評価:★★★★ 4.0点
この映画は園子温監督にとって、のちのち振り返った時にある種の集大成の作品として記憶される事になるのではないか。
それほど、この作品は、これ以前とこれ以降の園子温監督作品の主要な作品要素が、マグマのようなエネルギーを持って、4時間の長さに渡って画面から溢れ出ている。
しかし、この映画は一面エンターテーメントとしてのサービスの良さもあり、それも、これ以降の園子温監督の作品がエンターテーメントの色を濃くして行くのを思えば、やはり園子温監督の作品の全ての要素を持っているように思える。
園子温監督のエンターテーメント性は、暴力・グロと肉欲・エロの過激な刺激性で表現されることが多いが、この映画は真島ひかりが体を張って過剰に露骨にむき出している。
<愛のむきだし・あらすじ>
(Chapter1 ユウ)
角田ユウ(西島隆弘)は幼いころ母を亡くし、父・テツ(渡部篤郎)と2人暮らしとなった。テツは一念発起し神父となった。そんな父を尊敬するユウの夢は、幼き日に母と話した理想の女性“マリア”に出会うことだった。そんなある日、角田一家の前に妖艶な女性カオリ(渡辺真起子)が現れ、テツを誘惑する。テツも神父でありながら、教会の外に家を借りてカオリと同棲を始めた。カオリは結婚を望んだが、神父の結婚は戒律に背く行為だった。ついに、結婚してくれないテツに愛想を尽かし、カオリは去って行き、カオリを失ったテツは人が変わったようにユウに厳しくなった。テツは、高校生となったユウに毎日“懺悔”がないのかと求め、父の望みに叶うよう、罪を無理に作ってまでユウは毎日懺悔し続けた。
そんな懺悔の種も尽きようかという時、高校の仲間タカヒロ、先輩、ユウジの3人の悪友ができ、ユウの罪を作るため盗撮を教える教室を紹介した。
その甲斐あって盗撮は、父に厳しく叱責された。久々に触れる父の真剣な怒りを受け、ユウはさらに盗撮に没頭し懺悔し続ける。その盗撮を見る3人の悪友も、盗撮の技を求めてユウに弟子入りするのだった。
(Capter2 コイケ)
そんな盗撮を続けるユウとテツの教会の前であったのが、コイケ(安藤サクラ)という10代の少女とその部下の少女2人だった。コイケは、盗撮を自らの罪、原罪だというユウの言葉に興味を持つ。
コイケは新興宗教ゼロ教会の信者で、父テツの教会の信者を狙い、ユウ一家をゼロ教会に入信せようと計画し、周辺を探っていたのだ。熱心なクリスチャンの父(板尾創路)を持つコイケは、幼少期より父から家庭内暴力を受け、神に謝れと責められながら成長して来た。そんな父が脳梗塞で倒れた時、父の陰茎を切除し復讐した。コイケは少年院に収監され、院を出た後は男子生徒や同級生と血みどろの喧嘩を繰り広げる。そんな時、新興宗教ゼロ教会を知り、以後コイケは教団の信徒拡大に尽力し、教団内での地位を高めてきた。
(Chapter3 ヨーコ)
ユウはある日、3人の盗撮仲間との写真対決に負け「女装して女にキスする」罰ゲームを課され街に出る。そして、街でチンピラ相手に一歩も引かないヨーコ(満島ひかり)と出会う。
ユウはヨーコを見た瞬間、探し続けていた“マリア”だと確信する。ヨーコも、チンピラ相手に共に闘ってくれた、謎の女・サソリを女だと信じ、女装したユウに恋をする。ヨーコも父親に幼少期から暴力を振るわれ、高校生の時には父から強姦まがいの行為をされた。
それゆえ、男性不信に陥り、男に敵対心と嫌悪感を持ち、今は父親の後妻に一時なったカオリを気に入り、カオリと二人で暮らしていた。
そんなカオリは、ユウの父テツが忘れられず、熱心なアプローチの甲斐ありテツと結婚することになる。そして、ヨーコと"サソリ"としてのユウが出会って数日後、家族の顔合わせの席で、男のユウとヨーコは出会った。ヨーコはサソリに恋していたが、兄ユウを毛嫌いする。男としては嫌われるユウは、しかし「マリア・ヨーコ」を前に、生まれて初めて勃起を知るのだった。
(Chapter4 サソリ)
ヨーコと共に高校に通うユウは喜び日々ヨーコに擦り寄る。しかしヨーコはそんなユウを徹底的に嫌う。ユウは一計を案じサソリを装って「兄と良好な関係を築け」と言い、ヨーコも表面的にはは友好的になる。そんな、ユウ一家を監視し続けていたコイケは、頃合とみてユウの高校に転校し、ヨーコに「自分がサソリだ」と偽り近づく。ヨーコは信じコイケとレズ関係となる。更にコイケはユウ一家に入り込みテツやカオリもコイケに洗脳されていく。コイケはユウを追い込むため、クラスに盗撮をバラし、ユウは高校退学になり、ヨーコにも変態と嫌われ、父・テツから家を追い出される。
悪友のタカヒロ、ユウジち先輩の盗撮3人トリオは、ユウを助け、コイケがゼロ教会の幹部で行方不明のユウ家族は皆ゼロ教会の信者になっているのを突き止める。そんなユウの前に、コイケが姿を表し、ヨーコに会いたいならユウにAV会社の就職をしろと強要し、ユウらは盗撮AVに出る。ユウはたちまちAV界の変態王子というカリスマとなり、ユウの前には崇拝する者の懺悔の列ができる。そんな一人に爆弾を作ったという懺悔者もいた。ヨーコを取り戻そうとするユウの元に、町でチラシ配りをしているヨーコを発見したとの連絡が入り、ユウはヨーコを拉致し、海辺の廃棄されたバスに監禁し、洗脳を解こうと働きかける。
逆に教団に捕らわれ洗脳教育を受ける。ユウは教会に忠誠を誓い、コイケが誘惑しても、それユウが乗ることはなかった。実は、ユウは教団の信頼を勝ち取り、その隙にヨーコを取り戻そうと計画していたのだった。
そしてある日、ユウは爆弾魔に爆弾を準備させ、日本刀を持ち、ヨーコの暮らす教団本部にサソリの姿で乗り込むのだった………
(英語題 LOVE EXPOSURE/日本/製作年2008/上映時間237分/監督・脚本・原案・園子温/アクション監督・カラサワイサ)本田悠・ユウ(西島隆弘)/尾沢洋子・ヨーコ(満島ひかり)/コイケ(安藤サクラ)/カオリ(渡辺真起子)/本田テツ(渡部篤郎)/タカヒロ(尾上寛之)/ユウジ(清水優)/先輩(永岡佑)/クミ(広澤草)/ケイコ(玄覺悠子)/ユウの母(中村麻美)/コイケの父(板尾創路)/ヨーコの父(堀部圭亮)/BUKKAKE社・社長(岩松了)/ロイドマスター(大口広司)/親友の神父(大久保鷹)/司教(岡田正)/霊感絵画の客(倉本美津留)/暴走族リーダー(ジェイ・ウエスト)/暴走族幹部(綾野剛)/クラブ店員(深水元基)/救済会の神父( 吹越満)/ミヤニシ(古屋兎丸)/ヨーコの父(堀部圭亮)/0教会先生(宮台真司)<愛のむきだし・出演者>
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愛のむきだし感想
========================================================この映画に出てくる、ユウ、ヨーコ、コイケの3人は、全て父親が不完全なせいで機能不全に陥っている。

