ハスラー2(感想・解説 編)
原題 The Color of Money 製作国 アメリカ 製作年 1986 上映時間 119分 監督 マーティン・スコセッシ 脚色 リチャード・プライス 原作 ウォルター・テヴィス |
評価:★★★★
4.0点この1986年の映画の原題「マネー・オブ・カラー=札の色」が意味するのは、金にも種類があり、価値のある仕事で手に入れたモノと、楽をして設けたモノは違う「色=価値」を持っていると語られているように思いました。
そんな、人生にとっての価値を、ポール・ニューマン、トム・クルーズ、監督マーティン・スコセッシによって描きだされた、エンターテーメント作品です。
『ハスラー2』予告動画 |
『ハスラー2』出演者 |
ファースト・エディ(ポール・ニューマン)/ヴィンセント(トム・クルーズ)/カルメン(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)/ジャネル(ヘレン・シェイヴァー)/ジュリアン(ジョン・タトゥーロ)/路上プレイヤー(イギー・ポップ)/アモス(フォレスト・ウィテカー)
『ハスラー2』感想 |
個人的には、この映画を単体で評価すれば、標準作という印象だったりします。
監督、俳優、とも実力派が揃い、ビリヤードの持つ魅力も十分表現されて、当時の日本でもナインボール・ビリヤードの大ブームが起きたほどなので、コマーシャル的な成功とエンターテーメントとしての力を持っているのは間違いないでしょう。
しかし、それでもドラマとしての強さがあるかと問われれば、どこか散漫な印象もあります。
この映画の基本軸は、ポール・ニューマンの演じるエディーにあるでしょう。彼が若く力に溢れたトム・クルーズ演じるヴィンセントと出会い、かつてのハスラーだった自分を思い出し、自分の人生において最も大事なモノを再び手に入れるという物語です。
更に丹念に見れば、ポール・ニューマン演じるエディーはいかがわしい酒を売り、ビリヤードの賭をするハスラーの胴元として、リスクを冒さず利益を得ようとする姿は、姑息な中年男と成り果てています。
そんな金はあるがイヤらしい人物が、若きヴィンセントに金儲けの方法を伝授します。
それは、例えば自分を下手なプレーヤーだと見せかけて、大金を掛ける相手を勝負に引きずり込む方法だったり、勝負の場所でケンカを吹っかけ周囲の人間も巻き込んで掛け金を釣り上げる方法だったりします。
2人の兄弟と他人
【意訳】エディー:"二人の兄弟と他人の一人"だいいか?バーに二人で行って−/ヴィンセント:二時間くれトロフィーの山を築くから。/エディー:見てなこの町全部頂くぜ。派手にやろう。/ヴィンセント:一晩中でもこの町で稼ぐぜ、次は誰だ、あんたやらないか、誰もやらないのか、ほんとにやらないの。ブレークショットを譲るから。ブレークして。8番ボールで勝ちでいいよ。どうだ?やるか。さあやろう。/ヴィンセント:静かにしてろよ。/エディー:場所代払ってるぜ。/ヴィンセント:気を遣え。/エディー:何だって。/ヴィンセント:今ここで金がかかってんだ、静かにしろ。分かったか。/エディー:大金がかかってるって?/ヴィンセント:ああ、そうだ。大金がかかってんだから、俺たちが撞いてる間は女から手をどけとけ。/エディー:なんで俺の手が気になるんだ。自分の仕事に専念しろよ。/ヴィンセント:おいジーさん、お前の入れ歯をしまって、その手を娘から離して、気を使う事をここで学べ。/エディー:そのうち入れ歯にするよ。それよりお前のオムツをいつ代えるんだ。/対戦相手:おい、ここで試合してんだぜ。/エディー:ほんとに?何の為に?/対戦相手:関係ないだろ!/エディー:何が手に入るんだ?何の為だ?/対戦相手:50ドルだ。/エディー:お前勝ちたいか?俺はこいつに500ドル賭けるぜ。こいつはビビりだ。500ドルって聞いた瞬間ビビってる。/ヴィンセント:なんで出てかないんだ/エディー:誰か500ドル賭けるやついないか?/対戦相手:なんで面倒を起こすんだ?/カルメン:私、帰るわよ!/エディー:誰もかけないのか?/ヴィンセント:むかつくやつだ。/バーテンダー:1000ドル賭ける。
しかし、そんなエディーが伝えるハスラーの知恵とは、実はビリヤード・プレーヤーの技術とは関係ないのです。
結局そこにあるのは、年老いた狐がいかにして経験と知恵によって、獲物を得るかという狡知だったでしょう。
しかしそんな「ずる賢さ」は、本来俊敏な足と鋭い牙があれば、不要なモノであり、逆にそこに頼らざるを得ない事が、自らの衰えを示すものだったはずです。
この映画のエディは、そんな自分の衰えを、ヴィンセントの強さを見ることで痛感し、自らを狡知に向かわせた年齢による「衰え」を認めざるを得なくなったのだろう。そして彼は思い出すのです。
かつて自分がビリヤードの頂点に向かって、圧倒的なパワーを放出していた時の充実と栄光の時を。
同時に彼に蘇ったのは、金や栄光ではなく、ビリヤードというゲームを支配することこそが、彼の人生の目的だったという思いだったように感じられました。結局、ビリヤードをしなくなったから、自分は自分でなくなったと気付いたのではないでしょうか。
そして気が付いてみれば、かつての狡い大人、旧作『ハスラー』の敵役バートと同じ事を、ヴィンセントにしている自分に嫌気がさしたように見えます・・・・・・・・・・・・
これは、敷衍して考えれば、若き日の理想や夢を現実の中ですり減らした中年過ぎの男達に向けた、自分の人生を取り戻せと語りかける映画だと思います。
自らの存在証明、自らの生きる価値が、どこにあるのかを問い、それを梃に自分の人生の戦いに再び戻る物語だと信じます。
しかし、それでもそんなテーマとビリヤードとの組み合わせが、この映画を見ただけでは相乗効果を上げてるとは言い難い点に不満を感じ、この作品単体では★3の標準作という評価を持ちました。
