1946年『荒野の決闘』アメリカ国民の神話
原題 My Darling Clementine 製作国 アメリカ 製作年 1946年 上映時間 97分 監督 ジョン・フォード 脚本 ウィンストン・ミラー、サミュエル・G・エンゲル 原作 スチュアート・N・レイク:『WYATT EARP FRONTIER MARSHAL』 |
評価:★★★★ 4.0点
この映画は「古典的な美」という点で、ハリウッドの映画様式を代表する一本だと感じます。
マカロニウェスタンを知っている、今から見れば、刺激が少ないし、地味だと感じるでしょうが、実を言えばこの映画こそ西部劇の古典であり、本来の西部開拓を描いた一本と言えると思うのです。
そういう意味では、西部劇を理解する作品として、映画史的に重要な一本だと言えるでしょう。
映画『荒野の決闘』あらすじ・ストーリー
1882年のトゥームストンという町近く、ワイアット(ヘンリー・フォンダ)、モーガン(ワード・ボンド)、バージル(ティム・ホルト)、ジェームズ(ドン・ガーナー)のアープ兄弟は、カリフォルニアまでメキシコで買い付けた数千頭の牛を移動させていた。
そこでクラントン一家の当主オールド・マン・クラントン(ウォルター・ブレナン)と長男のアイク(アラン・モーブレイ)に出会い牛を売れと言われ、ワイアットは断る。
その夜、四男のジェームズを牛の見張りに残し、町に兄弟が出かけた。しかし帰ってみると牛の群れはいなくなり、射殺されたジェームズの遺体が雨にうたれていた。ワイアットは町に取って返すと、彼が有名なダッジシティの保安官だと知った町長から依頼された、保安官就任を受諾する。保安官になったワイアットはギャンブラーでガンマンのドク・ホリディー(ヴィクター・マチュア)と友人になり、ドクに思いを寄せるチワワ(リンダ・ダーネル)とも知リ合う。
しかし、町ではクラントン一家が無法な振る舞いをし、ワイアットは彼らが牛と弟の命を奪ったと疑っていたが証拠がない。
そしてある日、町の酒場でアイクが銃を抜いたため、ワイアットは彼を殴り倒した。
オールド・クレントン:保安官お詫びする。ちょっとウィスキーを飲みすぎたようだ。/ワイアット:そうだな。彼らには他の楽しみが必要なようだ。ソーンダイクさん劇場に一緒に行こう。オールド・クレントン:もし、銃を抜くんだったら殺せ。
こうして両者の対立はより深くなっていった。
トゥームストンはワイアットの力で落ち着き、東部から学校の教師クレメンタイン(キャシー・ダウンズ)もやって来た。彼女はボストンから恋人のドク・ホリディを追って来たのだが、ワイアットが彼女に一目ぼれする。
ドクは死病の結核を患っているため、クレメンタインと再会したが拒絶する。
町を去ろうとしたクレメンタインだが、日曜の礼拝と、町の人々が集まるダンス・パーティーにワイアットと参加し、2人の間に好意が芽生えた。
バイオリン弾き:ちょっと待った。下がって場所を作って。我らの新しい保安官と、このレディーに。(2人踊る)/モーガン:うわ、何てこった。
しかし、ドクはクレメンタインが町に残ることにいら立ち、自分が町を去った。
それを知った、ドクに思いを寄せるチワワは、クレメンタインに食って掛かった。
そのチワワの胸に、死んだ弟ジェームズの純銀の首飾りが下がっているのに、ワイアットは気付いた・・・・・・・・・
(ネタバレ・ラストは記事の最後にあります)
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映画『荒野の決闘』感想・解説 |
アメリカ人にとっての西部劇とは、実はアクションドラマと言うよりは、アメリカ開拓の歴史を描いた開拓民のドキュメンタリードラマとしての面が、そのドラマの基礎としてあると感じます。
この映画は「OK牧場の決闘」として西部の伝説となっていた事件を、監督のジョン・フォードが当時存命のワイアット・アープに直接取材した内容を反映させているとの事で、いわば歴史的事件の記録映画の側面もあります。
