原題 Rebecca 製作国 アメリカ 製作年 1940年 上映時間 130分 監督 アルフレッド・ヒッチコック 脚色 ロバート・E・シャーウッド、ジョーン・シンプソン 原作 ダフネ・デュ・モーリア |
評価:★★★★☆ 4.5点
この映画は人の「恐怖」の本質を、象徴的に描いて見事だと思う。
同時に本作は、暗雲立ち込める時代感が映りこみ、作品を支配していると感じる。
名前を持たないヒロイン「私」を追い詰めるのは、過去の権威と伝統の重みであり、その不在である・・・・
<目次> |
映画『レベッカ』簡単あらすじ |
「私」(ジョーン・フォンテイン)は南仏モンテカルロで英国貴族のマキシム・ド・ウィンター(ローレンス・オリヴィエ)と恋に落ち、結婚しその居城マンダレーへミセス・ド・ウィンターとなって帰った。しかし、そこには家政婦長ダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)や大勢の召使がおり居心地が悪いものだった。そのマンダレーの日々は、ボートの遭難事故で夭折したマキシムの前妻レベッカの影が常につきまとい、徐々に押しつぶられそうになる・・・・・そして、驚愕の真実を知ることになる。
映画『レベッカ』予告 |
映画『レベッカ』出演者 |
「私」(ジョーン・フォンテイン)/マキシム・ド・ウィンター(ローレンス・オリヴィエ)/ダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)/ジャック・ファヴェル(ジョージ・サンダース)/フランク・クローリー(レジナルド・デニー)/ベアトリス・レイシー(グラディス・クーパー)/ジャイルズ・レイシー少佐(ナイジェル・ブルース)/ジュリアン署長 (C・オーブリー・スミス)/ベン(レオナルド・キャリー)/タブス(ラムスデン・ヘイア)/フリッツ(エドワード・フィールディング)/イーディス・ヴァン・ホッパー夫人(フローレンス・ベイツ)/ベイカー医師(レオ・G・キャロル)
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映画『レベッカ』解説空白の呼ぶ恐怖 |
そもそも、生物にとっての最悪の事態とは死であり、それを生む現実の作用、死傷事故であったり、病気、飢餓、天敵の攻撃などは、その対象として全ての生命体が留意する危険である。
しかし、それらの予測し得る危険に対しては、経験を通し事前に備えることが可能だ。
その想定可能な死につながる事態を言い表す心理は、恐怖と言うよりは危険や苦難という言葉で表されるべきだろう。
つまり、それらの想定内の危険を超えて、漠然とした「死」につながり得る何事かが「恐怖」というものの本質だろうと思える。
それは、不可知の恐怖であり、それを生むのが「空白=影=虚像」の存在だ。
人はいつか訪れる死という事象の実態を知らず、またそれがどう訪れるか予期し得ないがゆえに、その見えない、しかし必ず訪れる終焉に対し、あらゆる場所、様々な状況で、その予兆を見出し、心の中に「恐怖」として生みだすのだと思える。
それは、死というものの不可知さゆえに「姿のない何か=空白」であり「漠然とした予兆=影」であり「死の実際の似姿=虚像」として、人の心に住まうのだろう。
「恐怖」とは、普段は無意識に隠ぺいしている「自らの終焉の予兆=死の恐怖」が、意識的表層に浮かび上がり顕在化する瞬間なのだ。
その恐怖の姿を最も端的に描いた作品として、ヒッチコックの『サイコ』を挙げたい。
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それは、死の世界の象徴であり、この映画の登場人物は、多かれ少なかれ、全員その姿を現さない「レベッカ=死」に取りつかれている。それぞれが、それぞれの死を心に秘め、この物語は「レベッカ=死」へと引き寄せられていく。
しかし、その「レベッカの死の真相」が明らかになった時、「不可知の死=恐怖」は「顕在化の死=苦難」へと変わり、主人公の「私」は「苦難」に立ち向かう意志を見せ、死から生へと回帰する。
そして、レベッカの死を「顕在化した死」として捕らえていた、家政婦長ダンバース夫人は「不可知の死=恐怖」に飲み込まれ自ら死へと向かうしかなくなる。
それは「不可知の死=恐怖」を解消するためには、自ら死を体現し、「死の顕在化」を現出することによってのみ可能だと示しているようにも思える。
この映画はそんな「恐怖」の本質を、映像表現の形で見事に語った名作だと感じた。
また同時に、ヒッチコックの映画は構造的な「空白」を持つ「おとぎ話」として語られることで、観客を自らの無意識に引きずりこむ「恐怖」へと誘うのである・・・・・・
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映画『レベッカ』考察第二次世界大戦前夜のアメリカ |
