2017年01月20日

名作映画『カサブランカ』古典的ハリウッド/感想・あらすじ・ネタバレ・ラスト解説

ジ・アメリカン・カブキ



評価:★★★★  4.0点

むかし、むかし、ハリウッドという天上の国に、それはそれは高貴な神々がおわしました。
その輝くばかりの光芒を仰ぎ見て、下々の者は天上に輝く「スター」だと畏敬と共に崇拝したのでした。その神々は遠い天上から時おり降りて来られて、スクリーンの上で諸人に微笑みかけられたのです・・・・・・
この映画は、そんな映画神話時代の「神々=スター」を、燦然と輝かせるための一本です。

カサブランカあらすじ

ナチス・ドイツ占領前の仏領モロッコのカサブランカは、アメリカへ亡命する中継地だった。この町でアメリカ人リック(ハンフリー・ボガート)が経営しているナイト・クラブは、名物のピアノ弾きサム(ドーリー・ウィルソン)を置く、亡命者たちの溜り場だった。ドイツの将校シュトラッサア(コンラート・ファイト)は、ドイツのパスポートを奪った犯人を捜査している。盗んだウガルテ(ペーター・ローレ)は、リックに旅券の保管を頼み、リックはこれをピアノの中へ隠す。ウガルテはドイツ軍の命令により、フランス人警察署長ルノオ(クロード・レインズ)によって、逮捕された。そんな時リックの店に、反ナチ運動の指導者ヴィクトル・ラスロ(ポール・ヘンリード)と妻イルザ・ラント(イングリッド・バーグマン)が現れる。2人は亡命のためパスポートを求めてやってきたのだ。
じつは、イルザとリックは独軍により陥落目前のパリで、恋に落ちていたのだった。そして2人は一緒にパリを脱出することを約束した。しかし彼女は、約束の時間に姿を現さなかった・・・・・
ラズロはリックがパスポートを持っているらしいと聞き、彼を訪ねパスポートが欲しいと頼むが、リックは応じない。それを見たイルザは、夜一人でリックの店を訪ね、パリの待ち合わせに行けなかった理由を語った。夫ラズロが独軍の捕虜になり殺されたと信じていたので、リックとパリで恋に落ちたが、夫が重症ながらも無事だと知り、彼女は看護に行ったのだと説明した。リックは事情を知り、ラズロを逃がしてくれたら、あなたとカサブランカに残りたいというイルザの気持ちを聞く。リックは警察署長ルノオを騙し、ラズロを飛行場から逃がそうとするが、ドイツ軍の追手が迫ってきた・・・・・・・・・

(原題Casablanca/製作国アメリカ/製作年1942年/102分/監督マイケル・カーティズ/脚色ジュリアス・J・エプスタイン、フィル・G・エプステイン、ハワード・コッホ)

カサブランカ受賞歴
1943年・第16回アカデミー作品賞、監督賞マイケル・カーティス、脚色賞ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン、ハワード・コッチ三名が受賞
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1989年・アメリカ国立フィルム登録簿(National Film Registry)初回選出25本の1本
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アメリカ映画協会(AFI)選定、AFIアメリカ映画100年シリーズ。
アメリカ映画ベスト100(1998年)で2位
スリルを感じる映画ベスト100(2001年)で42位
情熱的な映画ベスト100(2002年)で1位
アメリカ映画主題歌ベスト100(2004年)で2位("As Time Goes By")
アメリカ映画名セリフベスト100(2005年)で5位(Here's looking at you, kid./君の瞳に乾杯)
感動の映画ベスト100(2006年)で32位
アメリカ映画ベスト100(10周年エディション)(2007年)で3位。

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カサブランカ感想・解説
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名曲と名セリフと名優に彩られたこの作品は、「映画世界遺産」というものがあれば、確実に残る一本でしょう。

