原題 La La Land 製作国 アメリカ合衆国 製作年 2016年 上映時間 128分 監督 デミアン・チャゼル 脚本 デミアン・チャゼル |
評価:★★★★ 4.0点
LA・LA・LANDのLAはハミングのラ−ラーと同時に、「LA=ロサンゼルス=ハリウッド」という意味かと思い、そう考えれば「ハリウッド讃歌」の映画かとも思います。
正直言ってこの映画は、ハリウッド・ミュージカルとしての力は弱いといわざるを得ません・・・・・・・
しかしここには、ハリウッドやジャズという、アメリカ文化を彩ってきたコンテンツに対するノスタルジーだけではなく、それらに対して新たな命を吹き込もう、新たな火を灯そうという高い志が見えます。
それゆえ、ダンスや歌に不満を持ったにしても、私はこの映画を高く評価したいと思います。

<目次> |

映画『ラ・ラ・ランド』簡潔あらすじ |
アメリカ・ロサンゼルス女優を目指すミア(エマ・ストーン)とジャズピアニストを目指すセバスチャン(ライアン・ゴズリング)は、その町で何度もすれ違い、ある日のパーティーで言葉を交わした二人は、徐々に意気投合しお互いの夢を語り合い、ミアはボーイフレンドがいたが、ついにセバスチャンと同棲を始める。結婚を考えセバスチャンは、音楽感の違うバンドに加入し成功したものの、不在勝ちになり、2人の生活はすれ違う。そんな時、セバスチャンに長期ツアーが決まり、ミアに共に来て欲しいと頼む。しかし、ミアは女優の夢のため出れず、口論となり二人の溝が深った。そしてある日、ミアの夢を懸けた一人芝居の幕が上がった。しかし、その舞台に客はまばらで、落胆したミアはセバスチャンを残し、実家へと帰ってしまった。果たして二人の運命とその夢の行方は―


映画『ラ・ラ・ランド』予告 |
映画『ラ・ラ・ランド』出演者 |
セバスチャン(セブ)・ワイルダー (ライアン・ゴズリング)/ミア・ドーラン(エマ・ストーン)/キース(ジョン・レジェンド)/ローラ(ローズマリー・デウィット)/トレイシー (キャリー・ヘルナンデス)/アレクシス(ジェシカ・ローテ)/ケイトリン(ソノヤ・ミズノ)/ビル( J・K・シモンズ)/グレッグ(フィン・ウィットロック)/デヴィッド(トム・エヴェレット・スコット)/ミアの母親(ミーガン・フェイ)/ハリー(デイモン・ガプトン)/カルロ(ジェイソン・フュークス)/ジョシュ(ジョシュ・ペンス)/ヴァレット(トレヴァー・リサウアー)/アリステア(マイルズ・アンダーソン)/デヴィッド(トム・エヴェレット・スコット)

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映画『ラ・ラ・ランド』解説ハリウッド・ミュージカルの歴史 |
1930年代〜1940年代は「ハリウッド黄金期」と呼ばれ、この時期に大掛かりなミュージカル映画が作られました。
特にフレッド・アステアとジンジャ・ロジャースのコンビは、トーキー映画(音声入り)の始まった頃、世界中の人々をその華麗なダンスで魅了し、ハリウッド・ミュージカルを映画ジャンルとして確立させました。
関連レビュー:ハリウッドミュージカルの誕生! 『トップ・ハット』 フレッド・アステアとジンジャ・ロジャースの古典 ミュージカル映画と |
続いてジーン・ケリーがハリウッド・ミュージカルをアメリカ的スタイルで表現し、第二次世界大戦後の疲弊した世界に明るさと元気を届け、人気を博しました。
関連レビュー:ハリウッドミュージカルの古典紹介! 『雨に歌えば』 サイレントからトーキーへの過渡期を描くミュージカルの傑作 ミュージカルの大スター「ジーン・ケリー」の代表作 |

更に言えば、ハリウッドミュージカルの持つ豪華な夢の世界とは、民俗学で言うところの「ハレ=祭礼」であり、それは戦後の混乱し飢えていた世界の「日常=ケ」が苦しければ苦しいほど、現実逃避としての力を発揮し得たと思うのです・・・・・・・・・・
そんな華やかで陽気なフェスティバルのようなハリウッド・ミュージカルから見れば、正直言って『サウンド・オブ・ミュージック』、『メリー・ポピンズ』『マイ・フェア・レディ』などは、ハリウッド・ミュージカルとは呼びがたい気がします。
個人的に最後のハリウッド・ミュージカルは、『ウエスト・サイド物語』(1961年)だといえるかもしれませんが、これもどちらかといえばブロードウェイの舞台色の味わいが勝った作品だと感じます。
いずれにしても、ハリウッド映画のミュージカルは、1960年代以降にオマージュのように黄金期ミュージカルにチャレンジした作品は在りましたが、むしろ「オペラ座の怪人」などのように舞台ミュージカルの映画版が主流になります。
そんな舞台を映画に置き換えた作品に関しては、いかんせん映画的でない分、ハリウッドミュージカルとは別物・別ジャンルと言わざるを得ません。
更にハッキリ言えば、この『ラ・ラ・ランド』はかつてのハリウッド黄金期のミュージカルとは別物です。
このミュージカルは「現実的なドラマ」と「ハリウッド・ミュージカル」の混合物だと言えますし、歌とダンスのために映画の全てが奉仕してない点で、黄金期作品と違う様式で出来ていると感じます。

