英語題 Tales of Ugetsu 製作国 日本 製作年 1953 上映時間 96分 監督 溝口健二 脚本 川口松太郎、依田義賢 |
評価:★★★★ 4.0点
第二次世界大戦が終わって10年もたたない1953年の作品です。
溝口健二監督と往年の日本映画のスターが結集したこの映画は、第13回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞し、日本映画の世界的な評価を高めた作品です。
この映画には、溝口監督の絢爛豪華な日本美に感動を覚えると同時に、反戦の思いが感じられます・・・・


<目次> |

映画『雨月物語』ストーリー |
そこに住む農民の源十郎(森雅之)は陶芸も生業とし、今日は焼き上がった陶器を忙しく荷車に積み行商の準備を、妻・宮木(田中絹代)と幼子の源市(澤村市三郎)が見守る。
戦が迫っているのを心配する妻に、源十郎は混乱している今こそ商機があるのだと取り合わない。

そこに、源十郎の弟、藤兵衛(小沢栄)が連れて行ってくれと駆け寄ってきた。
藤兵衛の妻阿浜(水戸光子)は、夫が侍に成りたくて町に行く事を知っており、夫の高望みを責めバカな考えは捨てろと言った。
しかし、心配する妻達を残し、兄弟は長浜の市を目指して旅立った。
残された宮木の家を、村名主(香川良介)が訪れ源十郎にしても藤兵衛にしても、欲には限りが無いという事を知らねば不幸になると、諭して帰って行った。

帰ってきた源十郎は、大金を手にしており、妻にも立派な着物を土産に持ち帰った。
その夜の囲炉裏では笑顔の夫婦だったが、源十郎がもっと儲けるんだと口にすると、妻宮木の顔は曇りもう充分です欲を出して何かあればと心配する。

そこに弟の妻阿浜がやって来て、帰らぬ夫・藤兵衛の心配を始める。
すると町で侍志願をして、具足も槍も持たずに侍にはなれないと追い払われた藤兵衛がこっそりと帰って来て妻に罵倒されるのだった。

翌日から、源十郎は妻にも手伝わせ、ろくろを回し焼き物の増産に力を込めた。
窯焼きの場では弟藤兵衛も忙しく働き、一刻も早く金を手に入れ鎧と槍を買おうと手伝った。

そんなある日、村に柴田の軍勢が入り、村人が逃げ惑う中、兵糧を奪って去って行った。
幸いにも被害を受けず、焼き上がった陶器を窯から取り出すと、急ぎ市場に向かい商いをするため出発を急いだ。

陸路は危険だと見て、琵琶湖を船で渡ることにし、源十郎と宮木と子の源市、藤兵衛とお浜の5名は船で出発した。
その途中、一艘の船が漂い近づいてきた。

中をのぞくと重傷を負った男がおり、この先は海賊が横行し、女子供は攫われ、荷物は奪われると警告して死んで行った。
それを聞いた源十郎は、翌朝妻・宮木と子の源市を陸路家に帰し、漁師の娘である阿浜の櫓で再び湖に漕ぎ出した。

市場では源十郎の目論みどおり、飛ぶように瀬戸物が売れて行った。3人は休む間もなく商売を続けた。
茶碗や皿を売り続ける源十郎は、客の中に高貴な雰囲気をまとわせた妙齢の美人に心を奪われた。

その女性若狭()は、お付きの老女・右近()を通じ数々の陶器を購い、邸まで届けるようにと源十郎に頼んだ。
その時、弟藤兵衛は侍の一群を見つけると、その後を追って姿を消した。

妻お浜が後を追うが、市の雑踏の中ついに見失ってしまう。
藤兵衛の行方を求めて、妻阿浜は町を出て荒れ野に入った。
そこで数人の足軽に囲まれ、手籠めにされてしまった。

阿浜は男達が去った後、よろめく様に歩み去った。
源十郎は若狭が依頼した陶器を持って屋敷を訪れた、若狭とお付きの老女は出迎え、居間に招き入れると豪華な酒肴と、若狭の歌と舞いのもてなしを受けた。

若狭は織田信長に滅ぼされた朽木一族の最後の姫で、御いたわしい境涯なので慰めて欲しいと、老女・右近が語った。
源十郎に妖艶な眼差しを送る若狭に魅入られたように、彼は一夜を若狭と共にする。

若狭と暮らす源十郎は、若狭との生活を「この世の天国だ」と思わず呟くほど、謳歌していた。
村に帰った、源十郎の妻宮木と息子源市は、戦の混乱に巻き込まれ、落ち武者達の強奪に震えていた。
何とか村を抜け出した2人は、しかし落ち武者に捕まり、食料を奪われ、宮木はその胸を槍でつかれ命を落としてしまう。

その背中で、幼い源一の泣き叫ぶ声だけが続いていた。
源十郎の弟藤兵衛は、手に入れた具足で足軽として参戦した場で、敵軍の大将が自害する場に居合わせ、その首を手に入れた。
その首を持って、侍頭に注進すると、褒美として馬と家来を持つ騎馬侍の身分を与えられた。

