映画『グランドホテル』(感想・解説 編)
原題 Grand Hotel 製作国 アメリカ 製作年 1932 上映時間 112分 監督 エドモンド・グールディング 原作 ヴィッキ・バウム 原作戯曲 ウィリアム・A・ドレイク |
評価:★★★☆ 3.5点
この映画は史上初のオールスター作品です。
そんな豪華スターを配しながら、その語られる物語には「暗い影」が見え隠れします。
その理由はやはり、当時1932年に世界を覆っていた「大恐慌」のせいではないかと思うのです・・・・・・

<目次> |

映画『グランドホテル』予告 |
映画『グランドホテル』出演者 |
グルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)/ガイゲルン男爵(ジョン・バリモア)/フレムヒェン:速記者/(ジョーン・クロフォード)/プライジング(ウォーレス・ビアリー)/クリンゲライン(ライオネル・バリモア)/オッテンクラーク博士(ルイス・ストーン)/センフ:給仕長(ジーン・ハーショルト)/ポーター(レオ・ホワイト)/シュゼット(ラファエラ・オッティアノ)



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映画『グランドホテル』解説ストーリー検証 |
この映画を子細に見てみれば、驚くほどお金にまつわる、暗い物語だと驚きます。

まずは、この映画のメインキャストの1人、ガイゲルン男爵はギャンブルを元にした借金4,000マルクのために、泥棒に身を落としています。
また、会社経営者プライジングは、倒産の危険を抱え合併により活路を見出そうとします。
そして、プライジングの会社に長年勤務してきたクリンゲラインは、その命が残り少ないと知らされ、全財産を最後に使い果たそうとします。
さらに、速記者のフレムヒェンはお金のために、プライジングの愛人になろうとします。
唯一お金の心配がない、バレリーナのグルシンスカヤも、かつての人気に陰りが見え、更にはようやく掴んだ愛する人も、お金のいざこざで失ってしまうのです。
よくも、まあ、ここまで暗いシチュエーションを語ったものだと感心しますが、それはたぶん当時の社会情勢からいって、明るい人生を描くことに無理があったからだと思うのです。

なぜなら、この映画の公開年度1932年とは、世界を巻き込んだ経済史上の大事件『大恐慌』の真っ只中で、人々が餓え苦しんでいた時期でした・・・・・・・・・
(右プラカード:市民になりたい。放浪労働者は嫌だ。)
この映画は華やかなオールスター作品でありながら、『大恐慌』の痛みが映し込まれていると、思えてなりません。

それを最も端的に表しているのが会社経営者プライジングです。
彼は「大恐慌」でいうところの資本家で、庶民から見れば「敵視」される存在であり、この映画での彼の運命を見ていると「貧しい人々を搾取」したがゆえに、罰を受けているように見えもします・・・・・・・・
大衆芸術としての映画、特にハリウッド映画は、常に庶民の欲求を充足する形で成立しているように思えます。
これもそんな1本ではないでしょうか。
関連レビュー:『大恐慌』時代の大衆の夢 『ある夜の出来事』 フランク・キャプラ監督のラブコメディー映画の元祖 大恐慌時代の金持ちお嬢様と失業者の恋 |

