2021年02月02日

映画解説『地上より永遠に(ここよりとわに)』米国陸軍の厳重監視!製作の裏側/感想・考察・原作小説との違い・簡単あらすじ

映画『地上より永遠に』感想・解説 編

原題 From Here to Eternity
製作国 アメリカ
製作年 1953
上映時間118分
監督 フレッド・ジンネマン
脚本 ダニエル・タラダッシュ
原作 ジェームズ・ジョーンズ


評価:★★★  3.0



この映画は、公開当時に観客と批評家双方から絶賛された映画でした。

1953年のハリウッド映画として、軍隊内の不正を描くのは挑戦的な試みだと思いますが、実はアメリカ陸軍から強い横槍を受けながらの製作だったようです。

更にはアメリカ映画界の倫理規定「ヘイズコード」もあり、手かせ足かせを架せられた状態で作られた映画だったのです。

今見れば、正直喰い足りない感じもしますが、逆にその規制の中でガンバって結果を出した、その努力に賞賛を送るべきでしょう。
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<目次>
映画『地上より永遠に』ネタバレなし簡単あらすじ
映画『地上より永遠に』予告・出演者
映画『地上より永遠に』感想・解説
映画『地上より永遠に』考察

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映画『地上より永遠に』あらすじ


1941年ハワイオアフ島の陸軍歩兵部隊に着任したのはロバート・E・リー・プルーイット(モンゴメリー・クリフト)だった。彼はラッパ兵だったがコネでその座を奪われ、自ら降格し歩兵に転属してきた硬骨漢だった。そこで親友のアンジェロ・マジオ(フランク・シナトラ)二等兵に会い、直属の曹長ミルトン・ウォーデン(バート・ランカスター)に会った。曹長は中隊長ダナ・ホームズ大尉(フィリップ・オーバー)にプルーイットを引き合せた。ホームズ大尉は、ボクシングチームの監督を勤め優勝すれば昇進できると見て、プルーイットのボクサーとしての過去の実績を知り、執拗に勧誘したが、プルーイットはボクシングで失明させた過去から誘いを拒否した。そして、その日からボクシングチームのメンバーから壮絶なイジメを受ける事になった。そんなプルイットはバーで出会ったホステス、ロリーン(ドナ・リード)と恋仲になった。また曹長ウォーデンも、ホームズ大尉の妻カレン(デボラ・カー)と不倫の関係を持つようになった。
そんな時プルイットの親友のマジオは、軍規を破り営倉に入れられたが、営倉看守長の軍曹ジャドソン(アーネスト・ボーグナイン)と確執があったため、日々虐待を受け続けた。彼は、ついに営倉から脱走すると、プルイットの腕の中で絶命した。プルイットは敵討ちにジャドソンと決闘を決意し、相手を殺すが自分も傷を負いロリーンの家に転がり込んだ。曹長のウォーデンはプルイットを気遣いつつ、カレンとの関係に苦悩していた。そして、日本軍の真珠湾攻撃が始まった−
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映画『地上より永遠に』予告

映画『地上より永遠に』出演者

ミルトン・ウォーデン曹長(バート・ランカスター)/ロバート・E・リー・プルーイット(モンゴメリー・クリフト)/カレン・ホームズ(デボラ・カー)/ロリーン:アルマ(ドナ・リード)/アンジェロ・マジオ(フランク・シナトラ)/ダナ・ホームズ中隊長(フィリップ・オーバー)/ファツォー・ジャドソン(アーネスト・ボーグナイン)/バックリー伍長(ジャック・ウォーデン)/ガロヴィッチ(ジョン・デニス)/スターク軍曹(ジョージ・リーヴス)

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映画『地上より永遠に』感想


欧州の映画界にあっては1930年代より、深刻な問題をドイツやイタリアが描き出したのは、やはり第一次世界大戦の混乱が深かったからでしょう。

そして第二次世界大戦後の敗戦国でも、イタリアの「ネオ・リアリズモ」に代表される、戦争の悲惨や、貧困と混乱の社会問題を問い社会変革を促す作品が現れます。
イタリア映画:1948年
『自転車泥棒』
イタリア・ネオ・リアリズモの代表作!
第二次大戦後の貧窮のイタリア社会描いた古典

