、男達が社会の中枢を担っていた時代の恋愛の姿であり、その時代を代表する「男」と「女」の理想形だったように思います。
そんな事実を、改めて確認したのも、実はクリント・イーストウッド監督の名作『許されざる者』のラストシーンによってでした。
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そこでは、西部劇の男権主義の権化のような男が、妻から愛されていたと語られていたのです―
やはり、アメリカの男達のノスタルジーは、そんな「男らしい男」と、それを許し愛する「女らしい女」にあるのではないかと想像したりします・・・・・
もっとも、1950年代以降、アメリカの女性達には、そんな男達の独りよがりに付き合ってくれなくなります。
戦争中、戦争に行った男達に代わって、労働を担い社会に進出したアメリカ女性達は、もはや主婦に戻ることに満足できませんでした。
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そんな男女の価値観の変化を明瞭に語った映画こそ『ローマの休日』だったと思います。
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更には「セックス革命」の起きた1960年代に入れば、男達の都合に合わせるどころか、私達の意志に従いなさいと「ウーマン・リブ」運動で男達を追い詰め、オールドスタイルの恋愛劇は終焉を迎えるのでした・・・・・
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こんな旧い価値観の崩壊による男女の恋愛事情の変化は、実は日本映画でも描かれていたと思えます。
高度成長期が終わり、男達の地位が下がって行くに従い、女達の恋も変化せざるを得なかったのです。
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映画『地上より永遠に』評価価値観の変化と映画評価 |
その点で現代的価値観「男女同権」「ジェンダーフリー」が叫ばれる今となっては、充分この映画の悲恋が理解されないのではないでしょうか。
仮にそういう時代で、そこに生きる男女の恋だと理解しても、それらの「旧い」価値観を認められないとすれば、この映画が語るメッセージは響かないだろうし、その恋を悲劇として受け入れ難いでしょう・・・・・・
それゆえ、自分の価値観を基準にすれば、この映画の「キスシーンの鮮烈さ」に眼を奪われつつも、オールドファッションの映画だと言わざるを得ず、この評価となりました。
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