処女の泉(解説・感想 編)
原題 Jungfrukällan 英語題 The Virgin Spring 製作国 スウェーデン 製作年 1960 公開年月日 1961/3/18 上映時間 89分 監督 イングマール・ベルイマン 脚本 ウラ・イザクソン 撮影 スヴェン・ニクヴィスト |
評価:★★★☆
3.5点この1960年に作られた映画は、スェーデンの世界的映画監督、イングマール・ベルイマンの作品です。
この映画は、無垢な乙女がレイプされるという、当時としては衝撃的なストリーだったために、世界中で賛否両論が沸き起こりました。
しかし、今見るとそこまで衝撃的に見えないという事実は、ベルイマンという作家にも共通する、表現力の風化が示されているようにも感じます。
『処女の泉』出演者 |
マックス・フォン・シドー(テーレ)/ビルギッタ・ヴァルベルイ(メレータ)/グンネル・リンドブロム(インゲリ)/ビルギッタ・ペテルソン(カリン)
ベルイマン 3大傑作選」予告動画 |
『処女の泉』感想世界を騒がせた「レイプ描写」 |
この映画は、まず第一にグンネル・リンドブロム演じるインゲリという処女が、陵辱されるシーンによって、1960年の世界に衝撃を与えた。
レイプシーン
少女のレイプという当時としては衝撃的な題材を扱っただけあり、本作品は公開時に内外で物議を醸した。アメリカでは近年DVDが発売するまで、一般家庭では検閲が入ったバージョンしか視聴できない状態にあった。一説にはベルイマン本人も問題のシーンを削除するよう脅迫を受けたという。日本公開時には映倫によってレイプシーンが丸ごと削除されるという事態になった。(wikipediaより)
実際日本でも、クリスチャン系の学校に通っていた女子学生に、この映画を見てはいけないとお触れがあったと、和田誠の本『映画に乾杯―歓談・和田誠と11人のゲスト』の中で語られているのを読んだ覚えがある。
映画の内容としては、反キリスト教的な内容だとも思わないが、神の沈黙を問うところなどはキリスト教会としては問題視されるのかとも思う。
結局、この映画は上記のレイプシーンの、当時としては過激な表現によって、関係当局に一般公開するのをためらわせる内容を持っていた。
更には、宗教的には「神の沈黙」を問うという根源的な問いゆえに、宗教界や敬虔なクリスチャン達に論争を生んだのだった。
しかし、正直に言って、今現在その衝撃力を、私個人は感じない。
この上記2点に関して言えば、むしろ1960年において、このレイプシーンと宗教的不信の表明が問題になったこと自体に衝撃を受けた。
つまりは、この表現が衝撃を与えるほど、当時の人々は静謐な表現物しか受け取ってなかったという事実を前に、現代の我々がどれほど刺激物を浴びてしまったかと呆然とするのである。
スポンサーリンク
『処女の泉』解説ベルイマン監督 |
この映画を撮ったイングマール・ベルイマンという監督は、1960年当時映画界の寵児だった。
その頃を「ベルイマン時代」と呼ぶほど、その作品は映画史上に大きな功績を残した。
イングマール・ベルイマン(Ingmar Bergman, 1918年7月14日 - 2007年7月30日)は、スウェーデンの映画監督・脚本家・舞台演出家。スウェーデンを代表する世界的な映画監督として知られる。
「神の沈黙」、「愛と憎悪」、「生と死」などを主要なモチーフに、映画史に残る数多くの名作を発表した。
イングマール・ベルイマンは1918年7月14日、ウプサラ(ストックホルムから60km)で生まれた。ベルイマン家は16世紀まで辿れる名家であり、先祖の多くもそうだったように父は牧師であった。兄のダーグは外交官、姉のマルガレータは小説家である。
一般的に、イングマール・ベルイマンは20世紀を代表する映画監督の一人とみなされている。2002年に『Sight & Sound』が行ったアンケート調査によれば、ベルイマンは映画監督が選ぶ映画監督ランキングで第8位にランクインした。デンマークの映画監督であるビレ・アウグストは、黒澤明とフェデリコ・フェリーニに並ぶ三大映画監督として、ベルイマンの名前を挙げている。
実際、ベルイマン監督に影響を受けたと、多くの映画監督が表明している。
○フランシス・フォード・コッポラ(『ゴッド・ファーザー』監督) |
○ウッディ・アレン(『アニー・ホール』監督) |
「『野イチゴ』は私のための作品だった。そして、『第七の封印』と『魔術師』その後の映画全てが、ベルイマンが魔法の映画製作者だと我々に語っていた。芸術家の知性と映画の技術者のこのような組合せは、それ以前にはなかった。彼のテクニックは衝撃的だった。」
「以前は決してなかった、語る内容に合った映画の語彙を発明したと信じている。」
○スタンリー・キューブリック(『2001年宇宙の旅』監督) |
○アン・リー(『ライフ・オブ・パイ』監督) |
○マーティン・スコセッシ(『タクシー・ドライバー』監督) |
○スティーブン・スピルバーグ(『ジョーズ』監督) |
