原題 Nosferatu-Eine Symphonie des Grauens 製作国 ドイツ 製作年1922年 上映時間 94分 監督 F・W・ムルナウ 脚本 ヘンリック・ガレーン(英語版) 原作 ブラム・ストーカー |
評価:★★★ 3.0点
今から100年以上前の、ドイツ表現主義のモノクロ、サイレント映画です。
この1922年の映画は、実に「吸血鬼」映画の元祖でもあります。
恐怖映画の元祖として言及されることもある映画です。
<目次> |
映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』詳しいあらすじ |
1838年ドイツの町ウィスボーの朝、トーマス・フッターは妻エレンと仲良く朝の一時を過ごす。
不動産業者のハーノックに雇われているフッターが事務所に出ると、ウィスボルグで家を購入すると連絡の有ったトランシルバニアのオーロック伯爵の元を訪問するように言われた。
フッターは旅に出る前に、彼の妻エレンを彼の親友であるハーディングとハーディングの妹アニーに託した。
目的地も近いカルパティア山脈の近くで、フッターは夕食を取るために旅館に立ち寄った。フッターがオルロックの名前を口にすると、地元の人々は怯え、夜に城に行くのを必死に止めた。
そこでフッターはそこで一夜を過ごした。その部屋には、本があり吸血鬼について記されていたが、フッターは笑ってその本を放り投げた。
翌朝、フッターは高山峠に馬車で向かうが、馭者は途中で進むことを拒否したため、フッターが諦めて歩き始めた時、伯爵の迎えの馬車が現れた。
城の門内で長身で痩せたオーロック伯爵が、入り口で待ち構えていた。
フッターはディナーの席で誤って指を切ると、伯爵はその血を吸い取ろうと近づくが、フッターはとっさに身を遠ざけた。
しかし翌朝フッターが城で目覚めた時、首に傷があることに気づく。
その夜、オルロック伯爵は不動産契約書に署名し、ウィスボーにあるフッターの自宅の真向いの邸宅を購入した。
その時オルロックは、フッターの妻の写真を見て、きれいな喉だと呟く。
その頃フッターはその地の伝説の書にある吸血鬼が、オルロックだと疑い始めた。真夜中が近づくとドアが開き、オルロックが入って来た。
その頃遠く離れた地で、彼の妻は夢遊病の症状を見せ、世話をするハーディング驚かせた。
彼女はフッターがオルロック伯爵に襲われている姿を夢で見たのだった。
翌日、重い寝覚めを迎えたフッターが城を探ると、その地下室オルロックが眠っている棺桶を見つけた。
フッターは恐怖を覚え、窓から城を脱出しようとして転落した。
フッターが目覚めた時には病院のベッドで看護を受けていたが、急いで妻の待つ家へと向かう。
一方のオルロック伯爵は棺に眠ったまま船に運ばれ、購入したフッターの家の前の屋敷へと向かう。船には棺からのネズミがあふれ出し、船員は病気になり、死が蔓延した。
ついに船長と一等航海士を除いて船員全てが死んだ。一等航海士は棺桶が元凶だとして破壊に向かうが、目覚めたオルロックに直面する。
一等航海士は恐怖のあまり海に身を投げ、船長1人が残されたが港に舟が着いた時には、彼も絶命していた。
船が到着すると、オルロック伯爵は1人棺桶を携え、彼が購入した家に移動した。
翌朝、船の検査によりペストによる船長の死が確認された。その知らせに町はパニックに襲われ、人々は屋内にとどまるよう警告された。
人々が家の中で息を潜める中、疫病のせいで町には死者の棺が列をなし運び出された。
エレンはフッターが持ち帰った吸血鬼の書を読んで、「心に汚れのない女性が生き血を与え、朝日が昇るまで吸血鬼を逃がさないようにすれば倒せる」と記されているのを知った。
エレンは向かいの家から自分を見る、オルロックが吸血鬼と知り、恐怖に怯え夫の胸に顔を埋めた。
映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』予告 |
映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』出演者 |
トーマス・フッター(グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)/オルロック伯爵(マックス・シュレック)/ノック(アレクサンダー・グラナック)/ハーディング(ゲオルク・H・シュネル)/アンネ(ルース・ランドスホーフ)/ブルワー教授( ヨハン・ゴットウト)/ジーファース博士(グスタフ・ボーツ)
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映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』感想・評価サイレント映画の評価 |
本作で吸血鬼ノスフェラトゥが映画に実際登場するのは、わずか9分弱ですが、1922年当時の観客にとっては、血も凍るような恐怖だったのです。
