原題 Dancer in the Dark 製作国 デンマーク 製作年 2000年 上映時間 140分 監督 ラース・フォン・トリアー 脚本 ラース・フォン・トリアー |
評価:★★★★ 4.0
この映画はカンヌのパルムドールに輝いた反面、さまざまな批判を生んだ作品でもある。
これを見た多くの観客は、そのラストに叩きのめされ、鑑賞後に落ち込む「鬱映画」としてその名も高い。
しかし、個人的にはこの作品に、ある種の崇高な希望を見た思いがし、なにがしかの救済の力を感じた。
その印象は、ストーリーを追うに連れ、更に確固とした印象となった。
<目次> |
映画『ダンサーインザダーク』ストーリー |
そこでは演出家サミュエル(ヴィンセント・パターソン)の指導の下、工場の同僚でセルマ同様チェコからアメリカに渡ってきたキャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)も共演している。
そんなセルマは視力を喪う遺伝性の病気により今年中に失明する運命にあり、キャシーと医師の力を借り視力検査をようやくパスする有様だった。
しかしそれでも、工場でミュージカルの舞台を思いつつ、現場責任者のノーマン(ジャン=マルク・バール)から注意されながらも仕事をこなし、家に帰ると内職に励んでいた。同じ街に住むジェフ(ピーター・ストーメア)はセルマに好意を寄せ、仕事帰りになると彼女を送ると声をかけるが、セルマは応じない。
そんなセルマは女手ひとつで、12歳の息子・ジーン(ヴラディカ・コスティック)を育て、トレーラーハウスを警官ビル(デヴィッド・モース)とその妻・リンダ(シオバン・ファロン)夫妻から借り、夫婦の細やかな好意を受けて暮らしている。
そんな彼女は日々の稼ぎを貯蓄することに懸命で、息子ジーンの誕生日プレゼントを買う金も惜しみ、見かねた友人達が息子が欲しがっていた自転車をプレゼントするほどだった。そんな、ある晩セルマのトレーラーハウスにビルが現れ、自分が無一文で妻リンダの浪費のせいで、家を取られてしまう。そうなれば妻は出て行くだろうと、苦境を語り涙を流した。
それを訊くセルマは、ビルを慰めるために自らの秘密を打ち空けた。自らが失明する運命であり、息子・ジーンにも眼病が遺伝しているため、手術のためにアメリカに来たと言い、その手術代の貯蓄も目標額に近づき、13歳になれば息子は手術を受けられそうだと微笑んだ。
ビルは強い人だとセルマを讃えた。セルマは強くないから、辛くなると夢の中でミュージカル映画が始まると語った。二人はミュージカル映画への愛を語り合い、セルマは終わりの歌を聞くのが辛いから、最後から2曲目が終わったら映画館を出て、映画を終わらせずに続けさせるのだと言った。2人は別れ際にお互いの秘密は、口外しないと約束しあった。
その向かい側のビルの家の窓では、妻リンダが2人の様子を窺っていた。
工場でセルマは材料を2枚重ね機械を壊すところだった。それはキャシーが未然に防いだが、現場責任者のノーマン(ジャン=マルク・バール)から怒られ、キャシーに無理をしすぎだと叱られた。
その帰り、セルマに思いを寄せるジェフが車で送ると声をかけるが、彼女はあなたが好きだが付き合う時間は無いと彼に伝えた。そこへ警官のビルが通りがかり、セルマは同乗して帰ることにした。
その車内でビルは家のローンを貸して欲しいと頼むが、セルマは手術の代金だからと断った。ビルは自殺を口にするほど精神的に追い詰められていた。
自転車も乗れなくなるほど視力は落ちたが、セルマは内職を増やし工場の夜勤も入れ、更にミュージカルの稽古もすると言う。キャシーは夜勤に強く反対した。しかし、夜勤の場には彼女の姿があった。
忙しく働くうちに、工場の作業音がリズムを刻み、ミュージカルの空想が始まりセルマは歌い踊り、工員全ても笑顔と共に華やかなダンスが繰り広げれれた。
しかし、手を怪我し空想から現実に引き戻された。挿入歌<クヴァルダ>
そんな夜勤明けのセルマをジェフが待っていたが、彼女は1人で線路を頼りによろめくように歩き去った。それを見送るキャシーは、セルマの視力が喪われつつあるのを知り、不安な眼差しをその背に送った。
セルマが家に帰ると、夜勤の間息子ジーンを世話していたビルがいた。ビルは妻に現状を正直に話し、それでも妻は自分を愛してくれると思うと語り、セルマもそう決断して良かったと答え、ビルと別れの挨拶を交わした。しかしセルマの眼が見えないと知っているビルは、音を立ててドアを閉めながら、室内に残りセルマの様子を探った。