映画『グランドホテル』解説大恐慌 |
大恐慌とは、アメリカ合衆国ニューヨークのウォールストリートの株式市場で端を発した、株価の大暴落による経済的大混乱を差します。
世界大恐慌。 1929〜33年の間、世界中の資本主義諸国を襲った史上最大規模の恐慌。 1929年10月24日、ウォール街の株式市場の暴落(暗黒の木曜日)、10月29日(悲劇の火曜日)の大暴落に端を発し、全資本主義諸国に波及した。 米国の株価は80%以上下落、工業生産は1/3以上低落、失業者数1200万人、失業率25%。<大恐慌時代のアメリカ><大恐慌経緯>
・1924年半ばまでに株式市場が拡大し、個人の株取引も増える中、ダウ平均株価は1924-29年の5年間で5倍に高騰し、ジャズエイジと呼ばれる空前の好景気を生んでいた。
・1926年のフロリダでは世界恐慌の兆しとして、ハリケーンによって資産価値を喪った家屋により、不動産会社と銀行の連鎖倒産が生じた。
・1929年8月9日、アメリカは公定歩合を6%に引上。9月3日には株価最高価格を記録後、続く1ヶ月間で17%下落し、乱高下を繰り返した。
・1929年10月24日ゼネラルモーターズの株が80セント下落。取引市場は売り一色となり株価は大暴落し、この日1289万4650株が売られ「暗黒の木曜日(英語: Black Thursday)」と呼ばれ、投資業者が11人自殺した。
・1929年10月29日は「悲劇の火曜日(英語: Tragedy Tuesday)」と呼ばれ24日以上の大暴落が発生。1日で時価総額140億ドルが消し飛び、続く1週間では300億ドルが失われた。
・1930年に恐慌は世界経済に波及し、ブラジルでクーデターが発生し、フランスの銀行が破綻の危機に瀕し、ボリビアがデフォルトし南米諸国も連鎖的に債務不履行に陥り、オーストリアの大銀行が破綻、ドイツでは金融危機が発生し、数千万ポンドを喪失したイングランド銀行は金本位制を停止し、大英帝国はブロック経済による自国権益確保に走る。
・同年アメリカの時のフーバー大統領は自由放任政策や財政均衡政策を採り、銀行の救済策が後手に回った。
一方で保護貿易政策を採り、世界各国の恐慌を悪化させた。
・1931年、ドイツの銀行クレディタンシュタルトの倒産を受けて6月からフーヴァーモラトリアムを施行。
・1931年9月には合衆国内の銀行305行、10月には522行が閉鎖した。
・1932年後半から1933年春が、恐慌の最悪期であり1933年の名目GDPは1919年から45%減少し、株価は80%以上下落した。1200万人に達する失業者を生み出し、失業率は25%に達した。ついに1933年2月には全銀行が業務を停止し、家を失い木切れで作ったスラム長屋は「フーバー村」と呼ばれ、路上生活者のかぶる新聞は「フーバー毛布」と言われた。
全世界に広がった経済的損失の対策として、各国は自国権益の確保を優先し、結果的に世界は第二次世界大戦へと向かう。
この世界的規模で混乱を引き起こし、第二次世界大戦の原因だともいわれる経済的な損失。
そして大恐慌時代は、全米で何百万人もの人々が仕事を得ようと四苦八苦した時代でした。
医師や弁護士のような中流階級の専門家でさえ、彼らの収入は40パーセントも下落します。
銀行も預金の取り付け騒ぎや、融資の焦げ付きにより倒産しはじめ、連鎖的に金融システムは崩壊し、その潰れた銀行の債権は無慈悲に取り立てられ、結局ローンで買った家や農場を銀行が差し押さえることになりました。
銀行によって家や財産を喪った人々は、家族を乗せ馬車で漂泊し、今日の食事すら保証されない惨めな暮らしを日々重ねました。
財政的欠乏のストレスは、特に家族を養うことができなくなった男性に心理的な打撃を与え、全米の自殺率は1933年に史上最高に上昇します。
結婚生活も貧窮から困難が生じたものの、多くの夫婦は金銭的余裕もなく離婚率は低かったものの、一部の男達は家族を捨て姿をくらましましたが、これは「貧乏人の離婚」と呼ばれたそうです。
この当時のアメリカでは、200万人以上の男女がホーボーと呼ばれる浮浪者となります。多くは10代の若者で、家族の負担を減らし、仕事を求めて家を出ました。しかし、無職で、日々の食事も無い彼等は、道で餓死する人々もまれではなかったと言われます。
そんな、飢えた浮浪者は、しばしば盗みや強盗を働く犯罪者に豹変しました。
大恐慌の最初の数年の間に暴力犯罪が急増しましたが、その影には新聞やラジオによる「ボニーとクライドの強盗事件」や「飛行士リンドバーグの息子誘拐」事件などが連日報道され、大恐慌時代の反社会性や犯罪を身近にします。
フランクリン・ルーズヴェルト大統領は、ニューディール政策を掲げ救済策を掲げたものの、結局、1941年の第二次世界大戦まで恐慌前の水準に回復することができず、政治の無力は人々の怒りを呼びました。

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映画『グランドホテル』解説大恐慌を描いた映画 |
大恐慌を描いた映画 |
『素晴らしき哉、人生!』(1946年) 当ブログレビューあり
『アニー』 (1982年)
『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』(1976年)
『シンデレラマン』(2005年)
『晩餐八時』(1933年)
『北国の帝王』(1973年) 当ブログレビューあり
『怒りの葡萄』(1940年)
『グリーンマイル』(1999年) 当ブログレビューあり
『ストリートファイター』(1975年)
『黄昏に燃えて』 (1987年)
『ナティ物語』(1985年)
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1946年/1981年)
『わが街 セントルイス』(1993年)
『ペーパームーン』 (1973年) 当ブログレビューあり
『モダン・タイムス』(1936年)
『オー・ブラザー!』(2000年)
『廿日鼠と人間』(1939年/1992年)
『プレイス・イン・ザ・ハート』(1984年)
『カイロの紫のバラ』(1985年)
『シービスケット』(2003年) 当ブログレビューあり
『サリヴァンの旅』(1941年)
『ひとりぼっちの青春』(1969年)
『ボウイ&キーチ』(1974年)
『アラバマ物語』(1962年) 当ブログレビューあり
『タバコ・ロード』 (1941年)
『天国の約束』(1995年) 当ブログレビューあり
『蒼い記憶』(1995年)
『恋人たちのパレード』(2011年)
『カメレオンマン』(1983年)
『俺たちに明日はない』(1967年)
まだまだいっぱいありそうですが、思いつくままに挙げてみました・・・・・・

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映画『グランドホテル』評価 |
それゆえ映画技術に新たな形式を刻んだパイオニアとして、未来永劫語り継がれる作品であることは間違いありません。

しかし、1932年からもう一世紀も経とうかという今、この作品を見て楽しいかと問われれば・・・・・
私個人としては、古さを感じざるを得ませんでした。
カメラが据えっぱなしで臨場感がないとか、カット割りのリズムが悠長だとか、今の映画技術を知った眼からは刺激が少なく見えます。
安定した重厚な表現といえば聞こえは良いですが、そこにはサイレント時代の表現が、まだ重きをなしているように見えます。
象徴的なのがグレタ・ガルボで、ここぞとばかりに歌舞伎のように、得意な見栄をきります。
しかし、考えてみれば、この映画が今私の心に響かないのは、この映画がオールスタームービーとして作られながら、私個人がこの出演者にそのスター性を感じられなかったというのが一番大きいのかもしれません。
この映画で一つ発見したのは、スターという存在も、実は時代を反映した存在で、その旬の時を過ぎてしまえば後世にまでその力を波及し得ないのでは無いかということでした。
そう考えると、この『グランドホテル』の生んだ、「オールスタームービーという様式」は永遠の命を持っても、「オールスタームービー」の効力はスターのオーラの減衰と共に消えていく定めなのでしょうか・・・・・
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