ゴースト・イン・ザ・シェル(感想・解説 編)
原題 GHOST IN THE SHELL 製作国 アメリカ 製作年 2017/上映時間 120分 監督 ルパート・サンダース 脚本 ウィリアム・ウィーラー 原作 士郎正宗 |
評価:★★★ 3.0点
この映画を見て、そのビジュアルの作り込みは、標準を越えて見事だと思う。
しかし、SF映画、日本アニメの系譜を紐解いてみれば、今やSF的ビジュアルのリアリティーだけでは十分とは言えないと個人的には考える。
以下、その点を整理し、SF映画に必要な要素を検証したいというのが、今回の大それた試みである。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』予告動画 |
『ゴースト・イン・ザ・シェル』感想 |
まずは、この映画のビジュアルが素晴らしいという事実は強調したい。
確かに、そのビジュアルはまるで「甲殻機動隊」のアニメの世界観から一歩も出ていないかもしれない。
今となっては資金に見合ったCGのクオリティーが保障されることに慣れてしまって、このCGのクオリティーにもさほど驚きはないかも知れない。
それでも実写に置き換えて、違和感なく世界観を構築したことは賞賛したい。
アニメと実写のオープニングシーン比較逆に実写に劣らないクオリティーを持つアニメの完成度に驚く。
この映画の、そこここに見えるデティールから、この監督の『ゴースト・イン・ザ・シェル=甲殻機動隊』に対する愛が感じられて、そこに同じ世界を共有してきたシンパシーも感じ、つい応援したいという感慨さえ覚えた。
アニメと実写の格闘シーン比較
正直言って、ここまでアニメとそっくりなら実写化する意味に疑問を持つ者もいるだろうし、特にコアなファンからすれば実写化によるイメージの誤差自体に拒否反応が出るかもしれない。
しかし単純に言って、実写化によって圧倒的に視聴者層が拡大するのだ。
アニメは見ないという観客達を取り込めるという利点と、何よりこの原作アニメ自体が、本来大人が見て理解すべき哲学的な物語なのだから、実写化はこの物語の持つ原型としての力からいって成されるべきだと、個人的には信じている。
とはいうものの標準作という、評点3にしたのは、やはり根本的に欠けた要素があると感じたからだ。
その点を説明するためには、SFの歴史と、日本アニメの系譜が、語られなければならないだろう。
『ゴースト・イン・ザ・シェル』解説SF映画の系譜 |
SF映画(空想科学映画)の世界初の映画は、1902年のジョルジュ・メリエス監督のフランス映画『月世界旅行』だったと言われる。
ジョルジュ・メリエス監督『月世界旅行』
それに続くのが1910年のJ・シャーリー・ドーレイ監督『フランケンシュタイン』
J・シャーリー・ドーレイ監督『フランケンシュタイン』
そして特撮怪獣の元祖、1925年の監督ハリー・O・ホイトによるアメリカ映画『ロスト・ワールド』
ハリー・O・ホイト監督『ロスト・ワールド』
そして、SF映画の金字塔1927年のフリッツ・ラング監督『メトロポリス』が発表された。
フリッツ・ラング監督『メトロポリス』
この例で分かるように、映画の歴史が始まると共にSF作品は作られてきた。

これは大衆文化としての明快さ、刺激性を求めた結果ではあろうが、見逃せないのはこの映画の黎明期とは科学知識によって世界を再構築する時代と重なっていたという事実だ。
それは宗教がもはや世界を説明しきれない時に、変わって出てきた新たな世界の解釈だった。
考えてみれば近代に生まれた小説ジャンルの、サスペンス・ミステリーが人間の罪を問うものであり、科学を元にしたSF小説とは、世界が神抜きにいかに成立し得るかを語ったものだといえるだろう。
それゆえSFとは、本来新たな可能性の物語であった。
その本質的機能とは、それまで万能の神が作っていた世界を、人間の理解できる合理的な世界に書き換えることだった。
その世界の未知を科学によって検証し理解していく過程とは、必然的に今まで不明瞭だった世界の新たな解明を意味する。
つまりはSFとは、今まで語られなかった新たなユニーク性こそがその本質であり、それを『センス・オブ・ワンダー=異質な感覚』と呼んだのではなかったか。
関連レビュー:『2001年宇宙の旅』 スタンリー・キューブリック監督のSF映画の金字塔 センス・オブ・ワンダー解説。 |
しかし、率直に言えばこの映画には、そのユニーク性「センス・オブ・ワンダー」が感じられなかった。

