2018年04月20日

実話映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』ストリープ、ハンクス、スピルバーグ/感想・解説・反トランプスピーチ

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(感想・解説編)

原題 The Post
製作国 アメリカ
製作年 2017
上映時間 116分
監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー


評価:★★★★    4.0点


この映画は、スティーヴン・スピルバーグ 監督とメリル・ストリープ。そしてトム・ハンクスのプロフェッショナル3人が、ベトナム戦争の嘘を暴いた「報道の自由」を巡る実話を語り、迫力があります。
そしてまた、メリル・ストリープの演技は、社会進出の中で重責を課された女性の痛みを描いて胸を打ちます。
・・・・・・ところで、トム・ハンクスは別の作品で、この映画の悪役ニクソン大統領に、それと知らずトドメを刺しています。
さて、その映画の作品名は?・・・・・・・・・答えは後ほど。

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映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告

映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』出演者

メリル・ストリープ(キャサリン"ケイ"・グラハム)/トム・ハンクス(ベン・ブラッドリー)/サラ・ポールソン(トニー・ブラッドリー)/ボブ・オデンカーク(ベン・バグディキアン)/トレイシー・レッツ(フリッツ・ビーブ)/ブラッドリー・ウィットフォード(アーサー・パーソンズ)/ブルース・グリーンウッド(ロバート・マクナマラ)/マシュー・リス(ダニエル・エルズバーグ)/アリソン・ブリー(ラリー・グラハム・ウェイマウス)/ジョン・ルー(ジーン・パターソン)/デビッド・クロス(ハワード・サイモンズ)/フィリップ・カズノフ(チャルマーズ・ロバーツ)/リック・ホームズ(ミュリー・マーダー)/パット・ヒーリー(フィル・ジェイリン)/キャリー・クーン(メグ・グリーンフィールド)/ジェシー・プレモンス(ロジャー・クラーク)/ザック・ウッズ(アンソニー・エセー)/ブレント・ラングドン(ポール・イグナシウス)/マイケル・スタールバーグ(エイブ・ローゼンタール)/ジャスティン・スウェイン(ニール・シーハン)

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映画『ペンタゴン・ペーパー』感想・解説


この映画には、いくつかの側面があると思います、その一つが女性映画としての側面だと思いました。
1970年代の女性の社会進出が限られていた時代に、ワシントン・ポスト新聞の経営を夫の自殺によって引き継がねばならなかった主人公の闘いが印象的です。
メリルストリープ演じる主人公は、映画の序盤には周囲の男達に軽んじられています。
それは、彼女自身も自らの能力に懐疑的な様子が見て取れ、そんな彼女が「極秘国家機密」を会社の存亡を賭けて決断できるのかと、見ているこちらも心配になります。

そんな逡巡と、決断を求められた、一個の女性を演じてメリルストリープの演技は際立っていると感じました。
特に印象深かったのは、電話で「国家機密掲載」の決断を求められた彼女が、眼に涙を潤ませながら「(記事を)載せて」と告げるシーンでした。
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このメリルの表情を見て、実は経営者であるとかリーダーと呼ばれる人達は、その決断において身が細り錯乱するような瞬間を、多かれ少なかれ持っているのだろうと想像しました。

そんな、リーダー達の苦悩の決断を、これほど劇的に表したシーンを私は知りません。
たぶんそれは、女性であるがゆえに、決断の重さと恐怖が、ことさら際立って表現されたのだと思います。
そして、その決断シーンは、女性であっても社会の重要なパートを占めれるという証明であり、終盤の裁判所で女性達に取り込まれ賞賛を受けるシーンで明らかなように、フェミニズムの主張を含んだものだったに違いありません。
そんな、当時の女性達の社会進出を象徴的に描いて感動的でした。

また、メリル・ストリープは作品キャリアの上で、女性としての苦しみや自立を描いた作品も多いように感じます。
当ブログ関連レビュー:ホロコーストの地獄の選択
『ソフィーの選択』
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関連レビュー:フランス料理で人生が変わった二人
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さらにこの決断のシーンで描かれたのは、「会社の消滅」と「公共の利益」を天秤にかけ、会社という私的財産が無に帰そうとも、公の正義のために尽くそうとする決断でした。
ここには、かつてのハリウッド作品に有って、近年失われつつある「理想主義」が描かれていると信じます。

