製作国:日本 製作年2013年 上映時間135分 監督:李相日 アダプテーション脚本:李相日 オリジナル脚本:デヴィッド・ウェッブ・ピープルズ |
評価:★★☆ 2.5点
この映画『許されざる者』は、クリント・イーストウッド監督主演の1992年の名作のリメイクです。
オリジナル版をもとに、李相日監督が日本版の脚本を描き、重厚な演出で本家に負けない力を持っていると感じます。
しかし、オリジナル版に義理立てし、その人物設定や筋立てに無理に当てはめたがゆえに、この映画が本来発揮すべき力を弱めてしまったのではないかとも感じました。
そんな事を踏まえて、オリジナル版と日本版の違いを確認し、それが作品にどう影響しているかを検証しようと思います・・・・・・・・・・

映画『許されざる者』出演者 |
釜田十兵衛(渡辺謙)/大石一蔵(佐藤浩市)/馬場金吾(柄本明)/沢田五郎(柳楽優弥)/なつめ(忽那汐里)/お梶(小池栄子)/北大路正春(國村隼)/堀田佐之助(小澤征悦)/堀田卯之助(三浦貴大)/姫路弥三郎(滝藤賢一)/秋山喜八(近藤芳正)
映画『許されざる者』予告 |


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映画『許されざる者』解説オリジナル『許されざる者』との違い |
オリジナル版の映画が語ったのは、アメリカ合衆国を成立させた「西部劇建国神話」の罪を糾弾し、それでも「西部劇の精神」によってしか、アメリカ社会は機能しないというイーストウッドの主張だったと解釈している。
対して、日本版の映画は「武士=支配階級から落ちた反体制分子」が、マイノリティーの鬱屈を背負いテロルを決行した「反逆者のルサンチマン」だったと思える。