さぞ、ヴァンパイアも血をすうのに骨が折れるのではないかと心配になりますが・・・・
しかし現代を生きる者は、この映画に過度の期待は持たないで頂きたい。
この映画を今見れば、ただのネズミ男にしか見えませんし、恐怖を感じることすら難しい。
たとえば、この映画の恐怖を、『リング』や『シャイニング』に較べたら、失笑しか出てこないでしょう。
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まあ〜、その〜、ブッチャケ、お叱りを受けるかもしれませんが、しょせんはサイレント(無声)映画です。
現代映画、セリフが聞こえ、高度な映像的リアリティは、そもそも望むべくもなく、根本から映画の文法がま〜るで違うのです。
言葉の不在もそうですが、表現技術に制約が多すぎて、その制約の中でよく頑張っているな〜という印象です。
たとえば、スマートフォンの時代に、モールス信号で話をするくらい、映画撮影技術の差が大きすぎるのです。
更に言えば、この先バーチャルリアリティーが発展し、観客が360度映画世界に取り込まれ、映画世界に観客自身が放り込まれるようになったとしたら、2020年の映画はその価値を減ずるに違いありません。
基本的に、表現する者にとっての理想は、自身の脳内イメージをダイレクトに直接、観客の脳に転移させることこそ最も誤差が少ない方法であり、その技術がないからこそ、仕方なく現在の技術を使わざるを得ないというのが実情なはずです。
それゆえ何の必然性もないスタイルだけの技術的な退化を元にした表現を、たとえばアカデミー賞を取った現代のサイレント映画『アーティスト』や、デザインだけのモノクロ撮影などの懐古趣味は、個人的には評価しません。
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いずれにしても、今の観客が、現代映画よりも明らかに劣る表現技術しか持たない、サイレント映画を見て現代の映画より面白いと感じる可能性は非情に低いはずです。
1927年トーキー(音声入り)映画『ジャズ・シンガー』の登場以降、サイレント映画の時代は急速に終焉を迎えます。
そんな中、本作の監督F・W・ムルナウの1927年の『サンライズ』や、1931年のチャップリンの『街の灯』は、時代に逆行してまで作り上げただけあって、 サイレント映画表現の集大成として素晴らしい完成度を見せています。
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しかし個人的には高く評価した上の2作品も、映画的な要素、脚本や演技などの技術要素を評価し、歴史的な文脈の中で評価としている部分もあり、正直言えば、面白いからというよりは、功労賞的な意味合いが強いようにも思います。
そこでこの映画を評価した時、脚本やビジュアル、そして恐怖表現に関しても強く訴えるものはなく、個人的には「バンパイア」というキャラクターを、映画的に生み出したことが唯一の価値だと感じました。
本作はドイツ表現主義を代表する1本と言われますが、同時期の『カリガリ博士』と較べてみれば表現主義的なデザインの斬新さでは『カリガリ博士』の方が優れていると思います。
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そんなこんで、私のこの映画の評価★3は「バンパイアのキャラクター創出」と、少々の「表現主義的ビジュアルデザイン評価」と、「1922年当時の観客の恐怖」に敬意を込めて付けさせて頂きました。
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以下の文章には 映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』ネタバレがあります。 |
(あらすじから)
そしてその夜、エレンは向かいから凝視するオルロックに気づき失神した。
妻の異常にフッターが駆け寄ると、意識を取り戻した妻は、医師を連れて来て欲しいと彼を送り出した。
そのエレンが一人残る家に黒い影が差したー
オルロック伯爵は部屋に入り、恐怖で目を見開いたエレンの首に牙を立てた。
オルロックはエレンの血を吸い続けていたが、その顔をふぃに上げた。
オンドリが鳴き、朝の光が町に差し込んだ。
立ち上がったオルロックは数歩足を進めるが、窓から刺した陽光を浴び一片の煙となって消えて行った。
映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』結末 |
エレンは、駆けつけた夫フッターの腕の中で息絶えた。
”その時から、まるで奇跡にのように、疫病がもたらす死が止まり、吸血鬼の重苦しい影は、朝の太陽により消え去った。”と文献には記されている。
後には、オルロック伯爵の廃墟となった城が残った。
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