原題 THERE WILL BE BLOOD 製作国 アメリカ 製作年 2007/158分 監督・脚本 ポール・トーマス・アンダーソン 原作 アプトン・シンクレア |
評価:★★★☆ 3.5点
アメリカの石油産業の創生期を骨太に描いた、重厚な映画です。
この映画は、壮絶と言っていい男の生きざまを、ダニエル・デイ・ルイスが鬼気迫る演技で魅せ、その結果はオスカーでの主演男優賞を含め各国賞に輝きました。
この映画の題名『そこにブラッド=血があるはずだ』という"ブラッド"には、血族=肉親、産業の血=石油、キリストの血=宗教の意味が語られていると思います。
<目次> |
『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』解説アメリカの石油産業の歴史 |
この映画の主人公、ダニエル・デイ・ルイス演じるダニエル・プレインビューのモデルは、エドワード・ローレンス・ドヒニーという実在の人物だという。
エドワード・ローレンス・ドヒニー(Edward Laurence Doheny,1856年8月10日- 1935年9月8日)
1892年にロサンゼルス市油田を開発しカリフォルニア州の石油王になった。彼の成功は南カリフォルニアに石油掘削ブームを起こし、1902年に彼の財産を売却したときに彼に富をもたらした。
その後、メキシコのタンピコで収益性の高い石油事業を開始し、1901年にアメリカ人として初の井戸を掘削した。メキシコ革命期間中に操業を拡大し、タンピコからメキシコの「ゴールデンベルト」内に大きな新しい油田を開設した。彼の持ち株は、1920年代の世界最大の石油会社の 1つであるパンアメリカン石油&輸送会社として発展した。
1920年代には、ドヒニーはティーポットドームスキャンダルに関与し、アルバート・フォール内務省長官に10万ドルの賄賂を提供したと非難された。ドヒニーは2度の賄賂を払って無罪だったが、フォールはそれを受け入れることで有罪判決を受けた。アプトン・シンクレアの1927年の小説「Oil!」のキャラクターJ.アーノルド・ロス (2007年の映画「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」の原作)は、ドヒニーに基づいている。(英語版wikipediaより)
この人物は石油王というだけあって、ビバリーヒルズにドヒニーロードと名前がつくほどの成功者だった。
ここでアメリカの石油開発の歴史を参考までにまとめさせて頂こう。
日本では江戸時代の末期、日米修好通商条約が締結された1858年、埋蔵石油の採掘を目的にアメリカにセネカ・オイル社が設立。
採掘責任者としてエドウィン・ドレークがペンシルバニア州タイタスビル採掘開始。(右:エドウィン・ドレーク)
地下石油の採掘は固い岩盤に阻まれ技術的困難に直面し、資金は枯渇しセネカ・オイル出資者は撤退。
ドレークは自力で資金を調達し採掘を続け、1859年石油が掘削パイプから湧出、地下石油の採掘に成功し「世界で初めて石油を発掘した男」と呼ばれた。
この成功を見て、数年後アメリカでは空前の石油投資ブームとなり、全米各地で採掘に新規参入し産油量が増加、オイルラッシュ時代に突入。
石油の消費がランプの需要位だった時代に、大幅な供給過多に陥り原油価格は暴落、当初1バレル20米ドルが1861年には10セントにまで下落した。
石油価格の急落に事業家たちは、カルテルによる産油量規制によって価格操作をし、価格を回復させた。
その一方石油事業者の統合の時代が到来し、各社が鎬を削ったが、鉄道会社とカルテルを結び輸送費を削減したジョン・ロックフェラー(右写真)率いるスタンダード・オイル社が勝ち残った。
ロックフェラーは会社をトラスト化し、ピーク時はアメリカの石油の90%を支配した。そのやり方は強引で明らかに非合法な手段も厭わなかった。
T型フォードが世に広まり、ガソリン需要やストーブ燃料として石油消費も増大していく中で、一社独占体制にアメリカ政府が1911年、「反トラスト法」が制定され、スタンダード・オイルは地域ごとの34社へ分割解体される。
