2017年09月08日

スピルバーグ映画『宇宙戦争』戦場を生きる庶民とは?/感想・解説・あらすじ・ネタバレ・ラスト

戦場のリアリティ

原題 War of the Worlds
製作国 アメリカ
製作年 2005
上映時間 114分
監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 デイヴィッド・コープ
原作 H・G・ウェルズ


評価:★★★★   4.0点

この映画のSF的道具立ては、率直に言ってすでにデザインとして古臭いものモノを感じます。
それでも、ここには見逃せないユニークなリアリティーを感じます。

film1-red-ue.jpg

『宇宙戦争』あらすじ


労働者のレイ(トム・クルーズ)はアメリカのニュージャージーに住み、別れた妻との間の二人の子供、息子のロビー(ジャスティン・チャットウィン)と幼い娘レイチェル(ダコタ・ファニング)を、久々に家に迎え気まずい時を過ごしていた。
そんな時、雲ひとつない空が、一転黒雲が湧き上がり、強風がうなり声をあげ、激しい雷光が何度も光る。その光が地上に達した時、その大地が裂け、奇妙な物体が姿を現した。それは宇宙からの侵略者の“トライポッド”という攻撃兵器で、一瞬の内に建物も人も消滅させてしまう破壊力を秘めていた。その“トライポッド”が世界の16ヶ国で同時に人々に襲い掛かってきたのだ。攻撃から逃れる人々で、世界中に難民が溢れた。レイも二人の子供を連れ、極限状態の中を妻がいるはずのボストンを目指し、必死に逃げて行く。しかし“トライポッド”は、地球の軍隊の攻撃を“シールド”を張り無力化し、難民達を追い詰め殺戮し続けた。
レイは必死に逃げ続けるが、その途中息子ロビーは軍隊に入ると言い、混乱の中1人去って行った。
レイは残る娘を連れ、宇宙人の手を逃れ必死の逃亡劇を繰り広げるが、遂に娘レイチェルが“トライポッド”に捕らわれてしまい、レイも自らトライポッドに乗り込んだ・・・・・・・


film1-red-ue.jpg

『宇宙戦争』感想・解説



冒頭で述べた、この古い印象を抱かせるSF的な道具立ては、映画オタク・スピルバーグ監督が敢えて選んだ味わいだろうと想像しています。
なぜならSFの古典、宇宙人侵略テーマの金字塔、1953年の映画『宇宙戦争』のオマージュだと思えるからです。
1953年の映画『宇宙戦争』


更には、SF小説の父であり、SFジャンルのパイオニア、HGウェルズに対する敬意も感じます。
今では陳腐に思えるこの映画のオチも、原典通りのオチですので、さほど強く非難も出来ないかなと・・・・・・
war-HG-wells.jpgハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells, 1866年9月21日 - 1946年8月13日)は、イギリスの著作家。小説家としてはジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる。社会活動家や歴史家としても多くの業績を遺した。H・G・ウエルズ、H.G.ウェルズ等の表記がある。(wikipediaより)
HGウェルズの『宇宙戦争』は、地球侵略ドラマのパイオニアで、この原作はオーソン・ウェールズがラジオドラマで放送し、本当に宇宙人が来たと思ったラジオ聴取者がパニックを起こしたといういわくつきの作品です。
ラジオドラマ「宇宙戦争」事件
ラジオドラマとして放送された『宇宙戦争』が全米で聴衆にパニックを引き起こした、と言われる。聴取者に比してあまりにも反響のみが大きく、この事件が元でフィクションを放送する場合に一定の規制をかける法律が制定された。(wikipediaより):右HGウェルズ


この宇宙侵略物語は、今や『インデペンデンス・デイ』のお祭り騒ぎにまで、規模を拡大し、さらに鋭意増量中ですが・・・・・・・・・

war-pos3.jpg
この映画も、そんなテーマを見れば「地球侵略宇宙人」との激しく壮大な戦いを描いているように思うかもしれませんガ・・・・・・・・・・

しかしこのスピルバーグの映画は、そんな戦いに主体を置いていないように感じました。
この映画のトム・クルーズは決して「ヒーロー=英雄」ではなく、個人の力ではどうしようもない大きな力の中で、右往左往する一市民です。

港湾労働者という設定も、ブルーカラーの大衆である事を強調するものだと思いました。
その一市民が、自らの家族を守るために必死に苦闘する姿が感動的です。

結局、この映画で語られているのは、戦争や紛争で苦難を受ける、最も弱い一般市民の姿だったのではないでしょうか。
war-pos2.jpgもちろん、今までの映画でも、過去の戦争や、ホロコーストなど、同様の苦闘する市民の姿を見ることは出来ます。
しかし、歴史の中で描かれた受難とは、どこか終わった事で現代の我々には関係ないと感じないでしょうか?
しかしこの映画のユニークな点は、現代を舞台にして描かれている点です。

