評価:★★★★ 4.0点
旅行、特に外国旅行に行ったとき、自らが関わっている世界から切り離され、迷子のように不安な気持ちになる事はないでしょうか?
この映画は、そんな「自分を喪失=アイデンティティの喪失」していく旅行者の揺らぎを描いて秀逸だと思いました。
『ロスト・イン・トランスレーション』あらすじ
日本にやって来たハリウッド俳優のボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、サントリーウィスキーのCM撮影に望む。彼は、見知らぬ人びとに囲まれ、異国での不安を持つボブの元に、アメリカの妻から家の調度確認が、何度も入る。そんな東京のホテルのエレベーターで若いアメリカ人女性、シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)と乗り合わせた。彼女は大学を卒業したばかりで、フォトグラファーの夫ジョン(ジョヴァンニ・リビシ)と結婚し、その仕事に同行してきたのだった。彼女は仕事で外出する夫を見送り、一人東京や京都を観光しても、孤独と不安を感じていた。やがて2人は、ホテルのバー・ラウンジで言葉を交わし、親しく話すようになる。ボブはシャーロットの友人のパーティーに同行し、夜の東京で、若者たちと会話し、カラオケでシャーロットとボブは盛り上がる。ボブはCM撮影が終えたが、急遽舞い込んだバラエティ番組出演のため、滞在を延ばすことになった。ボブはその間、シャーロットとランチを共にし、ホテルの部屋で古い映画を観たりしつつ、お互いの不安感や結婚生活について語り、時を過ごす。しかし、ボブの帰国の時が訪れた・・・・・・・
(原題:Lost in Translation/製作国アメリカ/製作年2003/102分/監督・脚本ソフィア・コッポラ/エグゼクティブプロデューサー:フランシス・フォード・コッポラ)2004年アカデミー脚本賞(ソフィア・コッポラ)
『ロスト・イン・トランスレーション』受賞歴
2004年ゴールデングローブ賞・作品賞 (ミュージカル・コメディ部門)
2004年ゴールデングローブ賞・主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)(ビル・マーレイ)
2004年ゴールデングローブ賞・脚本賞(ソフィア・コッポラ)
2004年英国アカデミー賞・主演男優賞(ビル・マーレイ)
2004年英国アカデミー賞・主演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)
2004年英国アカデミー賞・編集賞(サラ・フラック)>
ソフィア・コッポラ、アカデミー脚本賞受賞スピーチ
プレゼンターはスーザン・サランドンとティム・ロビンス、会場に父フランシス・フォード・コッポラと従兄弟のニコラス・ケイジがいる。
【ソフィア・コッポラのスピーチ】
ありがとうございます。私は今ここに立っているのが信じられません。この名誉を与えてくれたアカデミーに感謝します。私に全て教えてくれた父に感謝します。私が12ページ目で行き詰った時に、励まして勇気付けてくれた、兄弟のローマンと全ての友人に感謝します。そして、私に呼吸を教え、この映画の脚本を触発してくれた、全ての映画作家達。アントニオーニとウォンカーワィとボブ・フォッシーとゴダールとそれ以外の全ての人に。そして、あらゆる作家は、ミューズを必要とします。私にとってはビル・マーレイでした。いつでも、我々が芸術を作ろうとするのを奨励してくれる、私のおかあさんに感謝します。そして、私のスクリプトを映画にするのを助けてくれた、バートとロスに感謝します。そして、注目した全ての人に感謝します。ありがとう。

スポンサーリンク

『ロスト・イン・トランスレーション』感想 |
この映画は、日本人にとってはちょっと真意が伝わりにくいようにも思います。
何故なら、アメリカ人二人が異邦人として日本にやって来て、言葉も文化も違う環境で孤立を深め、遂には自らの存在意義にすら疑問を生じる物語のように思うからです。
その周囲を取り巻く世界と対話が成立しない不安より生じる、自らの存在証明の喪失、アイデンティティーの崩壊の過程が、日本人から見れば上手く伝わらないようにも思うのですが・・・・・・
例えば、この映画に出てくる漢字のネオンや、初対面の名刺の儀式や、関東のエスカレーターの右側空けや、ほとんど言葉が通じないと言う現実、英語を話せたとしてもRとLの発音が分からないなど、など・・・・
この映画の中の日本は、日本人以外の人々にとってどれほどコミュニケーションを取るのが難しい国かを教えてくれます。
病院に診察を受けに来たシーン
映画本編も敢えて日本語字幕を入れず、日本と言う国がどれほど対話不可能かを外国の観客に伝えている。
そんな、異郷の地で、会話が喪われ、自分を知っている人、自分の属していたコミュニティーから隔絶されていく中で、本当のコミュニケーションとは何なのか、今まで自分が重ねてきた会話とは何だったのかという不安が生じていきます。
ダイヤモンド・ユカイの名演技
それはビル・マーレイ演じるボブ・ハリスが妻と連絡を取り合いながら、お互いの言葉が一方通行で対話として成立してない描写や、スカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットが夫とすれ違いを繰り返すシーンで明らかです。
自分の国であれば、他の人間との対話の中で、そんなフラストレーションは気付かないのでしょうが、それが異郷にあっては際立って更に深くなっていかざるを得ません。
そんな姿が、静かに淡々とペーソスを湛えながら描かれていきます。

