2020年12月17日

映画『イングロリアス・バスターズ』の実話を紹介!!現実と虚構のバトルロイヤル/解説・考察・ネタバレなしあらすじ

映画オタク・タランティーノの戦争映画コラージュ

原題 INGLOURIOUS BASTERDS
製作国 アメリカ
製作年 2009年
上映時間 152分
監督 クエンティン・タランティーノ
脚本 クエンティン・タランティーノ


評価:★★★★  4.0点



この戦争映画の過激なコラージュ作品は、痛快なタランティーノ的「娯楽フィクション」として楽しみました。

しかし、この現実に発生した第二次世界大戦という事件を扱うにあたって、タランティーノは歴史上の事実すらうっちゃっています。

その、歴史すら書き換えてしまう「フィクション至上主義」に敬意を表しますが、実はこの映画に登場する「ユダヤ人特殊部隊」には実話モデルが存在したのでした・・・・・・

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<目次>
映画『イングロリアス・バスターズ』簡単ストーリー
映画『イングロリアス・バスターズ』予告・出演者
映画『イングロリアス・バスターズ』解説
映画『イングロリアス・バスターズ』実話/アメリカ軍グリーン・アップ作戦
映画『イングロリアス・バスターズ』実話/英国軍ユダヤ人旅団
映画『イングロリアス・バスターズ』実話/特別尋問グループ(SIG)
映画『イングロリアス・バスターズ』実話/ユダヤ人パルチザン「ナカム」
映画『イングロリアス・バスターズ』考察

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映画『イングロリアス・バスターズ』簡単あらすじ

昔々フランスはナチスに占領されていた・・・・・
1941年、フランスの田舎町ナンシー。ナチスのハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)は“ユダヤ・ハンター”として、一軒の農家を訪れた。その主人は、床下にユダヤ人一家を匿っていたのだ。ランダ大佐は部下に一斉射撃を命じた。しかし、ユダヤ家族でただ1人、ショシャナ(メラニー・ロラン)は死を免れ、その地から姿を消した。一方ドイツと対峙する連合軍には、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)が率いるユダヤ系アメリカ人を中心にした“イングロリアス・バスターズ(栄光無き野郎ども)”と呼ばれる極秘部隊が組織された。ナチスへの復讐に執念を燃やすその部隊は、ドニー(イーライ・ロス)やヒューゴ(ティル・シュヴァイガー)といった徹底した報復でドイツ軍に恐れられていた。
1944年のパリ。ユダヤ一家の生き残りショシャナは、映画館主となり暮らしている。そのショシャナに恋をしたドイツ軍狙撃兵フレデリック(ダニエル・ブリュール)はイタリア戦線の英雄で 、自ら主演の映画『国民の誇り』のオープニング上映を、彼女の映画館で行うことで気を引こうとする。そして、その上映にはナチス高官が揃い、ゲッベルス宣伝大臣(シルヴェスター・グロート)ヒトラー総統(マルティン・ヴトケ)そしてヒットラー総統も姿を現すという。
その情報を掴んだレイン中尉らバスターズは、イタリア人の振りをして、ドイツ女優、実はイギリスのスパイであるブリジット(ダイアン・クルーガー)と共に乗り込んだ。一方ショシャナは映画上映のさいに、ヒットラーもろとも映画館を焼き尽くす復讐を決心した・・・・・・・・・・・・
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映画『イングロリアス・バスターズ』予告

