原題 Das Kabinett des Dr. Caligari 英語題The Cabinet of Dr. Caligari 製作国 ドイツ 製作年 1919年 上映時間 67分 監督 ロベルト・ヴィーネ 脚色 カール・マイヤー、ハンス・ヤノウィッツ 原作 カール・マイヤー、ハンス・ヤノウィッツ |
評価:★★★ 3.0点
この作品は、当時のドイツ表現主義を映像として表現し、芸術的な映画として同時代の人々に高く評価されました。
またホラーの歴史の端緒に記され、サイコスリラーの遠〜〜〜い祖先のようにも見える一本です。
映画自体、サイレント時代の言葉情報が限られた中で、複雑な内容を上手く伝えていると思います。
映画の歴史を語る上では必ず言及される作品なので、映画の起源に興味がある方が見れば、これをオリジンとする作品が必ず発見できるはずです。

<目次> |

映画『カリガリ博士』あらすじ |
ベンチに座る二人の男。その前を一人の若い女性ジェーン(リル・ダゴファー)が通ると、ベンチの男フランシス(フリードリッヒ・フェーエル)が、彼女は私の婚約者だと言い、二人に起きた恐ろしい事件を語りだした。
村のカーニバルに、移動遊園地や様々な見世物がやって来た。フランシスは、友人のアラン(ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー)と、遊びに出かけた。そこでカリガリ博士(ヴェルナー・クラウス)と名乗る香具師の、23年間箱の中で眠り続けているという触れ込みの夢遊病者チェザーレ(コンラート・ファイト)を使った見世物小屋に入った。
博士は、チェザーレに予言の力があると口上し、未来を占うというとアランが手を挙げ「自分の寿命は?」と尋ねた。目を開いたチェザーレは「明日の夜明けに死ぬ」と告げた。
その晩アランの部屋に何物かが侵入し、ナイフを振り上げ彼を殺害した。翌日フランシスはその事実を知る。警察に行ったフランシスは、村では役場の職員も殺されており、その職員はカリガリ博士の営業許可取得を横柄に扱った人物だった。
フランシスは、ジェーンの父親と共に、カリガリ博士の家を訪問し、家宅捜査を要求した。
しかし、その時真犯人が捕まったとの報告があり、一同は急ぎ警察へと向かった。しかし、その犯人はアレンの事件には関わっておらず、再び疑念はカリガリ博士へと向かう。
危険を察知したカリガリ博士は、チェザーレにジェーンの殺害を命じ、同時にチェザーレの人形を彼の眠る棺に入れ偽装した。チェザーレはジェーンの部屋へ侵入しナイフをふりかざすが、ジェーンの美しさに魅せられ、ジェーンを抱きかかえると村の道を逃亡する。
異変を知った村人たちに追われたチェザーレは、心臓発作により命を落とした。
一方、フランシスは警官たちとともにカリガリ博士の見世物小屋を訪ね、チェザーレとの面会を強要した。しかし、眠り男が眠っているはずの箱の中にあったのは、博士が用意していた替え玉の人形だった。逃亡した博士は村の中の精神病院へ逃げ込んだ。
フランシスがその病院で「カリガリという人物」の存在を尋ねると、職員は院長に確認すると院長室へ入った。すると、そこにいたのは、正にカリガリ博士だった。

映画『カリガリ博士』予告 |
映画『カリガリ博士』出演者 |
カリガリ博士(ヴェルナー・クラウス)、チェザーレ(コンラート・ファイト)、フランシス(フリードリッヒ・フェーエル)、ジェーン(リル・ダゴファー)、アラン(ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー)、オルセン博士(ルドルフ・レッティンゲル)

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映画『カリガリ博士』感想 |
ドイツ表現派映画の第一作としても、記録される作品。
古典映画は多かれ少なかれ、現代の刺激たっぷりの濃厚サービスの映画を見慣れた眼で見ると、正直見通すには忍耐が必要だと思う。
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しかも、この映画は白黒サイレント作品であり、通常の映画の構造と別次元の創作物だとして捕えるべきだろう。
しかし、この映画はサスペンス・ホラーの原型として、その地位を確立している。
この作品で描かれた、「怪物を操る黒幕」や「美女に魅了される怪物」などの構造は、ホラーの典型として今も繰り返し活用されている。
また同時に、最後で明らかになるが、実はサイコホラーの要素も持ち合わせている。
この映画は言うなれば、ヒッチコック監督作品の、刺激を薄くしたような映画である。
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しかし「ローマは一日にしてならず」と言うように、こんなドラマ形式のパイオニアがいたからこそ、その後の刺激が大きい娯楽性の高い作品が生まれたのだ。
現代映画の、恐怖と、スリルと、興奮に満ちた、刺激的な作品の元型が、どれほどプリミティブな姿をしていたのか、この映画で確かめてみるのも一興だろう・・・・・・