個人的にも好きな映画だったりもしますが、実を言えばこの脚本は結構行き当たりばったりの、いい加減な話のようにも思うのです。
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たとえば、ドイツ軍から通行票を奪う男は、逮捕され最終的に殺されたと劇中で告げられるのですが、この男は必要でしょうか。
脚本の基本として、出したら最後まで面倒を見ろ、面倒を見れないなら出してはいけないという言葉があると聞いたことがありますが、それに反してませんでしょうか?
それを言えば何のために出てきたのか判らない人が結構いたりします。
たとえば、パリのロマンスのシーン。イングリッド・バーグマン演じるヒロインは、夫が死んでたと思い込んでいたはずなのに、この輝くばかりの笑顔はどうでしょう。

さらに、言えばこの二人のロマンスの別離と再開後の感情の流れが、ど〜も取ってつけたようで・・・・・

それにもまして、決定的なのは、フランス人警察署長の行動が、正直ラストで支離滅裂なのです。


ハッキリ言ってこのストリーは物語として、何かを伝えようというより状況説明ばっかりのような気がします・・・・・・
間違ってたらスミマセンが、この映画って脚本が完成してなかったんじゃないでしょうか。
映画全盛期の年間何百本も作っていた時代には、脚本を映画を撮りながら現場ででっち上げるって、結構普通〜にやっていたそうです。
なんか、この映画もそんなテキトーな雰囲気がニジミでてる気がします。

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更に言えば、この映画の脚本は先にできていて売れなかったところを、1941年の真珠湾攻撃によってアメリカが第二次世界大戦に参戦するということになって、ハリウッド映画界からオファーがあったそうです。

そうであれば、この映画はアメリカ初の「戦意高揚映画」なのかとも思います。
それゆえ、内容もドイツ軍を悪者にするために、イロイロ書き換えたりしたのではないでしょうか・・・・・なにせ、脚色ということでクレジットが3人も載ってるぐらいですから、そのドタバタ振りが窺い知れようというものです・・・・・
さらに「 "Here's looking at you, kid."(君の瞳に乾杯)」というキメ台詞が、ハンフリー・ボガードのアドリブだったというトリヴィア・ネタもある位で、適当なのは間違いないでしょう。
パリでの「君の瞳に乾杯」

【意訳】
「 AS TIME GOES BY(時の過ぎ行くままに)」の流れる酒場。
リック:アンリはこのシャンペンのボトルを、もう三本かそこら空けて欲しいそうだ。彼が言うには、ドイツ人に飲ませるぐらいなら、シャンペンに庭の水を入れるとさ。/サム:じゃあ、もっと飲みましょうか。/リック:その通りだ!(イルザに向かって)君の瞳に乾杯!
このパリの "君の瞳に乾杯!"がラストでいい効果を生んでいます。


casa-hold.jpgでも、だからこそこの映画は偉大だと思うのです。

この映画はストーリーを語ろうとしていません。

この映画が表現しているのは、徹頭徹尾「輝くスター」です。

この映画の全ては、この映画の二人のスターを輝かせるためだけに、作っているのだと思うのです。


どこかチグハグな脚本も、スターが最も見栄えがするシーンがまずあって、そのシーンをつなげるためにストーリーをでっち上げたと想像しています。
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今の映画では、極端に言えば、劇の中の点景として俳優が存在していますが、そんなドラマであれば俳優とは劇に支配される奴隷のようなものではないでしょうか。
しかし、この映画は違います。
スターが輝くのであれば、話のつじつまなどド〜デモいいという思いっきりがあります。

これはこれで、映画の目的「スターを輝かせる」に対する、立派な回答だと思います。
映画の歴史的挿入歌「 AS TIME GOES BY(時の過ぎ行くままに)」
このシーンはその後の映画作品の中で、何度もパロディーとして使われています。