映画『イングロリアス・バスターズ』出演者

アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)/ドニー・ドノウィッツ(イーライ・ロス)/ヒューゴ・スティーグリッツ(ティル・シュヴァイガー)/ヴィルヘルム・ヴィッキ(ギデオン・ブルクハルト)/スミッソン・ウティヴィッチ(B・J・ノヴァク)/オマー・ウルマー(オマー・ドゥーム)/ヒルシュベルク上等兵(サム・レヴァイン)/マイケル・ジマーマン上等兵(マイケル・バコール)/ショシャナ・ドレフュス:エマニュエル・ミミュー(メラニー・ロラン)/マルセル(ジャッキー・イド)/ペリエ・ラパディット(ドゥニ・メノーシェ)/地下酒場の主人(クリスチャン・ベルケル)/バルベット(ジャナ・パラスキー)/シャーロット・ラパディット(レア・セドゥー)/司令部無線の声(ハーヴェイ・カイテル)/アーチー・ヒコックス中尉(マイケル・ファスベンダー)/エド・フェネク将軍(マイク・マイヤーズ)/ウィンストン・チャーチル首相(ロッド・テイラー)/ブリジット・フォン・ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)/ハンス・ランダ親衛隊大佐(クリストフ・ヴァルツ)/フレデリック・ツォラー国防軍一等兵(ダニエル・ブリュール)/ヘルシュトローム親衛隊少佐(アウグスト・ディール)/フランチェスカ・モンディーノ(ジュリー・ドレフュス)/ヨーゼフ・ゲッベルス宣伝大臣(シルヴェスター・グロート)/アドルフ・ヒトラー総統(マルティン・ヴトケ)/ラハトマン軍曹(リチャード・サメル)/ブッツ二等兵(ソンケ・モーリング)/エミール・ヤニングス(ヒルマー・アイヒホルン)/ウィルヘルム曹長(アレクサンダー・フェリング)/ウルフギャング大尉(ルドガー・ピストール)/プレミア上映会の将軍(エンツォ・G・カステラーリ)/ドイツ軍兵士(クエンティン・タランティーノ)アメリカ軍大佐役(ボー・スヴェンソン)/アメリカ軍兵士役(クエンティン・タランティーノ)/ナレーション(サミュエル・L・ジャクソン)

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映画『イングロリアス・バスターズ』解説

「ユダヤ人特殊部隊」の実話


実はこの映画で描かれた、ユダヤ人を隊員とした特殊部隊は、事実、第二次世界大戦で組織されていたのです。

その紹介を、以下にさせて頂きます。

<米国・グリーンアップ作戦>

1940年代の初め、米国戦略サービス局(OSS)は、ナチス占領下のヨーロッパに潜入するためにドイツ語を話すユダヤ人のグループを募集した。
OSSに採用された幹部は、主に、家族が戦前にヨーロッパからアメリカに逃げてきた若いユダヤ人で構成された。彼らの言語スキル(ドイツ語や他の欧州言語に堪能)は、スパイ活動の要だった。彼らはドイツ占領下の地域でゲシュタポに捕れば、ユダヤ人として即刻処刑されれる運命を冒しても任務に赴いた。

ing_green_P.png(チロルのOberperfuss村にいるハンス・ウィンバーグとフレッド・マイヤー)

1945年の真冬、ドイツ生まれのフレッド・マイヤー、オランダ生まれのハンス・ウィンバーグ、元ドイツ国防軍の将校フランツ・ウェーバーがオーストリア・アルプスにパラシュートで降下し、インスブルックの近くの村のウェーバーの家族がいる家に潜んだ。
戦いの帰結が見えて来た連合国の目標は、少ない被害の早期の終戦にあった。そのため、グリーンアップの使命は、連合国の爆撃機が効果的にドイツ軍戦力を破壊すべく、ドイツ軍の動き、補給線や列車のスケジュール、および弾薬庫に関する情報を収集することにあった。

マイヤーはドイツ軍の制服を着て、ドイツ軍の将校クラブに潜入し、共に酒を酌み交わした。そこで、ヒトラーのベルリンの地下壕、ドイツの軍用機の生産、人と物資の移動に関する情報など、極秘事項を聞き出すことに成功した。
その後、マイヤーはフランス人の電気技師の身分を偽装し、地下の軍需工場に潜入する許可証をも入手した。その後捕らえられ三日三晩、苛烈なゲシュタポの拷問を受けたが、彼は単独行動だと言い続け仲間のスパイの名前は明かさなかった。
しかし1945年4月を迎え、ドイツ軍将校は彼らが負けた事を知って、ロシア人ではなくアメリカ人に降伏したいと考えた。そこで、マイヤーを通じOSS隊長アレン・ダレスに降伏の仲介を依頼した。

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1945年5月3日メイヤーは、独軍が降伏し米軍による占領下のインスブルックで自由の身となった。
マイヤーは名誉勲章に2回候補として挙げられたが、格下の勲功章の受領にとどまった。人種差別的な理由がそこにあったとされ、オバマ大統領の時代、同様の格下げを受けた人々と共に、名誉勲章を授与した。
マイヤーは2016年に94歳で亡くなった。
(写真2013年のマイヤー)

マイヤーは、オーストリアの活動でドイツ軍の降伏を早め、おそらく両国の数千人の兵と民間人の命を救った。
CIAの元局長ウィリアム・ケイジーは、グリーンアップ作戦を第二次世界大戦で最も成功した作戦と呼んだ。

