評価:★★★★★ 5.0点
実は黒澤監督の時代劇とは、過去のチャンバラ映画とは隔絶した表現がされていました。
そのルーツはハリウッドの西部劇にあるのではないかと個人的には思えます。
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椿三十郎・感想・解説
========================================================そんな黒澤監督の時代劇とハリウッド西部劇の関係を確認するのに、この作品『椿三十郎』は見過ごせない一本だと思います・・・
まずは、黒澤以前のチャンバラを幾つかサンプルとしてご覧頂きましょう。
サイレント映画の大傑作、1925年(大正15年)『雄呂血』坂東妻三郎主演・二川 文太郎監督
坂東妻三郎の殺陣のスゴさはどうでしょう。
大変な迫力で、その身体能力の高さにも驚きますが、注目して頂きたいのはその殺陣の動きです。
まるで舞を踊るような動きではないでしょうか?
実のところ、戦前の殺陣は基本的には踊りの延長のようなモノだと感じます・・・
元祖・丹下作善、大河内傳次郎の殺陣映像集
そもそも、チャンバラ活劇の初期の俳優さんたちは歌舞伎界の二流三流の方々が演じられていて、その後、映画界のスターが演じるようになってからも、殺陣のかたちは様式的、舞踏的であったようです。
昭和の大スター、大河内傳次郎の殺陣映像集
そして、戦争の時代を経て敗戦後GHQの占領下では、1945年から1951年(昭和26年)9月の講和条約成立まで、日本映画界はチャンバラの映画製作を禁じられ、また時代劇の上映自体が禁止されたのです。
そんな娯楽に飢えた時代に、日本で上映されたのがハリウッド製の映画でした。
その時代、ハリウッド黄金期のミュージカルや西部劇映画が大量に流入し、日本人を(いや世界中を)興奮させたのでした。
1936年制作の西部劇『平原児』セシル・B・デルミ監督、クラーク・ゲーブル主演
1939年の西部劇『駅馬車』ジョン・フォード監督、主演はジョン・ウェイン
1952年の西部劇『真昼の決闘』フレッド・ジンネマン監督、ゲイリー・クーパー主演
1953年『シェーン』ジョージ・スティーブンス監督、アラン・ラッド主演
こんな西部劇の決闘シーンで興奮していた日本人も、1951年に自由に時代劇を作れるようになると、各社が一斉に製作に乗り出します。
戦前からのスター、嵐寛寿郎は再び『鞍馬天狗』に出演し、片岡千恵蔵は『いれずみ判官』(遠山の金さん)、市川右太衛門も『旗本退屈男』などの時代劇に復帰し、時代劇スターとして映画界に君臨しました。
しかし、それらのチャンバラ活劇は戦前からの流れを受けて、やはり舞踊的な殺陣でした。
1955年(昭和30年)新諸国物語「紅孔雀」中村錦之助・東千代之介・大友柳太朗出演。
対して、黒澤明監督の殺陣は、その重厚さといい、動きの重心といい、本当に人を斬る動きを再現したような迫力です。
それは、リアリズム表現を追求したというという面もあるでしょうが、西部劇に負けない迫力を時代劇でどう表現するかという所で、苦闘の末『用心棒』の殺陣が生まれたのでしょう・・・・・・・・・
ここでは、銃の射撃音に対抗するかのように、日本で始めて刀の斬殺音が取り入れられています・・・・
黒澤明監督『用心棒』(1961年)の殺陣
そして、そんな西部劇の緊張感と銃の重々しい響きに対抗しうる殺陣が生まれえたのは、黒澤監督の演出力と同じぐらい、三船敏郎という卓越した役者が同時代に存在したということが大きいと思えます。
仲代達矢も自伝で言及していますが、三船の剣は本当に早く、しかも実際に斬られ役に刀身を当てて、迫力を出したといいます。
そんな稀代の時代劇スターと天才黒澤明監督が邂逅しえたのは、日本映画にとって、いやその後の映画界への影響を考えれば、世界にとって大きな意味を持っていたと思います。
黒澤監督が西部劇を見て、革新的な時代劇とチャンバラの殺陣を生み出したように、黒澤の時代劇を見たイタリア人が影響を受けマカロニ・ウエスタンを生み、さらにマカロニ・ウェスタン(英語圏ではスパゲッティー・ウェスタンですが・・・)がハリウッドの西部劇に影響を与えたというのは、お里帰りを果たしたような感慨を覚えます。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』より ダース・ベイダー vs オビ・ワン
さらにはチャンバラ・アクションが、「スターウォーズ」はもちろん、アクション映画に必ずといっていいほど登場し、迫力の殺陣が繰り広げられています。
さらにそんなハリウッド・チャンバラを見て育った日本人が、新しいチャンバラを作っているのではないでしょうか・・・・・・・・
るろうに剣心 予告
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しかしこれは、西部劇のオリジナルを更なるこだわりを持って、迫力あるリアリティーを感じさせる黒澤と三船の殺陣だったからこそ、世界に影響を与えられたのだと思うのです。
やはり、戦前の様式的な殺陣であれば、とてもここまでインパクトを与えられなかったと信じています。
この映画の最後は迫力の決闘シーンが待っています。ぜひご自分の眼で、その衝撃を体感して下さい・・・・・
当ブログ関連レビュー:
『待ち伏せ』
三船敏郎の凄まじい殺陣が見れる一本。
日本映画黄金期の残照
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日本の俳優と言えば三船敏郎と、海外でも認知されていたようで、日本人は三船のように怒った英語で、喋ると思われていたようです(^^;三船美佳さん、年の離れた旦那というのも父親の影が感じられますね〜(笑)日本の監督、小津にも勝るとも劣らない人を、近々紹介しますm(__)m
新しい試みはどうでしょうね?あらすじでの検索、感想、解説での検索に特化した感じもあります。記事も長いし良いと思うのですが、期待したいです。
ありがとうございます(^^)時代劇は最早ファンタジーとしてしか描けないでしょうね・・・・・ちゃんと真剣を振えるのは真田広之ぐらいではないでしょうか(^^;
新しい試みで心配なのは、それまで「ネタバレあらすじ」というような合わせ言葉で、検索が入っていたのもあり、特化した分の減少をリンクでカバーできるかどうか・・・・結果が出るのはまだ先でしょうね(^^;