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『ハスラー2』解説 |
しかしこの作品単体には★3を付けても、それでも評価★4を付けたのは、この映画の前作『ハスラー』という傑作を踏まえてみた時、見事な対比効果を上げているからです。
その前作で描かれたのは、この映画とまるで正反対のドラマでした。
25年前、若き日のファースト・エディーは、全身を研ぎ澄ました一本の針のようにして、ビリヤードに打ち込んでいました。全てを犠牲にしても絶対王者「ビリヤード・チャンピオン=ミネソタ・ファッツ」を倒すために全身全霊を込めていたのです。
関連レビュー:ポール・ニューマン『ハスラー』 60年代のギリギリの青春 第一次ビリヤード・ブームの火付け役 |
その「ストイック=禁欲的」な姿が目に焼き付いているからこそ、この映画の老年エディーの変わりようが、見事に引き立つのです。
あの、鋭敏だった傷つきやすい感性は、金と欲望の鎧の下、鈍く反応するだけです。
一点に向かって集中していた求道者も、今作ではいかに金をだまし取るかを考える詐欺師と成り果てている。
つまりは、この映画は前作のエディーの姿があってこそ、その落差が深く強く印象付けられるのです。
その深い断絶を生んだ、この25年の人生を思い、更にはその変わり果てた男が持っていた「人生の真実」を知っていればこそ、このエディーが再びビリヤードのキューを持つ重みが際立つと感じました。
そういう意味では、前作と合わせてこの作品を見た時、今作のポール・ニューマンの演技が輝きを増し、更に味わい深く感じられて★4つとしました。
『ハスラー2』解説 |
ポール・ニューマンはメソッド演技で有名な『アクターズ・スタジオ』出身のエリート俳優だった。
『アクターズ・スタジオ』出身者としては、マーロン・ブランドが衝撃の映画界デビューを果たし、それに続いてジェームス・ディーンが「青春ヒーロー」として若者のカリスマとなった。
関連レビュー: ハリウッド映画とアクターズ・スタジオ『メソッド演技』 ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジャック・ニコルソンを輩出した名門・俳優養成所、演技の秘密 |
しかし、同時期に『アクターズ・スタジオ』を卒業していながら、マーロン・ブランドやジェームス・ディーンに較べポール・ニューマンは、一気にブレークとはなりませんでした。
ポール・ニューマン(Paul Newman 、本名: Paul Leonard Newman 、1925年1月26日 - 2008年9月26日)はアメリカ合衆国の俳優である。
イェール大学大学院で披露した演技がプロデューサーの目に留まり、ニューヨークに招かれた。テレビドラマや舞台における演技が認められ、1952年にジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドと共にアクターズ・スタジオに入学。ワーナー・ブラザースと5年間の専属契約を交わす。1954年に『銀の盃』でスクリーンデビューを果たすものの、作品自体が映画評論家から失敗作の烙印を押されるという不本意なデビューとなった。
ディーンとブランドがそれぞれ『エデンの東』『波止場』で世界的トップスターへと上り詰める一方でポールは満足のいく作品に出演できないうえ、スタジオや批評家から「第2のマーロン・ブランド」と称されることに失望し映画を離れ活動の拠点を舞台とテレビドラマへ移した。(wikipediaより)
後に、ポール・ニューマンは『傷だらけの栄光』『熱いトタン屋根の猫』により、ハリウッドでの評価も高まり、ついには1969年にロバート・レッドフォードと共演したアメリカン・ニューシネマの名作『明日に向って撃て!』のヒットによって、世界的トップスターとしての地位を確立しました。
しかし、個人的な印象ではポール・ニューマンという俳優には、スター性、カリスマ性が少ないという印象があります。
この俳優の個性としては、アクターズスタジオの後輩ダスティン・ホフマンやアルパチーノのように、演技で見せる俳優だったように思います。
しかし、デビュー当時のハリウッドはスターシステムで、演技よりカリスマ性を重視された事による、ギャップに苦しんだのではないかと想像します。
個人的な印象としてはポール・ニューマンは、実は主役というより脇役が相応しいのではないかという気もします。
そういう意味では、この映画のトム・クルーズや、『明日に向かって撃て』『スティング』のロバート・レッドフォードという、スターの顔を持った俳優とコンビを組むと、その演技力が映えるように思うのです。
また、若手時代のトム・クルーズも、人を魅了する太陽のようなスター性があっても、演技者としての突出した力を感じがたいように感じます。
そういう意味では、そんな彼が「アクターズスタジオ」の役者達と組むと、メソッド演技の深みと凄味を引き出すのは、太陽のトム・クルーズの前で、メソッド演技者たちの陰鬱な演技手法がより際立つからではないかと想像しました。
『レインマン』ではダスティン・ホフマンが、この『ハスラー2』ではポール・ニューマンがアカデミー賞を獲得している事実は、決して偶然ではないと思うのです。
関連レビュー: ダスティン・ホフマンのアカデミー賞受賞演技 『レインマン』 サヴァン症候群の兄と弟の絆 若き日のトム・クルーズ |
関連レビュー:トム・クルーズのスター性とは? 『卒業白書』 トム・クルーズの出世作 一夜の危険な遊び |
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ありがとうございます(^^)ポール・ニューマンは演技派ですね〜でも、スターになりたかったのかとも思います。ダスティン・ホフマンのように演技だけで勝負というよりは、スターとしてありたかったような・・・・・・