2018年06月20日

映画『ブラックスワン』黒白不明のラビリンス/あらすじ・感想・解説・ネタバレ・ラスト・批判

少女の彷徨と映画の彷徨

原題 BLACK SWAN
製作年 2010年
製作国 アメリカ
時間 110分
監督 ダーレン・アロノフスキー
脚本 マーク・ヘイマン、アンドレ・ハインズ、ジョン・マクローリン

評価:★★☆     2.5点



この映画を見て、正直混乱しました。
たぶん、母との関係に問題を持つ主人公の少女が、バレエの舞台の重圧に精神的に崩壊する過程を、映像的に表現しようとしたものだと思うのですが・・・・・
しかし、そんな内容を表現する映画として、この作品の語り口が真に正しかったのかと疑問を持ちもしたのです。
film1-Blu-sita.jpg

<目次>
映画『ブラックスワン』解説・統合失調症
映画『ブラックスワン』受賞歴・オスカー受賞スピーチ
映画『ブラックスワン』感想・映画批判
映画『ブラックスワン』ネタバレ・ラスト
映画『ブラックスワン』結末感想

film1-Blu-sita.jpg

映画『ブラックスワン』ストーリー

ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ポートマン)は、元ダンサーの母親エリカ(バーバラ・ハーシー)から英才教育を受けて育てられ、大人になった今でも母親の強い影響下にあった。彼女はバレエだけに人生を捧げてきた。そんな優等生のニナが属する、バレエ団の次の演目は「白鳥の湖」だった。フランス人演出家トマ(ヴァンサン・カッセル)はそれまでのプリマバレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)を主役に据えず、新人のリリー(ミラ・クニス)、ヴェロニカ(クセニア・ソロ)、ニナを候補者として競わせ、ついにニナがプリマとなった。
しかしニナの性格では清純な白鳥は演じられても、邪悪な黒鳥は表現し切れず、トマもヴェロニカを選ぼうとする。ニナは演出家トマに直接指導を求め訪ねた所、色気が足りないと突然キスをされセクハラを受ける。トマは、最終的にニナを主役に抜擢し、バレエ団は看板プリマ・ベスの引退と、新たなプリマ、ニナの抜擢を大々的に発表した。その後、トマのアパートに招かれたニナは、黒鳥を演じるには性的な喜びを感じるべきだと、迫られた。
トマはその後も、ニナに性的な魅力が乏しいと責め、代役リリーの存在が彼女の不安を煽った。ニナはやがて幻覚や妄想に悩まされ始め、それは日増しに酷くなっていった。そして、ついに『白鳥の湖』の開演前夜、幻覚症状はますます激しくなり、遂にニナは意識を喪ってしまった―

映画『ブラックスワン』予告


映画『ブラックスワン』出演者

ニナ・セイヤーズ(ナタリー・ポートマン)/トマ・ルロイ(ヴァンサン・カッセル)/リリー (ミラ・クニス)/エリカ・セイヤーズ(バーバラ・ハーシー)/ベス・マッキンタイア(ウィノナ・ライダー)/デヴィッド(バンジャマン・ミルピエ)/ベロニカ(クセニア・ソロ)/ガリナ(クリスティーナ・アナパウ)/アンドリュー(セバスチャン・スタン)/トム(トビー・ヘミングウェイ)

スポンサーリンク


film1-Blu-ue.jpg

映画『ブラックスワン』解説


この映画における軸足は、精神病理で言う「統合失調症」を発症した主人公の、異様な心象を描くことにあったのかと想像します。
統合失調症(とうごうしっちょうしょう)またはスキゾフレニア(独: Schizophrenie、仏: Schizophrénie、英: Schizophrenia、SZ)とは、思考、知覚、感情、言語、自己の感覚、および行動における他者との歪みによって特徴付けられる症状を持つ精神障害の一つ。一般的には幻聴、幻覚、異常行動などを伴うが、罹患者によって症状のスペクトラムも多様である。(wikipediaより)

映画内で度を越して母が娘に干渉しすぎ、娘の自立を妨げる「母娘の共依存」や、そんな共依存の強い影響下の娘がしばしばそうであるように「優等生的性格」でありながら、その無意識下に支配・抑圧の重みに必死に耐えている主人公の苦しみが描かれており、その材料は「統合失調症」の引き金として、実に丹念な説明となっているのかとも思います。

