2020年10月17日

オスカー映画『ムーンライト』の起こした「黒人映画」の奇跡とは?/解説・考察・アカデミー賞の奇跡・簡潔あらすじ

映画『ムーンライト』解説

原題 Monnlight
製作国 アメリカ
製作年 2016年
上映時間 111分
監督 バリー・ジェンキンス
脚本 バリー・ジェンキンス


評価:★★★★  4.0点



この映画がアカデミー賞2冠、特に作品賞に輝いたのは、本当に奇跡的なことだったのだ。

それはこの映画の、誠実な、真摯(しんし)なメッセージを湛えた、美しい作品が、人々の心を動かしたからこその結果だったろう。

ここでは、この作品『ムーンライト』が、なぜオスカー史上のエポック・メイキングなのか、その理由の説明を試みた。
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<目次>
映画『ムーンライト』ネタバレなし簡潔あらすじ
映画『ムーンライト』予告・出演者
映画『ムーンライト』解説
映画『ムーンライト』考察

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映画『ムーンライト』簡単あらすじ

マイアミで麻薬中毒の母と黒人低所得者地域で暮らす小学生のシャロンは、あだ名”リトル”と呼ばれ、学校でいじめられていた。そんな彼は麻薬の元締めのファンと出会い、仲良くなる。しかし、そんな彼はファンが自分の母に麻薬を売っていると知り、ショックを受けた。高校生になったシャロンは、幼馴染のケビンと一夜海岸で愛を交わした。しかしイジメの首謀者テレルが、ケビンにシャロンを殴るように強制し、ケビンは仕方なくシャロンの顔に何度も拳をめり込ませた。翌日シャロンはテレルに復讐し警察に逮捕され少年院に入れられた。そして大人になったシャロンに、ある日ケビンから電話が入った・・・・・
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映画『ムーンライト』予告

映画『ムーンライト』出演者

シャロン (成人:トレヴァンテ・ローズ/青年期:アシュトン・サンダース/少年期アレックス・ヒバート)/ケヴィン (成人:アンドレ・ホランド/青年期:ジャレル・ジェローム/少年期:ジェイデン・パイナー)/ポーラ(ナオミ・ハリス)/テレサ(ジャネール・モネイ)/フアン(マハーシャラ・アリ)/テレル(パトリック・デシル)

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映画『ムーンライト』解説

アカデミー賞・受賞式動画

この映画は、見事アカデミー賞、最優秀助演男優賞と、最優秀作品賞を獲得した。

しかし、この『ムーンライト』が作品賞を授賞した2017年開催の第89回アカデミー賞では受賞作品が最初『ラ・ラ・ランド』と誤って発表されるという前代未聞の椿事が発生した。

第89回アカデミー賞・作品賞スピーチ


プレゼンターはウォーレン・ベィテイとフェイ・ダナウェイ。
ウォーレン・ベィテイ:アカデミー賞、ベストピクチャーは…(封筒を見て困惑)
フェィ・ダナウェイ:ラ・ラ・ランド
ラ・ラ・ランド、プロデューサーのジョーダン・ホロヴィッツ、マークプラット、フレッド・バーガーが感謝の挨拶。その背後でアカデミー関係者が事態収拾に走り騒ぎが大きくなる。

(2分50秒〜)ジョーダン・ホロヴィッツ:みんな、みんな、すまない、違う、これは間違いだ。『ムーンライト』、君たちが作品賞だ。/マーク・プラット:『ムーンライト』が受賞した。/ジョーダン・ホロヴィッツ:冗談じゃない。上ってこいよ。冗談じゃない。間違って読み上げたんだ。これは冗談じゃない、『ムーンライト』が最優秀作品賞だ。『ムーンライト』最優秀作品賞(カードをかざす)/司会ジミー・キンメル:どっちにしても、持ってたらいいさ。これは不幸な出来事だ。個人的には、スティーブ・ハーベイに文句言いたい。何でもいいから、このオスカーを持ってなよ。なんでこんな混乱状態になっちまったんだ。/ジョーダン・ホロヴィッツ:私は本当に『ムーンライト』の友人に、オスカーを渡せるのを誇りに思う。/ジミー・キンメル:君は素晴らしい、本当に素晴らしい。/ウォーレン・ベィテイ:ど〜も、お〜い。私は…/ジミー・キンメル:ウォーレン何やってんだ?!/ウォーレン・ベィテイ:何が起こったか説明する。封筒を開けたら、エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』と書いてあった。それで長い間フェイや皆を見ていたんだ。おかしいと思ったけど。/ジミー・キンメル:そう君はおかしい。/ウォーレン・ベィテイ:どうもありがとう。『ムーンライト』最優秀作品賞
受賞作品は『ムーンライト』
アデル・ロマンスキー:感謝します。
バリー・ジェンキンス:絶対に、絶対に、叶いそうもないと思った夢。でも夢を見続けて、それは現実になった。神様。
アデル・ロマンスキー:感謝します。感謝します。
バリー・ジェンキンス:これが本当だ、ニセモノじゃない。彼らと長く歩いてきたが感謝したい。寛大な彼らに。『ラ・ラ・ランド』に私の愛を、皆に私の愛を。みんな。
アデル・ロマンスキー:アカデミーに感謝します。何て言えばいいのか。これはホントに…嘘みたいで…これが本当とまだ思えない。でもアカデミーに感謝します。寛容な「ララ」のクルーがまだいればいいが、いない、分かった、彼らは去った。でも、とても寛容にここに立っていました。
私が望むのは、受賞はこれ以上の価値があり、家で見ている軽視された、小さな黒い少年や、茶色の少女や、他の民族をを触発する事です。そして、この驚くべき才能、壇上に立って栄誉を受ける、友バリー・ジェンキンスが舵をとる芸術家のグループを見て、少しでも触発を受けることです。ありがとう。

