フォレスト・ガンプ(感想・解説 編)
原題 Forrest Gump 製作国 アメリカ 製作年 1994 上映時間 142分 監督 ロバート・ゼメキス 脚本 エリック・ロス 原作 ウィンストン・グルーム |
評価:★★★☆
3.5点この映画は、トム・ハンクスの演じる主人公フォレスト・ガンプが、アメリカの1950〜90年の歴史を走り続けるような映画です。
ここには、アメリカの物語の伝統「トール・ストーリー(ほら話)」の伝統があるように思います。
また同時に、そんな「ほら話」がこの映画の題材に相応しかったのかと、問いたい気持ちもあります・・・・・
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『フォレスト・ガンプ』予告動画 |
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『フォレスト・ガンプ』解説「アメリカン・トール・ストーリー」ほら話の伝統 |
この映画を見て、アメリカのトール・ストーリー(ほら話)の伝統を思い起こしました。
「トール・ストーリー=Tall Story:Tall tales=背の高い物語」とは、誇張された部分や信じられない部分を含んだ、大きく驚くようなありえないような「ホラ物語」です。
トール・ストーリーの主眼は、物語全体をどうオーバーに誇張するかにありますので、話として非常に面白いですし、現実離れしたファンタジーに近づくように思われます。
このアメリカの民間文学の伝統である、「トール・ストーリー」は、アメリカの開拓者達が、火の周りに集まったときに自慢話合戦から始まったと考えられているようです。
アメリカのほとんどの「トール・ストーリー」は、勇敢な探検家が西部の荒野へ進んだ、1800年代の西部開拓の冒険時代から由来しているといいます。
そんなアメリカの民話の人気者の例を挙げてみましょう。
ポール・バニヤン(Paul Bunyan)は、アメリカ合衆国の伝説上の巨人、西部開拓時代の怪力無双のきこりです。
「生まれたときから8mという巨体で、木を伐採すると1日で山が丸裸になって、ベイブという巨大な青い牛を連れていて、五大湖やミシシッピ川をつくった」という凄い人です。
ペコス・ビル(Pecos Bill)はアメリカ合衆国の伝説上のカウボーイです。
コヨーテに育てられて、身長が2メートル以上あって、気は優しくて力持ちで、投げ縄の腕は超一流。
鞭として、ガラガラヘビを使い、投げ縄で竜巻を捕まえて、竜巻を野生馬のように乗りこなした。
リオ・グランデ川を掘って、カウボーイの歌を作ったという、豪快で、でも優しい人です。
これらの物語に登場する、背の高い物語の英雄達は、実在の人物に基づいていたとしても、実際の人よりも背が高く、大きくて強く優しい存在として描かれています。
そんな、アメリカ民話の伝統を正しく引き継ぎ、映画として定着したのが、この映画だと感じました。
さらに言えば、トール・ストーリーの伝統を引き継いだ映画は、他のハリウッド映画作品でも見ることができます。
関連レビュー:ティム・バートン監督の「ほら話」 『ビッグ・フィッシュ』 「ほら話=ファンタジー」の力 親子の和解の物語 |
そして、この『フォレストガンプ』においては、過去のニュース映像に主人公をはめ込むと言う形で、歴史的なホラを構築することに成功しました。
その特殊撮影によるリアリティーは、映画表現に新たな可能性を開くものだと思います。
しかし下手をすれば、過去の映像資料を改変して、都合のいい事実を作ることもできそうで一抹の不安も感じます・・・・・・・
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この映画はアカデミー賞に輝く高い評価を受けている作品です。 しかし、以下の文章には私見による批判、悪評が含まれています。ご注意下さい。 『フォレスト・ガンプ』感想 |
上で描いたように、アメリカのほら話の伝統を継ぐ、この映画は知的障害を持ちながらも優しい一途な主人公が、歴史的事件に関わりつつ成功する物語です。
その物語は、明るく壮大で、人情味もあって、映画の語るストーリーラインや主張に素直に従えば、感動的な物語として心に響きます。
このイノセントな主人公の生きてきた道とは、大きな歴史の流れに漂う羽のように、「人生とは歴史の中で翻弄されるものだが、きっとハッピーになれる」というメッセージに集約できるかと感じました。
それは、社会の一員として生きる庶民にとっては、間違いなく実感だったでしょう。
個人では、どうしようもない時代の潮流というのも、間違いなくあると思います。
しかし、それでもこの映画が語る「歴史」に対する認識に納得がいかないのです。
この映画が「歴史的事件」を語っていながら、歴史認識が皆無だという点に違和感を感じざるを得ないのです。
たとえば、映画の中で「アラバマ州立大学問題」や「ブラック・パンサー党」など黒人差別が語られ、「ベトナム戦争」が語られ、「ベトナム反戦運動」が語られ、「ジョン・F・ケネディー」や「ウォーター事件」が語られる時、その社会を揺るがし、世界を変えた事件に対し、この主人公は一切主体的に関わろうとしません。
このフォレストは歴史の場に立ち会いはしますが、それは大学卒業時にたまたま勧誘のビラを見て陸軍に入ったように、ワシントン観光中に流されるままに反戦デモに組み込まれたように、成り行きと偶然とに彩られた人生です。
しかし、普通に考えれば、ベトナム戦争や人権問題を眼にすれば、そこにはその主人公の感慨なり意見が生じるはずで、それこそが通常は映画のテーマとなるべきものだったはずです。
そしてその主人公の主義主張を通して、表現されるのが「歴史に対する責任」であるはずです。
基本的には歴史事実には、その事実ゆえに世界がどう変化し、その変化をどう解釈するかという言葉が求められるはずです。
なぜなら、その歴史事実によって傷つき苦しんでいる人々がいて、その人たちに対する救済や、次の世代に対する戒めを、その事実から汲み取り伝える必要があると思うからです。
たとえば、この映画で語られる歴史事実として「アウシュビッツ」が出てきて、主人公がそれを、ただ眺めているとしたらどうでしょうか?