これだけ違うテーマを語るにあたり、日本版は人物配置・ストーリーを変えずに、どう対処したのかが以下の相違点の中で明確になれば良いと考えている。
主人公のキャラクター設定 |
<オリジナル>
主人公のマーニーは若かりし頃、貧しく、酒におぼれ、金のために列車強盗をし、女子供を殺した過去を持つ。
<日本版>
主人公は侍で幕府側で戦い、残党狩りに来た官軍の兵を殺す。これは武士同士の戦いで悪とは言えない。
オリジナル版は西部劇の主役アウトローがロクデナシのクズだと言っている。
日本版は、由緒正しい武士が、敗者となり窮乏していけば、生きるために罪を犯さねばならないと語っているだろう。
主人公を賞金稼ぎに誘う者 |
<オリジナル>
主人公のマーニーを賞金稼ぎに誘うのは、若いスコフィールド・キッド。
<日本版>
旧幕府軍の同僚の馬場金吾(柄本明)。
オリジナル版だと若いスコフィールド・キッドに唆されて、金のために賞金首を取りに行く。
その道中黒人ネッド(日本版の馬場金吾)に子供を預けようと立ち寄るが、逆にネッドも昔の血が騒ぎだすように行動を共にする。
これは、「西部劇神話」が持つ強い吸引力を示していると感じた。
しかし、日本版は老いた馬場金吾が金のために首を狙うという点で、旧幕勢力のひっ迫と苦しみが示される。
また、スコフィールド・キッドの役どころを、日本版は沢田五郎(柳楽優弥)という役になり、彼はネッドの属性のマイノリティーを、アイヌという設定で彼が引き継いでいる。
賞金を懸けられた者 |
<オリジナル>
カウボーイ。
<日本版>
旧仙台藩(佐幕側)出身の元侍の開拓民。
オリジナル版のカウボーイとは、西部劇そのものだ。その男根を笑うことで、西部劇神話=男権主義の嘲笑となっている。
また、保安官がそのカウボーイを守る行為とは、西部劇的男権主義主義の守護者であると宣言している。
対して、日本版の二人の表すものは旧仙台藩(佐幕側)の今は開拓民となった者。男尊女卑の記号としての機能を保持しているかと思うが、警察署長はこの時「武士」を守りながら、後のシーンでは武士が嫌いだと口にしており、この2人の役割及び署長が守ろうとしたものに混乱を生じていると思う。
人種差別の設定 |
<オリジナル>
オリジナル版はネッドに代表される黒人、ネッドの妻のインディアン、そして娼婦に代表される女達。
<日本版>
娼婦役の女達。沢田五郎と主人公の妻がアイヌの出身だと語られている。
オリジナルのマイノリティに対する迫害シーンこそ、西部劇の罪悪の最たるもので、入念に語られている。
一方、日本版のアイヌや女性蔑視は、主人公の怒りに一直線につながらず、オリジナル版に較べその役割は小さく、むしろオリジナルに形を合わせた感は否めない。
敵役のキャラクター |
<オリジナル>
保安官ダゲッド。保安官も西部劇の主役の1人。その主役がどれほど権力を恣意的に、専横的に行使し、人種差別的で、男尊女卑的かを表している。その保守性が家を建てているシーンに象徴される。
<日本版>
警察署長大石一蔵。勝者の傲慢さや専横性や男尊女卑を感じはするが、政治的な偏向性・保守性を感じさせない。家は建てない。
オリジナル版では、西部劇神話の悪を象徴する人物。黒人ネッドをムチ打つシーンは強烈。
彼が賞金稼ぎを暴行するシーンは、アメリカに対する愛国心の現れも含まれているシーンだった。
その保守的で男権主義の歪みが、家を上手く建てられないシーンに象徴される。
一方の日本版の警察署長は、強権的な振る舞いは見えるものの、政治的信条や差別性を強く体現しておらず、オリジナルほど効果的に機能をしていないと感じた。
決闘シーン |
<オリジナル>
主人公は古典的西部劇の主役のように、鮮やかに5人を倒す。保安官ダゲット(ジーン・ハックマン)は、主人公に地獄で待つと言う。
<日本版>
決闘シーンは主人公の暗い情念が際立つ。地獄で待つは主人公が死んだ金吾に言うセリフ。
オリジナル版は、地獄で待つのセリフで、保安官も、アウトローの主人公も、共に西部劇神話の中の「許されざる者」に違いないと示す。しかし決闘によって西部劇神話の罪を、西部劇の主役アウトローが正す。
アメリカの正義は西部劇的正義に拠るしかないと語られている。
一方の日本版では、金吾と主人公が象徴する敗者の怨念を、暴力で晴らす行為「テロル」が「許されざる者」だと語られていると感じる。
決闘後の捨て台詞 |
<オリジナル>
ネッド(黒人)を埋めろ、女達を大切にしろと町民に怒鳴り、さもなければ戻ってきて町に火をつけると脅す。そう怒鳴る主人公の後ろには星条旗がはためく。
<日本版>
主人公が、物書きの姫路に事件をありのまま記し、しかしアイヌと女郎のことは書くなと脅す。
この決闘後の捨て台詞は、オリジナル版においては西部劇的悪「男権主義・人種差別」は西部劇的正義「義侠心・隣人愛」で乗り越えられるという宣言だったろう。
その言葉の背景に星条旗を見せるのも、イ−ストウッドの西部劇的保守主義の主張が見える。
日本版は、「敗者=マイノリティーのルサンチマン」の発露としての「決闘=暴力」だということを、後世に正しく伝えろと言う。
同時に、その犯罪の担い手が主人公であるという自己犠牲を表しているだろう。
エンディングの違い |
<オリジナル>
事件後、賞金を元にサンフランシスコで商人として成功する。
<日本版>
主人公十兵衛は、自らの子供をアイヌの五郎と女郎のなつめに託し、自らは過酷な逃亡の旅を続ける。
オリジナル版の主張は明確だ。
主人公は「許されざる者」であっても、西部劇的正義を行使したならば、社会に受け入れられ成功するという主張だ。
日本版は、虐げられた者達の情念を「テロル」に込めた実行犯として、制度側から永遠に追われる運命を描く。

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映画『許されざる者』解説リメイクの困難さ |
例えば、単純な「おとぎ話」や「エンターテーメント作品」であれば、リメイクも容易で、テーマの選択の自由度も高い。
それは、黒沢明のエンターテーメント・チャンバラ西部劇『用心棒』が、そのままマカロニ・ウェスタンになって、すこしもその力を削がれないことでも明らかだろう。
関連レビュー:黒澤からマカロニ・ウェスタンへの変換 『荒野の用心棒』 セルジオ・レオーネ監督・黒澤『用心棒』の無断借用 クリントイーストウッド主演映画 |

結局、クリント・イーストウッド版『許されざる者』は、上記テーマ以外語ることが赦されないぐらい、厳密に組み立てられ揺らぎようがないように思う。
従って方法は、この映画の「骨格=テーマ性」を例えば「大和魂」という形で翻訳するか、リメイク版の「ルサンチマン」というテーマを生かすのであれば、大胆にストーリーと人物自体を刈り込まない限り、無理な挑戦であったように思えてならない。

しかし、オリジナルの完成度と比較した時、もどかしく悲しい思いがする。
それはオリジナルに縛られずに、この監督がそのテーマを語ることに、全力を注力した、その作品を夢想するからだ。
もし、そう出来ていたならば、イーストウッド版の「保守的正義」というテーマと真逆の、マイノリティーの「反逆者としての正義」というテーマを、恐るべき完成度で語れたはずだと信じている。
そう思ったとき、テーマの求める物語として無理があるにも関わらず、オリジナルに義理立てする必要があったのかと、やはり問わざるを得ない。
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