実を言えば個人的には、スピルバーグ監督とはアメリカの理想が揺らいだ時期のハリウッド映画界にあって、「理想を描かないエンターテーメント」でハリウッドを救った存在だと思っています。
関連レビュー:スピルバーグとハリウッドの復権
『E.T.』
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宇宙人と少年のヒューマン・ドラマ

しかし、そんなエンターテーメント性から出発したスピルバーグも、歳を経るに従って社会性を持ったテーマを語るようになります。
そんな、スピルバーグ作品での「理想」をしばしば体現するのが、トム・ハンクスであるように思います。
関連レビュー:スピルバーグとハンクスの戦争映画
『プライベート・ライアン』
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トム・ハンクス主演・アカデミー賞受賞作品
関連レビュー:スピルバーグとハンクスのコンビ作品
『スパイオブブリッジ』
冷戦下のスパイの物語
トム・ハンクス主演のプロフェッショナリズム賛歌

この映画では特に、メリル・ストリープを脇で支え、抑えた演技で映画に安定感をもたらしているように感じます。

いずれにしても、数々のアカデミー賞を獲得してきた、スピルバーグとトム・ハンクス、メリル・ストリープのプロフェッショナル3人が、「理想」を強く訴えた見ごたえある映画だと感じました。
関連レビュー:オスカー受賞一覧
『アカデミー賞・歴代受賞年表』
栄光のアカデミー賞:作品賞・監督賞・男優賞・女優賞
授賞式の動画と作品解説のリンクがあります。
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その強い「理想」は、2017年5月30日の撮影開始から約5か月後の11月6日に映画を完成させるという、驚異的な製作時間にも現れていると思います。
早撮りで有名なスピルバーグ監督にとっても、過去最短で映画を完成させたのは、どうしても今、緊急に世に訴えねばならないという、止むに止まれぬ思いがあったからだと感じられます。
その思いとは、間違いなく2017年1月20日、第45代アメリカ合衆国大統領に就任したトランプ政権に対する、明瞭な「No」がそのモチベーションとしてあるでしょう。

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映画『ペンタゴン・ペーパー』解説

メリル・ストリープのトランプ批判

メリル・ストリープは、2017年1月ゴールデングローブ賞の授賞スピーチで、暗にトランプ次期大統領を指し批判し、この映画のテーマを語っていました。
それに対し、トランプ大統領もツィッター上でメリル・ストリープを「最も過大評価されたハリウッド女優」と怒りの反撃をする騒動がありました。

マスコミを「フェイク=偽物」といい、その報道の自由を規制しようとする権力者に対して、表現者として自由の重要性を訴えた作品だと思えます。

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あ〜そうそう。
冒頭のクイズの答えを・・・・・・

トム・ハンクス演じる主人公が、ニクソンを失脚に追い込んだ映画とは『フォレストガンプ』でした。

ピンポン外交で活躍したフォレストはホワイトハウスでニクソンと面会し、そこでニクソンはウォーターゲート・ホテルを紹介します。
そこは民主党党本部のあるウォーターゲート・ビルの正面で、真夜中に民主党党本部に盗聴器を仕掛けようとしていた、ニクソン大統領の不正工作をフォレストが目撃するのです。
『フォレストガンプ』ウォーターゲート事件

ニクソン:どこに泊まっているんだ?/フォレスト:ホテル・エボットです。/ニクソン:だめ、だめ、だめ、だめ。もっといいホテルを知ってる。出来たばかりで、現代的だ。君の為に私のスタッフが準備するよ。/ホテル従業員:保安部のフランク・ウイルスです。/フォレスト:ああ、その、保守点検員を向かいのビルのオフィスに送ったかな。ライトを消して欲しいんだ。懐中電灯を使っているから、彼らはたぶんヒューズ・ボックスを探してるんだと思うけど、それで僕は寝れないんだ。/ホテル従業員:わかりました。確認します。/フォレスト:ありがとう。/ホテル従業員:どういたいしまして。/フォレスト:お休み。/ホテル従業員:お休みなさい。(TVのニクソン大統領の退任演説)

関連レビュー:トム・ハンクスのアメリカ現代史
『フォレスト・ガンプ/一期一会』
アメリカ現代史を疾走する男
アカデミー主演男優賞、監督賞、作品賞の3冠受賞



posted by ヒラヒ at 17:00| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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