バリー・ジェンキンス:私は、この映画に答えが出せなく、他の方法が見つからないで、この映画が不可能だと思った時があった。そんな時舞台の後ろの皆が「ダメだそんなの認められない」と言ってくれたんです。だから壇上の私の後ろの皆に感謝します。誰も映画から離れようとしなかった。なぜなら我々がやったんじゃなく、君たちが我々を選んだんです。選んでくれてありがとう。感謝します。多くの愛を。
ジェレミー・クライナー:よい夜を。ありがとうございました。

ジミー・キンメル:え〜っと、何が起こったのかよく分からない。自分自身を責めている。思い出してみよう、これは授与式だったよね。つまり、皆を失望させたのはイヤだけど、素晴らしいスピーチを聞けたという良いニュースもあった。素晴らしい映画もあったし。俺がこの賞を引っかき回したのは知ってる、そうした。見てくれてありがとう。明日の夜はいつものショウに戻ります。もう二度とやらないって、約束します。お休みなさい。
関連レビュー:アメリカ映画界の歴史アカデミー賞紹介
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授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
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映画『ムーンライト』考察

アカデミー賞受賞の快挙

何度も言うが、この映画のアカデミー賞・最優秀作品賞の獲得は、長いオスカーの歴史の中でも、真に奇跡的な出来事だった。

その軌跡と言われる要因を挙げれば、インディペンデンス映画で、LGBTというマイノリティーを題材とし、そして監督から出演者まで全て黒人の手による「ブラック・ムービー(黒人映画)」である点が、オスカー史上で真にエポックメイキングな事件だったと言える。

この映画『ムーンライト』の製作形態、小予算のインディペンデンス映画がアカデミー賞で評価されることは、確かに稀だ。
しかし、それは無いことではない。
例えば、ジェシカ・ラングが主演女優賞に輝いた『ブルースカイ』や、脚本賞を獲得した『JUNO/ジュノ』などはその例である。
関連レビュー:アカデミー賞脚本賞受賞
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またこの映画の語る、LGBTの主人公を主題にした作品も、俳優賞は獲得するものの、作品賞には届かないと言われてきた。

これも、主演男優賞に輝きトム・ハンクスがゲイの弁護士を演じた『フィラデルフィア』、ショーン・ペンが演じ主演男優賞を獲得した、ゲイの政治家を描いた『ミルク』や、受賞は逃しても候補となったエディ・レッドメイン『リリーのままで』や、主演女優賞にノミネートされたケイト・ブランシェットの『キャロル』などが思い浮かぶ。
印象で言えば、そのハードルは年々下がってきているように思える。

しかし、上の要素以上に、アカデミー賞史上で画期的なのは、この映画が黒人しか出ていない、純然たる「ブラック・ムービー」である点だ。
そんなことは無い『それでも夜は明ける』は、黒人を描いた映画ではないかと言うかも知れない。

しかし、違うのだ。
ベネディクト・カンバーバッチや、ポール・ダノ、ブラッド・ピットなど、白人スターが出たこの映画『それでも夜は明ける』は、黒人白人の混血映画というべきだ。

その制作費が、『それでも夜は明ける』が2000万ドル(1ドル110円換算で約21億円)で、この『ムーンライト』が150万ドル(1ドル110円換算で約1億5千万円)ということでも、その成り立ちの違いの一端を窺い知れるだろう。

実はアメリカ映画には、世界的に販路を獲得した一大コンテンツ、ハリウッドメジャーの映画とは違う、もう一つの伝統的映画産業「ブラックムービー(黒人用映画)」が存在する。

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アメリカ国内の黒人コミュニティー内だけで流通する「ブラック・カルチャー=黒人文化」を見れば、黒人の黒人による黒人のためのコンテンツが存在し、例えば、黒人映画監督スパイク・リーなどはそんなブラック・カルチャーから、メジャーになった希有な例だ。

しかし『ムーンライト』は良質な脚本を持っていると関係者が認めたにしても、黒人社会内でのみ流通されるような作品であれば、大きな収益を期待できず必然的に制作費も抑えられるのだ。

いずれにしてもこの『ムーンライト』という、そんな「ブラックムービー」の正統的コンテンツが、アカデミー賞の作品賞を獲得したのは空前絶後の快挙なのである。

それは、昨今の、社会的分断が増す情勢に抗する、かすかな希望として感じられる。

結局のところ、「分断」や「差別」は他人種の状況に対する無関心から端を発しており、その無関心を払拭するための強い力を映画が持っていると信じるからだ・・・・・

その、ハリウッド映画界の他者に対する許容の姿勢は、韓国映画『パラサイト』のオスカー受賞にも感じられる。

つまりは、トランプに代表される「分断」に対する、ハリウッド的な反抗の姿だと思える・・・・・
関連レビュー:アメリカ映画界の歴史
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
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posted by ヒラヒ at 15:54| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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