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<英国ユダヤ人旅団>

第二次世界大戦の1944年後半にユダヤ系イギリス人により組織された英国の歩兵旅団。当時イギリスの委任統治領だったパレスチナに住むユダヤ人から採用され、ユダヤ人の将校によって指揮された。イタリア戦線の後期から実線に投入され1946年に解散した。
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残虐なナチスのホロコーストの情報は、1942年の春から初夏の間に連合国が掴み公表した。英国首相ウィンストン・チャーチルは、米大統領 フランクリン・D・ルーズベルトに電報で「すべてのユダヤ人民族は、明確な軍組織としてドイツ人を攻撃する権利を持っていると思う。」と発信し、大統領も「異議はない」と返信している。

しかし部隊編成は遅れ、1944年7月3日になり英国政府は、ユダヤ人旅団の設立に同意し、1944年9月20日に戦争省から英国陸軍ユダヤ人旅団グループの結成が発表された。ユダヤ人軍隊本部はエジプトに設立され、軍旗としてシオニストフラグ(ろくぼうせい)が正式に承認された。
パレスチナから5,000人以上のユダヤ人志願兵が集まり、3つの歩兵大隊として編成された。


1944年11月にイタリア戦線に参加し、1945年イタリアでの最前線に投入された作戦期間には、30人が死亡、70人が負傷という犠牲を払った。
ユダヤ人旅団は、戦後イタリア、ユーゴスラビア、オーストリアの国境の三角形の近くのタルヴィージオに駐留し、ホロコーストの生存者を探し援助を提供し、パレスチナへの移民を支援した。


また、ドイツ降伏の前後の混乱の中、イギリスにより禁止されていた、欧州のホロコースト生存者をパレスチナへと脱出させる援助を積極的に担った。不法移民であるユダヤ人民間人にイギリス陸軍の制服と文書を提供し、その脱出を助けた。
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<特別尋問グループ(SIG=Special Interrogation Group)>

第二次世界大戦中のイギリス軍の、委任統治領パレスチナにいたドイツ語を話すユダヤ人ボランティアによって組織された。SIGは、北アフリカの砂漠戦線で枢軸国軍に対し、特殊任務と妨害活動を行った。
SIGは、砂漠の横断、武器無しの戦闘、ドイツ軍の武器や爆発物の取り扱いについて訓練を受け、偽のドイツ人の身分を与えられ、ドイツ軍の行進曲と当時のドイツ語のスラングを教えられた。彼らのスパイ破壊活動の使命のため、ドイツのタバコ、チョコレート、そしてドイツ人の恋人からのラブレターも偽造され供与された。

ing_sig_ww2.jpg3任のSIG隊員 (左から: Dov Cohen, Philip Kogel, Dolph Zeintner)
SIGは、捕獲されたドイツ車を使いバルディア近くのドイツ軍の背後でドイツの憲兵に扮し、ドイツの輸送部門に入り質問し、重要な軍事情報を収集した。
1942年6月3日にSIGは、イギリスの補給船団を攻撃するドイツ軍飛行機隊の基地を破壊するため、デビッド・スターリング中佐の特殊空挺部隊が攻撃する手助けをする使命を与えられた。

しかし、外人部隊から採用されたユダヤ人ではない隊員、ヘルベルト・ブリュックナーの裏切りにより作襲撃は失敗し、イギリス軍は3隻の船と数百人の兵士と海兵隊を失った。生き残ったSIGメンバーは別部隊に転属となり、部隊は解散となった。
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<ナカム>

終戦直後のオーストリアで、ナチス親衛隊を追跡し殺害したユダヤ人の組織「ナカム(Nakam:ヘブライ語で復讐)」があった。
「アベンジャーズ」または「ユダヤ人アベンジャーズ」とも呼ばれる、ナチスを標的としたユダヤ人パルチザン(民間兵)である。
戦後の1945年、ホロコーストに対する報復として、ドイツ人の殺害を計画した約50人のホロコースト生存者の一団。アバ・コフナーをリーダーとするこのグループは、「民族対民族の報復」として、無差別の復讐を計画した。
ing_nakamu.jpgユダヤ人パルチザン、ナカムのメンバー。リーダーのコブナーは後列左から4人目。

ユダヤ人600万人のホロコースト被害者と同数のドイツ人600万人の殺害を計画した。そのため水道管に毒物を混入する計画を立て、毒をパレスチナで確保し、ニュルンベルクの水システムへの侵入路も確保した。しかし、リーダーのコフナーが欧州に戻った時イギリス政府に逮捕され、毒は没収され計画は頓挫した。

