原題 Love in the Afternoon 製作国 アメリカ 製作年 1957 上映時間 130分 監督 ビリー・ワイルダー 脚本 ビリー・ワイルダー I・A・L・ダイアモンド 原作 クロード・アネ |
評価:★★★ 3.0
この扇情的なタイトルにドキドキします。
もちろん主演女優がオードリー・ヘップバーンで、監督がビリー・ワイルダーですから、実際に不埒なシーンが出てくるわけでは有りません。
ご安心下さいなのか、ご落胆なさいますな、なのかよく分かりませんが・・・・・・・
今見れば、28歳のオードリーの美しさが際立ち、脚本の見事さとビリーワイルダー監督の洗練された演出力が光る作品です。

<目次> |

映画『昼下りの情事』簡潔あらすじ |
パリの私立探偵クロード・シャヴァッス(モーリス・シュヴァリエ)は、浮気調査のスペシャリスト。依頼人]氏(ジョン・マッギーバー)は妻の浮気調査結果を依頼すると、妻の浮気相手が名うてのプレイボーイ、アメリカの億万長者フラナガン(ゲイリー・クーパー)が相手と知り、依頼人X氏は銃を持ち浮気現場に向かった。それを、盗み聞きしたシャヴァッスの娘アリアーヌ(オードリー・ヘップバーン)はフラナガンの危機を知り、窮地を救った。しかしフラナガンはアリアーヌに興味を示し、彼女を誘惑し、シャンパンとジプシー楽団の流麗な音楽でダンスをする。アリアーヌはフラナガンに恋をした。しかしその晩は、フラナガンがパリを出発する夜であり、自分に夢中になったアリアーヌ残し彼は去った。
その1年後、フラナガンが再びパリに戻てみると、アリアーヌは恋い慣れた娘の振りをして、フラナガンを振り回し、嫉妬に燃えるフラナガンはアリアーヌの父シャヴァッスに浮気調査を依頼したのだった・・・・・・・


映画『昼下りの情事』予告 |
映画『昼下りの情事』出演者 |
フランク・フラナガン(ゲイリー・クーパー)/アリアーヌ・シャヴァス(オードリー・ヘプバーン)/クロード・シャヴァス(モーリス・シュヴァリエ)/X氏 (ジョン・マッギーバー)/ルー・シャーウッド(ジェームズ・ウィットモア)/レオ・ライスマン(ラリー・キーティング)

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映画『昼下りの情事』感想 |
なによりもその脚本のシチュエーション・コメディーとしての緻密さと、おしゃれなセリフ、そしてオードリーヘップバーンの美しさは何にも変えがたい魅力が有ります。
また、映画全編で流れる名曲『魅惑のワルツ』に魅惑されます。
<魅惑のワルツ_Fasⅽination>
この美しいメロディーは映画を超えて、人々に愛され、美しい歌詞も付きジャズのスタンダードになったのです。
<魅惑のワルツ_歌_ジュリー・ロンド>
男性ボーカルだとこの人。
<魅惑のワルツ_歌_ナットキング・コール>
日本の大御所もしっとりと歌います。
<魅惑のワルツ_歌_美空ひばり>
この美しい曲は、夢見る娘の「恋の魅惑」を表して、映画との素晴らしいマッチングを見せています。
少女が背伸びして「大人の恋」に魅了されて行く姿が、瑞々しく、コケティッシュに描かれた良作だと思います。
しかし・・・・・・・・言いづらいのですが・・・・・・・・ゲイリー・クーパーが・・・・・・・

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以下の文章には
映画『昼下りの情事』の批判があります。
ご注意下さい。