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映画『カリガリ博士』解説 |
ドイツ表現主義(英: German Expressionism)は、ドイツにおいて第一次世界大戦前に始まり1920年代に最盛となった芸術運動で、客観的表現を排して内面の主観的な表現に主眼をおくことを特徴とした。建築、舞踊、絵画、彫刻、映画、音楽など各分野で流行し、「黄金の20年代」と呼ばれたベルリンを中心に花開いた。日本を含む世界各地の前衛芸術に影響を与え、現代芸術の先駆となった。(wikipediaより)
当時のドイツは、第一次世界大戦の敗戦に打ちのめされ、その敗北の原因を求める自己探求の欲求が「表現主義」という形を取ったようにも思える。
そして、この映画が描いたのは、ドイツにとっての戦争の総括であったようにも見えるのである。
第一次世界大戦は連合国(ロシア帝国、フランス第三共和政、グレートブリテン及びアイルランド連合王国の三国協商に基づく)と、中央同盟国(主にドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国)という2つの陣営が対峙し戦われた、史上死亡者数の最も多い戦争と言われる。
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その戦争で傷付き、膨大な賠償を課せられたがゆえに、ドイツはナチス政権下で再び戦争を起こすことになった。
しかし、政治はともかく、その歴史上未曽有の大戦争に巻き込まれたドイツ国民にとっては、大きな災厄であったに違いなく、その災厄の記憶がこの映画に刻み込まれているのだと信じる。
即ち、この映画で発生する「殺人=戦争」は、その元凶に「妄想=狂気」が潜んでいるからだと―
そんな「戦争の破壊と狂乱」の実感が、この映画の中に不穏に息づいていると感じる。
そんな歪みを映画の中から抽出してみれば、表現主義絵画に通じる「歪んだセット背景」が全編を覆い、その出演者の顔はクマを作った病的なメイクが施され、役者の演技は誇張された動きと、異形の細いシルエットを見せ、照明がその姿をより特異な姿に描きだし、その映像シークエンスも不気味な不安定さを表している。
そんな、この映画の表現の集積として、荒廃したドイツの「狂気と不安と恐れ」が言葉によらず、映像として定着されているのは、見事と言うべきだろう。
それは、共産主義革命の熱狂が『戦艦ポチョムキン』で新たな映画表現を生んだように、亡国の窮状が生んだ歪んだ表現だったと愚考する。
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映画『カリガリ博士』考察映画の評価 |
この映画は、海を越えた当時の日本にも、大正活映という会社を通じて大正十年に輸入され、高い評判を得た。
文豪・谷崎潤一郎は、脚本家として大正活映に所属していた縁もあり、その批評を書いている。
<谷崎潤一郎「カリガリ博士」を見る>
また、谷崎の文章に触発されるように、小説家・佐藤春夫もこの映画の批評を書いている。
その文章から当時の大正日本で、この映画が一大ブームになっていた事がうかがい知れる。
総じて、当時としては、斬新で、刺激と、サスペンスに溢れた、エポックメーキングな作品であったのであろう。
そんな当時の高い評価に敬意を表し、更に「あるジャンルの始祖=古典」としての価値を鑑み、★4つを付けた。
しかし、個人的に言えばそのラストを含め、面白いとは言い難く★1点を減じたのが、この評価である。

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以下の文章には 映画『カリガリ博士』ネタバレがあります。 |
(あらすじから)
その晩フランシスは、博士が就寝している間に、病院の職員と共に院長室で証拠を物色した。すると、1093年カリガリ博士という人物の、夢遊病患者を支配し己の欲望のまま、殺人事件を犯させていた人物の資料があった。更に、院長の日記には夢遊病患者チェザーレを手に入れた院長が、彼を操って何でもできると喜ぶ記載があった。
フランシスと職員は院長に詰め寄り、その罪を認めろと迫った。
そこに、チェザーレの死体も運び込まれ、対面したカリガリ博士は、悲嘆のあまり錯乱し、あばれる博士はその場で職員たちに取り押さえられ、拘束衣を着せられ閉鎖病棟へ入れられた。


映画『カリガリ博士』結末 |
回想が終わり、ベンチを立ち上がった場所は、精神病院の庭だった。
たくさんの患者が庭で陽に当たり、思い思いにうろつく中、そこにはチェザーレがいて、フランシスは「彼に占われたら死ぬ」と叫んだ。
更に、うつろに歩むジェーンに向かい、フランシスはいつ結婚してくれるのかと問いかけた。
すると、ジェーンは「王族が結婚するのはいろいろ大変なの」と虚ろに言った。
そして、建物内から「院長=カリガリ博士」が姿を現わした。
カリガリ博士を発見したフランシスは叫びながら、院長に掴みかかった。
病院の職員に取り押さえられたフランシスは、拘束着を着せられ、病室に入れられた。
院長はその姿を見ながら、「彼は偏執狂だ」といい、病名が判明したから治せると言った・・・・・・・・・・
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