1911以降は、スタンダード・オイルを前身とするエクソン、モービル、ソーカル、20世紀のテキサス石油ブームで生まれたガルフ、テキサコ、オランダの植民地の石油を扱うロイヤル・ダッチ・シェル、イギリスの植民地の石油を扱うブリティッシュ・ペトロリアム7社が支配する「セブンシスターズ」の石油メジャーが世界の石油市場を支配していく。
この映画のダニエル・プレンビューがカリフォルニアで石油採掘をしたのが1912年ごろだと描かれている。
上でのべた「セブン・シスターズ」体制の初期であり、この頃には個人の力では石油を市場に売ることは出来ないような状況だった。
これは、個人の努力の成果が、大資本により奪われる産業構造がすでに出来上がっていたことを意味しただろう。
それを示すように、この映画には主人公ダニエルがスタンダード・オイルと交渉し蹴る場面が出てくる。
ここには息子の事で怒ったことは勿論、そんな大資本に対する怒りもあったのではないかと思える。
スタンダード・オイルとの交渉
テルフォード:息子さんはどう?/ダニエル:お尋ね感謝する。/テルフォード:我々に何か出来るかね?/ダニエル:お尋ね感謝するが、それはもういい。/テルフォード:君達の計画は?/ダニエル:私の油田を買収したいんだな?/テルフォード:そう。(以下:コヨーテヒル、リトルヒル、の契約条件をつめる)/テルフォード:今ここに一分座っているだけで、我々は君を百万長者にした。/ダニエル:売った後俺は何をすればいい?/テルフォード:私に聞いているのか?/ダニエル:売った後俺は何をすればいい?/テルフォード:息子さんの世話をするとか。/ダニエル:・・・・/テルフォード:私には分からんよ。
ダニエル:もし、スタンダードが100万ドルで買いたいっていったら、なぜだ?それはなぜだ?/テルフォード:なぜか分かるだろう。/ダニエル:我々や他の人間が苦労した仕事を買うばかりじゃなく、お前達で地面を引っかいて、探すがいい。/カーター:私はひっかいたさ/テルフォード:何が望みだ?/ダニエル:お前達は輸送費を変更するだろう?/テルフォード:我々は輸送費に口出しせんよ、それは鉄道会社の仕事だ・・・・・・・/ダニエル:お前達は鉄道会社を持っていないのか?もちろん持ってる。もちろん持ってる。/テルフォード:どうやって石油を外に持ち出すんだ?パイプラインを引いて、ユニオンオイルと取引するか?冒険だね、もし決裂したら、足元にある石油の海をどう持ち出すんだ?我々によこしたまえ。金持ちになれるぞ。息子さんと一緒に暮らせばいい。それは偉大な発見だ・・・・・さあ君を助けさせてくれ。/ダニエル:俺の家族の生活をどうするか、俺に説教か?/テルフォード:埋蔵された油田より、それは今の君にとってより重要だろ。我々に買わせてくれ。/ダニエル:ある夜・・・・・お前の家に入って、寝ているところ、その喉を掻っ切ってやる。/テルフォード:何?何言ってるんだダニエル、気でも狂ったのか?/ダニエル:俺の言っていることが分かったか?/テルフォード:ああ、分かった、何でそんなことを言うんだ?/ダニエル:俺の息子のことを言うな。/テルフォード:何でそんな怒って、俺の喉を切るなんて言うんだ?/カーター:俺の息子のことを言うな。/テルフォード:俺達は何も言ってない。怒らせたんだったら謝るさ。/ダニエル:俺がどうするか見てろ。
そもそも、山師という一か八かのるかそるかの、命がけの仕事を、ただ机の上での談合で上前をはねるような「石油メジャー」が支配する産業構造に怒りを感じるのは当然だと思う。
そんな個人を抑圧する大資本が、個人的事情に口を出す事に怒りを感じるのも無理は無いだろう。
そもそもアメリカ移民の人々の基本的な動機は、本国で困窮し生きるために国を出なければなら無い人々だった。そういう意味では、この映画を見れば分かるが、全てを犠牲にして勝ち取った石油なのだ。
そんな苦難の果てに、個々が努力して生きる場を獲得する戦いが、アメリカでも日々繰り広げられた。
実を言えばアメリカの石油とは、そんな男達の血であったかも知れない。
その血を絞り取る事で、アメリカの産業界は世界を制覇したのだ。
アメリカの歴史において、石油資源をいち早く産業化し、市場を支配し得たことの重要な意味は計り知れない。