そんな、いつ精神的に崩壊してもおかしくない主人公ニナが、ライバルとの競争や演出家のセクハラまがいの指導にも耐えて、バレリーナのプリマとして成功を掴めるかというのが、この映画のストーリーラインなのでしょう。

そんな「親の支配下=少女のまま」の危うさを秘め大人になった女性の悲劇を、『レオン』でデビューし鮮烈な演技を見せたナタリー・ポートマンが演じ、見事アカデミー主演女優賞の栄冠に輝きました。
関連レビュー:ナタリー・ポートマンのデビュー作
映画『レオン』
リュック・ベンソン監督の傑作
愛と暴力の抒情詩

スポンサーリンク


映画『ブラックスワン』受賞歴

第67回ヴェネツィア国際映画祭:マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)ミラ・クニス
第83回アカデミー賞:主演女優賞ナタリー・ポートマン

第83回アカデミー賞ナタリー・ポートマン受賞スピーチ

プレゼンターはジェフ・ブリッジス
【受賞スピーチ・意訳】
有難うございます。大変感謝しています。アカデミー協会にとても感謝しています。これはおかしな事で、本当に、今夜の賞は親愛なる仲間の候補者たちが獲得したものです。私は皆に畏敬の念を持っています。私は自分の仕事ができることにとても感謝しています。私はそれがすごく好きです。私はそこに居る両親が、私に命を与えてくれて、幼い頃から働く機会を与えてくれ、毎日良き人であることを実例として見せてくれていることに、感謝しています。

そして、私は私と毎日仕事をしてくれるチームに感謝します。私のマネージャーであるAleen Keshishianは18年間働いています。私のエージェントKevin HuvaneとCAAの皆さん。I / DのBrynaとTamar。 私の友人は、私のキャリアが何が起ころうとも、私にとってはすべてです。そして私を雇ってくれた皆さん。リュック・ベンソンは私が11歳の時初めての仕事をくれました。マイク・ニコルズは、過去10年間の中で私のヒーローでチャンピオンです。そして今、ダレン・アロノフスキー、あなたは先見性がある、恐れを知らないリーダー。私は毎日あなたと一緒に仕事をしていた、その期間を持てて本当に恵まれています。

私がこの役を演じる準備を多くの人が助けてくれました。メアリー・ヘレン・ボウワーズは私と一緒に1年間過ごし、私を訓練しました。マイケル・ロドリゲス、カート・フロマン、オルガ、ごめんね、オルガ・コストリッキー、マリア・スタビッスカヤ、そして私の愛する人、ベンジャミン・ミルピエド がこの映画を振り付け、私の人生の中で最も重要な役割を果たしました。そして、それについて誰も話しませんが、映画には毎日のみんなの心と魂があります。私の髪とメイクをしたマーギーとジョルディー、私のスタイリストのニッチ。美しいバレエの衣装をデザインしたケイトとローラ・ムラヴィー。ジョー・ライディ―、私たちの信じられないAD、第一AD。そして、私たちのカメラオペレーター、JCとスティーブ、あなたは毎日カメラの後ろで全精力を注ぎ、私に沢山の魂を与えてくれました。最も重要なのは、私の家族、私の友人、そして私の愛する人です。どうもありがとうございます。
関連レビュー:オスカー受賞一覧
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
film_oscar.png

スポンサーリンク


film1-Blu-ue.jpg

以下の文章には『ブラックスワン』に批判的な文章があります。

映画『ブラックスワン』感想・批判


上の解説では、この映画の語りたい内容を、私なりにまとめては見たものの・・・・・・・・・・

実は映画自体の情報としては、そこまで割り切りよく説明されている印象ではありません。

たとえば、母の抑圧を得た少女と書いてはいるものの、観客が相当親切に見ないと、母との関係を整理できないのではないでしょうか?

さらに、この映画の中でイロイロと過激でショッキングなシーンが出てくるのですが、それがどういう理由で描かれるのか、正直意図が分からないと言うことで・・・・・
<映画内でのショッキングなシーン>

激しいビジュアル的な刺激の後ろには、それ相応の心理や劇としての基盤があるはずなのです。

仮に精神障害の少女「統合失調症」という物語的背景を隠しているとすれば、その内容を反映した適正な物語要素や表現が、もう少し丁寧になされなければならないと思います。
swan-black.jpg
その物語のベースの描写が不十分で、映画側が明瞭な道筋を示してくれないので、観客側はどんな風にでも物語を構築可能となり、混乱が深くなっていきます。
そんな状況説明が不足な上に、観客に突き刺さる「棘」のような刺激を、グロ、エロ、ホラー、スプラッターも含め、映画内にたくさん詰め込んでいます。