たとえば、この主人公がヒロシマに原爆を落とした、B29エノラ・ゲイに乗っていたとしたらどうでしょうか?
何も言わずに通り過ぎて済まされるでしょうか?
極端な例だと言われるかもしれませんが、ベトナム戦争は上二つに匹敵する犯罪行為だと個人的には思います。
また、人種差別の問題も100年に渡る差別の中で多くの黒人が命を落してきた経緯と、その差別を受けた者達の苦悩はどれほどのものか想像もつきません。
この両者に対して何の意見も表明されないという、この映画の描き方は異様ですらあると思います。
例えば「アラバマ州立大学黒人入学問題」では、ウォーレス知事に「なぜ黒人が大学に入ってはいけないのか」と聞いてほしかったのです・・・・・・・
「ベトナム戦争の反戦集会」ではマイクを切らず、ベトナムでどんな苦しみがあったか語らせてほしかったのです。
【意訳】国旗シャツの男:前線の話を。/フォレスト:ベトナムの話?/国旗シャツの男:ベトナム、クソッタレ戦争の話だ!/(フォレスト・ナレーション:ベトナムについて僕に言えることは唯一つだった)/フォレスト:ベトナムについて僕に言えることは唯一つ。ベトナムでは・・・(男がマイクの線を抜く)観衆:聞こえないぞ、何も聞こえない。/フォレスト:僕にいえるのはそれだけです。/国旗シャツの男:素晴らしい。その通りだ。君の名前は/フォレスト:フォレスト、フォレスト・ガンプ/国旗シャツの男:フォレスト・ガンプ(幼なじみジェニーと再会)
しかしこの映画は、それらの歴史解釈を、慎重に語らないように努めているように見えます。
ここにあるのは、アメリカ現代史に対する肯定でも否定でもなく、単なる事実の羅列です。
そしてそのことで、その事件・事実に関わった人々が傷つく結果になっていないかと恐れるのです。
関連レビュー:ベトナム戦争の罪を語らない映画 『プラトーン』 オリバー・ストーンの自伝的物語 ベトナム戦争の敗北の真実 |
さらに言えば、これらの人権問題や、ベトナム戦争という、負の歴史を正面から捉えていないことで、このフォレスト・ガンプに代表される白人中間層(それはトランプ政権の支持基盤でもありますが)の、人種差別や反グローバリズムの感情を助長するのではないかと恐れるのです。
実を言えば、こんな不自然な過去の歴史に対する無関心を成立させるために、この映画は主人公を知的障害があるという設定にしたのではないかと疑っています。
例えば、これが普通の人間であれば、この映画の事件の現場で意見を言わずに済ませられないでしょう。
その無関心さを、イノセントさとして演じて見せた、トム・ハンクスの演技力も恐るべきものだと思います。
個人的な印象では、トム・ハンクス演じるキャラクターには、白人中間層を代表するような役柄が多いような気もします・・・・・・・・・・
関連レビュー:人種差別が垣間見える映画 『グリーン・マイル』 刑務所の奇跡の物語 トム・ハンクス主演のアカデミー賞作品 |
映画としての表現技術が高いにもかかわらず、その表現力を歴史を無視する方向で使役していることに疑問を持ったものですから、敢えて申し上げました。
当作品に対する評価★★★☆ 3.5点は、映画表現としては5点に近いものの、その歴史性無視ゆえに★をマイナスしました。
現実をほら話として語るには、もう少し時が立つのを待った方が良いのではないでしょうか・・・・・・
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