ヒロインはアメリカ人であり、伝統と格式を誇る英国貴族の居城マンダレーに嫁ぎ、その地で夫の死んだ妻の影に怯える。
ここにはアメリカ人の持つ、欧州という旧世界に対する、伝統への憧憬と、その歴史的集積への畏れという、矛盾する2つの心理を感じる。
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しかしそれ以上に、そのヒロインの姿には映画製作当時1940年のアメリカ合衆国を取り巻く社会情勢、歴史的危機を如実に表しているように思える。
欧州の地では、1934年ナチスドイツの党首アドルフ・ヒットラーが総統となり、オーストリアを始め周辺国に侵攻を広げ勢力を伸ばしていたが、フランスやイギリスは対独宥和策を採りその勢力進捗を許していた。
そして、1939年9月ドイツ軍のポーランド侵攻により、英仏はドイツへ宣戦布告したが、この1940年にはドイツ軍の電撃作戦により331,226名の兵(イギリス軍192,226名、フランス軍139,000名)の兵士が、ダンケルクからイギリスへ逃げる事態となり、フランスはドイツに占領された。
イギリスとドイツはドーバー海峡を挟みつつ、戦闘は激しさを増し、1940年9月に日独伊三国同盟が結成される。
アメリカ大統領、F=ローズヴェルトは国民に外国との戦争は無いと約束しながら、1940年11月に大統領に就任すると、ファシズム国家との対決を表明した。
そして、従来の孤立主義を転換、1941年3月には武器を連合国に貸与する武器貸与法を成立させ、軍事支援を開始し事実上の参戦状態となり、1941年12月の日本軍の真珠湾攻撃により、第二次世界大戦に正式に参戦する。
つまりこの映画製作の1940年の時点では欧州の戦況を知りつつ、参戦するか否か国内での趨勢は不明瞭だった。
ルーズベルトは戦争には参加しないと国民を欺いていたのだ。
このヒロインの、欧州貴族の死んだ妻に怯える姿は、戦争の陰に怯えるアメリカ国民を表現していると感じる。
まるでレベッカは、第一次世界大戦の戦後処理の失敗という過去が、ナチスドイツという亡霊と化した欧州の現状を象徴し、ヒロインはその欧州の戦争に押し潰されそうなアメリカ社会の恐怖を思わせる。
この映画『レベッカ』が意識的に、そのヨーロッパの戦争の影を描いているかは、定かではない。
しかし、しばしば映画にはその時代が乗り移る事があり、この映画もその一本だと感じた。
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映画『レベッカ』解説受賞歴・映画ランキング紹介 |
<1941年開催・第13回アカデミー賞> |
受賞:最優秀作品賞/最優秀撮影賞(白黒)
ノミネート:監督賞(アルフレッド・ヒッチコック)/俳優賞(ローレンス・オリヴィエ)/助演女優賞(ジュディス・アンダーソン/女優賞(ジョーン・フォンテイン)/編集賞/作曲賞/美術監督装置/特殊効果/脚色賞
第89回アカデミー賞・作品賞スピーチ |
<ノミネート作品>
凡てこの世も天国も/海外特派員/怒りの葡萄/チャップリンの独裁者/恋愛手帖/月光の女/果てなき航路/我等の町/フィラデルフィア物語/ レベッカ
受賞作はレベッカ。
【『レベッカ』プロデューサー/デヴィッド・O・セルズニック受賞スピーチ・意訳】
(プレゼンター):デヴィッド・O・セルズニックさん。映画芸術科学アカデミー協会を代表し、美しい『風と共に去りぬ』匹敵する、あなたの素晴らしい製作作品『レベッカ』にオスカーを授与します。/デヴィッド・O・セルズニック:ありがとうございます。ロイさん。私はアカデミー協会メンバーと、ギルドに感謝します。皆さんからセルズニック・インターナショナルは『風と共に去りぬ』と『レベッカ』の2度頂きました。感謝しています。
関連レビュー:オスカー受賞一覧 『アカデミー賞・歴代受賞年表』 栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞 授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。 |
<『アメリカ映画100年100本シリーズ』> |
AFI(アメリカ映画協会)が2001年に編纂した、アメリカ映画界の総意を結集したといえるランキングにも本作は選ばれています。(リンクがあります)
AFI「100年... 100スリル 」80位
AFI「100年... 100人の英雄と悪役」 31位-ダンバー夫人
◎いろいろな『映画ベスト100』企画紹介 世界各国で選ばれた『映画100本』のリストを紹介!!! 映画界、映画ファン、映画評論家など、選定方法もさまざま! 日本映画も各リストでランクイン! |
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