2017年08月04日

『リリイ・シュシュのすべて』岩井俊二監督の中二病レクイエム/ネタバレ・ラスト・結末感想

『リリイ・シュシュのすべて』(ネタバレ・ラスト 編)



英語題 all about lily chou chou
製作国 日本
製作年 2001
上映時間 146分
監督 岩井俊二
脚本 岩井俊二
音楽 小林武史

評価:★★★★  4.0点



岩井俊二監督作品の映像美と叙情性が、透明な光となって全編を覆い、一種宗教的な荘厳さを生んでいると感じる。
あたかも、この映画の陰惨な、悲劇的なドラマを救うためにために垂らされた、天上からの一条の糸のように。

14歳の市原隼人が映画初出演で演じ、蒼井優も当時15才で私物の携帯を作中で使うなどして、作品世界にリアリティーを与えている。
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『リリイ・シュシュのすべて』予告

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以降の文章には

『リリイ・シュシュのすべて』ネタバレ

を含みますので、ご注意下さい。
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(あらすじから)
lili-enko2.png星野修介から援助交際を強いられている津田詩織は、監視役として共に行動する雄一と遠慮なく話せる中になっていた。
雄一は、詩織がクラスの男子の告白を断ったのを知って、「あいつなら星野から守ってくれるのに」と言うが、詩織は自分を卑下し取り合わない。

そして、星野達に暴行を受けた、雄一が思いを寄せる久野について、詩織は「久野さんは強いから大丈夫」だと語った。lili-skin.jpg
暴行を受けてから久野は、学校を休んでいたが、ある日、頭を丸刈りにした久野陽子が登校した。


クラスメイト達はそんな彼女を、茫然と見つめるのだった。

そんな中、リリイの掲示板『リリフィリア』では「雄一=フィリア」が救いを求め叫び、それに「青猫」が呼応し、両者は互いに共感し深く強く結びついていった。

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しかし、冬の夕暮れ津田詩織が投身自殺した。


雄一は授業中に嘔吐し、運ばれた保健室で「耳の中の音がうるさい」と呟いた。


そんな時、リリイ・シュシュのライブが開催され、雄一もライブへ向かった。
lili-conc.png
そこで雄一は予期せず星野と出会い、チケットを奪われ、コンサートを見れなくなった。
そんな星野は青林檎を持っていた。
掲示板『リリフィリア』で青林檎は青猫がライブ会場で目印に持って行くと言っていたものだった。

青猫は星野だったのだ。
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雄一は星野にチケットを取られ、リリイのライブ会場の外で立ち尽くしていた。
ライブが終わって星野が出て来て「まだいたのか」と雄一を嘲笑し、立ち去ろうとした。
その時、雄一は大声で「リリイがいた」と叫ぶ。
群衆はリリイを求めて混乱し、押し合いへし合いのすえ、怒号が飛び交った。
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雄一はそんな中、星野の背後に回り、ナイフで彼の背中から刺し殺した。

ネット上では「誰がエーテルをよごしたのか」「騒動のせいでリリイには、不吉な女というレッテルが貼られてしまった。」「犯人はまだ捕まっていない。」と文字が明滅した。


時は流れ、雄一中学3年の春。
lili-indian.png
彼は陽だまりの中ピアノを弾き、母親に頼んで髪を茶に染めてもらった。
学校では担任教師による的外れな学習指導が有る。

音楽室では、久野陽子が弾くピアノの音が、静かに響いていた。
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『リリイ・シュシュのすべて』ラストシーン

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『リリイ・シュシュのすべて』結末感想



この映画は、14歳を生き延びて、15歳になる2人の姿でエンディングを迎える。
エンディングの前には、担任教師による面談シーンで、彼ら14歳の事情を何も知らない大人達の無知が露呈している。
この主人公の少年は、事件をどう思っているのかと想像してみる。
多分後悔はないだろう。lili-pos3.jpg
なぜなら、彼が殺したのは、自分自身だった。
反抗を禁じられ、仮想空間に裏切られ、救世主リリイ・シュシュも幻想だと知った14歳は、自らの「14歳という現実=リアル」に現実世界で向き合い、自らの過去を葬ったのだ。

この自分自身との対峙とは、この映画の14歳達が共通して持つ戦いだった。

よくよく見てみれば、投身自殺した津田詩織は、現実世界をより良く生きるチャンス(男子生徒の告白)を放棄した。
また、いじめの首謀者星野にしても、自らを現実世界に置くことの忌避が、いじめという一種の自傷行為を生んだように感じる。
そう思えば、津田詩織にしても、星野にしても現実世界にいる事を拒否し、自らを現世から消したかったのだろう。

それに対し、雄一はギリギリの所で、現実世界にその身を留めるため、現実と戦う気力が残っていた。
久野にしても、その命をつなぎとめたのは現実に対して、自らスキンヘッドにするという反撃を見せたからだ。
つまりは14歳同士の、共食いは「現実世界により関与」した者が生き残ったのだ。
lili-pos5.jpg
再度問いたいのだが、こんな14歳同士がお互いを傷付け合うような事態に、誰がしたのか。
この映画の14歳達は、仮想世界や、幻想世界では、最早救い得ない。
この少年少女達を救う責任は、間違いなく大人にあると信じる。
しかし、今となってはこの国の、脆弱な大人達は彼らを救い得ないのではないかと、自嘲と共に思う。

もはや希望は、この14歳の地獄を生き延びた少年少女達が成長し、この現実世界に関与し変革せしめること以外に、救われる道はないかもしれない。
あたかも久野が、醜い現実世界を自らの清澄なピアノで浄化する、この映画のラストのごとく・・・・・・

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『リリイ・シュシュのすべて』サントラ集


飛べない翼

飽和

ドビュッシー、アラベスク1番



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posted by ヒラヒ at 17:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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