2020年05月20日

映画『ファーゴ』これは嘘か誠か?コーエン監督の意図とは?/感想・解説・実話と「トール・ストーリー」・簡単あらすじ

映画『ファーゴ』感想・解説 編

原題 FARGO
製作国 アメリカ
製作年 1996年
上映時間 98分
監督 ジョエル・コーエン
脚本 ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン


評価:★★★★  4.0点



イーサンとジョエルのコーエン兄弟の第6作目に当たる、狂言誘拐を描いたのがこの作品。
この映画は、世界的に高い評価を受け、カンヌ映画際やアメリカ・アカデミー賞で、各賞に輝いた。
映画自体、過激な連続殺人の刺激と、間抜けな犯人が誘う笑いが相まって、エンターテーメントとして楽しめる一本。

しかし、嘘から出た誠から出た嘘という・・・・・・一筋縄ではいかない映画ではある。
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<目次>
映画『ファーゴ』簡潔あらすじ
映画『ファーゴ』予告・出演者
映画『ファーゴ』感想
映画『ファーゴ』解説/実話としてのファーゴ
映画『ファーゴ』考察/嘘としてのファーゴ
映画『ファーゴ』評価
映画『ファーゴ』ネタバレ・結末

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映画『ファーゴ』簡潔あらすじ

ジェリー・ランディガード(ウィリアム・H・メイシー)は、ミネソタ州ミネアポリスで妻ジーン(クリステン・ルドルード)の父であるウェイド(ハーヴ・プレスネル)の経営するディーラーに勤めている。しかし、多額の借金で苦境に陥っており、義父から8万ドルをせしめようと考え、妻の狂言誘拐を企てる。実行犯として、カール(スティーヴ・ブシェミ)とゲア(ピーター・ストーメア)という二人のチンピラを雇い、計画通り妻ジーンを拉致したものの、事件は思わぬ方向へ転がりだし、地元警察署署長 マージ(フランシス・マクドーマンド)が捜査に乗り出した・・・・・
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映画『ファーゴ』予告

映画『ファーゴ』出演者

マージ・ガンダーソン(フランシス・マクドーマンド)/ジェローム・“ジェリー”・ランディガード(ウィリアム・H・メイシー)/カール・ショウォルター(スティーヴ・ブシェミ)/ゲア・グリムスラッド(ピーター・ストーメア)/ジーン・ランディガード(クリステン・ルドルード)/ウェイド・グスタフソン(ハーヴ・プレスネル)/ノーム・ガンダーソン(ジョン・キャロル・リンチ)

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映画『ファーゴ』感想


この映画は狂言誘拐を描いた、コーエン兄弟の監督作品だ。

小さな事件で終わるはずが、徐々に波紋を広げ、ひび割れ、崩壊し、大事件になっていくさまは、見ている方も呆然としてしまう。

その小さな出来事が発端となって、運命が悪い方向に広がる様子は、あたかもイーストウッド監督の秀作『ミスティックリバー』を、ほうふつとさせる。
アメリカ映画:1995年
映画『ミスティック・リバー』
クリントイーストウッド監督が描く3人の少年
小さな事件が起こす大きな波紋

しかし、考えてみればコーエン監督の第二作目にして、メジャーデビュー作も、誘拐事件を題材にした『赤ちゃん泥棒』だった。
その映画はエンターテーメント性に溢れた、派手なアクションムービーだったのだが、実はこの映画と共通点も多く、その最たるものは地元に愛されない映画だということだ。
関連レビュー:ブーイングを受けたコーエン監督
『赤ちゃん泥棒』
コーエン監督のメジャーデビュー映画
映画の地元アリゾナから猛反発の田舎イジリ!
じつは、『赤ちゃん泥棒』の原題は『arizona rising(アリゾナ・ライジング)』と言い、アリゾナを舞台にした映画で、主役のニコラス・ケージもアリゾナ訛りで頑張ったのだが、アリゾナを馬鹿にしていると地元民を怒らせたのである。

