評価:★★★★ 4.0点
<ハドソン川の奇跡あらすじ>
2009年1月15日、ラガーディア空港を離陸直後の飛行機が、極寒のニューヨークのマンハッタン上空850メートルで突如バードストライク(鳥のエンジン突入)による航空機事故が発生。機長のサレンバーガー通称サリー(トム・ハンクス)はマンハッタンに飛行機が落ちる悪夢に目が覚める。彼は現実には、エンジン停止状態の飛行機をハドソン川に緊急着水させるという奇跡のような操縦を行い、更に迅速で的確な避難誘導により“乗員乗客155名全員無事”に帰還させた。その快挙にマスコミや市民は、機長サリーを英雄として持てはやされ、連日マスコミの取材を受けるほどだった。しかし、そんな騒ぎの中で機長サリーと副機長ジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)NTSC(国家運輸安全委員会)により厳しい質問の矢面にたっていた。飲酒歴、薬物依存、家庭不和の有無、そして、本当に飛行場に帰ってくることはできなかったのかと、何度も追求される。そして繰り返される聴取の中で、サリーが主張したエンジンが両方とも止まったという事実は、ACARS(航空無線データ通信)により、左エンジンがわずかだか動いていたと語られる。更に別の聴取時には飛行シュミレーションでは無事空港に到着したと告げられた。サリーを世間が英雄扱いするなか、本人は妻に電話し、妻から飛行手当てがないから経済的に苦しいことを聞き、サリーから聴聞に向け悪い材料が出ていることを話し、最悪、自分の判断が誤りだと判断されれば、仕事や年金を失うばかりではなく、罪に問われる可能性にあると伝えた。
サリー自身、自分の決断が正しいのか自身を失いかけ、事件の詳細を回想する。そして、国家運輸安全委員会の聴聞会が開かれる直前、サリーは審問側が見落としている「ある可能性」に気づく。その可能性にかけて、異例ながら飛行機製造会社エアバスで行われるフライト・シュミレーションを、公聴会の時間に合わせライブで実施することを要請し、認めさせた。
いよいよ公聴会が開かれ、機長サリーと副機長ジェフの前で、衛星中継で行われたシュミレーション結果は、無事空港に到着するというものだった。サリーの判断ミスと思われたとき、サリーが口を開いた・・・・・・・。
(原題SULLY/製作国アメリカ/製作2016年/96分/監督クリント・イーストウッド/脚本トッ・コマーニキ/原作チェスリー・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー『機長、究極の決断 「ハドソン川」の奇跡』:静山社文庫刊)
<ハドソン川の奇跡・出演者>
チェスリー・"サリー"・サレンバーガー(トム・ハンクス)、ジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)、ローリー・サレンバーガー(ローラ・リニー)、チャールズ・ポーター(マイク・オマリー)、ベン・エドワーズ(ジェイミー・シェリダン)、エリザベス・デイヴィス(アンナ・ガン)、マイク・クリアリー(ホルト・マッキャラニー)、ケイティ・クーリック(ケイティ・クーリック)、クック大尉(ジェフ・コーバー)、ラリー・ルーニー(クリス・バウアー)、シーラ・デイル(ジェーン・ガバート)、ドナ・デント(アン・キューザック)、ドリーン・ウェルシュ(モリー・ヘイガン)
<ハドソン川の奇跡・受賞暦>
2016年第90回キネマ旬報ベスト・テン外国映画第一位、外国映画監督賞受賞。
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ハドソン川の奇跡・感想・解説
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ハドソン川の奇跡・感想・解説
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このクリント・イーストウッド監督作品をみて、報道の影に隠れた現実の姿に衝撃を受けます。
英雄として世間的には認知されていた機長が、政府の査問に掛けられ判断ミス、ヒューマン・エラーを巡り厳しい追及を受けていたのです。
USエアウェイズ1549便不時着水事故
USエアウェイズ1549便不時着水事故(USエアウェイズ1549びんふじちゃくすいじこ)は、2009年1月15日午後3時30分頃(東部標準時(UTC-5))に、ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が、ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に不時着水した航空事故である。
乗員・乗客全員が無事に生還したことから、ニューヨーク州知事のデビッド・パターソンは、この件を「ハドソン川の奇跡」(Miracle on the Hudson) と呼び称賛した。
使用機材:エアバスA320(機体記号N106US・1999年製造)
予定フライトプラン:ニューヨーク・ラガーディア空港発
ノースカロライナ州シャーロット・ダグラス国際空港経由
ワシントン州シアトル・タコマ国際空港行き
コールサイン:カクタス1549(Cactus 1549)
乗務員:5名
機長:チェズレイ・サレンバーガー(Chesley "Sully" Sullenberger)57歳 男性 元アメリカ空軍大尉
副操縦士:ジェフリー・B・スカイルズ(Jeffrey B. Skiles)49歳 男性
客室乗務員:3名(57歳女性・51歳女性・58歳女性)
(Wikipediより引用)
そんな複雑で多面的な現実を整理し、展開する脚本が無駄なく秀逸です。
また、その事実を描くにあたりイーストウッド監督の、淡々と冷静に事実を積み上げる語り口も効果的だと感じます。
イーストウッド監督の地味な作風とは、こんな事実を元にした作品にこそ、その実力を発揮するのだろうと感じました。
そして、この映画で個人的に一番感銘を受けたのは、リアリティーのある演技を見せたトム・ハンクスでした。
実在の人物を全てのアメリカ人が知っている中で演じ、更にドラマ表現としての力を付与する事は、決して簡単なことだとは思いません。