しかし、その意味付けが不明瞭なため、「衝撃的なビジュアル」を描くことが主体で、内容はどうでもいいと考えているんじゃないかとすら、疑いたくなります。
しかし、この説明不足の映画は間違いなくヒットしましたし、ヒットするなりの理由があると思うのです。

そこでよ〜く見てみると、この映画は刺激的なシーンを描き、そのシーンの意味を敢えて不明瞭にすることで、観客に誤解を生む表現をあえてとっているのではと疑問を持ち始めました。

この映画の事前情報だけだと、「サイコスリラー」「バレエ」「オカルト」「熾烈な主役争い」「恋愛劇」などの断片があり、観客が勝手に「映画」を誤読し、期待することで、ヒットしたのかと・・・・・

事実、上の予告動画や下の30秒スポットを見ても分かる通り、その広告も実にミステリアスで、観客の誤解を生むミスリードだと個人的には感じました・・・・・・・・・
<30秒スポット:ミステリー篇>

結局この映画のヒットは、刺激的なビジュアルを放置し、観客に誤った期待を生じさせる事でヒットしたのかと思えてなりません。

しかし、「誤解された期待」が生むのは失望でしかありませんし、それは映画本来が持ち得たメッセージを弱め、結果的に観客の失望しか生めない事は明らかでしょう。

もし、意図的に製作者側が、そんな誤読を生じせしめようとしているのであれば「あざとい」と言わざるを得ません。

実をいえば、バレエ関係者の声として名作「白鳥の湖」の扱いが酷く、バレエ芸術へのレスペクトが感じられないという意見もあります・・・・・
関連レビュー:映画と原典に対する敬意
映画『アーティスト』
オスカー受賞の現代サイレント映画
この映画はレイプか?

個人的には、証拠もなく断罪もし難く・・・・・・・

それゆえ「脚本が酷すぎる」という評価で納めておきます。

Film2-GrenBar.png
スポンサーリンク


film1-Blu-ue.jpg
以下の文章には

映画『ブラックスワン』ネタバレ

があります。

(あらすじから)
公演直前にニナは目覚めた。
しかし母は、ニナは舞台に出られないとすでに連絡していた。
ニナは引きとめる母を押しのけ、劇場へ急いだ。
劇場では代役のリリーが準備していたが、ニナは「代役は不要」とトマに告げ、白鳥として舞台に上がった。
踊りながらも幻覚に苛まれる中、ついに第三幕の黒鳥として、ニナは舞台に登場した。

film1-Blu-ue.jpg

映画『ブラックスワン』ラストシーン


最終幕の舞台が始まり、ニナはラストまで踊りきった。
そこには感動に泣くニナの母と、ニナを称賛するバレエ団の姿があった。
【意訳】トマ:聞こえるか?愛してる!愛してる!僕の可愛いお姫様。君ならできるって僕は知っていたよ。おいで。観客に応えよう。(リリー傷を見て息をのむ)トマ:誰か助けを。助けを呼んで。どうしたんだ?どうした?/ニナ:感じるわ。/トマ:何て?/ニナ:感じる。私は完璧。/観客:ニナ、ニナ、ニナ・・・・・
彼女の意識は薄れて行った・・・・・・

Film2-GrenBar.png
スポンサーリンク


film1-Blu-ue.jpg

映画『ブラックスワン』結末感想


彼女はバレリーナとして結果を出し、「母の支配」から逃れられたのでしょうか?
swan-clack.jpg
しかしバレリーナの成功とは、母親の望みでもあったのです。

そういう意味では、このバレリーナとしての成功とは単に「母娘の共依存」の追認でしかないでしょう。
そこで問題となるのは、このラストで主人公が命を失ったか否かで、意味がまるで違ってくるという事です。

仮に、このまま主人公ニナが死んだのであれば、たとえ彼女が充足を感じたにせよ、母の支配に殺されたのだと同義でしょう。
もし、彼女が生き延びたのであれば、それは「母の支配」に対する、この映画よりも激しい戦いの第二幕が切って落とされる事を意味すると思うのです・・・・・・・・

やはり、この映画全体に言えることですが、この結末も説明不足で未整理のまま放り投げられているようで、不満が残りました。

そんなために、やはり個人的にこの作品には、低い評価しか付けられませんでした。



posted by ヒラヒ at 09:39| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]