そして、この映画もミネソタ州を舞台にしながら、やはりミネソタ州民からは喜ばれなかったのである・・なんせ日本で言えばズーズー弁をこれでもかと・・・この兄弟はどうも、田舎イジリが好きなようだ。
それはともかく、この映画は実話と謳っているだけあって、一見地味な印象を持つが、それでもコーエン的なユーモアーとペーソスに満ちた作品だ。

その娯楽性は、ミネソタ訛りの英語を再現して、アカデミー最優秀女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドほか、個性的な役者の面々が繰り広げる演技が響きあった結果だと思える。

そんなユーモア―と同時に、この映画は後年の傑作『ノーカントリー』のような、思索性、哲学性をも、その余韻に感じさせる。
アメリカ映画:2007年
『ノーカントリー』
超難解!コーエン監督の傑作映画
第80回アカデミー賞4部門を受賞
さらに、この作品は映画本編だけで完結するものではなく、映画外でも「嘘」か「誠」かというスキャンダル性をもっており、それを以下で説明したいと思う。

しかし、未見の方はまずは映画を見てから。以下の文章をお読みいただた方が文意が通じるかと思う。

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映画『ファーゴ』解説

「実話」を元にした作品解説


この映画の冒頭のテロップにはこうある。
This is a true story. The events depicted in this film took place in Minnesota in 1987. At the request of the survivors, the names have been changed. Out of respect for the dead, the rest has been told exactly as it occurred.
(これは実話である。この映画に描かれた事件は、1987年にミネソタ州で発生した。生存者の意向により、名前は変更されている。死者への敬意から、それ以外は発生した事実を反映している。)

つまり、この映画は、実話を元にした物語である。
そして語られるのは、嘘の誘拐事件だ。
嘘から出た誘拐は、影響を広げ、ついに死人が出て、その死がどんどん拡大し、純白の雪原が血で染まる。
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つまりは、嘘が現実に変化を生み、現実世界を永遠に変えてしまったのだ。
嘘の力の破壊力を、この映画は、これでもかとばかりに証明している。

そしてこの嘘は、狂言の筋書きを書いたジェリーが借金苦になったからであり、その根源に「欲」があったのである。
そして、その欲を満たすべく、誘拐された妻の父に身代金の支払いを頼んだにも関わらず、その義父が欲を出し出し渋ったがゆえに事件は拡大し、更に犯人が欲を増し収拾が付かなくなって行くのだ。

つまり欲が欲を再拡大する悪循環が生じているのである。
女警察署長のマージは、「ちょっとばかりのお金のために人を殺したりして、人生にはお金より大切なものがある」と言う。

これが現実世界で起きた事件だと思うとき、人の貪欲さと、愚劣さを思わずにはいられない。
これは、言い換えれば、欲望の対象を強く望みさえすれば、いつしかその嘘が真実へと化す瞬間がある事を意味するだろう。

実を言えば、こんな欲望から生じた嘘が現実と化す例は、日常にいくつでもみつけることが出来る。
そして生じた歪みを修正しようとして、事態はますます悪くなっていくのだ・・・・・・

その例をあげれば、映画公開から10年も経たないうちに、アメリカ合衆国はイラクの大量破壊兵器保持という「嘘」をでっち上げ、『イラク戦争(第二次湾岸戦争)』という災厄を生ぜしめた。

その根源には「永遠の権益=石油」を巡る、アメリカの「欲望」が存在したのである。

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映画『ファーゴ』解説

「フィクション」を元にした解説

上の文章<「実話」を元にした作品解説>を読んで下さった方々の、失笑が聴こえてくる。

もちろん、この映画は「実話のふりをしたフィクション」であることは、コーエン兄弟を初め万人が認めるところだ。
しかし、最後のクレジットまでその事が分からない、初回の鑑賞の際には、私は上に述べたような感想を思い浮かべたのである。