○サタジット・レイ(『大地のうた』インドの映画監督) |
○ラース・フォン・トリアー(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』デンマークの映画監督) |
○ギレルモ・デル・トロ(『パンズ・ラビリンス』監督) |
○クシシュトフ・キェシロフスキ(『トリコロール/愛シリーズ』監督) |
ベルイマンについて映画人が語ったドキュメンタリー映画。
『グッバイ!ベルイマン』
出演者: アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、トーマス・アルフレッドソン、ジョン・ランディス、クレール・ドゥニ、ミヒャエル・ハネケ、ダニエル・エスピノーサ、アン・リー、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ウェス・アンダーソン、ウディ・アレン、フランシス・フォード・コッポラ、ハリエット・アンデション、ラース・フォン・トリアー、ローラ・ダーン、アレクサンダー・ペイン、リドリー・スコット、チャン・イーモウ、ウェス・クレイヴン、北野武、ホリー・ハンター、イザベラ・ロッセリーニ、モナ・マルム、ペルニラ・アウグスト、トマス・ヴィンターベア
このベルイマンの映画界に与えた衝撃と影響は、上記映画作家や俳優達も含めた、映画製作者の基礎的遺伝子として組み込まれ、現代映画作品にも脈々と受け継がれているだろう。
『処女の泉』感想個人的な評価 |
上の偉大な映画作家達の言葉が、全てだと思います。
今回調べてみて、ベルイマンは映画を「商業的な娯楽」から「芸術作品」に高めた作家なのだと、理解しました。
彼が生み出した、宗教や哲学などの形而上学的な概念を、映像として表現するという試みは成功し、その映画史的な価値は永遠に刻まれ朽ちることはないでしょう。
しかしです―
1映画ファンが言うのも、おこがましい事は重々承知です。
それでも、私のこの映画に対する評価は☆3.5点です。
この映画が持つ力とは、上で述べたように、1960年のイノセントな時代には衝撃を与えたと思うのです。
しかし、正直に申しまして、今、現代の映画作品を滝のように浴びている私個人としては、この『処女の泉』に感動しませんでした。
素直に言わせて頂ければ、映画として優れているとは思えなかったのです。
さらには、ベルイマンのもう一つの傑作と言われている『第七の封印』を見た時は、もっと低評価でした。
『第七の封印』に関して言えば、観念ばかりが表立ちドラマとしての力を感じられなかったからです。
当ブログ関連レビュー:ベルイマン監督の3大傑作の1本 『第七の封印』 神を問う形而上的ドラマ。 若き日のマックス・フォン・シドー |
この映画は、その『第七の封印』に比べれば物語としての強さと、映像の鮮烈さが感じられ、更にラストの、神に呼びかけるシーンの、マックス・フォン・シドーの演技の力強さが印象的でした。
ここには、演劇的な表現を長回しで撮る潔さがあると感じます。
実を言えば、このベルイマン3大傑作と呼ばれる作品の中では『野イチゴ』が一番好きな作品ですが、それでも☆3.5点というのが個人的な評価です。
ベルイマン作品を全て見ているわけではないので申し訳ないのですが、見た範囲で言えば、最も感動したのは『秋のソナタ』でした。
この映画の凄まじい、肉親同士に生じる相克の強さに打たれたのです。
『秋のソナタ』予告
しかし、その『秋のソナタ』を見て思ったのは、ベルイマンという作家は、映画監督である以上に、舞台演劇の人なのだろうということです。
その迫力、そのドラマの強さは、演劇的な演出、脚本の力に多くを負っていて、映画的なモンタジューやカット割りの積み重ねによるものではない、映画的な表現技術によるものではない、と感じられてなりません。
そんなことを総合して考えると、私個人としては、「映画史に大きな功績を遺した演劇人」という印象を、ベルイマンに対して持っているのだと気付きました。
たとえば同時代に、世界にインパクトを与えた映画運動にフランスの「ヌーヴェルヴァーグ作品」があります。
その作家達とベルイマンが違っていたのは、その表現が「映画的」か否かという点にあるように思います。
当ブログ関連レビュー:ヌーヴェルヴァーグを解説 『勝手にしやがれ』 ジャン・リュック・ゴダール監督の映画史の1本。 ジャン・ポール・ベルモンドとジーン・セバーグ |
そして、私個人の印象を元に話を進めれば、映画的でない分だけ「ベルイマン作品」は、現代映画と並べてみた時、風化・劣化が激しいのではないかと感じられてなりません。
一歩踏み込んで言えば、あるジャンルにおいて恒久的な力を発揮する作品は、よりそのジャンルの形式に純粋な方法論・技術に則った表現なのではないかという、勝手な仮説を今立てたところです・・・・・
いろいろ申しましたが、一個人の主観に基づく感想ですので、ご不快に思われた方にはお詫び申し上げます。
スポンサーリンク