今現在の日常世界で生じた破壊と混乱に弄ばれるトム・クルーズを見ると、観客は、現代のこの時、パニックに巻き込まれた自分を考えざるを得なくなると思うのです。
じっさい映画の中でも、迫り来る危険を、子供達を抱えながら、必死にもがく姿を見ると、現実のパニックの中で逃げる事の困難を、実感せざるを得なくなると思います。

つまりは、この主人公を通して、世界中の歴史上に繰り広げられた戦争や紛争や災害の背後に、この映画にあるような一市民の苦闘があるのだということを、リアルに体感できる映画だと思うのです。

そして、この異常事態・非常事態は、現代世界でも紛争に巻き込まれた市民が、難民になるように、間違いなく「今そこに有る苦難」なのだと思えば、彼ら不運な人々に対する同情と理解が、自ずと深まるのではないでしょうか。

そんな、一市民を演じて、ただひたすら生きようと戦い続けるトム・クルーズの演技が、説得力を持って素晴らしいと感じました。


SF的な要素は、そういう意味では苦難のシチュエーションを作るための設定に過ぎないのでしょう・・・・・・・・・

その苦難を描くにあたって、H・G・ウェルズの「宇宙戦争」を選んだ時、1938年オーソン・ウェルズ演出の「CBSラジオドラマ」がパニックを引き起こしたという事実が頭をよぎったのではないでしょうか?


そんなこんなを考えると、個人的にはスピルバーグ監督は、SFを描くというよりも、災害・騒乱・戦争などによって生じる「世界の混乱」が一市民にどれほどの苦しみを生むかを描きたかったのだと思います。

film1-red-ue.jpg
関連レビュー:スティーブン・スピルバーグ監督作品
『激突』
スピルバーグのデビュー作品
迫りくる恐怖のトラック
『インディー・ジョーンズ』
ハリソンフォード主演の痛快アドべンチャー
ノンストップアクションのハリウッド効果
『ET』
感動の大ヒット映画
SF映画の金字塔

スポンサーリンク


film1-red-ue.jpg

以降の文章には

『宇宙戦争』ネタバレ

を含みますので、ご注意下さい。

film1-red-ue.jpg
(あらすじから)
娘が捕らわれ、それを追ってレイは、手榴弾を抱えたまま“トライポッド”に乗り込んだ。
レイは、手榴弾のピンを抜いて内部に投げ込み、“トライポッド”を破壊し、娘と他に捕らわれていた人々を助けた。
苦難の果てに、ボストン近郊まで来たレイとレイチェルは、宇宙人が持ち込んだ植物が枯れ、“トライポッド”は1時間前から攻撃を停止している事を知る。軍部隊もそれを見て、一斉に攻撃を始めるとトライポッドは破壊され、中にいる宇宙人も死んだ。こうして、宇宙からの侵略者はなぜか死に絶えたのだった。
film1-red-ue.jpg

『宇宙戦争』ラスト

レイは、元妻メリー・アンの家にたどり着きレイチェルを、妻に引き渡した。
そこには軍に参加すると出て行ったロビーもいた。

【意訳】レイチェル:ママ!/母メリー:ありがとう。/レイ:ロビー?ロビー!/ロビー:ああ、父さん。父さん。
(ナレーション)侵入者が到着し、我々の空気を呼吸し、飲食をした瞬間から、彼らの運は尽きていた。人類の全ての武器と兵器は効果がなかったにもかかわらず、神の智慧によって地球に置かれた最も小さな生命体によって、彼らは破壊され殺され撃退された。10億人の死によって、人類は免疫性を獲得しており、無限の微生物に取り囲まれても、この惑星で生きる権利を得ていたのだ。
そして、その権利が全ての挑戦を跳ね返していた。それは、人々が生き、死んで来たことに、無駄などないことを示していた。


film1-red-ue.jpg

『宇宙戦争』結末感想



地球に来た侵略者は、地球のウイルス、バクテリアに対する免疫力を持たず、地球の空気を吸い、地球のものを食べただけで死滅したのです・・・・・・・・・・・

って・・・・・・・・・・

いや〜さすがに、今このオチは脱力以外の何物でもないですが・・・・・・・・地球にまで来る科学力がありながら、細菌学の知識が無いって・・・・・・・・・・・
war-pos4.jpg
しかし、HGウェルズ御大の時代には、最新の科学知識で、スッゲ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜オチだったんだと思います。

ハイ。

あと、あえてこのオチを放置したのは、人類の浅知恵ではどうしようもない災害があり、そんな不運を前にすれば、人間は無力で運しだいだと語られてるように思えます・・・・・・
更に深読みすれば、最後のナレーションで「人々が生き死ぬ事に無駄はない」というフレーズから、実はボストンで娘を送り届けるシーンは、あの世、天国での出来事のようにも思えます。

つまりは、主人公、娘、息子、別れた妻の一族、全て死んでいるという解釈です。

もちろん「ハリウッド映画の文法=明確に物語を伝える」の信奉者であるスピルバーグ監督の事ですから、現実世界でハッピーエンドで終わったと語られているのは間違いないでしょうが・・・・・・

スポンサーリンク
posted by ヒラヒ at 21:12| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]