そして、最後まで見て、この映画がフィクションだと宣言されているのを確認し、自分の持った感慨はナンダッタノ?と混乱した。
そこで、ひとまず冷静になって、ネット上でこの映画の情報を確かめた。
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すると、なんと!実は現実に起きた事件からインスピレーションを得ていたことが明らかに成ったのである。
映画の舞台となったミネソタの人々は、この映画の大筋が「トンプソン事件」に触発されたと推測していた。
コーエン兄妹の故郷のミネソタ州セントルイスパークの近くで起きた、弁護士ユージーン・トンプソンが男を雇って妻を殺害した罪で起訴された1963年の事件である。
当初コーエン兄妹は、トンプソン事件に関して知らないと言っていた。
しかし、2015年トンプソンが死亡した後、ジョエルコーエンは言葉を変え、単にストーリーの骨格をそこから取ったと説明した。

またコーエン兄弟自身も、その映画の要素として使った素材として、二つの事件を上げる。
1つは、ウィリアム・H・メイシー演じるディーラーの保険金詐欺行為。
これは、シリアル番号を偽装し詐欺を犯したジェネラル・モータース・ファイナンス・コーポレーションの従業員の事件から採られている。

もう1つはコネチカット州で1986年に発生したヘレ・クラフツ殺害事件だった。
夫リチャードは妻ヘレを殺し、木材チッパーに入れて体をバラバラに処分したのだ。

その光景は、この映画そのままだ。
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ジョエル・コーエンは新聞「ハフィントン・ポスト」のインタビューに答え、「その(実話事件)を超えて、物語は成立している」と述べている。
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そして、イーサン・コーエンは「我々は、それらの(事件に対する)忠実度に興味はなく、基本的な出来事は本当の事件と同じだが、しかし、その性格や描写は完全に空想したものだ」と語った。
さらに「視聴者が何か実際の事件に基づいていると信じている時、それ以外(事実以外)の描写を許容出来ないというのは、受け入れ難い。」と批判した。

そんなコーエン兄弟の立場は、公開された脚本で明らかだろう。

そこでイーサン兄弟は、映画が「実話の偽装」だと、明確に書き記している。

しかし・・・・・・・

いったいこれは実話に基づいていないと、言いきれるのだろうか?

確かに兄弟の言うとおり、実話事件を素材として用いただけで、その事件の意味も、その物語が意味するところも、登場する人物達も、ほぼ兄弟のオリジナルであるのは間違いないだろが、実話事件を使っていることもまた事実である。

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そこで、はたと気が付いた。

映画に登場する像「ポール・バニヤン」の意味だ。
ポール・バニヤンはある巨大な 木こりにおけるアメリカのとカナダの民話。彼の功績は彼の超人的な労働の物語を中心に展開し、彼は常にベイブ・ザ・ブルー・オックス(青い牛のベイブ)を伴っている。口承による北米の民話は、レッドリバー製材会社の1916年の販売促進パンフレットにフリーランス・ライターのWilliam B. Laughead(1882年から1958年)によって広められ、彼はさまざまな文学作品、音楽作品、商業作品、演劇作品のテーマとなっている。彼の姿は、特大彫刻となって北米中に複数設置されている。

このポール・バニヤンというヒーローは、アメリカの伝統的な民話「トール・ストリー(ホラ話)」に登場する。
この物語形式に出てくるのは、山を一跨ぎで越えたり、湖を一気に飲み干したりという、スケールのバカバカしいほどの大きさが特徴だ。

その起源は、西部開拓の時代焚き火を囲みながら、男達が言葉を交わす中で、元の話に尾ひれが付いて、いつしか、トンデモナイ話に変化していったものとされる。
それは、この映画の、現実の事件を素材として、大きく膨らませていくコーエン兄弟の手法そのままではないか。

つまりは、この映画の本質は「トール・ストーリー」のごとく、小さな事件を「大きなホラ話」に変換する事に主眼があるのであり、それゆえ映画が描いたのは「嘘=フィクション」なのである。

そして、またアメリカ文化の伝統である「トール・ストーリー」は、実は映画作品にも脈々とその伝統が引き継がれているのである。
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関連レビュー:トール・ストーリー映画
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そして、コーエンはその「嘘=フィクション=ほら話」の持つ、「フィクション力」とでもいうべきものを証明したいが故に、敢えて「実話」と宣言したのではないかと疑っている。
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posted by ヒラヒ・S at 17:00| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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