原題 Rebecca 製作国 アメリカ 製作年 1940 上映時間 130分 監督 アルフレッド・ヒッチコック 脚色 ロバート・E・シャーウッド、ジョーン・シンプソン 原作 ダフネ・デュ・モーリア |
評価:★★★★ 4.0点
この映画は、ヒッチコック監督の「おとぎ話」的特長が良く出た一本だと思います
もちろんサスペンスの巨匠ヒッチコックのことですから、その「おとぎ話」は悪夢の様相を見せ、プリンセスを追い詰めます・・・・
映画史上で最も強力な「不在」が支配する物語です・・・・
<目次> |
映画『レベッカ』あらすじ |
「私」(ジョーン・フォンテイン)が燃え尽きた城の夢を見ていた。
それは変わり果てたマンダレーの姿だった。そして、そこで暮らした奇妙な日々の発端から映画は語り始める・・・・・
南仏モンテカルロを散歩する「私」は、断崖に立つ男性の姿に思わず声をかける。
声を掛けられたのは英国貴族のマキシム・ド・ウィンター(ローレンス・オリヴィエ)で、その娘に向かい自殺などしないと怒りで答えた。
「私」は逃げるように、自らの雇い主、資産家イーディス・ヴァン・ホッパー夫人(フローレンス・ベイツ)の元に帰った。
アメリカ人の彼女は、ホッパー夫人のコンパニオン(ベスト・フレンド)として、優雅な避暑地にやって来たのだった。そのホテルで、崖の上にいたマキシムと「私」は再会する。
「私」はホッパー夫人が寝込んでいるのを良いことに、「私」はマキシムとデートを重ねる。
そして「私」は彼に惹かれて行くが、不釣合いな身分と、時として見せるマキシムの陰鬱な顔に不安を覚える。
しかしある日、突然ホッパー夫人が帰国することになり、「私」は慌しい出発の中、マキシムに別れを告げに向かうと、マキシムは「私」を引き止め、彼女に求婚した。
ホッパー夫人に嫌味を言われつつも「私」はモンテカルロで2人切りの結婚式を挙げ、マキシムの居城マンダレーへミセス・ド・ウィンターとなって帰った。
雨の中マンダレーに着くと、執事フリッツ(エドワード・フィールディング)や家政婦長ダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)そして大勢の召使が2人を迎え、「私」は圧倒された。
マンダレーの生活が始まり、「私」に対しマンダレーの財務管理人のフランク・クローリー(レジナルド・デニー)は暖かく向かえた。
また、マキシムの姉ベアトリス・レイシー(グラディス・クーパー)とその夫ジャイルズ・レイシー少佐(ナイジェル・ブルース)は、マキシムの苦悩を「私」に癒して欲しいと好意を見せる。
しかし家政婦長のダンヴァース夫人は、ボートで遭難し夭折したマキシムの前妻レベッカを崇拝し、「私」にその素晴らしさを語る。
「私」は屋敷の中で、存在しない前妻レベッカの影に押し潰されそうに成る。
そしてダンヴァース夫人は、「私」がマンダレーの女主人として相応しくないと、ことあるごとに態度に見せた。
マキシムは変わらず「私」を慈愛を込めた目で見つめ、愛してくれた。しかし、そんな二人の間にも、レベッカの影が差した。
ある日二人で海岸を散歩中、「私」はマキシムが止めたにも関わらず、海岸に立つ小屋へ行き夫の怒りを買った。
その小屋は、レベッカが転覆事故を起こしたボートの置き場であり、レベッカの痕跡が色濃く残る場所だった。
「私」は、レベッカや、その死の記憶が、夫をまだ支配し落ち込ませていると感じ、自らをレベッカに負けない美しさを求めて、イブニングドレスやヘアスタイルに気を配ったが、それを夫が喜ぶことは無かった。
2人のハネムーンの8ミリ映像を見ながら、マキシムは結婚が失敗だったかと口にし「私」に涙を流させた。
そんなある日、「私」はマンダレーを密かに訪れたファヴェル(ジョージ・サンダース)という男と遭遇する。
レベッカの従兄と名乗る軽そうな男は、ダンヴァース夫人とひそやかに言葉を交わし、マキシムに自分が来たことは秘密にしたほうが良いと言い残し去った。
「私」はレベッカの部屋に、忍び込むように足を踏み入れると、そこにダンヴァース夫人が現れた。
彼女は、窓を開け放つと、豪華で洗練された部屋を事細かに説明し、その持ち主の品格を「私」に突きつけた。
そしてダンヴァース夫人は「私」に、まだこの館にはレベッカがいると囁く。
お亡くなりになった方が戻られ、現世の者を見ていると思われますか?
