『或る夜の出来事』(感想・解説 編)
原題 It Happened One Night 製作国 アメリカ 製作年 1934 上映時間 105分 監督 フランク・キャプラ 脚色 ロバート・リスキン 原作 サミュエル・ホプキンス・アダムス |
評価:★★★☆ 3.5点
この映画は、映画史上初のラブ・コメ、ハリウッドで言うところのロマンチック・コメディーだと断言しちゃいます。
ハリウッドを代表するスター、クラーク・ゲーブルのキャラクターが最も活かされた作品だとも思います。
第7回のアカデミー賞でオスカー史上最多受賞を果たした、ハリウッド黄金期の歴史的作品です。
『或る夜の出来事』感想 |
この映画が作られた当時は、アメリカウォール街から端を発した「世界恐慌」による経済不況が世界を覆っていました。
日本やドイツは軍国主義に走り、アメリカはニューディール政策で経済を賦活させる努力をしていた時期でした。
そんな暗い時期に撮られたこの映画は、大衆芸術としての「庶民の夢」を、その恋愛とコメディーのドラマ中に含んでいたようにも思います。
それを象徴するのが、金持ちでワガママな存在=ヒロインのエリーと、庶民で仕事をクビになった主人公=ピーターが描かれることです。
そのピーターは、ワガママ令嬢に振り回されて、苦労を重ねることになります。
つまりは、金持ち達が自らの利益を貪ったがゆえに引き起こされた「世界恐慌」という苦難のツケを、弱い立場の庶民が払わされることの苦々しさが見え隠れします。
そして結果から見れば、この映画はエリーというワガママ令嬢を、庶民のピーターが屈服させる物語なのだと思えてなりません。
ピーターは庶民の鬱憤を晴らす如く、ワガママなエリーに「お前の親の育て方が悪いから、そんなになったんだ」と怒り、ついには「お尻ペンペン」までします。
【意訳】ピーター:父親に電話したほうが良い。/エリー:どうしたの?弱気になった。/ピーター:いいや、君のためさ。飢え死にしたくないだろう。/エリー:お金全部上げちゃったの?/ピーター:俺じゃなくて、君がやったんだろ。なけなしの10ドル。だから父親に電話したほうが良いと思ってね。/エリー:いやです!ニューヨークに行くと決めたから、もし飢え死にしようとも行くわ。/ピーター:分かったよ。ウェスリー(エリーの夫)は、なんでこんなに女を夢中にさせるんだ?これを持って、丸太の上に立て。(靴をぶつけられて)頼むから遊ばないでくれ。/エリー:ごめんなさい。肩車をされるのはひさしぶりだわ。
ピーター:これは肩車じゃない。/エリー:そうよ。/ピーター:お前おかしいぞ。/エリー:私のパパが間違いなくこうして肩車してくれたのを覚えてる。/ピーター:こんな風に運んだのか?/エリー:そうよ。/ピーター:お前の父親の頭じゃ肩車を分からないんだ。/エリー:私の叔父も、私の母親の兄弟も四人の子供がいて、彼等だってこうして肩車されてたわ。/ピーター:賭けてもいいが、お前達一族はまともに肩車できない。俺は金持ちで肩車できるヤツをまだ知らないね。/エリー:あなたの偏見よ。/ピーター:お前は肩車の名人を俺に見せてくれ。そしたら、俺は本当の人間を見せてやるさ。例えばアブラハム・リンカーンのように。生まれながらの肩車名人だ。お前の高慢な一族から、いつお前は離れられるんだ?/エリー:私のパパは肩車の名人よ。/ピーター:ちょっと、これ持っていてくれ。(叩く)ありがとう。
こんな金持ち令嬢の憎まれ役だけに、ヒロインのエリーを演じたクローデット・コルベールが、こんな金持ちのイヤな女は演じたくないとゴネたのも分かる気がします・・・・・
やはり悪役ですし。
そんな、こんなで、この映画は公開当時お高くとまった批評家からは酷評されたものの、庶民大衆の絶大な支持を受け、歴史に残る古典作品として今に残ります。
そんな庶民の支持を物語るエピソードを・・・・・・・・・・ |
@この映画でシャツの下に下着を着ないスタイルが流行った。
右のシーンで、主人公ピーターを演じたクラーク・ゲーブルがシャツを脱いで、裸なのがカッコイイと若者を中心に流行ったそうです。
Aこの映画で大陸横断バスの利用が増えた。
それまで旅行といえば、飛行機や鉄道が中心だったものが、横断バスの旅がポピュラーになったそうです。
Bこの映画でヒッチハイクが定着した。
映画史に残る名シーン「ヒッチハイク」。この映画の後、ヒッチハイカーが増加したといいます。
Cこの映画がバックスバニーを生んだ。
この映画で見られる、敵に追いかけられながら、ニンジンを齧るイメージから、アニメ「バックスバニー」が誕生したという説があります。
ということで、この映画がどれほど人々に愛されたか、大恐慌の苦しい時代に「庶民大衆」に元気を与えたかと想像してみたりしています。