映画『昼下りの情事』解説ゲーリー・クーパーはミスキャスト? |
個人的な印象を言えば、ヒロインのオードリーが輝くばかりの美しさなのに対し、ヒーローのゲーリー・クーパーが、あんまりすぎる。
ど〜みてもオジイチャンにしか見えず、プレーボーイとしてのムードがこれっぽっちも感じられない・・・・
誤解して欲しくないのですが、オジイチャンがダメというわけじゃないんです。
実際ここでのゲーリークーパーは55歳ではありますが、『麗しのサブリナ』のハンフリーボガードも55歳、『ローマの休日』の相手役、グレゴリーペックだって若いとはいえ37歳でした。
10代や20代の若者がキャーキャー言われている、今からは想像しがたいのですが・・・・・つまり1950年代ごろまでは、女性達の幸せな結婚相手・理想の相手というのは、年配のリッチなオジサマ方だったのです。
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逆に若い男の子達は、少しでも老けて見えるように、一生懸命努力したりして、実際ふけて見せるための化粧品すら売っていたのです。
更に言えば、1960年代までの映画を見ると、本当に大人が立派で強い。
逆に若者は貧弱で、頼りない存在として描かれています。
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結局、これは時代背景として、まだまだ社会全体が貧しい状態では、経済的余裕のある年配者の力が強くならざるを得ないという話だとも思えます。
そんな時代の映画だと思えば、このゲーリー・クーパーの年齢が問題でない事は明らかです。
この映画を今見ると、問題はゲーリー・クーパーが、女性を虜にするオーラを発していない点にあります。
もちろん、ゲーリー・クーパーはハリウッドを代表する大スターで、若いころは二枚目として恋愛映画も立派に努めてはいましたが・・・・・・・
<ゲーリー・クーパーの軌跡>
この映画の当時は、西部劇の主役が似合う武闘派のイメージが強くなり、ロマンスの香りがしないのがツライ・・・・・
実を言えば、本作品でゲイリー・クーパーの役を最初にオファーされたのは、当時53歳のケーリー・グラントでした。
しかしケーリー・グラントは、彼とオードリーヘップバーンの年齢差を気にして役を降ります。
しかし、6年後、グラントとヘップバーンは1963年『シャレード』で恋人役を務め、オシャレなサスペンス作品を作り上げています。
もし、この映画『昼下りの情事』の恋人役がケ―リー・グラントだったら、『シャレード』を越える傑作になったと思わずにいられません。<『シャレード』予告>

特に今見れば、若いころの美しいゲーリー・クーパーのイメージを持ちえない、時を隔てた観客にとっては、彼はただの老人にしか見えないでしょう。
恋人役に男性的魅力が感じられなければ、オードーリーがこんなに夢中になっているのは、お金の為という結論になってしまう。
このミスキャストはビリー・ワイルダーにとっても、いかんともしがたい事態ではなかったでしょうか。
ビリーワイルダー監督が「ケ―リー・グラントを使えなかったことを、悔しがった」と巷間伝えられているのも頷けます。
一方のゲーリー・クーパーにとってもこの映画はプライドを傷つけられる結果になったようです。
アメリカの映画情報サイト「IMDB(インターネット・映画データーベース)」にはこう書かれています。
ゲーリー・クーパーは(昼下りの情事の)その演技に非常に満足していたため、批評家の大多数が彼の年齢により彼を評価していないと思い非常に失望した。実際、この映画の興行的失敗は、オードリー・ヘップバーンの恋人を演じるには高齢と見られたことが主因だった。
この映画の評価がよほど悔しかったのか、1958年4月にクーパーは大がかりな美容整形を受け、しかしその結果はは成功とは言い難い結果だったようです。
ハリウッドを代表する2枚目俳優で活躍して来た彼にすれば、初めて突きつけられた衰え、老いと向き合わざるを得ない事実を、この映画によって思い知らされたのかも知れません。
しかし、この映画のキャスティングには問題があったにせよ、彼は素晴らしい俳優だったと個人的には思っています。