その父親の権力・権威が失われ壊れ、修復しようがないほど歪んでいることが、現代日本の社会を不安定にしているのだと、この映画を見て感じる。
この父権の喪失・崩壊・歪みは園子温映画における主要モチーフであり続けている。
当ブログ関連レビュー:『冷たい熱帯魚』
父の虐待による子供の歪みを描く問題作
『紀子の食卓』
父権の希薄化による家族崩壊を描く
その家父長制が崩壊した原因が「男性性=ジェンダー」の希薄化に因っているとき、結果として家の崩壊とは「性=ジェンダー」の倒錯を生むに違いない。

その歪みは子供達の人格形成に影響を与え、それゆえ、ユウは盗撮しながらも男性機能を発揮しえず、ヨーコはレズビアンとなり、ケイコはユウの変態的な男性性の喪失を原罪と見なし愛するのだろう。
そして、そのエロチシズムはジェンダーの揺らぎの大きさにより、より深く激しく表現されざるを得ないのである。
この「ジェンダー」をテーマとする園子温映画。
当ブログ関連レビュー:
『リアル鬼ごっこ』
ジェンダーにより傷つく少女達の物語
そして、日本社会における父権の喪失とは社会権威の喪失を意味し、それは社会的な規律、道徳の崩壊に通じる。
それに社会規律の喪失こそが、社会をして暴力を生み、その反動として宗教的権威の強化を促すのだといえる。
つまり園子温による暴力と宗教性とは、父権の弱体化、父性の消失によっているのだと思えてならない。
園子温の暴力性が主要モチーフとなった映画
当ブログ関連レビュー:
『自殺サークル』
集団自殺を描いた問題作
そして、その問題を過激に、熱く、タフに、劇的に、パワフルに、積み重ねた結果がこの映画だったろう。
そしてこの映画は、その父権の異常を乗り越える術が、子供達の純粋な、一直線の「むきだしの愛」にあるのだと高らかに宣言した映画であると信じる。
園子温のまっすぐな愛を描いた映画
当ブログ関連レビュー:
『ヒミズ』
二階堂フミと染谷将太の熱演が感動を呼ぶ

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以降の文章には
愛のむきだしネタバレ
を含みますので、ご注意下さい。========================================================
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幹部を次々に虐殺した後、警察を介入させるため爆発を起こし、ヨーコに会ったユウは愛を告白する。
ヨーコに首を絞められたユウは血の涙を流す。
ユウの愛を得られないコイケは胸を刺して自殺した。
強制捜査の手が入り、教団は解体され、テツとカオリは被害者の会の施設に入り、洗脳からの復帰訓練を受ける。
ヨーコは親戚の家に預けられ、従姉妹の恋の悩みを聞くうち、ユウの自分への愛が本物だと気づくが、その時にはユウは事件の影響により錯乱し、精神病の施設に隔離されていた。
========================================================心を病み精神病棟でサソリとして暮らすユウに面会したヨーコは、愛を告白する。愛のむきだしラストシーン
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しかし応えないサソリを追い詰め、病院で騒動になりついにパトカーで連行される。
しかしヨーコの必死の呼び掛けに、狂気から現実に戻ったユウは、必死に彼女を追いかける。
ユウはヨーコと手を繋ぐ。
この映画は親の生んだ歪みを、子供達が「むきだしの愛」の力で乗り越える、感動巨編です。
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ありがとうございます(^^)男性向きかもしれません。満島ひかり安藤サクラ、熱演です・・・・一番始末が悪いのは父親の資格がない父親が、父親の権威を振りかざす事でしょうねぇ〜それなら、いないほうが幸せかと・・・・
何とも言葉で言い表しにくい映画ですよね〜。
最近の園子温はダメですけど、この当時は凄かったですね。
ありがとうございます(^^)最近の園子温は、本当に迷いがあるように感じますね〜商業路線で行くとすると、たんに暑苦しい映画になってしまうような・・・・・