評価:★★★★ 4.0点
アメリカンビューティーとはバラの品種の名前だという。
その美しいバラに棘があるように、アメリカの繁栄という花の下で市民の心は蝕まれていたのだろう。
そんな美しくも、儚く、散る花びらのような悲劇は、見る者の心に悲哀と美を同時にもたらす、どこかノスタルジックな傑作だと思う。
冴えない中年サラリーマンのレスター(ケヴィン・スペイシー)は成功を求める不動産業の妻キャロリン(アネット・ベニング)と反抗期の高校生娘ジェーン(ソーラ・バーチ)の3人暮らし。冷え切った家庭で毎日を送るレスターは、会社でもリストラを通告される。
<アメリカンビューティーあらすじ>
そんな時、隣家に元海兵大佐のフィッツ(クリス・クーパー)一家が越してきた。息子リッキー(ウェス・ベントレー)は父から暴力による教育を受け、独特の影を持つ青年に成長し、ビデオ撮影の趣味と、マリファナの売人稼業をしていた。妻バーバラ(アリソン・ジャニー)は強権的な夫の影で静かに耐えている。
レスターは、娘ジェーンのチアリーディングに付き合わされ、そこで娘の友人アンジェラ(ミーナ・スバーリ)に恋をした。
ジェーンは隣家のリッキーと交際を始め、レスターもリッキーからマリファナを買った。ある晩レスターは、遊びに来たアンジェラが、「レスターに筋肉があれば寝たい」と言っているのをドア越しに聞く。
レスターはそれ以後、筋トレを初め、自らの意思を主張するように変わりだす。
妻キャロリンに仮面夫婦だと怒りを吐き出し、会社に恐喝まがいの要求で多額の退職金を出させ、自らはハンバーガーショップでアルバイトを始め、筋トレを続け、マリファナを吸い続ける。妻キャロリンはパーティーで知り合った不動山王バディ(ピーター・ギャラガー)と急接近、肉体関係を持った。
娘ジェーンはリッキーと交際を深め、お互いの親の不満を語る。ジェーンは父がアンジェラを性的な眼で見るのが耐えられないと語り、殺したいと口にする。リッキーは海軍学校に入れられたり精神病院に入れられた過去を告白する。
そんなある日、キャロリンはバディとの浮気の最中を、レスターに目撃され、呪文のように「敗残者に成らない」と口にしつつ、夫を殺そうと銃を握りながら車を家に向けた。
リッキーはレスターと取引しているところを父フィッツに覗かれた。フイッツは息子がゲイだと誤解し、リッキーに暴力を振るい、家から出て行けと告げた。すぐさまリッキーは家を出ると、大雨の中ジェーンの家へ行き、2人は駆け落ちすることを決心する。泊まりに来ていたアンジェラはジェーンを引き留めるが、逆にリッキーに責められ、2人が旅立ったあと1人泣き出した。
そんなアンジェラを見つけたレスターは彼女を慰めると、彼女から抱いて欲しいと求められた・・・・・・・
(原題 American Beauty/製作国アメリカ/製作1999年/122分/監督サム・メンデス/脚本アラン・ポール)2000年アカデミー賞:作品賞、監督賞サム・メンデス、主演男優賞ケヴィン・スペイシー、脚本賞アラン・ボール、撮影賞コンラッド・L・ホールの5部門で受賞
<アメリカンビューティー・受賞歴>
ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)、英国アカデミー賞作品賞、トロント国際映画祭観客賞レスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)/キャロライン・バーナム(アネット・ベニング)/ジェーン・バーナム(ソーラ・バーチ)/リッキー・フィッツ(ウェス・ベントリー)/アンジェラ・ヘイズ(ミーナ・スヴァーリ)フランク・フィッツ大佐(クリス・クーパー)バディ・ケーン(ピーター・ギャラガー)/バーバラ・フィッツ(アリソン・ジャニー)/ブラッド・デュプリー(バリー・デル・シャーマン)/ジム・オールメイヤー(スコット・バクラ)
<アメリカンビューティー・キャスト>
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アメリカンビューティー感想
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アメリカンビューティー感想