けっきょく、この映画で描かれた地味な決闘ですら、西部での大事件だったという点を考えれば、事実がもつリアリティーを感じます。

実際は、歴史的な事実関係の詳細はケヴィン・コスナー『ワイアット・アープ』が正しく伝えており、その映画を見れば単純な勧善懲悪の物語ではなかったようです。
しかし、西部に実際に起きた事件を題材として、ジョン・フォード監督がこの映画の「勧善懲悪」を描き、西部開拓の中の「ロマンス」や「友情」を描いたことで、西部劇がアメリカ国民の精神的なバックボーンへと変換し得たと思うのです。
この映画によって、初めて西部開拓時代の開拓民たちの心情を、リリカルに描き、詩情が表現されました。
そんなことを考えると、この映画以降の古典的なハリウッド西部劇は、西部劇の史実を踏まえつつアメリカ国民のアイデンティティに訴える「西部劇神話」となっていったのではないでしょうか・・・・・・
そういう意味で、この映画は「荒野の決闘」という刺激的な日本題で誤解されかねませんが、実は西部開拓に伴うアメリカ人の実直な生活の記録であり、アメリカ人の荒野を切り開いた事実の讃歌として描かれた作品だったように思います。
そう考えれば、人々が切り開いた地平に広がる希望を象徴する、クレメンタインという女性を愛するという原題「愛しのクレメンタイン」の方が、誤解が少なかったように思います。
けっきょく、この映画で現された西部開拓の叙事詩よりも、西部劇の派手な決闘シーンが人々の印象に残るのは、映画という視覚芸術が持つ宿命だったように思います。
その事実は、クロサワ映画、マカロニ・ウェスタンを通じて証明されているでしょう。
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これ以降映画『荒野の決闘』ネタバレ
があります。ご注意ください。
(あらすじから)
実は、チワワに首飾りを送ったのは、ビリー・クラントンだった。ビリーは露見を恐れて、チワワを銃撃し逃げ去った。そのビリーの後をワイアットの弟バージルが追う。チワワは瀕死の重傷を負うが、かつて医者だったドク・ホリディーが手術した。
しかし、町に銃声が響き、ビリーを追ったバージルの死体が、道に捨てられた。
そしてワイアットに向かって「OKコラルで待っている」という言葉を残し、クラントン一家は駆け去って行く。
そして、手当ての甲斐なくチワワは死んでしまう。
翌日、ワイアットは逮捕状を以てクラントン牧場・OKコラルへと向かった。
モーガンとホリディも同行し、ついに対決の時は来たのだった・・・・・・・・・
映画『荒野の決闘』ラスト・シーン
映画『荒野の決闘』評価 |
冒頭でも申し上げた通り、この映画が歴史的に重要なのは、単純なアクション活劇だった西部劇に、情感と詩情を持たせ、西部開拓時代のアメリカ人の姿を美しく描いたためでした。
しかし、現代の視線で見ると「刺激」が少ないことは否めません。
それゆえ、私個人としては、映画的な評価として★3.0で、歴史的評価として★1.0をプラスしました。
映画『荒野の決闘』主題曲『愛しのクレメンタイン』 |
映画『荒野の決闘』出演者 |
ワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)/チワワ(リンダ・ダーネル)/ドク・ホリデイ(ヴィクター・マチュア)/クレメンタイン(キャシー・ダウンズ)/オールドマン・クラントン(ウォルター・ブレナン)/モーガン・アープ(ワード・ボンド)/グランヴィル・ソーンダイク(アラン・モーブレイ)/ヴァージル・アープ(ティム・ホルト)/ジェームズ・アープ(ドン・ガーナー)/ビリー・クラントン(ジョン・アイアランド)
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