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『或る夜の出来事』解説クラーク・ゲーブルとクローデット・コルベール |
この映画の撮影時34歳だったクラーク・ゲーブルは、この映画で人気を不動のものにし、アカデミー主演男優賞を獲得しています。
クラーク・ゲーブルの魅力は、乱暴にすら見える言動に象徴される、男性的なセックス・アピールに当時の女性たちは虜になったといいます。
クラーク・ゲーブル(Clark Gable, 1901年2月1日 - 1960年11月16日)は、アメリカ合衆国の映画俳優。第二次世界大戦前後の時代を代表するビッグスター。
大手映画製作会社のメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の幹部の目にとまり、1930年に契約し翌年から多くの映画に出演、「キング・オブ・ハリウッド」の異名をもつ大スターとなる。(wikipediaより)
そして、ヒロインのクローデット・コルベールは、ラブ・コメの女王として人気を博し、本作でアカデミー主演女優賞を得ています。
クローデット・コルベール(Claudette Colbert, 本名:エミリー・ショーショワン(ニックネームはリリー)、1903年9月13日 - 1996年7月30日)はフランス生まれのアメリカ合衆国の女優。
1930年代、40年代にスクリューボール・コメディで人気を博したコメディエンヌ。1936年には年収30万ドルを稼ぎ、アメリカで最も高収入の女優の一人となった。
『或る夜の出来事』受賞歴 |
第7回アカデミー賞(1935年開催)主要5部門受賞
監督賞:フランク・キャプラ/主演男優賞:クラーク・ゲーブル/主演女優賞:クローデット・コルベール/脚色賞:ロバート・リスキン/作品賞
この主要5部門受賞の快挙は、41年後の『カッコーの巣の上で』までなかった偉大な記録で、また『カッコー〜』以後も、『羊たちの沈黙』があるだけです。
『或る夜の出来事』評価 |
この映画は、映画史に残る古典であり、ロマンチック・コメディーの元祖と言って良いと思うのですが、個人的な評価は、映画としての魅力は★3というところかと・・・・・・
それに歴史的評価を+☆0.5とさせて頂きました。
実を言えば、現代の映画に慣れた目から見ると、すこ〜し映画のテンポがノロイかと思います。
また、エピソードも冗長な所があったり、ラストに至るまでの過程も、もう少し整理できたように思います。
これは1936年という時代に生まれて、初めてこの映画を見ていれば、斬新で、軽快なテンポに感じられたと思うのですが・・・・・・・・
アナウンサーの喋る一分間の文字数が、現在では400字を超えているのに対し、30年前では300文字程度だったといいます。
ましてや、この映画の一世紀を過ぎようかという時間経過を考えれば、テンポの遅さは致し方ないかとも思います。
更に付け加えれば、この映画はサイレントとトーキーの過渡期という事もあり、名匠フランク・キャプラ監督と言えども、長回しや、カット割りなど、サイレント時代の撮影法がまだ尾を引いているようにも感じられます。
また、現代の視点で見ると残念なのが、ワガママな大金持ちの娘というヒロインの設定が、そこまでワガママに感じられないという点です。
これもたぶん、当時の「お淑やかな女性」に比べれば、クローデット・コルベールが演じるのを嫌がった事で分かるように、こんなヒドイ女は有り得ないというキャラクターだったのかとも思います。
しかし、今となっては、もっと、ずっ〜〜〜〜とワガママな女性が巷に溢れているだけに、そんなヒドイ娘に見えないという・・・・・・・・
そんなことで、悪役として見れば、現代の眼では弱く感じます。
また、今の目線で見れば、クラーク・ゲーブル演じるヒーローも、いかにワガママな高慢娘とはいえお尻をひっぱたいたり、大声で罵ったりするのは、ちょっと乱暴で抵抗があります。
しかし、これも当時の男は、この位強くなければいけなかったのでしょう。
そう思えば、女性達が強くなったことと、男たちが軟弱になったことで、現代の物語として見れば、対立構造が弱く、ドラマの力学が十分発揮されないように感じてしまうという事でした。
それは、現代の眼から見れば、バスの中だろうと、公衆のまっただ中だろうと、平気で煙草を吸い続けているこの映画を、嫌煙権をカサに非難し断罪するようなものなのですが・・・・・・・・・
残念ながら努力をしてみましたが、当時の価値観でこの映画の真価を十分評価することができず、私にとってはこの評価となりました・・・・・・・悪しからずご了承ください。
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