そうとは知らないセルマは、その日の収入を貯金の隠し場所にしまった。ビルはそれを確かめると、静かに立ち去った。
ミュージカルの稽古に行ったセルマは、すでに失明した自分が演じられないと知りマリヤ役を降りると演出家のサミュエルに告げるが、彼はミュージカルが命だと語っていたセルマのために修道女の役を与え、セルマは感謝の言葉を述べた。
しかし、工場では現場責任者のノーマンが、機械を壊したセルマにクビを宣告した。
線路を一人帰るセルマをジェフが追って来たが、セルマが機車を避ける姿から「眼が見えないのかと」問い掛けた。セルマは「もう見るものは何もない」と言うと、機車が響かせる鉄路のリズムに乗り、空想のミュージカルの中ジェフと共に歌い踊った。
そして別れ際、ジェフに大事な用があるから迎えに来てと約束を交わした。挿入歌<アイヴ・シーン・イット・オール>
セルマが帰宅し、最後の給料を入れようと貯金の隠し場所を見ると、それは空っぽだった。
ビルの仕業だと気づき、その家を訪れたセルマを迎えたのは、ビルの妻リンダの怒りだった。
彼女はビルからセルマに誘惑されたと聞き激昂し、トレーラーハウスをもう貸せない、出て行けとセルマに言った。
「ビルと話す」とセルマは2階の彼の元に足を運んだ。ビルは「トレーラーハウスに自分が居るのを見られたから、嘘をついてしまった」と言いセルマが否定しなかったと聞くと、なぜ真実を言わなかったのかと問いかけた。
セルマは「秘密にする約束だから」と答え、仕事を首になり貯金が出来なくなったから、息子の手術代を今ある分で払うのだと語り、ビルから金を取り返すとセルマは背を向けた。
その背中にビルは拳銃を突きつけると、金を再び奪い階下の妻に「セルマが俺の銃を奪い金を盗もうとした。手錠をもってこい」と叫んだ。そして、セルマには金をよこせば逃がしてやると囁く・・・・・・・・・・・・・・・・
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映画『ダンサーインザダーク』予告 |
映画『ダンサーインザダーク』出演者 |
セルマ(ビョーク)/キャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)/ビル(デヴィッド・モース)/ジェフ(ピーター・ストーメア)/ノーマン(ジャン=マルク・バール)/ジーン(ヴラディカ・コスティック)/リンダ(カーラ・シーモア)/オールドリッチ(ジョエル・グレイ)/サミュエル(ヴィンセント・パターソン)/地方検事(ジェリコ・イヴァネク)/ブレンダ(シオバン・ファロン)/ポーコルニー医師(ウド・キア)/医師(ステラン・スカルスガルド)
映画『ダンサーインザダーク』受賞歴 |
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以下の文章には 映画『ダンサーインザダーク』ネタバレがあります。 |
金を取り戻そうともみ合ううち、銃が火を噴きビルの腹部に弾があたった。
ビルは腹を抑えながら、良く撃ってくれた、殺してくれ、慈悲だと思って殺してくれとセルマに懇願する。
それでもセルマが撃てないと知ると、殺さなければ金を渡さないと強く抱きかかえた。
追い詰められたセルマはついに発砲し、銃弾はビルの体にめり込み撃ちつくされるが、眼の見えないセルマの弾は致命傷を与えられない。
それでも金から手を離さないビルの頭に、セルマは傍にあった金庫を振り下ろすが、頭がどこにあるか分からず何度も叩きつけた。
ついにビルの命を絶つと自らの貯金を取り戻した。
セルマは呆然とした表情で歌を歌う。それはビルを悼む歌だった。そこに死んだビルも加わり、お互い傷付け合ってしまったことを悲しむ歌を歌った。
パトカーのサイレンが近づき、セルマはビルの家から友人ジェフとの約束の場所に走る。挿入歌<スキャターハート>
落ち合った2人は、街を出るとそのまま息子ジェフの手術を執刀する眼科医に赴き、2056ドルと10セントで手術を依頼した。
セルマは息子は「ノヴィ」と名乗り病院に来るので、手術をしてくれと頼みました。同じくチェコ出身の医師はノヴィという名が、チェコの有名なミュージカル俳優オルドリッチ・ノヴィだと知っていた。
その後、ジェフの車でミュージカルの稽古に行ったセルマは、事件を知っている劇団員により警官に通報された。
警察が到着するまでの時間、演出家はセルマをその場に止めようとする、彼女と言葉を交わす。