馬に乗り家来を引き連れ、自らの栄達を見せようと、急ぎ阿浜の元に帰ろうとする藤兵衛は、ある宿場町で家来の求めに応じて一夜の宿を取った。

その宿は、酒や食事だけでなく、宿女(宿に居る遊女)も居並び、男達の酔った声と嬌声が響いていた。
その宿の一室には、今は宿女となった阿浜がいた。彼女は、金を払わず逃げる客を追って、広間に出て侍となった藤兵衛と鉢合わせをした。

店の外へ出た阿浜を追って、藤兵衛は妻にお前を幸せにするために、侍に取り立てられたかったのに、そのせいでお前を辛い眼に遭わせたと謝罪した。

何度死のうと思ったか知れないが、それが本心なら私を元通りの私にして、それが出来ないなら死ぬしかないと訴えた阿浜に、藤兵衛は元のお前にすると約束した。
その頃、朽木屋敷で若狭と暮らす源十郎は、ある日町に買い物に出た帰り、一人の老僧(青山杉作)に呼び止められ顔に死相が出ていると告げられた。

何物かに取憑かれているという言葉を信じない源十郎に、せめて魔よけにと梵字をその体に書くのだった・・・・・
朽木屋敷に帰った源十郎の様子が、常と違うことに気付いた老女は、彼を問い詰めた。
源十郎は実は妻子がおり、家に帰らねばならないと別れを切り出した。

それを聞いて狼狽する若狭、老女も帰らせまいと怒りを込めて詰め寄る。
しかし、源十郎の体に書かれた護符の梵字が力を発し、その体に触れることができない。
老女右近は、女の幸せを知らずに死んだ若狭が不憫でこの世に戻り、こうして源十郎という伴侶を得た以上は末永く添い遂げなされと、迫った。

源十郎は近くの大刀を手に取ると、その刃を2人に向け無我夢中で振りまくる――

映画『雨月物語』予告 |
映画『雨月物語』出演者
若狭(京マチ子)/阿浜(水戸光子)/宮木(田中絹代)/源十郎(森雅之)/藤兵衛(小沢栄)/老僧(青山杉作)/丹羽方の部将(羅門光三郎)/村名主(香川良介)/衣服店主人(上田吉二郎)/右近(毛利菊枝)/神官(南部彰三)/自害する武将(光岡龍三郎)/梅津の船頭(天野一郎)/武将(尾上栄五郎)/家臣(伊達三郎)/目代(横山文彦)/村の男(玉置一恵)/源市(澤村市三郎)/具足商人(村田宏三)
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映画『雨月物語』解説
受賞歴紹介
第13回ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞
第28回アカデミー賞 衣裳デザイン賞(白黒映画部門)ノミネート
エディンバラ映画祭 デヴィッド・O・セルズニック賞
第27回キネマ旬報ベスト・テン 第3位
第8回毎日映画コンクール 美術賞、録音賞
<各国「ベスト映画企画」ランクイン・リスト>
2012年:英国映画協会「映画批評家が選ぶベストテン」第50位
2012年:英国映画協会「映画監督が選ぶベストテン」第67位
2000年:「20世紀の映画リスト」(米『ヴィレッジ・ヴォイス』紙発表)第29位
2008年:「史上最高の映画100本」(仏『カイエ・デュ・シネマ』誌発表)第16位
2010年:「エッセンシャル100」(トロント国際映画祭発表)第17位
関連レビュー:『映画ベスト100』企画を紹介!
世界各国で選ばれた『映画100本』のリストを紹介!!!
映画界、映画ファン、映画評論家など、選定方法もさまざま!
日本映画も各リストでランクイン!
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以下の文章には映画『雨月物語』ネタバレ
があります。(あらすじから)
翌朝源十郎は、侍たちに取り囲まれ、廃墟の中で目覚める。
侍たちは、源十郎の持つ刀が盗品だと取り囲み、朽木一族は党の昔に滅び、屋敷は焼け落ちたと、周囲を示した。
侍たちは、牢も焼けてしまったから金で勘弁してやると、有り金を奪われた源十郎は、無一文で呆然と焼け跡を見つめ立ち尽くした。
源十郎は妻・宮木の待つ村へと背中を丸め辿り、その戦で荒れ果てた山野を歩いた。
源十郎の家は、人気が無く、そこここが壊れ、寂れて果てていた。朝になり
無人の家に入った源十郎が、宮木の名を呼びながら、家の外を回って再び玄関をまたぐと、そこには妻と子が居た。
その夜は久々の家族水入らずで、暖かい料理と酒を飲んだ源十郎は、安心した顔で息子と共に眠りに落ちた。
その2人の横で、宮木は静かに縫い物をしていた。
映画『雨月物語』ラスト・シーン
翌朝雨戸を叩く、名主の声で源十郎は眼を覚ました。
名主は源十郎に、宮木が落ち武者に殺されたことを伝え、残された源市を預かっていたと語った。
その源一が、昨夜急に居なくなって心配していたのだと語った。
宮木が死んだと聞いた源十郎は呆然として、囲炉裏端に座り込むと昨夜のことを思い返していた。
源十郎は宮木の墓を訪れ悔恨の涙を流した。
そして源十郎は、再び焼物を作り出した。
弟藤兵衛は途中で槍と鎧を川に投げ入れ、妻阿浜と共に村へ帰って来た。
夫婦は荒れ果てた田畑を、再び耕し始めた。
そんな大人たちを、幼い源一が見つめていた。
戦が終わり、荒れ果てた山河に、再び耕作の鍬が入れられた。【関連する記事】
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