この映画のビル・マーレイは出色の演技だと思いました。
ミドル・エイジ・クライシス(中年の危機)の色を漂わせた、いたたまれなさ、不安を、上手く表現して違う一面を見せてくれたのではないでしょうか。
サントラから The Jesus And Mary Chain の「Just Like Honey」
関連レビュー:コミニューケーションを問う映画 『バベル』 ブラッド・ピット、役所孝司、菊池凜子他 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督 |
関連レビュー:スカーレット・ヨハンソン出演作 『ゴースト・イン・ザ・シェル』 ジャパニメーションの実写化 SFの歴史と日本アニメ |

スポンサーリンク

以降の文章に 『ロスト・イン・トランスレーション』ネタバレがあります。ご注意ください |

孤独と不安に苛まれるボブとシャーロットの二人は、いつしかお互いを必要な相手として行きます。
ベッドで語るシーン
【大意】シャーロットが自分のやりたいことが見つからない、作家になりたかったけど書くのが嫌いで、それで写真家を目指したけど才能が無いというのに対しボブは君は心配ない書き続けろと勧める。シャーロットは結婚は年とともに楽になるかと尋ね、ボブは昔は夫婦で楽しい事が一杯あったけど、子供ができると私は必要なくなった。いい子たちだが、子どもができると結婚はより複雑になると語る。更にボブは初めて子どもが生まれた日に恐怖を感じたけど、子どもが歩き話すと側にいたくなり、彼らは人生の中で出会う最もすばらしい存在となると語る。
この会話にはお互いにプライベートを全て開示できる安心感と、相手に対する深い信頼を感じます。
それは異郷だからこそ生じた真の対話だったのでは無いでしょうか・・・・・
しかし、ボブのアメリカに帰る日がやってきます。
『ロスト・イン・トランスレーション』ラストシーン |
【意訳】
ボブ:ここで待っててくれ。すぐ戻る(シャルロットへ)君。(抱きしめ囁く)/ボブ:さようなら/シャルロット:さようなら/ボブ(タクシーに乗り)行ってくれ
この最後に囁いたセリフが、大変気になる所ですが・・・・・
ボブ・マーレイは忘れてしまったと答えたり、秘密にし続けると発言しています。
やはり製作者側の意図として、言葉が聞こえないという表現が重要だったと思わざるを得ません。
そんなことから探っていけば、対話が不可能な国で生まれた二人の関係は、言葉を超えて真の対話、相互理解を生んだというラストだろうと感じました。
スポンサーリンク
【関連する記事】
- 映画『ピアノレッスン』美しく哀しい女性映画!再現ストーリー/詳しいあらすじ解説・..
- 映画『我等の生涯の最良の年』考察!本作の隠された主張とは?/復員兵ワイラー監督と..
- 映画『我等の生涯の最良の年』戦勝国米国のリアリズム!感想・解説/ワイラー監督の戦..
- 映画『シェーン』 1953年西部劇の古典は実話だった!/感想・解説・考察・スティ..
- オスカー受賞『我等の生涯の最良の年』1946年のアメリカ帰還兵のリアル!再現スト..
- 古典映画『チップス先生さようなら』(1939年)戦争に歪めれた教師物語とは?/感..
- 古典映画『チップス先生さようなら』1939年のハリーポッター!?再現ストーリー解..
ありがとうございます(^^)旅先の恋も日本だとこうなるという・・・・このビルマーレイは相当好きですねぇ(^◇^)
ありがとうございます(^^)ソフィア・コッポラ監督作品なんです。この監督は独特の感性がありますね、父親が控えているから、評価を気にせず作れる思い切りの良さがあるんでしょうか・・・・