また、勝戦国であっても、多かれ少なかれ損害を被った国々は、例えばフランスの『禁じられた遊び』であったり、イギリス主体の映画『戦場にかける橋』などの映画を見れば、そこには戦争に対する反省と悔悟を感じます。
イギリス、アメリカ合作映画:1957年
『戦場にかける橋』
実話を元にした日本軍捕虜収容所の物語
アレックギネス監督のアカデミー受賞作

その一方で、戦争に一人勝ちしたと言われたアメリカ合衆国が描いたのは、勝利を誇示する戦勝記念映画の印象が強いのです。
その明るく壮大な映画は、ハリウッドメジャーの過去の作品を踏襲した楽天性と娯楽性を感じます。

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そんな中、アメリカが描いた戦争への否定的な主張が見えるのが、この『地上より永遠に』です。

しかし、その否定はアメリカ陸軍の不正を告発するもので、戦争自体を悪とは見なしていないように見えます。
それは戦後撮られた、アメリカのために命を賭して戦った者達が、帰国し失望を抱える『我らの生涯最良の年』(1946)や、『G・I・ジョウ』(1945)などの映画にしても、アメリカ兵の苦悩を描きはしますが、やはり戦争の存在を否定し、異議を唱える映画とは感じません。

結局、アメリカで撮られた第二次世界大戦後のハリウッド戦争映画の否定は、悪いのは戦争ではなく、その戦争を戦うための「軍隊組織」や、戦争終了後の「戦後補償」の至らなさ、つまりアメリカ国内戦時体制によって発生した歪みを悪だと語っているのです。
むしろ、この『地上より永遠に』では、戦争という事件は、悲恋を盛り上げるための背景に過ぎないとすら見えます。

基本的に1945年以降の数十年間、ハリウッドは『戦場』(1949)や、『史上最大の作戦』(1962)や『パットン大戦車軍団』(1970)など米軍を英雄的に描き、戦争の凱歌を謳う物語を制作し続けて来たのです。
つまり、アメリカ合衆国にとって「第二次世界大戦」とは、国家としての繁栄と勝利を確定づけた「祝祭」にすぎなかったのではないかと、飛躍した想念さえよぎりました。

更に言えば、戦後アメリカが戦争を「絶対悪」として総括しなかったがゆえに、アメリカは朝鮮戦争を始め、飽かずに世界のそこかしこで闘い続ける国になったのではないでしょうか・・・・・・・・・
それはこの映画が、戦争という「世界の破壊」以上に、軍隊のいざこざや、男女の恋愛がメインテーマとして描かれる事の、そんな一種利己的な問題が優先されている事の異様さから、そう思えるのです。

それはベトナム戦争後の、アメリカ映画が描いた戦争に「戦争の痛み」が間違いなく刻まれている事と較べると、明らかな相違があります。
アメリカ映画:ベトナム戦争の
『プラトーン』
オリバー・ストーンの自伝的物語
ベトナム戦争の敗北の真実

けっきょく、勝者とは「闘うことの悼み」を感じないものなのかもしれません。

この映画史に残る、エロチックなキスシーンを見ながら、勝った者には「戦争の果実」は甘いのだろうと想像しました・・・・・・・・・・
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映画『地上より永遠に』解説

原作小説との違いと検閲

この映画は原作と較べ、アメリカ陸軍内の悪や不正を厳しく糾弾しているのに較べ、明らかにマイルドでソフトに表現されました。
それは、二つの団体「アメリカ合衆国陸軍」とアメリカ映画倫理規定「ヘイズ・コード」が、この映画の自由表現を妨害し規制したためでした。
関連レビュー:ヘイズコードとは?徹底解説!
『陽のあたる場所』
アメリカの光と影を描いて、第24回アカデミー賞6冠!!
ハリウッド古典映画と倫理規定ヘイズコードとの関係

そんな検閲の下、どう変更を加えられたかを、以下で検証してみましょう。

プルイットの恋人ローレンは娼婦だった!

小説では、ローレンは売春宿の娼婦でした。
映画では、ロレーンは酒場のホステスに置き換えられています。
これはヘイズコードの検閲が売春婦として描くことを許さなかったためです。

ウォーデンの恋人カレンが子宮を失った原因とは?