そのユニーク性は、世界の未知を新たな概念により解明する事だけではない。
実は『スター・ウォーズ』などの中世騎士物語の舞台を宇宙に置き換えただけの、スペースオペラと呼ばれる物語であっても、そこにビジュアルとしての「センス・オブ・ワンダー」があれば人々の心を掴めるのだ。
関連レビュー:『スター・ウォーズ』 SFビジュアルのリアリティーがもたらしたもの。 スペース・オペラの革新 |
下の動画は、『月世界旅行』から始まる宇宙人の変遷をまとめた動画だが、やはりスターウォーズを境にビジュアル・リアリティーが高まったと感じる。
そして、リドリースコット監督の『ブレード・ランナー』も、SFにアジアのエスニックイメージを導入した、そのビジュアルのユニーク性が効果を上げた。
ブレードランナー予告
このビジュアルイメージはアニメ「甲殻機動隊」に影響を与えていると感じる。
以上の例で、通常のジャンルよりも更に、SFという分野はそのユニーク性が求められるのだとご理解頂けただろうか。
そういう点でこの映画の、アニメをそのままトレースしたような表現に不満を感じた。
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『ゴースト・イン・ザ・シェル』解説日本アニメの系譜 |
この映画には、先に述べたようにユニーク性が足りない。
しかしある面、同情すべき点があると個人的には思う。
それは、日本マンガと日本アニメのクォリテイーの高さゆえに、作品の世界観が揺るぎなく構築されて、イマジネーションを広げる余地が少ないのではないかと思うのだ。
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編アニメ『イノセンス』
そのビジュアルの完成度の高さに驚く。
そんな高い完成度を持つ、日本マンガの栄光は、手塚治虫という一人の天才によって始まったと言っていい。
そのマンガ表現の革新の本質は、本来「笑い」を描いてきたマンガというジャンルで「悲劇」を描いたことにあると個人的には思える。
関連レビュー:『鉄腕アトム』 マンガ表現の革新が生まれた理由 マンガの拡散 |
そして、マンガが悲劇を描けるようになった必然として、人間心理の描写が必要となり、その心理描写の表現の進歩とともにマンガ表現の幅が拡大し、そして劇画が誕生する。
この劇画の誕生が意味したのは、それまでのマンガの絵柄が「お笑い」の殻を引き継いでいたため描けなかった、大人向けの表現が可能になったという事実だっただろう。
それはマンガを読んできた世代が大人になり、大人が読めるマンガのニーズが生まれた事が背景にあったと思われる。
ここにおいて日本マンガは、ビジュアルとしての緻密さと、細密なストーリー表現力を手にしたと言える。
そんな日本マンガをベースとした、日本アニメの更なる革新は大友克洋『アキラ』が多くを担っていると、個人的には信じている。
その卓越したパース表現は、すでに実写となんら変わらない。
関連レビュー:『アキラ』 卓越したパース表現の開いた世界 アニメから実写の越境者 |
このアニメを見れば、その世界観のビジュアル的、ストーリー的な、高い完成度に驚きを禁じ得ない。
しかし、その日本アニメの持つ世界観の緊密さは、実写化した際の自由度を制限する要因になるだろう。

これが、アメコミのヒーローならば問題がないのは、アメコミ自体の情報量が日本マンガに比べ圧倒的に少ないからで、それだけ実写化の際に表現の自由度が高いからだと思える。
そしてこの事実は、この映画だけではなく、広く日本マンガ、アニメの実写化の際に必ず生じる問題のように思える。
つまりは、完成度の高い確立した世界観は、実写化に際しその世界観をそのまま置き換えればユニーク性が失われ、さりとて違う世界観を導入すれば、そのファン層からそっぽを向かれるというジレンマを抱えている。

ここから先は、ないものねだりに近いのだが、この映画の元にある『甲殻機動隊』を愛するルパート・サンダース監督の想いは十分表現されたと感じた。
それゆえもし次回作があるとするならば、もっとわがままに新しい物語を構築しても良いのではないか。
日本映画界にある「マンガ原作」を舐めたような製作者とは違い、明らかに敬意を持って誠実に作品に向き合っているのだから、その愛はコアなファンにも伝わるはずだ。
ある物語の原型が、拡大し定着するためには、そんな愛に満ちた異化作品が必要なのだ。
それはSFが、科学という知見で新たな世界のビジョンを描き出して見せたのと同様、作品世界にもそんな「センス・オブ・ワンダー」が求められているのだと信じる。
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ありがとうございます(^^)愛は感じられるんですが…
ネタバレ編で語りますが、ネタバレ閲覧されない事を想定して書かせていただきますと、やはり実写はCGよりも生の役者の演技力の説得力が勝ると感じました。
この映画にそんな良いシーンがあるので、次回作があればそんな所をガンバって欲しいなと…