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この映画は2組の家族が、メインで登場する。
一組は主人公レスターを父とするバーナム家。
この家族は、亭主レスターのくたびれ切ったうだつの上がらない中年男の諦念がもたらす結果として、上昇志向の強い妻に軽蔑され、愛を消失した夫婦関係を基礎に持つ。
それゆえ、高校生の娘は父を愛したいが愛せないし、相互不信が家族三者の内にある。
つまるところ、この一家は父権の機能不全により破綻している。
もう一組は海兵隊大佐フランクを父とするフィッツ一家。
この家族は、父が軍隊的な規律と自己構築を家族に求め、その規範から外れれば容赦なく暴力が行使される強権下にある。
それゆえ、妻はただ黙って家事をするだけであり、息子は表面上従いつつ密かに反抗し続ける。
この家族はバーナム家の真逆で、父権の強権化により、家族の身動きが取れなく成っているように見える。
つまりは、この二組の家族は共に崩壊しており、形だけの家族を構成しているに過ぎない。
そして、その家族の崩壊の原因は、明らかに父の役割をかつての家父長のごとく果たせない男達にある。
バーナム家レスター
仕事を止めて来た晩御飯の席。
「何も失ってない。"ナンで、ボクの仕事がなくなっちゃったの?"何て云わずに、オレはヤメタんだ!」
フィッツ家フランク
朝食の席で息子に新聞の内容を聞かれ。
「この国は地獄にまっしぐらだ。」
そんな父親達の不完全さがテーマであるのは、主人公レスターが映画の中で「恋」を通じ自らの人生に蘇生し、最終的な帰結として「父」としての自分を見出し幸福を感じたことでも明らかだろう。
レスターの恋
この映画が表したものは、現代アメリカの家族の崩壊・苦悩が、かつての「ヒーロー」の如く生きられないアメリカ男性の現実に原因があると描かれているように思えてならない。
つまりはそんな男達のパートナーとなった妻達に影響は普及し、夫婦間に愛を育むことができない。
さらにそのカップルの子供達に悪影響が及ぶことになるだろう。
バーナム家の娘ジェーン
友達のアンジェラが父レスターを誘惑したいというのに対して―
ジェーン「パパと寝ないで、いいわね!頼むから!」
フィッツ家の息子リッキー
父に勝手に戸棚を空けたことを責められ殴られた後―
リッキー「恐縮です、ご指導頂き有難うございます。今後も諦めず導き続けて下さい。お父さん。」
そして、実はもう一組のカップルが登場する。
その二人はゲイで相思相愛の、愛のある生活が営まれているように見える。
やはり、かつての美しき古い家族の調和は、現代においては失われたのだと告げる映画なのだと思う。
そんな現代の悲劇を、演劇的な間や演出で説得力を持って描き出した監督の力が素晴らしいと感じる。
ここにある、演者の相互に作用する言葉を越えた表現とは、舞台上の生の緊張感に通じる、役者の表現力を汲み出したがゆえの訴求力だったろう。
アメリカンビューティーのサントラからエリオット・スミス『Because』
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以降「アメリカンビューティー・ネタバレ」ですので、ご注意下さい。
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アンジェラとレスターのふたりはベッドに入った。
だが、レスターは彼女が実は処女だったのを知り、抱くのをあきらめる。
【意訳】
レスター:君は美しい、本当に、本当に美しい。俺は幸運な男だ/アンジェラ:私は愚かね。/レスター:そんなこと無いさ/アンジェラ:ごめんなさい。/レスター:大丈夫、大丈夫。(車で妻が外に)/アンジェラ:お腹ぺこぺこだったの/レスター:もっと食べる/アンジェラ:いいえ。もういいの。/レスター:本当に?/アンジェラ:まだ何か変だけど気分は落ち着いたわ。ありがとう。/レスター:ジェーンはどうだい?/アンジェラ:どういう意味?/レスター:最近の彼女の生活さ。彼女は幸せ何だろうか?不幸なんだろうか?あの子は死ぬまで俺には話さないだろうから・・/アンジェラ:そう、彼女は・・・・とっても幸せよ。恋してるから。/レスター:(微笑む)良かった・・・・・/アンジェラ:あなたはどう?/レスター:本当に長い間、誰もそんな質問を俺にしなかった。俺は快調さ・・・・・/アンジェラ:トイレに行くわ(レスター微笑む)/レスター:俺は快調だ。
