サウルの息子(ネタバレ・結末 編)
原題 SAUL FIA 英語題 SON OF SAUL 製作国 ハンガリー 製作年 2015 公開年月日 2016/1/23 上映時間 107分 監督・脚本 ネメシュ・ラースロー |
評価:★★★★ 4.0点
ホロコースト映画で、語られてこなかったユダヤ囚人のゾンダーコマンドという特殊部隊を描いた傑作だと思います。
アウシュビッツ=ビルケナウ収容所の、歴史的事実を踏まえたこの映画は、ドキュメンタリーを超えて力があると感じました。
この映画のラスト、主人公サウルの笑顔が切なく胸に沁みます。
『サウルの息子』予告 |
以降の文章には 『サウルの息子』ネタバレがあります。ご注意ください。 |
(あらすじから)
少年の遺体を担いだサウルはラビ・ブラウンや他の囚人たちとともに収容所を脱出し、森へ逃げ込む。
サウルは川岸で少年を埋葬しようとするが、ラビであるはずのブラウンは、カッディーシュ(ユダヤ教の祈りの言葉)を暗唱できなかった。
サウルは彼がラビではなかったことを知る。
追手の手を逃れるため反乱者達は川に逃げ込み、サウルも川に入った。
しかし少年の死体は、サウルの手を離れ川にのみ込まれてしまう。
『サウルの息子』ラスト・シーン |
少年の遺体を川で失い虚脱したサウルを、ブラウンが引きずるようにして、森の中の納屋に逃げ込んだ。
反乱グループはソ連軍の状況や、ポーランドのレジスタンスとの合流について、話し合っている。
その時サウルは、一人の少年が納屋にいる彼らを覗き込んでいるのを見つけた。
サウルは少年に微笑む。
少年は納屋から離れ、森を進むと突然ナチス兵が現れた。
武装した親衛隊が納屋に向かう中、少年は森へと入っていく。
その背後では機関銃の音が響く。
森の奥に消える少年を写して、映画は幕を閉じる。
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『サウルの息子』結末感想 |
この最後のサウルの笑顔が素晴らしい。
この表情は、『戦場のメリークリスマス』のビート・タケシに匹敵する、透明感とイノセントさを持って、見る者の心に迫ってくる。
当ブログ関連レビュー:透き通った笑顔が意味するモノ 『戦場のメリークリスマス』 東西文明の対決を超えた愛の物語。 デビッド・ボウイ、坂本龍一、大島渚 |
この映画のサウルにしても、ビートタケシ演じるところの日本軍軍曹ハラにしても、その笑顔に共通するのは、全てのシガラミから開放された時に顕わになった「ヒューマニティー=人間性=善性」の輝きであったように感じられてならない。
このサウルは、封じ込めていた感情=シガラミは、少年の死によって解き放たれた。
そういえば人に人の情を蘇らせるのに一番の方法は、子供を抱かせることだと聞いたことがある。
結局、この映画の題名『サウルの息子』の息子という意味は、人を人たらしめる情を意味するのであろう。
考えてみれば死者の情を引き継ぐことを「悼む」と呼ぶのではなかったか。
そのサウルの死者達に対する「悼む」心は、ついに叶わなかったと思われた・・・・・・
しかし最後に少年が姿を見せた時、サウルにとっては彼の祈りが通じて、死者が復活したと信じたのだろう。
それは間違いなくサウルに対する、神の赦しの顕在化だった。
この、死者を「悼む=情を継承」する事こそ、人を人たらしめるのであり、未来の礎であるに違いない。
ラストで少年が森に消えていくシーンは、後世の子供達がサウルの思いを引継ぎ、世界を再生して行って欲しいという姿であると感じた・・・・・・・・
この映画では、叶えられなかったカディッシュ。
2009年・アウシュビッツで捧げられた
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