たまらず「私」は、その場から逃げ出した。
「私」は、レベッカの影を断ち切り、マンダレーの新たな女主人としてなるべく決心を固め、ダンヴァース夫人に、レベッカのイニシャルが入った物を始末させた。
そして、マキシムに頼み込みマンダレー恒例の仮装舞踏会を開催することを認めさせた。
喜んだ「私」は、自分の仮装衣装に思いを凝らす。そんな彼女にダンヴァース夫人は、一族の祖先キャロライン嬢の肖像画を見せ、この方に扮すればマキシム様は喜ばれると「私」に語り、彼女もその案を気に入った。
そして、舞踏会の日、マキシムとその姉夫婦が待ち受ける中、階上に姿を見せた「私」に3人は息を呑む。
マキシムは顔を歪めると、その服を今すぐ脱げと「私」に怒鳴ったー
映画『レベッカ』予告 |
映画『レベッカ』出演者 |
「私」(ジョーン・フォンテイン)/マキシム・ド・ウィンター(ローレンス・オリヴィエ)/ダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)/ジャック・ファヴェル(ジョージ・サンダース)/フランク・クローリー(レジナルド・デニー)/ベアトリス・レイシー(グラディス・クーパー)/ジャイルズ・レイシー少佐(ナイジェル・ブルース)/ジュリアン署長 (C・オーブリー・スミス)/ベン(レオナルド・キャリー)/タブス(ラムスデン・ヘイア)/フリッツ(エドワード・フィールディング)/イーディス・ヴァン・ホッパー夫人(フローレンス・ベイツ)/ベイカー医師(レオ・G・キャロル)
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映画『レベッカ』感想 |
この作品の、表現力の基礎にはサイレント映画時代からの叩き上げ監督の、言葉に頼らない映像表現の力が有ると感じます。
そんなサイレント表現に対する信念は、インタビュー本『ヒッチコック/トリュフォー映画術』の中でもたびたび語られています。
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その丹念な映像描写力は、ヒロインを追い詰める、前時代的なダンヴァース夫人の、動きと、目線や手のしぐさに如実に現れます。
虚空を見つめるその視線の間が、見る者の心を不安にさせ、サスペンスを生み出します。
例えば、下の動画は亡きレベッカの部屋で、彼女がまだここにいると語るシーンですが、このシーンの音を消しても見事に恐怖が伝わるのは、間違いなくサイレント映画の描写力があるためだと思います。
また、クライマックス近くの、レベッカの死の真相が語られるシーンでは、カメラの移動だけでレベッカの動きを再現し、そこにいないレベッカの存在を逆に強く印象付けています。(ネタバレを気にされないのであれば、下にそのシーンの動画を載せていますので、「空白の力」の威力を感じていただければと思います。)
実はヒッチコックの映画は、多かれ少なかれ「空白」こそがキーなのではないかと個人的には感じています。
そして、その「空白」を持った物語こそ「おとぎ話」という形式の特徴でもあると信じています。
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この映画は、アメリカの庶民の娘がシンデレラとなって、イギリス貴族に嫁ぐ「おとぎ話」です。
しかし上で述べた「重くのしかかるレベッカの影」は、その伝統と格式の「過去の歴史の圧力」を象徴し、見事に「ゴシック・ホラー(古典的恐怖)」に怯える「新世界アメリカ」の慄(おのの)きを描き出していると感じました。
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これ以降 映画『レベッカ』ネタバレがあります。ご注意ください。 |
(あらすじから)
「私」の仮装は、かつてレベッカが着たものであり、彼女はダンヴァース夫人の罠に嵌ったのだった。
「私」は動揺し、部屋に戻ると、その背後にダンヴァース夫人が表れ、精神的に追い詰められた「私」に、催眠術をかけるように語り掛け、窓を開くと彼女を飛び降りさせようと囁き、「私」も窓から身を乗り出す。
その時、大声で呼び合う声が響き、危うく「私」は我に返った。
その声は、難破したボートが見つかったと知らせており、そこでレベッカの死体が発見されたという驚くべきものだった。
夫の姿を求めて「私」はボート小屋に行く。
1人座るマキシムは、「私」に気付くとレベッカとの関係を語り始めた。
「私」は、マキシムがレベッカを愛するがあまり、自分との関係が上手くいかないのだと思っていた。
君はボクがレベッカを愛していたと思っていたのか?そう思ってたのか?