しかし、その大資本化していく中で、どれほど個人が犠牲になったかが、この映画の主人公に表されていると思う。
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『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』解説アメリカとキリスト教 |
この映画の中で「キリストの血」という言葉が出てくる。
アメリカ文化とはキリスト教と不可分であり、大統領選挙ですらその信徒に左右されるほどだ。
なぜならアメリカの最初の植民者達の中には、イギリス国内でプロテスタント迫害から逃げてきた人や、本国の宗教的堕落が許せず、正しいキリストの王国を作るという理想で移住した人たちがいた。
禁酒法がキリスト教の影響で施法されたように、アメリカでは現在でも、避妊を認めないとか、進化論を教えないという地域があり、事実米ピュー・リサーチ・センターが2015年11月の調査で、まだ6割しか進化論を信じていないほど、宗教的信仰心が強い。
この映画のもう一人の主役というべき、イーライ・サンデーは「第三の啓示教会」の伝道師ということになっている。
これは架空の教団だが、イーライには現実のモデルがいて、福音派伝道師ビリー・サンデーだという説もある。
ビリー・サンデー(William Ashley "Billy" Sunday 1862年11月19日〜1935年11月6日)
1880年代の大リーグのナショナルリーグで人気の外野手になった後、アメリカで20世紀初頭の20年間で最も有名で有力な伝道者。
アイオワ州の貧困状態で生まれたサンデー、アイオワ州兵士孤児院で数年間過ごした後、地元の野球チームや野球チームでプレーした。彼のスピードと俊敏性は、8年間メジャーリーグで野球をする機会を提供した。彼はアベレージ・ヒッターであり、巧走塁で知られている良い野手だった。
1880年代に福音派キリスト教に改宗し、サンデーはキリスト教の牧師活動のために野球を引退した。彼は徐々に中西部の説教壇伝道者としての能力を開花させ、20世紀初頭には国内で最も有名な伝道者となり、口頭での説教と熱狂的な伝道会を行った。アメリカの大都市で広範に知られた伝道活動を開催し、ラジオの登場前にはあらゆる伝道師の中で一番の人を集めた。彼はまた多額の金を稼ぎ、豊かで影響力のある上流階級の一員になった。サンデーは禁酒法の強い支持者だった。
彼の聴衆は、1920年代には、サンデーが齢を重ね、宗教的な復興活動人気が低下し、娯楽の代替源が登場したことで減少した。しかし、サンデーは説教を続け、彼の死まで、忠実なキリスト教の擁護者となった。(英語版wikipediaより)
当時、ラジオやTVの無い時代、宗教の伝道会、説教とは、娯楽としても人々から人気だった。
この映画でも、イーライが説教するシーンを見ると、信者達の宗教的なカタルシスを眼にすることができる。
イーライの説教
【意訳】イーライ:啓示があった。そう、昨夜、神を見たのだ。神の息吹が我が体内に入るのを感じた。そしてそれは深く私の腹に入り駆け巡った。そして、私の腹が囁くように語った、決して叫びではなかった。”その女性に、その手で触れよ。そして彼女を癒せ”と。そう、親愛なるハンター夫人、関節炎で苦しんでますね。/ハンター夫人:ええそうよイーライ。/イーライ:そう。悪魔があなたの両手に宿っている、それを私は引きずり出そう。さあ熱にうなされたような方法では無く、私の中の精霊が新しい方法を知らせてくれた。
それは優しく囁くのだ。ここから出て行け邪悪な霊よ、ここから出て行くのだ邪悪な霊よ。出て行け。ここから出て行くのだ邪悪な霊よ。出て行け。今すぐこの女性の体から、ここから去れ霊よ二度と戻って来てはいけない。もし戻れば神の宿る靴先で蹴り上げ、お前の歯を砕き、汚濁の彼方に吹き飛ばし、地獄へと叩き返し、我が歯がある限り、お前を咬み続け、もし歯がなくとも、離しはしない。こぶしがある限り殴り続ける。出て行け邪悪な霊よ、出て行け霊よ、出て行け!ハレルヤ!/信徒:ハレルヤ!神をたたえよ、栄光の日よ!神をたたえよ!アーメン、感謝しますイエスよ。感謝します神よ!