次にグループの残りは、米国軍のドイツ捕虜を殺害する「B計画」を進める。彼らはヒ素を入手し、数千人のSS捕虜の食事を供給するKonsum-Genossenschaftsbäckerei(消費者協同組合ベーカリー)のパン3,000斤に混入した。結果的にラングヴァッサー収容所で2,000人以上のドイツ人捕虜を腹痛で苦しめたが、それに起因する死亡者は不明である。実行犯のナカム・メンバー2人はテロ実行犯として当局に逮捕されたが、ドイツの検察官はホロコーストを考慮し、訴訟を却下した。

英国軍のユダヤ人もナカムに関与しており、そのメンバーの1人は証言し、英国陸軍のユダヤ人旅団に組み込まれたユダヤ人兵士のほとんどが「ナカム」作戦に従事しており、英国兵としてドイツ兵を尋問し、その後ユダヤ人だと知らせ処刑して行った。「こういった事を何度もやった。ほかにも同様の作戦を行ったグループがいくつかあった」と言う。

ナカムにより殺害されたナチス関係者の人数については、歴史家の間では意見が分かれているが、100〜300人ではないかと言われている。
英国軍内のユダヤ人部隊が復讐劇に加わっているとの噂が流れると、英国参謀本部はユダヤ人旅団をオランダへと移転させた。

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映画『イングロリアス・バスターズ』考察

タランティーノと実話

上で見たように、この映画のアイデアには実話が用いられている。

しかし、個人的な印象では、この映画の軸足はあくまで「フィクション=虚構作品」にあり、現実の実話は単なる素材として扱われていると感じる。

例えば、現実にあった実話にドラマの比重を置くのであれば、それこそホロコーストの悲惨を訴えた『シンドラーのリスト』や『サウルの息子』など、史実の悲劇を中心に表現することも出来た。
関連レビュー:実話を基にしたホロコースト映画
『サウルの息子』
アウシュビッツの知られざる真実!!
ユダヤ人虐殺を担ったユダヤ人「ゾンダーコマンド」とは?


さらに言えば、本来最も過去の事実を直裁に描くのであれば『夜と霧』の如く、ドキュメンタリーとする選択肢もある。
ホロコーストのドキュメンタリー『夜と霧』予告

しかし、タランティーノは、決してその選択肢を選ばない。

それは、彼が「現実の出来事」よりも「虚構のドラマ」に心動かされてきたという、彼の生育暦に起因しているのだろうと、個人的には推測している。

現実の持つ、不明確さ、不確実さ、混乱、混沌、不合理、曖昧さ、無味乾燥さ、凡庸さよりも、「フィクション=虚構」の「明確なテーマ」と「劇的な展開」にこそ心震わせてきた者が持つ、「フィクション=虚構」に対する信頼と信念を感じるのだ。
関連レビュー:タランティーノの「フィクション」とは?
『パルプ・フィクション』

個性的な登場人物が織りなすストーリー
アカデミー脚本賞・カンヌ・パルムドール受賞作品

それは言葉を変えれば、「実話」が人々に訴える力よりも、「フィクション=虚構」の訴求力が勝るとする証明として、タランティーノの作品はあるのであり、その端的な例がこの『イングロリアス・バスター』であるのは、フィクション世界で現実の出来事を書き換えて見せたことで明らかだろう。

それは、虚構世界が現実世界の上位に位置するという、映画作家の明確な宣言である。

実を言えば、昨今の映画には「実話」を売りにした映画のほうが圧倒的に多いと感じるが、それに抵抗するかのように「フィクション至上主義の作家」の映画にこそ、個人的には強い魅力を感じる。

例えば、現代アメリカ映画界の「フィクション至上主義の作家」の雄コーエン兄弟は、現実の素材を元に『ファーゴ』を取り上げたが、そこでは虚実のハザマで観客を引きずりまわしたあげく、フィクションの力を語って見せた。
アメリカ映画:1996年
『ファーゴ』
コーエン兄弟のアカデミー賞に輝くクライム・コメディー!!
この映画は嘘か誠か!?実話とフィクションの行方


そして、「リアルな嘘の天才」デヴィッド・フィンチャーは、「フェースブック」という現実を題材にしながら、見事に「フィクション=虚構世界」の仮想世界へと『ソーシャル・ネットワーク』で変換して見せた。
関連レビュー:2010年
映画『ソーシャルネットワーク』
フェィスブック創始者を描くデビッド・フィンチャー監督作品
コンピューター時代の新たな伝記映画の創造!

タランティーノ、コーエン兄弟、フィンチャー、これら3人の「フィクション至上主義」の作品を見るたびに、「フィクション映画」好きの私の魂は共鳴し熱くなるのだ。



posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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