2017年08月20日

映画『或る夜の出来事』とラブ・コメ=ロマンチック・コメディーの歴史/おすすめ!ラブコメ映画10選

『或る夜の出来事』(ロマンチック・コメディー歴史・お薦め10選 編)



原題 It Happened One Night
製作国 アメリカ
製作年 1934
上映時間 105分
監督 フランク・キャプラ
脚色 ロバート・リスキン
原作 サミュエル・ホプキンス・アダムス

評価:★★★☆  3.5点



この映画は、映画史上初のラブ・コメ、ハリウッドで言うところのロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーだと言われています。
そんなことで、ざっくりとロマンチック・コメディーの歴史と個人的に選んだ名作ロマンチック・コメディーをご紹介します。

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『或る夜の出来事』解説

ラブ・コメ(ロマンチック・コメディー)の歴史


『或る夜の出来事』以前


まずは、『或る夜の出来事』に至るまでのロマンチック・コメディーの歴史をざっと振り返って見たいと思います。
実は映画以外のこのジャンルの源流を尋ねれば、16世紀末のイギリス、シェイクスピア『十二夜』、『真夏の夜の夢』、『恋のから騒ぎ』までさかのぼります。
映画『恋をするシェークスピア』予告

シェークスピアの恋をロマンチック・コメディー風に描いています。

この恋愛喜劇とは大雑把に言えば、中世から近世に至る中で、富裕商人の増加と共に求められた、ドラマの形式だったとされます。
それまでの王国貴族の物語とは違った、もっと庶民的な下世話な物語が、市民階級の力が増すにつれ求められたのででしょう。
そんな「庶民大衆に対するドラマ=喜劇」は、フランスではモリエールが17世紀半ば恋愛喜劇を演じ、名声を勝ち得ました。
関連レビュー:モリエール版ロマンチック・コメディ
『モリエール恋こそ喜劇』
劇作家モリエールの物語
フランス演劇界の偉人を描く

Film.jpgそして、オペラの世界でも『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』など、ロマンチック・コメディーの傑作が生まれています。
しかし小説においては、恋愛の悲劇や苦悩を描いたものには傑作が生まれていますが、ロマンチック・コメディーにあまり見るべきものがないように思います。
それは、喜劇が文章で描かれると、どこかコント的な軽さを持ち、文学の持つ理論性や哲学的概念の提示という、文学的な特徴を発揮し難いせいかと個人的には考えたりします。

そういう点では、やはり「ロマンチック・コメディー」とは演劇向きの題材なのかと考えたりします。
そして、時代は移り「映画」の時代が20世紀より始まりましたが、ロマンチック・コメディーは1934年のこの『或る夜の出来事』までなかったのも不思議な気がします。

コメディー映画は、マルクス兄弟、バスター・キートン、そしてチャップリンというように花盛りだったのにです。
恋愛映画も、純愛、悲恋はハリウッドスターと共に、サイレント映画の時代にも世界中の女性を虜にしていたのにです。
そこにはロマンチック・コメディーに必要なある要素が、『或る夜の出来事』以前の年代には無かったせいではないかと気が付いたのです・・・・・・・・・


『或る夜の出来事』ロマンチック・コメディーの誕生



さて、映画において、ロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディー、恋愛喜劇が生まれるために重要だったのは何だったでしょうか?
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無い頭を振り絞って気が付いたのが、「声=セリフ」でした。

つまり、『或る夜の出来事』が作られた1934年とは、トーキー(音声映画)とサイレント(無声映画)の移行期でした。
1927年10月公開のアメリカ映画『ジャズ・シンガー』で始まったトーキー映画は、その興行収入の高さから1929年には標準的手法としてハリウッドの大手スタジオに取り入れられます。

しかし、映画館の設備がトーキーに対応していなかったため、1930年代中ごろまでのハリウッド映画はトーキー版とサイレント版の2バージョンで製作され公開されていたといいます。

そんな新技術の移行期にあって、『或る夜の出来事』は「音声」を獲得した事で、ロマンチック・コメディーに必要な男女の微妙な心模様、恋愛感情の綾をセリフとして説明する自由を獲得したと思うのです。

たとえばサイレント映画の時代には、映像と感情が定型パターン的に直結していたように感じます。
サイレント時代の大スター「ルドルフ・バレンチノ」の演技

動きだけで表現しようとすると、パントマイム的に感情を形で示す表現が多くなる。

しかし、「トーキー=セリフ」が生まれたことで、親密なふりをしながら嫌っていたり、ケンカしながら惹かれあうという、相反する複雑な心理を描けるようになったと思うのです。
トーキー『或る夜の出来事』の会話シーン

旅の経費を払えというピーターに、賞金10,000ドルはどうすると聞く、エリーの父。ピーターは経費だけで良いと断り、父はそんなピーターを気に入り、娘が好きかと尋ねる。
【1分28秒より意訳】父:一つ尋ねても構わんかね?率直に聞くが、君は私の娘を愛しているかね?/ピーター:あんたの娘と恋に落ちるのは、頭のおかしい奴だけだ!/父:話をそらすな。/ピーター:彼女は完璧な伴侶を捕まえた!キング・ウェスリーだ!今世紀最高の特効薬だろ!でも本当に必要なのは殴ってくれる男だ。あんたの育て方が悪いんだ。/父:娘を愛してるのか?/ピーター:普通の男じゃ、一つ屋根の下で彼女と暮らせるなんて、とても思えないね。俺はゴメンだね!/父:ただ、娘を愛しているかと尋ねているんだ!/ピーター:愛してる!自分の胸がかきむしられるほど。
怒りの表情をしながら、愛を告白するこのシーンはサイレントでは困難だと思いました。

