2018年10月07日

映画『愛を読む人』恥が生む人間関係の歪み/感想・解説・タイトル意味・受賞歴

映画『愛を読む人』(感想・解説 編)

原題 The Reader
製作国 アメリカ、ドイツ
製作年 2008
公開年月日 2009/6/19
上映時間 124分
監督 スティーヴン・ダルドリー
脚本 デヴィッド・ヘア
原作 ベルンハルト・シュリンク『朗読者』(新潮文庫刊)


評価:★★★★    4.0点



この映画を見始めて、最近若い世代が口にする言葉を思い出した。
それは「恥をかいているシーン」を見たり想像したりするのが「いたたまれない」というものだ。
ケイト・ウィンスレットが演じオスカーを獲得した役、主人公ハンナが人格形成の基底としていたのも「廉恥心=恥」であるように思える。
この女性が持つ「劣等感」が、歪んだ「愛」と「犯罪」を生んだのだと、説得力のある演技が語っているように見える。
その「恥=秘密」の内容を明かす事は、この映画のネタバレに言及する事になるので、以下はこの映画を既に見た方々にお読み頂くのが適当だと思う。

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映画『愛を読む人』予告

映画『愛を読む人』出演者

ハンナ・シュミッツ(ケイト・ウィンスレット)/マイケル・ベルク(レイフ・ファインズ:青年時代ダフィット・クロス)/ロール教授(ブルーノ・ガンツ)/ローゼ・マーサー:イラーナ・マーサー(レナ・オリン)/娘期イラーナ・マーサー(アレクサンドラ・マリア・ララ)/ジュリア:マイケルの娘(ハンナー・ヘルツシュプルング)/カーラ:マイケルの母(ズザンネ・ロータ)
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以下の文章にはネタバレがあります。

映画『愛を読む人』感想


この映画を見て、主人公のマイケルと、ヒロインのハンナとの関係とは何だったのかと自ら問うた。
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第二次世界大戦下で、ナチスドイツの親衛隊員であったハンナは文盲で、それを恥じている。

その羞恥の強さは異常とも思えるほどで、露見しそうになれば職場から逃走し、その恥が露見するぐらいなら自ら「アウシュビッツ」の冤罪を被る。
そこに見えるのは、プライドの強さだ。

この自尊心は、自らの文盲という劣等感を糊塗するために、より強く固くその心を覆ったのかとも思う。
そんなプライドゆえに、彼女は一種の歪みをその心理に生じさせたのではないか。

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ハンナは勤勉に、実直に、その仕事で求められる職分を人並み以上に発揮する。

その一方、15歳の少年を誘惑し、性的な関係を結ぶが、それは愛というよりは支配と呼ぶべきだったと感じる。
つまり彼女は、自らの劣等感を隠ぺいするために、社会的に有用な存在であることを証明する必要があった。

また、対人関係においては対等の関係性を構築してしまえば、その恥を追求される可能性が生じるがゆえに、恣意的に支配し得る関係しか持ち得なかったのではないか。
そんな彼女の「恥」が生じせしめたパーソナリティーが、貪るように少年の肉体を求めたのは、恥を隠すという自己抑制の日常が、その欲望を深く強くしたのではないかと想像する。

ここに有るのは、劣等感が人をして、勤勉にも強欲にもさせ得るという指摘であったろう。

さらに言えば、劣等感をして人格を歪ませ対人関係に問題を生じせしめるとも語られていたようにも見える。

しかし、こう見てくれば、このヒロインのハンナはマイケルを愛したとはとても言えまい。
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そんな歪んだ支配を愛だと信じたマイケルが、成長して家庭を上手く営めなかったのも当然だったと思える。

それは、虐待の連鎖のごとく、マイケルをして歪んだ人間関係を生じせしめただろう。
更に劣等感の元が「文盲」だという点も、重要だと感じる。

なぜなら「文盲=識字不能」が意味するのは書籍の消失であり、「歴史」が過去の事象に関する文書や記録である時、このハンナとは「歴史=過去の記録」を持たない者だ。
それは、過去からの言葉を喪った者であり、未来に言葉を残せない者だ。

つまりは、その社会や文化に生育したにもかかわらず、歴史から切り離されたその存在は、一種幽体の如く浮遊し、自らのアイデンティティを確立し得ない。
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けっきょくハンナは、自らが何者かを求めて、勤勉に働き、深い欲望へと向かわざるを得なかった。

しかし言葉を持たない彼女は、他者との関係性を真に構築する事が出来ない。
ここに現れるハンナという存在が意味するのは、劣等感が人を歪ませ、そのアイデンティティを喪う事で、主観的で独善的な他者の断罪へとつながると語られていまいか。