例えばかつてのミュージカルのように、足元まで全身を見せ、延々とノーカットで華麗に踊り続けるダンス技術は、劣っていると言わざるを得ません。むしろどうやって足元を隠すかに気を配ってるとすら思えます。
実際、この映画の構図やカット割りは、踊りと歌を真正面から映すと言う、ミュージカルの伝統から逸脱しているのです。
最も、少年時代からボードビル・ショーのダンスで生業を立てて来た、かつてのハリウッド・ミュージカル・スターと較べるのが酷というものです。
<ハリウッド・ミュージカルの華ジンジャーとフレッド>

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映画『ラ・ラ・ランド』考察監督デミアン・チャゼルとミュージカル |
つまりハリウッド・ミュージカルが作られなくなって、30年以上も経って生まれてきたのです。

それが意味するのは、彼は生れ落ちてから後に勉強し知識を蓄えていったということになります。
それは、作品中で主要なテーマとなっている「ジャズ」に関しても同じ事です。個人的にはジャズは「帝王マイルス・デービス」が世を去った1991年以後、停滞したジャンルと感じています。
つまりチャゼル監督が5〜6歳の頃には、すでにメイン・ストリームとは言えないジャンルでした。
しかし、前作『セッション』で、ジャズに新たな命を吹き込もうと挑戦したこの監督は、今作では『ハリウッド・ミュージカル』復活させようと挑戦したと思えるのです。
当ブログ関連レビュー:
『セッション』
ジャズを巡る厳しい師弟対決
ジャズの復権を目指したデミアン・チャゼル監督作品
そしてまた、このタイミングとは、ミュージカルを実際に作ってきたスタッフがいなくなり、その観客も高齢になってきているがゆえに、ある種の自由を持ちえたとも思えるのです。
更に言えば、ジャズにしてもハリウッドミュージカルにしても、最も輝き日々新しいものが生まれていた黄金期の雰囲気をリアルタイムで感じていれば、決して挑戦できなかったように思えてなりません。
なぜなら、一番活力があり生きている時のそのジャンルの力を知っていれば、自分の作った作品の力が無いことを認めざる得なくなると思うのです。
しかし、30年も経てばそんな比較も出来なくなるという点でも、良いタイミングと言えるのではないでしょうか。
更に言えば、この映画のミュージカルはチャゼル監督が、アカデミー賞授賞式で賛辞を述べているように、フランス映画界の巨匠ジャック・デミ監督の『シェルブールの雨傘』と、特にそのラストが似た物語となっています。
そして、この『シェルブールの雨傘』は、ハリウッド製ミュージカルにフランス的変容が加わり、新たなミュージカルの地平を切り開いた作品でした。
そして、この『ラ・ラ・ランド』も、またハリウッドミュージカルの栄光を追慕するだけではなく、ミュージカル映画の可能性を追求した一本だと感じました。

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映画『ラ・ラ・ランド』感想この映画はラブ・ストーリーではない |
しかし、それでも、この映画を私は愛します。

それはこの映画が語るのが、過去のハリウッド・ミュージカルを復活させようというノスタルジックな夢ではなく、ハリウッド・ミュージカルの栄光をレスペクトしつつも、この映画から新たなハリウッド・ミュージカルの第一歩を始めるという宣言だと感じたからです。

それは、セバスチャンのジャズ・クラブの店名チャーリー・"バード"・パーカーに因んだ「チキン・オン・スティック」としたいと言うのに、ミアが反対し「セブ(セバスチャン)の店」が良いと勧めるシーンに明らかです。
つまり過去に捕らわれるセバスチャンに対し、ミアは今受け入れられる形にすべきだと主張するのです。
また、女優志望のミアに、セバスチャンはたとえ二人が離ればなれになっても、夢を追いかけるべきだと諭します。

つまりは、美しい過去よりも、可能性のある未来を生きろというメッセージだと感じます。
結局、この映画はミュージカルにしてもジャズにしても、かつての栄光を懐かしむノスタルジーに生きても、消えていくしかないと語っているのだと思うのです。
それゆえ、今日この日の現実の中で、もう1度、最初から作り上げていき、このジャンルのポテンシャルをかつての黄金期にまで高めるのだという、監督デミアン・チャゼルの高い志を表現した映画だと信じます。
それゆえ、ミュージカルとして不満があるにしても、私はこの映画を愛し続けますし、監督デミアン・チャゼルの高い志に敬意を表し、今後の作品も追いかけ続けるでしょう・・・・・・・
また、ラストでセバスチャンとミアとの、恋愛を成就させた別の人生、ノスタルジックな美しい人生が描かれます。
しかしこの映画は、そのノスタルジーに逃げる事をせず、現実を生きることに両者が納得しているのです・・・・・・・・・
なぜなら、彼ら二人が結婚するとすれば、必ずどちらかの夢が満たされないという現実を、彼らは悟っているからに違いありません。
このラストは、二度と戻らない「美しき過去=過去の恋=ノスタルジー」を取り返そうとするものではなく、辛くとも前を向いて、新たな命を自らの夢に吹き込もうとする覚悟が描かれていると思います。
それはミュージカルやジャズに新たな活力を与えようとする、この映画の試みを象徴するラストだと信じます・・・・
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ありがとうございます(^^)見ちゃいましたm(__)mエマ・ストーン良かったです。監督賞と女優賞は取りましたね。作品賞は前代未聞の事態に(T_T)
ありがとうございます!これは見たかったんです(^^)アカデミー賞・女優賞・監督賞取ったのがせめてもの・・・・しかし、公開中の記事はどこまで書いていいのか、気を使いますm(__)m