このイーライは治癒師で精霊の宿主だと語られている。
この「第三の啓示教会」の教義の特徴に、罪を告白することによって洗礼を受けるという行為がある。
またその教団名「第三の啓示」とは、モーゼに示された十戒が「第一の啓示」、キリストの口を通じ語られた神の言葉が「第二の啓示」、そして再びイエスが地上に再臨し神の千年王国を現世に打ち立てるのが「第三の啓示」だとされる。
つまりは、現世にキリストが何らかの形で復活することを指す。
これは、先に述べたように、半分以上が進化論を信じていない現状を考えれば、1910年当時のアメリカでは真剣に神の再臨があると信じる人々がたくさんいたのである。
つまりアメリカには「キリストの血」が流れ、その敬虔さと共に狂信的な一面も見え隠れする。
同時にその宗教を悪用する姿もこの映画では描かれているように思える。
『ゼアウイルビーブラッド』解説アメリカ移民の孤独 |
最後にこの映画で語られる血とは、血縁、血族だ。
故郷を遠く離れてアメリカに来た移民者達は、根本的に不安と孤独を感じざるを得なかったはずだ。
それゆえ、イタリア系アメリカ人のマフィアではないが、地縁・血縁に強く依存するように思える。
この映画では、早く親元を離れた主人公の元に、義理の兄弟だというヘンリーという男が現れる。
しかし実際の弟は結核で死んでいて、その素性を詐称していたのだった。
お前は本当に俺の弟か?
ヘンリー:ダニエル、俺は友達だ。君を傷つけようとは思わない。絶対。生き伸びたい
それは生まれ故郷で、困窮が原因だったにしても、宗教的迫害から逃れたにしても、基本的には追い出されたという状況から、更に望郷の念が強くなるものではないだろうか。
その心理的空白を埋めようとして、経済的成功をあくまで追求する成功への渇望と、宗教的な純粋性・狂信性につながって行くだろう。
この下のシーンは、偽の弟を殺した後、本当の弟の書いた日記を読み涙するシーンだ。
ここに、アメリカ社会の根本にポッカリと開いた孤独を感じざるをえない。
『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』解説映 画 賞 受 賞 歴 |
オスカーでの主演男優賞を含め各国賞に輝きました。
第80回アカデミー賞/主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス、撮影賞:ロバート・エルスウィット
第58回ベルリン国際映画祭/監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン
第74回ニューヨーク映画批評家協会賞/男優賞:ダニエル・デイ=ルイス、撮影賞:ロバート・エルスウィット
第65回ゴールデングローブ賞/男優賞(ドラマ):ダニエル・デイ=ルイス
第61回英国アカデミー賞/主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス
第60回全米撮影監督協会賞:ロバート・エルスウィット
第42回全米映画批評家協会賞/作品賞、主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス、監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン、撮影賞:ロバート・エルスウィット
第33回ロサンゼルス映画批評家協会賞/作品賞、男優賞:ダニエル・デイ=ルイス、監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン、美術賞:ジャック・フィスク
第14回全米映画俳優組合賞/主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス
第13回放送映画批評家協会賞/主演男優賞:ダニエル・デイ=ルイス、音楽賞:ジョニー・グリーンウッド
BBC『21世紀最高の映画ベスト100』で、第三位
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今日に記事でやっぱ止めとこうと思いました。
ちょっと重いっすね(^_^;)
ありがとうございます(^^)ポール・ダノ迫力あルンですが、それ以上にダニエル突っ走ります(笑)この映画はアメリカを突き動かすモチベーションを描いている気がします💦
ありがとうございます(^^)そうですね重いです・・・・迫力はあるんですが、チョット弱いのは悪役が弱いという気がして、星3・5ですm(__)m