舞台の音楽に乗ってセルマの空想ミュージカル『イン・ザ・ミュージカル』が始まり、彼女の歌で劇団員と共に踊る。
しかし、その最後は警察官に担ぎ上げられ逮捕された。
セルマの裁判が始まり、証言者達の言葉はセルマに不利だった。また、ビルの妻は「計画的で冷酷な犯行」だと涙ながらに訴えた。セルマが証言台に立ち検察官の質問が始まる。
検察官はビル夫妻と親しい友人で、医師の証言で眼が見えているとされたセルマが、なぜ34箇所も傷つけるような残忍な殺人を行ったかと問う。
セルマは殺してくれとビルに頼まれたからだと主張したが、検察官に「ビルが死のうと思う理由が見当たらない、なぜ頼んだのか?」と問うと、セルマは「秘密です」と言った。
さらに「ビルの貯金を盗んだ」という検察の追及に対し、セルマは「自分の貯金」だと返したが、その「貯金の目的は?」と問われチェコに居る「父オルドリッチ・ノヴィ」に送金するためだと答えた。しかし、検察はミュージカル俳優オルドリッチ・ノヴィを召喚していた。
彼は、今カリフォルニアに住み、セルマの父ではなく、送金の事実もないことが明らかに成る。
セルマはその証言を聞きながら、空想に入りセルマはミュージカルの素晴らしさを、ノヴィはミュージカルで夢を見る君を受け止めると歌い、共にタップを踊り表現する。
セルマに対する裁判の判決は、第一級殺人罪として罰は絞首刑だった。挿入歌<イン・ザ・ミュージカルズ>
刑の執行を一週間後に控え、友人キャシーが面会に来た。
そして、セルマが隠していた貯金が息子の手術代として払われている事実を、ジェフが病院で突き止めたと語る。さらに、その新事実があれば、弁護士は再審請求を死刑を免れられると説明した。セルマは、息子がその事実を知ったか否かを不安げに訊ねた。
眼の病気は精神的なストレスによって失明する可能性があり、子供との面会も敢えて避けているほど、気遣っていたからだ。
キャシーはでも子供のために貯金したというのは、裁判に有利だから主張すべきだと言った。
日々は死刑執行日に近づき、恐怖を覚えたセルマは独房で聞こえる賛美歌に耳を傾け、セルマは『マイ・フェバリット・シングス』を歌い、恐怖を忘れようとするが空想の世界には入れなかった。
しかし死刑を前に再審が認めれ、新たな弁護士がセルマの元を訪れた。しかし、新たな弁護士は弁護士費用が掛かり、キャシーから息子ジーンの手術代を受け取っていた。挿入歌<マイ・フェバリット・シングス>
セルマは、息子ジーンが今手術しなければ手遅れになると、面会に来たキャシーに叫んだ。
更に、私が死刑になってもジーンの眼のほうが大事で、それだけが私の望みだと言い、キャシーとケンカになった。
そしてセルマは弁護士との契約を解除し、死刑になる道を選んだ。
死刑執行の時が来た。
恐怖にすくんだ、セルマは歩けなかった。
それをセルマに同情する看守が励まし、一歩づつ歩を進めさせた。
その励ましに、いつしかセルマは空想の中、カウントダウンの歌を歌いながら刑務所内を踊り、歩んだ。
気が付くと絞首刑台の上に立たたされていた。我に返ったセルマは恐怖を口にし、倒れこみ、木の台にくくりつけられた。挿入歌<107ステップス>
そして、泣き叫ぶ彼女の首にロープが巻かれた。
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映画『ダンサーインザダーク』結末・ラスト |
死を前に息子ジーンの名を叫ぶセルマ。
そんな、セルマの手にキャシーはジーンのメガネを渡すと「手術に成功した。もうメガネは必要ない」と知らせる。
キャシー:彼(ジーン)は外に居る。彼はこれを私にくれた。/刑務官:ガードマン!/セルマ:じゃあ、手術を受けたの?/キャシー:彼は自分の孫を見れるの!彼は外に居るわ。あなたは正しかったわ、セルマ!心の声を聴いて!/セルマ:(歌う)
愛しいジーン、あなたがここにいるのは分かっている
そしてもう恐れることはない
ああ、私達は知るべきよ
ああ、私は1人じゃなかった
これは最後の歌じゃない
バイオリンは鳴らず、聖歌隊は沈黙している
そして、だれもスピンしない
これは最後の前の曲
それはそういうこと
覚えておいて、私が言ったこと
覚えておいて、私がパンを包んだこと
あなたのベッドを整えた、こんなや、そんな
これは最後の歌じゃない
バイオリンは鳴らず、聖歌隊は沈黙している
そして、だれもスピンしない
これは最後の前の曲
それはそういうこと
歌の途中でセルマの体は、虚空に吊るされ、その絶命した体はカーテンによって閉ざされた。