それゆえ、彼女がホメロスの『オデュッセイア』の朗読をせがんだのは、その古典小説がアイデンティティを求める物語だからではなかったか。
そして映画の後半では、ハンナは独学で言葉を学ぶ。
言葉を得た事で自らを、歴史の一部として語り継ぐことが可能になった。
言葉を紡ぐ事で、彼女は自らが何者かを知り、初めて他者との関係性を結び得る権利を持った。

しかし、その言葉を託そうとしたマイケルは、そのハンナの願いを拒絶する。
それは、独善的で他者を支配するハンナのパーソナリティーを愛の対象としたマイケルにとって、許容し難い変化だったのかも知れない・・・・

マイケルがハンナとの対話に応じなかった結果として、ハンナが自ら死を選ぶ。
それは、物語が語るのが「劣等感=恥」のために「他者を従属せしめる=コミュニケーションを拒絶」するのが「罪」であるという真理だとすれば、再びラストで象徴的に語ったものだと思える。
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映画『愛を読む人』解説

タイトル意味

この映画の題名には深い意味があるように感じた。
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映画の原題『The Rider=朗読者』は原作小説『Der Vorleser =ドイツ語の朗読者』から採ったものだが、英語にすると欠け落ちる情報がある。

なぜなら、ドイツ語の冠詞には男性冠詞、女性冠詞の区別があるが、英語には無い。
ドイツ題を見れば、男性冠詞が付いていることから、この映画の題名が指し示す「朗読者」とはマイケルであることが分かる。

マイケルが朗読者であるとすれば、この映画の彼の存在は読む小説の作者の意思を代弁し、他者に伝える者だ。
つまりは朗読者とは他者の言葉を、読み手に聞かせる存在であり、それは時代を超え国境を越え、コミニュケーションを生む存在であるはずだ。

つまり朗読者とは「他者との関係性を紡ごう」とする、関係性構築者であると解釈できる。
その彼が、「ハンナ=自らの民族の過去」の情報を受け取ることを拒否し、関係を断ち切る態度をとったのである。
ハンナの心理的衝撃を想い、切なくなる。
そして、それは「朗読者=愛を読む人」が、愛を裏切ったことを意味するだろう。
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映画『愛を読む人』解説・受賞歴

ケイト・ウィンスレット、オスカー受賞式

この映画は世界的に高い評価を受け、主演を務めたケイト・ウィンスレットに第81回のオスカー主演女優賞をもたらした。
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第81回アカデミー賞・主演女優賞スピーチ

プレゼンターはマリオン・コティヤール

受賞者ケイト・ウィンスレット(愛を読む人)
【受賞スピーチ・意訳】
OK、失神したペネロペ(クルス)。私はこのスピーチを準備していなかったと言えば嘘になります。私は、多分8才ごろ、バスルームの鏡をのぞきこんで、そして、これ(オスカー像を上げる)はシャンプーボトルでした。でも、今、それはシャンプーボトルでありません!
私はこれを成し遂げるのに、そこからここまでの全ての道のりが非常に幸運であり、そして、いついかなる時も私を信じつづけてくれた人々に感謝しなければなりません。私の友人と私の家族、特に私の母と父。この部屋のどこかにいます。お父さん、口笛か何かを。どこにいるかそれでわかるから。(口笛)分かった!愛してる!(以下関係者にお礼)そして私は、仲間のノミネート候補者の女神に感謝したいです。私たち全員メリル・ストリープと同じカテゴリーにいるなんて、信じられないと思います。ゴメンなさいメリル、でもあなたはガマンすべきだし。アカデミー協会に感謝します。神様、感謝します。

関連レビュー:オスカー受賞一覧
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。

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<その他受賞歴>
放送映画批評家協会賞:助演女優賞
サンディエゴ映画批評家協会賞:助演女優賞
シカゴ映画批評家協会賞:助演女優賞
ラスベガス映画批評家協会賞:助演女優賞、若手俳優賞
ゴールデングローブ賞:助演女優賞
全米映画俳優組合賞:助演女優賞
英国アカデミー賞:主演女優賞
ヨーロッパ映画賞:女優賞




posted by ヒラヒ at 12:04| Comment(2) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
愛を読む人に関連する三つの記事を読みました!素晴らしい文章で大変勉強になりました。
この記事だけマイケルの名前がピーターになっていますので、お手すきの時に修正していただければと思います…!
Posted by しおこ at 2020年10月06日 07:12
>しおこさん
コメントありがとうございます。
またご丁寧なご指摘、大変感謝いたしております。
早速マイケルに修正させて頂きます。
今後とも、お気づきの点があればご教授下さい。
Posted by ヒラヒ・S at 2020年10月10日 14:16
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