映画では、カレンの子宮摘出術は流産したためとされています。しかし小説では夫ホームズ大尉が、女遊びの果て、淋病を彼女に感染させたため引き起こされています。映画で性病の設定が無くなったのは、映画検閲の基準を満たすためでした。

小説にはゲイの兵士が描かれていた!


小説では兵士間の同性愛が描かれ、その関係による1兵士の自殺が書かれていました。
映画では、同性愛についての言及はありません。変更はコードオフィスの検閲の結果です。

浜辺のキスシーンが消されそうに!

デボラ・カーとバート・ランカスターの、映画を代表する浜辺のキスシーンは、監督フレッド・ジンネマンが撮影現場で思いついた映画のオリジナル設定でした。しかし、裸で濡れた体で交わされた熱いキスは、ヘイズコード・オフィスにスキャンダルを引き起こし、検閲官はランカスターの水着の上にバスローブを着るように求め拒否されると、デボラー・カーの水着をスカート付きにするよう求められました。

ホームズ大尉は昇進した!

小説ではホームズは昇進し、連隊から栄転します。映画のプルーイット虐待の罰で辞任に追い込まれる結果とは、ホームズ大尉の扱いはまるで違っています。これは、アメリカ陸軍の要求により変更されました。
ジンネマン監督は後に、ホームズ馘首シーンは「映画の中で最悪の瞬間」で「見るたびに気分が悪くなる」と述べています。

ジャドソンのマジオ虐待シーン

小説では、ジャドソンがマジオと他の囚人に組織的な虐待を加える様子が、詳しく描かれています。しかし、映画では、マジオの虐待の直接描写はなく、プルーイットに言葉で告げられるように変更されました。
陸軍は、マジオ虐待を直接描かない事、そして虐待に陸軍関与はなく、ジャドソン個人のサディズムの結果として描かれることを要求した。

マジオは生きていた!

小説ではマジオともう1人の囚人が描かれ、ジャドソンに殺されるのはマジオではありませんでした。(小説のマジオは無事開放されています)。映画で死ぬマジオの死因を、ジャドソンの虐待とするのは、実際描写を避けた上でも陸軍は喜ばなかった。そこで、マジオは脱走中トラックからの落下が、致命傷となったかのように描かれた。

アメリカ陸軍は協力クレジットを拒否した

さまざまに変更を加えても、結局、陸軍は完成した映画の描写に不満で、オープニングクレジットでその名前を使用することを拒否しました。
海軍もまた、軍を侮蔑的に扱い、軍に対する信用を損なうとして、海軍兵士に映画を禁止しました。

ここまで横槍を入れられても、陸軍の協力を求めた理由は、ハワイのショフィールド兵舎のロケ撮影、飛行機の使用、映画で使用した真珠湾の記録映像の使用、および制作費の削減のためでした。

しかしその代償は大きく、これらのさまざまな検閲により、本来小説の持つ軍隊組織の歪みや不正を正すというテーマ性は、弱くなってしまいました。

原作者のジェームズ・ジョーンズが、映画の出来栄えに失望したのも無理はありません。

それでも、アカデミー賞ノミネートは13部門に上がり、主要賞を含む8部門で受賞するクオリティーに仕上げたのは、製作陣の努力の賜物だと思いました。

その、アカデミー賞スピーチでは監督とプロデューサーが、陸軍の協力に対して感謝の言葉を述べていますが・・・・・・

そこには大人としての節度を感じました。

第29回アカデミー賞・作品賞スピーチ

プレゼンターはセシルB.デミル
ノミネート作品を紹介
地上より永遠に/ジュリアス・シーザー/聖衣/ローマの休日/シェーン

受賞作は地上より永遠に
【受賞スピーチ・意訳】
バディ・アドラー(地上より永遠にプロデューサー):感謝します。1953年の映画界は、我等の産業の素晴らしいフィルムをいくつか発表しました。私はその業界の一員であることを誇りに思っており、アカデミーのメンバーから『地上より永遠に』が最優秀作品賞に選ばれたことを非常に光栄に思っています。米国陸軍、彼らの多大な協力に対して。素晴らしい脚本、ダン・タラダッシュに。フレッド・ジンネマン、インスピレーションある監督。コロンビアピクチャーズの社長であるハリーコーンに、彼の自信と信頼に感謝します。そして他の多くの仲間に、感謝します。
関連レビュー:オスカー受賞一覧
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
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posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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