しかし、マキシムはレベッカを愛するどころか憎んでいたと言う真実を語った。
完璧な貴婦人レベッカの真相は、マキシムを裏切り従兄のファヴエルと浮気しながら、家名を重んじるマキシムに仮面夫婦を演じさせていたのだ。さらに従兄弟との間に不義の子を宿し、その子にド・ウィンター家を相続させようとしていたという。
マキシム:彼女はファヴェールだと思ったかもしれないが、彼は来なかった。彼女はソファに横たわって、横の大きな灰皿にはタバコの吸殻があった。彼女は具合が悪そうで、様子がおかしかった。突然、彼女は起き上がると、私のほうに歩き出した。「私に子供が出来たら」彼女は言った「あなたの子か誰の子供だろうが、証明しょうがない。大切なマンダレーの跡継ぎが欲しでしょう、マキシム」そして彼女は笑いだした。「何て可笑しいの。これ以上ないほど、笑えるわ。私は完璧な母親になってよ。正にあなたの完璧な妻でいるように。誰にも分かりはしない。それはあなたの人生にスリルをもたらしてよ、マキシム。私の息子が日々成長するのを見つめ、そしてあなたが死ぬ時に、マンダレーが彼のものになると知るなんて」彼女と私の顔と顔が近づく。片手をポケットに入れ、もう一方の手はタバコを持って、彼女は笑っていた。「どう、マキシム、あなたはどうするつもり?私を殺さないの?」
私はその瞬間我を失ったのだと思う。私は彼女を殴ったんだろう。彼女は立ったまま私を睨んでいた。彼女は勝ち誇ったように見えた。そして再び笑いながら私に近づき、突然、彼女はつまずき倒れた。私が彼女を見下ろした時、それまで長い時間がたったように思うが、彼女は床で横になっているように見えた。倒れたとき彼女はその頭を重い滑車にぶつけていた。私はなぜ彼女がいつまでも笑っているのか不思議に思ったのを覚えている。その時、私は彼女が死んでいる事に気付いたんだ。/「私」:でもあなたが殺したんじゃない!それは事故よ。/マキシム:誰がそれを信じる。気が動転していた。私はどうにかしなければと、なにかしようと思った。私は彼女をボートに運んだ。とても暗かった。月は出ていなかった。私は彼女を船室に入れた。ボートが充分沖に出たと思えるところで、釘を取り船の外板を補強のため何度も何度も打ちつけた。そして、船底の栓を抜き水を呼び込んだ。私は救助ボートに乗り、漕いでそこを離れた。私はボートが傾き沈没するのを見た。そして私は湾に戻った。そして雨が降り始めた。(11:35以降略)
怒ったマキシムが詰め寄ると、転倒した彼女は頭を打ち息絶えた。マキシムはレベッカの亡骸をボートに乗せ、その船底に穴を開け海へと漂流させたと、自分がレベッカを殺したと秘密を打ち明けた。
マキシムは以前、海から上がった溺死体を偽装のためレベッカだと証言していたこともあり、もう終わりだと嘆くのを、「私」は励ます。
レベッカの死は事故だという「私」の言葉に、マキシムも警察署のジュリアン署長に、事件の実態を告げなかった。ジュリアン署長は古くからの知り合いのマキシムに同情的だった。
裁判が開かれるが、その死は事故か自殺として処理されようとしていた。
しかし、そこにレベッカの浮気相手ファヴエルが現れ、マキシムから毎年の生活費を強請ろうとした。彼は、レベッカが書いた手紙を持っており、そこには子供を身ごもったと記されていると言い、そんな人間が自殺するかと問いかける。
ボクとしては君から、どうすれば過酷な労働なしで快適に生活できるか、アドバイスが欲しいんだが。
しかしマキシムはその要求を突っぱね、管財人フランクと警察署長ジュリアンと、更にファヴェルを連れ、レベッカの通院した医者に真相を確認するため赴いた。
医師の証言はレベッカに自殺の動機があったとするものだった。
レベッカ自身も妊娠だと思っていたらしいが、実は死んだ日、彼女の病気がガンだと知ったのだ。更に医師は、レベッカが、自分は早く死ぬと語っていた事を説明した。
レベッカ自身が自らの末期を知り、夫マキシムを誘導し、自分を殺すよう仕向けたのだった。
事件はレベッカが自殺したとして決着し、無罪放免となったマキシムは、妻「私」が待つマンダレーへと車を走らせた。
そのとき、マンダレーのダンヴァース婦人にファヴェルは電話を入れ、レベッカの死の真相を伝えていた。
映画『レベッカ』ラスト・シーン |
マキシムが深夜マンダレーに到着し、そこで見たものは燃え上がる城の姿だった。
呆然とするマキシムの胸に、火事から逃げた「私」が飛び込んだ。
執事や召使も皆無事だった。
ただ1人、館に火をつけたダンヴァース夫人だけが、その炎の中で怪しく蠢(うごめ)き、マンダレーと運命を共にした。
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