キャプテン・フィリップでもそうですが、この映画のサリー機長も、飛びぬけた超人的なヒーローではありません。
現実の世界で計らずも窮地に立たされ、その問題に必至に立ち向かい、結果的にヒーローになったという人物です。
そして、そんな現実世界の住人を演じた時のトム・ハンクスの表現・説得力は、嘘を感じさせない素晴らしいものだと思います。
トム・ハンクス主演「キャプテン・フィリップ」
ここで表現されたのは、現実の人間としての弱さや恐れを胸のうちに持ちつつ、それでも困難に立ち向かう姿です。
そして、その等身大の人間像を通じて示されたのは、どんな人間でも自らの日常的な行動の中でヒーローになりうるという事実だったと思うのです。
そういう点では、この映画を見ただけでは、サーリー機長を追い詰める悪役に見えるかもしれませんが、NTSC(国家運輸安全委員会)の検査官達も、プロとして追求をとことんしていく姿に、むしろ感動を覚えます。
起ってはならない航空事故が起ってしまい、その事実を飽くまで追求し、その原因を元に徹底的に対策を講じるNTSCの仕事なくして、飛行機は安全に飛べないでしょう。
厳しい事を言えば、機長と言うその飛行機の最高責任者は、エラーがあれば最終責任を取らざるを得ないというのは、プロであれば当然分かっているはずです。
(右:サリー機長の自伝)
そう思えば公聴会の場とは、お互いのプロの誇りを賭けてそれぞれの仕事を全うするのに、必要な対決だった言わざるを得ません。
結局、人間社会というのは、その構成員が自らの責任と義務を誠実に果たす事で、効率的に運営されるのでしょう。
そういう意味でこの映画の両者の厳しい対決、また救援に関わった人々の真摯さこそ、社会組織が有効に機能している「奇跡」の姿だと感じました。
生身の人間存在が直面する、それぞれの立場にあって、困難とそれに立ち向かう勇気を見て、自分も、明日からの仕事を誠実に頑張ろうなんて・・・・・・柄にもないことを考えてしまいました。
チェズレイ・サレンバーガー機長インタビュー
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以降「ハドソン川の奇跡・ネタバレ」を含みますので、ご注意下さい。
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事故調査の過程でシミュレーションの上では、「エンジン停止後、すぐに空港へ引き返していた場合、ギリギリではあったが緊急着陸は可能だった」事実が示され、サリー機長の判断ミスかと思われた。
その時サリー機長は「人間要素が欠けている」と指摘した。
サリー機長の「人間要素が欠けている」発言
【大意】サリー機長はシュミレーション結果に対し、ここには「ヒューマン・ファクター=人間的要素」が考慮されていないと言う。シュミレーションの際は空港に戻ることを前提に操作しているが、実際はエンジンの再点火やQHR(緊急時マニュアル)の確認などがあった。両方のエンジンが止まると言う、世界初の事件でありながら、このシュミレーション・パイロット達は遅滞なく空港に戻る操縦をしているが、現実ではありえない。人間には判断する時間が必要だと訴えた。NTSC側は過去の不時着時のパイロットに確認し、35秒は意思決定までに要したとして、再度35秒を加味したシュミレーションを行う。
35秒を加算したシミュレーションを実施したテストパイロットたちは、ほぼ全員が空港到着前に機体が墜落する結果となり、市街地などに墜落しより大惨事になっていた可能性があったことも証明されます。
そして、左エンジンが動いていたのではないかという疑念も、引き上げられたエンジンの損傷によって完全に払拭されました。
結局、サリー機長の不時着水の決断は正しかったのです。
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ハドソン川の奇跡・ラスト・結末
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映画の最後は本物の機長たち乗務員と、乗客たちとのパーティーシーンで終わります。
それぞれが、座席番号を言いながら入場し、機長に感謝を述べたり乗員と旧交を温める光景が描かれます。
現在でもなお、毎年感謝の手紙やクリスマス・カードが届くことに謝意を述べています。
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ハドソン川の奇跡・映画のその後
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サレンバーガー機長は様々な表彰を受け、事故の5日後に行われたオバマ大統領の就任式にも招待された。
2009年10月1日、サレンバーガー機長は事故を起こした1549便と同じ路線で操縦士として復帰した。機長の復帰フライトでは事故当日と同じスカイルズが副操縦士を務め、事故機の乗客のうち4名が搭乗した。サレンバーガー機長が機内アナウンスで自己紹介を行うと、客室内では拍手と歓声がわき起こった。
機体は事故の1年後にオークションにかけられた。
2010年3月3日、サレンバーガー機長は30年間にわたる現役パイロットとしての乗務を終えた。
2011年6月4日、カロライナズ航空博物館へ航空機の移送が開始され、同年6月11日に元機長を含めた元乗員、元乗客などを招待したパーティーが博物館で開かれた。2012年1月15日 元乗客に対して博物館で展示されている飛行機の機内が公開され、元乗客が自らが座っていた座席の今を確認することが出来た。なお、機体は今も一般公開されているが、機内については一般公開されていない。(Wikipediaより)
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これはレアですね〜スイマセンがこれ観る予定なので記事は飛ばして読みました〜。
ありがとうございます(^^)ヤッパリ、お医者さんとか、機長とか船長は、人の命に責任持っているから、尊敬されるんでしょうね・・・・・・コンパクトないい映画でしたm(__)m
ありがとうございます(^^)ふっふっふ新作映画攻めて見ました!
初の試みですが、他の記事と違いが出るかどうか・・・・