2018年05月10日

実話映画『大統領の陰謀』現実の闇とアメリカン・ニュー・シネマ/感想・解説・映画の理想

映画『大統領の陰謀』(感想・解説 編)

原題 All the President's Men
製作国 アメリカ
製作年 1976
上映時間 139分
監督 アラン・J・パクラ
脚本 ウィリアム・ゴールドマン


評価:★★★    3.0点



ニクソンを辞任に追い込んだ、「ウォーターゲート事件」を巡るワシントンポスト新聞の2人の記者の実話を描いたこの映画は、スピルバーグ監督の2017年の映画『ペンタゴンズ・ペーパー』の後日談だと言えます。
『ペンタゴンズ・ペーパー』ではトム・ハンクスが演じ主役だった編集局長ベン・ブラッドリーを、この映画では名優ジェイソン・ロバーズが演じ、若手二人を叱咤鼓舞し「報道の自由」を守る闘いをバックアップする姿が印象的です。
第49回アカデミー賞では、そんなジェイソン・ロバーズが助演男優賞に輝いた他、8部門でノミネートされ4部門で受賞しています。
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映画『大統領の陰謀』予告

映画『大統領の陰謀』出演者

カール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)、ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)、ハリー・ローゼンフェルド(ジャック・ウォーデン)、ハワード・シモンズ(マーティン・バルサム)、ベン・ブラッドリー(ジェイソン・ロバーズ)、ディープ・スロート(ハル・ホルブルック)、ジュディ・ホバック(ジェーン・アレクサンダー)、ダーディス(ネッド・ビーティ)、ヒュー・スローン(スティーヴン・コリンズ)、ケイ・エディ(リンゼイ・クローズ)、ポール・リーパー(F・マーリー・エイブラハム)、ヒュー・スローンの弁護士(ジェームズ・カレン)


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映画『大統領の陰謀』感想・解説



今作は、「ウォーターゲート事件」について駆け足で描いて行くため、なかなか事件の経緯・実像が分かり難いというのが正直な感想です。
しかし、当時世界を驚かせたニクソン大統領の辞任劇が1974年8月8日で、この映画の公開が1976年です。
そんな事件の渦中にあった当時の人々にとっては、事件の詳細は常識として知っていたことから、細部や人物関係の説明は省かれているのだろうと、個人的に想像しています。

そういう点では、2017年スピルバーグ監督の描いたワシントン・ポストとニクソンの闘いを描いた映画、『ペンタゴン・ペーパーズ』ほどの語りの丁寧さはありません。
関連レビュー:ワシントン・ポストの実話解説
『ペンタゴン・ペーパーズ』
表現の自由とペンタゴン・ペーパーズ事件
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それは、『ペンタゴン・ペーパーズ』が、「表現の自由」という理想を語るための、過去の歴史事実の再評価であるのに比べ、この映画『大統領の陰謀』は「現在進行形の事件」という事で具体的事実の説明を省き、ライブ感、空気感を重視しているためだと感じます。

そんな生々しさ、緊張感を、公開当時は現実の大統領辞任という事件の衝撃が強めていると思います。

時として、ソ連作品『戦艦ポチョムキン』が世界史的大事件「ロシア革命」の衝撃を伝えたように、映画が時代を写し込むことがあり、この映画もそんな一本だと感じました。
関連レビュー:映画革命とロシア革命の関係
『戦艦ポチョムキン』
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そう思えばこの映画は、事件の背後で大統領を追い詰めたワシントン・ポストの2人の記者が、いかに最高権力者のプレッシャーにも負けず、苦闘を続けたかという「事件報道の内幕」を描くドキュメンタリー的な性格を持っていると感じます。

そして、この作品はそれまでの映画の歴史からいって、ユニークな点があると感じました。
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それは、1960年代までのハリウッド映画が持っていた「理想や正義」というものが、この映画には希薄であるという事です。
実際の古いハリウッド実話映画を見てみれば、1954年『グレン・ミラー物語』『ベニイ・グッドマン物語』、1956年『愛情物語』1957年『翼よ!あれが巴里の灯だ』1962年『奇跡の人』 1970年『パットン大戦車軍団』と見てきても、そこにあるのは実在の人物を通して描かれた「偉大な人物像=理想型」の表現だったと感じます。

更に言えば、そんな「理想」を描くために過去のハリウッド映画は、現実の人物の醜い部分を覆い隠してでも、美しい姿で表現していたとすら思います。
そんな作品となったのは、TV出現前のハリウッド映画が娯楽の王様で、基本的には家族で見ても安心して楽しめる内容で描かれるべきだと、社会が望んでいたことも理由の一つです。

そのため1970年以前は、「ヘイズコード」というハリウッド映画界が定めた倫理規定に則って、表現内容が厳しく管理されていました。
関連レビュー:ヘイズコードとハリウッド解説
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そんな、映画が公序良俗の規範となるべきだというモラル重視の考え方が、1970年代までのハリウッド映画を「理想主義的」にしていたのは間違いないと思います。

そしてもう一つの理由は、第二次世界大戦を経てアメリカ的理想主義「自由主義・民主主義」が世界を救済すると、全世界の人々が希望と共に信じていたためだと思われます。
それゆえ、ハリウッド映画界は心おきなく「アメリカ的理想」を語れば、それは全世界で受け入れられる映画コンテンツとして成立したのです。
関連レビュー:ミュージカルとアメリカ的理想
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しかし、そんなアメリカ的な自由や民主主義の「理想」が、60年代の冷戦構造を生み、70年代のベトナム戦争の泥沼化を生むとき、ハリウッド黄金期の語ってきた「理想」は正しかったのかという懐疑が生まれました。
それは、映画メジャースタジオのシステム崩壊に伴い「アメリカンニューシネマ」という名の「反理想主義の映画」を生んだと言えないでしょうか。
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そして、この映画はそんな70年代「反理想主義」の形をした、「現実を題材」とした作品だと思います。
それゆえ上で挙げた過去の現実を題材にしたハリウッド映画に較べ、この作品は苦み、不正、嘘など現実の持つ汚泥にまみれています。
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それは決して、題材が大統領の不正という犯罪行為を描いているからだとは思いません。

たとえば、この不正を暴く記者達をもっとヒロイックに描くこともできたし、過去のハリウッド映画ならそう表現していたはずです。
つまりこの映画で初めて「現実の醜さ」という、「リアリティー表現」が実話ハリウッド映画に反映されたのではないかと思えるのです。

この「報道の自由」を巡る戦いは、真実を追求する者の、執念と恐怖、成功と失敗の怖れの「はざま」を描いて、現実の不誠実を表現して、見事だと思います。
その「理想」を切り捨てたことで、見る者を現実世界の不条理に直面させ、その醜悪な現実との対決を促す、強い力を発していると感じます。

この映画は、そんな汚濁の中の現実世界を冷徹に描いているからこそ、ラスト近くジェイソン・ロバーツ演じるベン・ブラッドリーが語る、この映画内での唯一の「理想=希望」である、「報道の自由」が見る者の心に沁み込むのではないでしょうか・・・・・・・

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posted by ヒラヒ at 15:12| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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