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映画『昼下りの情事』考察ビリー・ワイルダーの失敗 |
なぜなら『ローマの休日』の彼女が表わしていたものは、社会に勇気を持って進出する「自立した女性」の姿だったのですから。
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そんな、1950年代の新しい女性像を期待したファンを、『昼下りの情事』は落胆させる映画ではないでしょうか。
ビリー・ワイルダーにすれば、「麗しのサブリナ」だって、同じシチュエーションじゃないかというかもしれません。
でも、決定的に違うのは「麗しのサブリナ」は、男が女を追っかけるのです。
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つまり男達のほうがオードーリーに夢中になっている構図は、「ローマの休日」の男を頼らない「自立した女性」のイメージを裏切らないモノです。
しかしこの『昼下りの情事』は逆に、男にスガるオードリーを描いていしまいました。
時代は、自立した女性と若い男性の恋愛を描けるほど、豊かになってきたというのに・・・・
結局時代に逆行する作品になってしまったと、言わざるを得ません。
名監督ビリー・ワイルダーともあろう人が、この「失敗」を犯すとは―
じつは、ビリーワイルダーという監督に対し、女性蔑視の傾向があるのではないかと、密かに疑ってきました。
たとえば初期の秀作『深夜の告白』のヒロインの、非人間的な描写にどこか女性への酷薄さを感じます。
この言い方が悪ければ、男目線で男にとって都合のよい女性を登場させると、映画として面白くなる傾向があるといいましょうか・・・・・・
これは、マレーネ・デートリッヒを主役に据えた傑作『情婦』のヒロインの姿や、コメディーなら、マリリンモンローの『七年目の浮気』のヒロイン像にそんな女性像を見出します。
関連レビュー:ビリー・ワイルダーの女性観 『7年目の浮気』 マリリン・モンロー「ロリータ巨乳」伝説 浮気な男の前に現れた天使のようなグラマー |
そんな、男に都合の良い「愚かな女」として、オードリー・ヘップバーンを描いてしまえば、それはオードリーのスター性と相反するドラマとならざるを得なかったでしょう・・・・

個人的に見せ方や、テンポ、シャレたセンスは大好きなんですが・・・・・女性受けする女性を描くのは、この監督の不得手ではないでしょうか?
しかし、ここまで書いてきてなんですが、この映画に対する私の悪印象が「個人的なモノ」かもしれないと、気がついてしまいました。
実際は、私だけがこんな風にこの映画を楽しめていないとしたら、他の人達はこの映画を素晴らしいと思っているとしたら・・・・・・
それは、私に変な期待を持たせ、ダマした『昼下りの情事』というタイトルが悪いと思うのです。
冒頭の繰り返しですが、英語の「Love in the afeternoon = 午後の愛」と較べると「昼下りの情事」というタイトルは、ズイブン扇情的でミダラな雰囲気を、醸し出していませんでしょうか?
これは私の勝手な想像ですが、日本の関係者はこの映画を見て、「どうも期待していた映画と違うぞ、どうしよう、このままじゃ大コケしそうだぞ、なんとかしなきゃ!?ええい、このさいタイトルだけでもキワドくしよう!」てなことじゃないかと・・・・・・・
とそんな妄想を働かせていたところ―
日本公開当時を良く知る方から、貴重なご指摘を頂きました。
当時の日本で、2枚目の代名詞だったゲーリー・クーパーとオードリー・ヘップバーンの共演という事で、映画館も満員御礼だったとのことです。更に公開時の『キネマ旬報』ベストテンでも、批評家の評価は15位でしたが、読者評価もこの年は行われており、男性で10位、女性で5位と人気を博したことを物語っています。
その上で個人的に思うのは、映画は時代を反映する「生もの」の一面を持つメディアであり、時として古典として残されて来た作品すら、永遠の価値を保持し得ない場合があるという事です。
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現代日本で、映画当時の「おじさま」が理想の恋愛対象だった時代に違和感を感じ、さらに大スターだったゲーリー・クーパーを知らなかった世代が見た場合、この題名にあらぬ妄想を抱かせかねないと思ったりします。
それほど実際の映画と題名のギャップが激しいもので・・・・・・・・罪なタイトルではないでしょうか・・・・

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