原題 THERE WILL BE BLOOD 製作国 アメリカ 製作年 2007/158分 監督・脚本 ポール・トーマス・アンダーソン 原作 アプトン・シンクレア |
評価:★★★☆ 3.5点
題名『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』とは、直訳すれば「そこに血がある(だろう)」という意味かと思います。
しかし、この「血」が実に多くのモノを指しており、その「血」を巡る一人の男の人生を描く映画だと言えます。
この映画にはアメリカ社会の本質が、はからずも浮き彫りに成っているように感じました。
『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』予告 |
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以降の文章には 『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』ネタバレを含みますので、ご注意下さい。 |
(あらすじから)
ダニエルにH.W.がした相談とは、父の元を離れ、独立しメキシコに行くという話だった。
ダニエルは商売敵になるのかと激高した。
H.W.はそうじゃないと反論するが、ダニエルは裏切りだと責め、我々の絆を断ち切るのかと問い、お前は俺の中の息子の像を裏切ったと語った。
そして、ついにH.W.の秘密を暴露する。
H.W.の秘密【意訳】ダニエル:予測すべきだったこの日が来ることを。この数年間お前は俺への憎しみを一片一片積み上げた。お前が何者かわからん。なぜならお前にとって俺は無意味だった・・・お前は他人だ。お前の怒り、敵意、私に対する邪心に満ちた態度。
お前はカゴごと砂漠の真ん中に捨てられた孤児だった・・・・・・・お前を拾った唯一の理由は、子供がいれば土地の交渉相手が信用するからだ。聞こえたか。これで分かったろう。俺を見ろ。最低のクズめ。
俺の血など引いていない。カゴに入ったクズめ。
/H.W.:あなたの血を引いていなくて神に感謝する。/ダニエル:お前は俺の息子ではない。商売敵だ。カゴに入ったクズめ。カゴに入ったクズだ。カゴに入ったクズだ。
そんなダニエルの脳裏に、H.W.と共に採掘していた日々が蘇る・・・・・・・
そして彼は、執事一人に世話をさせ酒びたりの日々を暮らす。

そんなダニエルの下を「第三の啓示教会」伝道師イーライが訪問する。
親戚で旧友だ、力になりたい。信徒の土地があってその下には石油が埋まっているだろうから、買収の仲立ちをすると持ちかける。
ダニエルは一緒に仕事をしてもいいが、条件があるという。
それは、イーライが偽預言者で神は迷信に過ぎないと告白しろというものだった。
イーライはそれに応じた。
【意訳】イーライ:私は偽預言者で神は迷信に過ぎない/ダニエル:大きな声で/イーライ:私は偽預言者で神は迷信に過ぎない/ダニエル:私は偽預言者で神は迷信に過ぎない/ダニエル:もう一度/イーライ:私は偽預言者で神は迷信に過ぎない)
そしてその告白を強いてから、ダニエルは言った。
「もうその土地は掘った。もう石油は無いと」
イーライは大恐慌で株が暴落し、破産の危機にある助けてくれと泣きついた。
【意訳】イーライ:助けが必要だ。私は罪びとだ。思いがけず悪魔に取り込まれた。愚かな罪びとだ。/ダニエル:神は時として我々を試すのだ。違うか?/イーライ:そう、そうする。そうする!/ダニエル:そうだ、そうううううううううするううううう
更に、ダニエルは追い込む、双子の兄ポールには1万ドルを支払い、彼は油田を持って成功していると。
神はお前を選ばず、ポールを選んだのだと。
お前の負けだと。
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『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』ラストシーン |
【意訳】ダニエル:お前がミルクシェークを持っているとする。それは俺が飲む。ストローでこんな風に。見ろ。俺のストローは遠おおおおおおおおくまで達し、お前のミルクシェークを飲む。俺はお前のミルクシェークを飲む。ずずずずずずずず!全部飲み干してやる!/イーライ:いじめないでくれ/お前の歌や踊りや迷信が何の役に立つ!俺こそ”第三の啓示”だ。俺こそ神に選ばれたのだ!お前より頭がいいし、お前より年長だ。/イーライ:私は旧い友じゃないか!/ダニエル:私は偽預言者じゃない!腰抜けめ!俺こそ”第三の啓示”だ!俺こそ”第三の啓示”だ!お前に告げる、食い尽くしてやる!食い尽くしてやる!/イーライ:止めろ、我々は兄弟だ!ダニエル、どうか、許してください。/ダニエル:逃げるな!/執事:ダニエル様?/ダニエル:もう終わったよ。
『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』結末感想 |
映画冒頭のシークエンスで、採掘仲間の一人が死に、H.W.はその男の子供だったという描写がある。
その後その赤ん坊を育てたのはダニエルで、そこにはやはり溢れるばかりの情愛が有ったと感じる。

結局、このダニエルは弟に対する情を含め、深い愛情を持った男だと感じる。

しかし愛情とは「自らの欠落を埋めるための欲望」を指すのだとしたら、このダニエルは欲深い男なのだろう。
それゆえ、息子が自分を去る事を許せないし、地下の石油は全て飲み干したいのだろう。
この過剰な欲望は、やはり根源的な欠落を抱えているがゆえの不幸だと感じるし、それはアメリカ社会に通低していると感じられてならない。
その欠落は、本来宗教で埋めるべきものだったろう。
しかし、宗教もすでに埋めきれないほど、近代における人々の欠落は深刻だ。
それはイーライのように、信仰に満たされているべき存在が、金銭に走らなければならないほどに。

現代における「第三の啓示=人々の救済」は、経済的な財力なくしてはありえないという意味だったろう。
しかし、この近代における経済の本質が、人々を故郷から引き離し工場や資源開発の場につなぎとめて発展してきたことを考えれば、金銭と引き換えに、心に欠落を溜め込む必然が有りはしないか。
その端的な例が、アメリカという新天地だったろう。
そしてこの映画の最後で語られたのは、現代における救世主は心の欠落を埋めえず、それゆえ決して幸福に成りえないことを表しているだろう。
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『ゼア・ウイル・ビー・ブラッド』評価 |
この映画は、そういう意味で近代を生きる人々の「欠落」の痛みを、ダニエル・デイ・ルイスの演技力で強く訴えた作品だと感じるが・・・・・・・・・・・
個人的な印象では、ダニエル・デイ・ルイスが突出して強すぎたと思えてならない。
対立するポール・ダノと比べ、ダニエル・デイ・ルイスが際立ったがゆえに、オスカー獲得につながったのだろうが、ドラマとしては対立構造が弱くなった分、表現として弱くなったと感じた。
それゆえこの評価とした。
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ありがとうございます(^^)ドロドロしてます(^^;しかし、ダニエルデイルイスのハッチャケた演技は迫力満点ですm(__)m。
めっちゃ観終わった後気分が沈みそう・・
まあ、レビュアンさんが紹介するくらいだからいい映画なのでしょうが・・
ありがとうございます(^^)確かに重いですね〜宗教の話も絡んでなかなか全て理解できたとは言えないのですが…外国での評価が高いのでそこら辺を探求しようという事でした。