このレスターは幸福感に包まれた清々しい表情を見せる。
これは、レスターが父親に戻った姿だと、個人的には感じる。
つまり、家族を守るかつてのアメリカ社会の「理想の父像」を、再び手に入れた男の満足だったろう・・・・
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アメリカンビューティー・ラストシーン
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だが、そんな彼の脳天を一発の銃弾が撃ち抜いた。撃ったのはフィッツ大佐だった。
フイッツ大佐は、このラストから見れば、自分の中の同性愛傾向を糊塗する為に虚勢を張り、そのストレスを家族を支配する事でかろうじて耐えていたのだろう。
また同時に、曲がりなりにも父として再生したスペイシーに対する、父になり損ねた男の嫉妬だったかもしれない。フイッツ大佐のカムアウト
【意訳】
フイッツ:奥さんは?/レスター:知らん。たぶん不動産王のクソッたれと寝てるんだろうが、俺は気にしない。/フイッツ:奥さんが他の男に抱かれて気にならないのか?/レスター:気にならない。俺たちの結婚はショウだ。どう普通に見せるかって。何時だってね。/レスター:震えてるじゃないか・・・・・その服を脱いだほうが良い。/フイッツ:ああ/レスター:大丈夫/フイッツ:俺は・・・/レスター:何が欲しいか教えてくれ。(フイッツがキスする)/レスター:ちょっと、ちょっと、すまない。アンタは何か誤解しているぞ。
死にゆくレスターの脳裏を“アメリカの美”の光景がよぎった。
【意訳】
レスター・モノローグ:死ぬ前に自らの人生が、一瞬の内に蘇ると、よく聞かされていた。しかしそれは一瞬ではなかった。永遠の如く引き伸ばされ、まるで時間の海のようだ・・・・・私は感じた。ボーイ・スカウトのキャンプで流れ星を見た時の背中・・・我が通りに植えられた楓並木の黄色い葉・・・・または、祖母の手と彼女の皮膚が紙の様だったこと・・・そしてジェニー・・・・・愛するジェニー・・・・・そして、キャロリン。
レスター・モノローグ:私に起きた出来事は、かなり面倒なものだと思う・・・・しかしそれを狂気とは言い難いのは、世界がかくもいたるところ美しいからだ。ときどき、私が見ているものが突如として、あまりにも過剰に過ぎて、私のハートを破裂させかねないと思わせる。・・・・・・そして、そんな時、心安らかにして、それにこだわり過ぎないように努める。そうすれば、それは雨のように流れ過ぎて、そして何も感じなくなるが、それでも、私の愚かな儚い人生の、一瞬一瞬の全てに感謝を感じる・・・・・何を言っているのか、あなたには分からないと、私は確信している。しかし心配する事は無い・・・・・・・・ある日分かるのだ。
このラスト・・・・・・
「死」「喪失」を前にした時、初めて人生の価値が浮かび上がってくるという真実。
それは、古き良き「アメリカ家族」という幻想が、すでに失われたという事実によって生じる、美しきノスタルジーと呼応するものかも知れない。
散るバラを見るが如く、美しき世界の斜陽を惜しむ、切なくも愛おしい映画だと感じる。
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ありがとうございます(^^)そうです!カイザーソゼです(笑)
ケヴィンスペイシー、カイザーソゼでアカデミー助演賞もとってたんですね(^^;
知らなかったです。
これはまだ学生時代じゃなかっただろうか?高校卒業くらいだろうか?観た記憶があります。
当時はそんなに良いと思わなかったけど、もう一度観たい映画ですね!今見たら印象が変わりそう(´∀`)
ありがとうございます(^^)高校生の子供を持つ父親から進められた作品です。
身につまされる話で、涙が出たと申しておりました(^^;
私も★5にすべきか相当迷いました。