結局「恋愛劇」とは、相互の気持ちを探り合い、確認する物語だとすれば、表情と相反する心理が語られなければ、単純で一直線の恋愛劇になってしまい、喜劇には成り得ないでしょう。
いずれにしても、映画が声を持つことで舞台演劇と同様の表現が可能になり、ロマンチック・コメディーがスクリーンで花開くことになります。

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こうして1930年代以降、クローデット・コルベールいわく、『或る夜の出来事』を全てのスタジオが模倣したというぐらい、ロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーがたくさん製作されました。


スターを魅力的に描くのに、恋愛劇は欠かせません。
しかし恋愛劇の悲劇や真剣さの表現に向かない俳優達もいます。
でも、このロマンチック・コメディーの成立によって、スターとして売り出せる可能性が広がったように思います。
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実際、この映画のヒロインを演じたクローデット・コルベールはロマンチック・コメディー、スクリューボール・コメディーの女王として、映画界に君臨したのです。


そう考えれば、トーキーと共に花開いた恋愛喜劇は、映画の世界に新しい地平を切り開いたといえるのではないでしょうか・・・・・・・・
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これ以降、映画の世界でロマンチック・コメディーは1つの柱として定着し、このジャンルで名作やスターが生まれ、今につながります。
以下独断と偏見の、ロマンチック・コメディーベスト10をご紹介。

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おすすめロマンチック・コメディー映画10選



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第10位
『ヒースレンジャーの恋のから騒ぎ』


この映画は小品ながら、シェークスピアの『恋のから騒ぎ』を現代アメリカを舞台に描いたもので、アメリカの高校生たちのうらやましい青春がはじけています。

当ブログレビュー:『ヒースレンジャーの恋のから騒ぎ』

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第9位
『ノッティングヒルの恋人』


この映画は、ロマンチック・コメディーの女王ジュリア・ロバーツとロマンチック・コメディーの下僕ヒュー・グラントが、ハリウッドセレブとロンドンのうだつの上がらない中年男を演じ、恋に落ちる物語です。
男のだらしなさがロマンチック・コメディーのテーマになりうることを示す映画だと思いました。

当ブログレビュー:『ノッティングヒルの恋人』
ヒュー・グラントならコチラもおススメ:『フォー・ウェディング』

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第8位
『ブリジット・ジョーンズの日記』




最も今な、ロマンチック・コメディーだと思います。
みもふたもなく、あけすけですが、それが現代のリアルな恋愛事情だろうと・・・・・・
間違いなく、ロマンチック・コメディーの歴史に書き込まれるユニークさを持っていると思います。

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第7位
『アルフレード・アルフレード』

アルフレード・アルフレード予告


この映画は、ダスティン・ホフマン主演のイタリア映画で、気が弱いアルフレードが結婚に振り回される物語。ダスティン・ホフマンのだめ男ぶりが悲しくも笑えます。
イタリア人のいつまでも恋愛したい症候群が良く出た映画。
しかし、現在では入手困難かもしれません・・・・・・・・・・・

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第6位
『恋愛小説家』



この映画によって、ジャック・ニコルソンとヘレン・ハントの二人は、オスカーの主演男優賞と主演女優賞を獲得しています。
映画は、老年に差し掛かったジャック・ニコルソンが演じるロマンチック・コメディーで、もう一度若かった時の情熱を呼び覚まそうという映画かと思いました。
当ブログレビュー:『恋愛小説家』

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第5位
『恋人たちの予感』




『スタンバイミー』のロブ・ライナーが描くロマンチック・コメディー。
往年のロマンチック・コメディーの女王メグ・ライアンの出世作。
当時の男女の恋愛や結婚感が良く分かります。
メグ・ライアンとトム・ハンクスの『めぐり逢えたら』も外せない一本。

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第4位
『プリティー・ウーマン』



やはり名作じゃないでしょうか。
リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが主演するロマンティック・コメディ。
男女双方とも、相互作用によって変化成長していく「おとぎ話」。
死にかけていたロマンティック・コメディを再生させた一本ではないでしょうか。

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第3位
『アニー・ホール』




ウッディー・アレンとダイアン・キートンのコンビで送る、オスカー受賞作。
1977年作品にして、もう恋が幸福な結婚に結びつかないと語り、結婚を続けるためには相互の努力を必要とするが、現代では奇跡的な関係であると暴いた映画。
この映画によって、ロマンティック・コメディはもう作れないのではないかとすら思いました・・・・・・・

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第2位
『七年目の浮気』



伝説の女優、マリリン・モンローの代表作。
個人的にはマリリン・モンローはロマンチック・コメディー女優として完璧な存在だったと思います。
アメリカ資本主義の象徴のような豊かさと華やかさは、時代を象徴し輝いていました。

当ブログレビュー:『七年目の浮気』
○マリリン・モンロー作品では『百万長者と結婚する方法』もオススメ。

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第1位
『ローマの休日』




一位はこの映画しかありません。
映画史的に言っても、映画の質で言っても、奇跡的な一本。
オードリーの資質は、ノーブルさ清潔さが印象的ですが、実はコメディーを演じた時に一番の真価を発揮する女優だったように思います。
そういう意味では、戦後初のロマンチック・コメディー女王であり、同時に映画史上最高のロマンチック・コメディー女優ではないかと思ったりします。

当ブログレビュー:『ローマの休日』
○オードーリーならコチラもおススメ:『麗しのサブリナ』『ティファニーで朝食を』


あ!忘れてた!このジャンルの始祖『或る夜の出来事』・・・・・・・
え〜このベストテンの基礎には『或る夜の出来事』があるとご理解下さい。

ま〜、その〜、全てのロマンチック・コメディーは『或る夜の出来事』に通ずというコトで・・・・・

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posted by ヒラヒ at 20:25| Comment(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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