【意訳】
イルザ:ずいぶん久しぶりね。/サム:そうですね。その間にも川の下を水は流れていきました(いろいろあっても取り戻せない)/イルザ:何か懐かしい曲をやって、サム。/サム:はい。承知しました。/イルザ:サム、昔のほうが嘘をつくのが上手だったわ。/サム:彼をそっとしといてやって下さい。あなとはリックとはどうもうまく行かないようですから。/イルザ:もう一度弾いて、サム、古い思い出のために。/サム:何を仰っているのか分かりません、ミス・イルザ。/イルザ:アレを演奏して、サム。「時の過ぎ行くままに」を。/サム:思い出せないです。うろ覚えです。/イルザ:ハミングしてあげるわ(ハミングで歌うイルザ。サムは合わせてピアノを弾き出す。) /イルザ:サム、歌ってよ。


実は、こんな役者が最も輝く事を最優先した劇の形式が、日本でも古くからあります。
その伝統芸能を歌舞伎と呼びますが、これこそ役者がどれだけ見栄を盛大に切れるかを追求した舞台芸術です。

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この映画も役者が大写しになって、見栄を切って名ぜりふを口にしてくれたり、潤んだ眼で愛を囁いたりしてくれます。

ファンならずとも、その見栄えのするシーンには魅了されます。
考えてみれば、ハリウッド映画はアメリカの伝統芸能ですから、歌舞伎役者のようなハンフリー・ボガードが出て見栄をきってくれるのでしょうね。
そう思えば、ボガードのやせ我慢のダンディズムは、どこか歌舞伎に通じる美学を感じますよね。

しかし考えてみれば、ホンと豪華な「戦意高揚映画=プロパガンダ」だと思います・・・・・・・・

ドイツ軍の歌に対抗して歌われた「ラ・マルセイユズ(フランス国歌)」
「戦意高揚映画=プロパガンダ」としての側面が最も現れたシーン

このシーンでラ・マルセイユズを歌っているのは、本当にナチスドイツから逃げてきた難民だったため、眼に本当に涙を浮かべていたといいます・・・・・

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以降の文章に
カサブランカ・ネタバレ
カサブランカ・ラストシーン
を含みますので、ご注意下さい。
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パリでは別れたものの、本当に愛しているのはリックだったイルザは、夫一人を亡命させ自分はカサブランカに残りたいと考えます。
クライマックスからラストシーン
警察署長ルノーはリックに銃を突きつけられながらも、飛行場へ電話するような振りをして、ドイツ軍将校シュトラッサアに電話し、ラズロの逃亡を知らせます。
飛行場で、リックはイルザに「ラズロと共に行くべきだと」説得し、リスボン行の飛行機に乗せます。

やっぱり署長さんの行動おかしいでしょ?
シュトラッサアに電話しなけりゃこんな面倒な事にならないのにねぇ〜

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posted by ヒラヒ at 18:01| Comment(4) | TrackBack(0) | アメリカ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは( ̄▽ ̄)・・確かに電話しなきゃ殺すこともなかったのに。何か切羽詰まり具合が無いですね(笑)(笑)優雅というか・・「君の瞳に乾杯」(笑)よく恥ずかしくなく言えるなぁ〜と思います💦
Posted by ともちん at 2017年01月20日 18:41
脚本が未完成でも、素晴らしいスターがいればOKって事っすね。
なかなか長文で気合入っていますね!
凄いです。
Posted by いごっそう612 at 2017年01月20日 19:46
>ともちんさん
ありがとうございます(^^)・・ホント適当な脚本だと思います・・「君の瞳に乾杯」は、日本の訳者が頑張りすぎたというか・・・・直訳は「君を見つめることに乾杯」という感じかと・・・・💦
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月20日 20:13
>いごっそう612さん

ありがとうございます(^^)脚本というのは、スターがかっこよく見栄を切るためのツナギというカンジです。
長文邪魔くさいと逆効果かと思うのですが・・・・イメージとしては興味のある映画をもっと掘り下げたい人向けに書いてるつもりですm(__)m
実際はいごっそうさんの記事のバランスが、多くの人に喜ばれる内容だろうなぁと反省してますm(__)m
>凄いです。
Posted by ヒラヒ・S at 2017年01月20日 20:20
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